轟音

【インタビュー】「幸せは場所ではなく自分で決める。」地元を離れた映画監督・片山享がそう気づいた時

東京一極集中の弊害が問題視され、“地方創生”“地方再生”という言葉がさまざまな施策・政策とともに叫ばれる中、地方都市である“地元”に幸せを見い出せず、福井をあとにした片山享監督。東京に移り住んだ当時は一時期、地元の言葉も話せなくなったという。そんな男・“片山享”が、映画監督として作り上げた映画『轟音』に込めた想いとは?

片山監督の出身地は福井県。2015年に北陸新幹線が、石川県・金沢市まで開通した時は、ちょっとした北陸観光ブームとなったが、その時点では、福井県はまだ取り残された状況だった(福井県敦賀市までの開通は2022年度末予定)。
片山監督は、「福井県にはどこか鬱屈としたものが漂っている気がします。それが子供の頃すごく嫌いでした。」との思いから、大学進学を機に上京。地元の言葉も忘れつつある中、県外から地元に帰って仕事をしているプロデューサーに対して「あなたは都落ちだ!今、幸せなわけがない!」と思いをぶつける。

「そんなの人それぞれだろ」

そうプロデューサーに言われて、「あぁ、なるほど。人それぞれだよね、そうだよね。」と初めて当たり前のことかもしれないそのことに気づいた片山監督。結局、幸せかどうかっていうのは環境とか場所が決めるんじゃなくて“自分自身”なんだ。
その気づきから、嫌いだった福井県を見つめ直し、たどりついた作品が映画『轟音』だった。
片山監督自身の人生をキャラクターに置き換え、物語を作り上げた『轟音』は、2020年2月15日より池袋シネマ・ロサにて公開。ほか順次全国公開予定。

片山享監督インタビュー 「普通」って幸せなことなのかもしれない

▼『轟音』は片山監督の人生が表現されている

– 本作は、登場人物が一念発起して上京し、方言が話せなくなり、そして親御さんが病気になるなど、片山監督ご自身の人生が表現されているように感じました。

片山享監督
そうですね。方言を喋れなくなるというのも、僕自身のことです。

轟音

− 実際に喋れなくなってしまうものなのですか?

片山享監督
当時はそう思っていました。もう13年前のことです。その時の自分を振り返るに、頑なに方言をしゃべれないという意地を張っていたのかもしれないですが、僕には全然喋れなかった記憶しかないんです。

− 恥ずかしいから方言を喋らないっていう人の話は聞きます。

片山享監督
地元にいる時から、方言を喋りたくないというよりも標準語を喋りたいっていう気持ちがとても大きかったことを覚えています。高校の時とか、「方言が出ないよね」って、言われていましたね。
東京への憧れがあったんだと思います。

▼「そんなの人それぞれだろ」

– 本作に寄せられている監督のコメント「福井県にはどこか鬱屈としたものが漂っていて、それが子供の頃すごく嫌いでした。」についての思いと、その後の心境の変化について教えて下さい。

片山享監督
短編映画『いっちょらい』の劇中の台詞にも出てくるように「福井で幸せなんかあるもんか!」と、福井で幸せは絶対ないと僕は思っていたんです。
そんな時、宮田耕輔さんという福井在住のプロデューサーに電話して「今、幸せですか?」って聞いてみました。彼は、福井の雑誌社で働いていらっしゃるんですけど、すごく楽しそうだったからです。
そうしたら、「幸せや」って返ってきました。

そこで、なぜ幸せかについて、踏み込んで聞いてみたんです。「絶対嘘ですね。あなたは幸せなはずがない」って。
県外の大学に出てから福井に戻っていたので、「都落ちじゃないですか。そんな人が幸せなわけないじゃないですか。何で幸せなんですか?」っていう話をしました。
すると宮田さんから 「なんだ?お前!」ってすごく怒られました。怒られながらも僕は「納得できないです。あなたが幸せなはずがないって続けていたら、「そんなの人それぞれだろ」って言われたんです。
それはそうだよなって話ですけど、「ああ、なるほど」と思いました。「人それぞれだよね、そうだよね。」って。

▼映画製作のきっかけ

– 改めて映画を作ろうと思われたきっかけについて教えて下さい。

片山享監督
映画を作ろうと思ったのは、自分が役者として泣かず飛ばずだった、35歳を越えた時。2倍したら70歳で、「あぁ、35年なんてあっという間に過ぎてきたのに、これからは、もっと速く時間が過ぎていくわ。もうすぐに死んじゃうな。」って考えていた頃です。
そんな時、好きなこと、映画を撮ろうと思ったんです。
その最初のきっかけをくれたのが、地元・福井の「ふくいムービーハッカソン(*)」でした。
2016年に参加した時に、僕にしかできないこと、僕しか知らない福井があると気づいたので、それを映画にしようと思いました。そうして、翌2017年に、自分が監督として撮ったのが、短編映画『いっちょらい』です。そうしたらこの作品が評価されたんです。
ハッカソンには観客投票をしないルールだったのですが、それでもものすごい数の票が入ったと聞きました。
続けて、2018年に撮った『名操縦士』は脚本段階で高い評価をいただけて、そこから自信につながり、「長編を撮らなきゃいけない」という気持ちになったんです。そしてやっぱり福井で撮りたい。地元だし、ハッカソンで出会った福井在住の映画に関わりたい人たちと一緒に何かを作りたいとすごく思いました。

*ふくいムービーハッカソン・・・福井駅前短編映画祭のスピンオフ企画。福井県で行われている、3日間で短編映画の撮影を行うプロジェクト。

▼幸せかどうかを決めるのは場所ではなく自分自身

– 『轟音』製作のきっかけについて教えて下さい。

片山享監督
『いっちょらい』は「幸せ」をテーマにしたい想いで作りました。そのきっかけが、先ほどお話しした宮田さん。結局、この方に出会ったことが、僕が福井を見つめ直すことができた大きな要因となりました。「あぁ、こんな楽しそうな人がいるんだな。」って思ったからです。
そんな宮田さんから「(幸せは)人それぞれだろ」って言われて、改めて納得して、「この話を脚本にします。」と言って電話を切りました。当時、宮田さんは何のことかわからなかったらしいです(笑)
電話を切ってからすぐに家に帰って、1、2時間くらいで脚本を書いてできたのが『いっちょらい』です。福井でも幸せな人はいるわけであって「幸せは人それぞれ」って言う、そのことが今回の『轟音』の中にもすごく入っていると思います。
“結局、幸せかどうかっていうのは環境とか場所とか決めるんじゃなくて自分自身なんだよ。”っていう想いです。
『轟音』の登場人物は、それに気づかないまま、自分で決められていない人たちで、幸せを周りの環境とかに委ねている人たちばかりです。僕自身の実話もたくさん含まれています。それらひとつひとつを見ると、不幸なことかもしれません。でも、やってることは多分、人として理解できると思います。

– 『轟音』で、片山監督が表現したかったことはなんでしょう?

片山享監督
本当にひとつだけで、「生きてるだけでいいでしょ」という、ただそれだけなんです。だから暗くなっていくんです。付随したいろいろな設定が出てくることに対する説得力として、テーマが一個ずつ入っていくイメージです。
僕の中には、「生きていればなんとかなる。生きていればいいんじゃない。」っていうものがあって、その下に一歩踏み出す強さみたいなものがあるんです。
登場人物はそれぞれみんな束縛されてる人達ばかりなので、良い悪いは別として、そこから抜け出すために一歩踏み出すんです。描かれていることはダメなことなんですけどね。

▼良いものを表現するために “真逆に振る”

– 本作は、福井を舞台に「幸せ」というテーマで撮ったというお話でしたが、それでも福井県を悪く言う表現が出てくるのはなぜしょうか?

片山享監督
僕が良いと思っていることを表現するには真逆に振って行かないといけないんです。それが撮影地の福井を逆に悪く言うことを選んだ理由になります。
良いところを良いものとして表現することを、それでいいという人もいると思いますが、僕にはそれでは本当の良さが伝わらないのではないかという疑問があるんです。
広い視野で見比べたり、評価をしないと良し悪しのようなものは判断できないのに、固定概念といえばいいのでしょうか、田園風景は美しいよねとか、田舎は良い人が多いよねとか。そういう決められた考えの中で、ざっくりときまっている“良い”を表現することが、僕はあまり好きではありません。

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▼地元・福井での撮影

− 地元での撮影ということで、商店街の点々とした照明の光がいいなと思ったのですが、どういった点にこだわりましたか?

片山享監督
閉塞感が欲しかったですね。撮影に使ったシャッター商店街は、色が無いようなあるような妙な色合いで、その照明の雰囲気がとても良かったです。あそこは駅前にある商店街で、ある意味象徴的な場所になっています。

▼映画と主題歌について

−『轟音』の主題歌「ニセモノの歌」を担当しているナオリュウさんは実のお姉さんだそうですね。

片山享監督
ナオリュウは、僕の実の姉です。曲は作品に合わせて書いてもらったわけではなくて、僕が書いた脚本の内容と、曲がそのまんまだと思って、「使っていい?」って聞いて使いました。僕と姉は性格は違うのに恐ろしいほど考えていることが一緒なところがあり、僕の撮った映画と曲が絶対に合うんです。 

▼『轟音』の見どころ

− 最後に、映画『轟音』をご覧になる方々への見どころとメッセージをお願いします。

片山享監督
『轟音』は、今生きていることに感謝してほしくて撮った映画です。言いたいことは、「本当に、いまが幸せなんだよ。」ということです。
ドン底の人たちばかりが出ている映画ですが、どこか、何かに日々くすぶっていたり、うまくいかないと思っていたり、そう思っている人たちが観たら、きっと力をもらえる映画になっていると思います。
希望の話だっていうことを頭において見てくださればと思います。
先日、主演の安楽が、「ドン底の先に光がある映画」だと表現してくれました。
また、昨年の映画祭で観てくれた方々からは、凄く力強くって生を感じると感想をいただきました。そこは、僕の意図したものではなかったのですが、作品の力強さに心が動かされる人が多いのだと思います。

『轟音』が他の映画とは違うと言えるところは、世の中のルールに対してはひとつも媚を売っていないことです。世の中にルールなんて本当はないはずなのに、ルールを作ることで忘れてしまっていることって多いと思います。この映画には、ルールはほとんど存在しないけれども、人としての根底にあるものがあるのでそこにやられる人は多いと思います。
本音を言うと、「やられにこい!」です。
きっとやられます。そういうつもりで撮っているのだから。

轟音

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映画『轟音』

あらすじ
ある日、誠(安楽涼)の兄が犯罪を犯した。
それを苦にした父は自殺し、誠は母親に助けを求めたが、母は助けてはくれなかった。
誠は家を飛び出し、自分を傷つけてくれるものを探した。
そして、一人の浮浪者に出会う。
彼との出会いをきっかけに、誠の生と向き合う音が静かに響き始める。

クレジット
出演:安楽涼、太田美恵、大宮将司、岸茉莉、中山卓也、柳谷一成、松林慎司、片山享、宮田和夫、他
プロデューサー:夏井祐矢・宮田耕輔 脚本:片山享 撮影/照明:深谷祐次 録音:マツバラカオリ 特殊メイク:北風敬子 編集:片山享 サウンドディレクター:三井慎介 カラリスト:安楽涼 監督・脚本:片山享
2019/日本/99分/カラー/16:9/ステレオ/DCP

公式サイト:https://www.go-on-film.com/

予告編

2020年2月15日(土)池袋シネマ・ロサほか全国順次公開!

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