「日本は月がきれい」広瀬すず×松坂桃李W主演『流浪の月』全州国際映画際上映レポート
現在韓国で開催中の第23回全州(チョンジュ)国際映画際の<ワールドシネマ>部門にて、広瀬すず×松坂桃李W主演映画『流浪の月』(5/13公開)が上映され、李相日(監督)、ホン・ギョンピョ(撮影監督)による舞台挨拶が行われた。
全州国際映画祭は、2000年にスタート。世界のインディペンデント映画やオルタナティブ映画を数多く紹介する国際映画祭として注目を集めており、また幅広い年齢層の熱狂的な観客が参加することでも知られている。
期間中は、賞を競い合うコンペティション部門をはじめ、<ワールドシネマ>や<シネマフェスト>、<ミッドナイトシネマ>などの非コンペティション部門もあわせて、韓国内外の作品が数多く上映される。
<ワールドシネマ部門>は、その年の最も重要なフィクション映画とドキュメンタリー映画のためのノンコンペティション部門であり、現代のトレンドを代表する作品を上映。日本映画の『流浪の月』に韓国の著名スタッフが参加するというハイブリッドさが評価され、ワールドシネマ部門がふさわしいと出品が決定した。同部門には昨年、『すばらしき世界』(監督:西川美和)が出品されている。
全州国際映画際上映後舞台挨拶レポート
■広瀬すず・松坂桃李、韓国語であいさつ
上映チケットが発売の瞬間に完売するほどの高い人気を見せた本作の上映は、主演の広瀬すずと松坂桃李からのコメント映像からスタートした。
二人は韓国語で「アンニョンハセヨ(こんにちは)」と挨拶、「李監督とホンさんの息の合ったコンビネーションで映し出された更紗と文の姿が、韓国でどのように受け止められるのか楽しみです」と観客へメッセージを贈った。
そして始まった2時間半の密度の高い上映が終了すると、約230人の観客で満席の場内は、割れんばかりの拍手に包まれた。そして温かい拍手に包まれたながら、李とホン・ギョンピョが登壇した。
冒頭の挨拶で李は、「全州国際映画祭には以前審査員として参加させていただくなどご縁があり、その時に次回は自分の作品を持って参加したいと思っていた。そして実はもうひとつご縁があって、ポン・ジュノ監督の『パラサイト』の撮影現場の見学に行った際に(ポン監督の紹介で)ホンさんと出会うことができたが、それがここ全州だった。今日こうしてその全州で、ホンさんと撮った『流浪の月』の上映ができたことをとても嬉しく思っている」と全州との縁深さに触れた。
ホンは長いキャリアの中でも全州映画祭に参加するのは初めてだそうで、「こうやって観に来てくださった皆さんとお会いできて嬉しい」と、観客へ喜びを伝えた。
またホンは、「李さんの作品は以前から観ており、特に『怒り』が好きだった。好きな監督だったので快諾した」と李からのオファーを受けた理由も明かした。
■日本は空気が綺麗で、月もよく見える
熱心な映画ファンが集まることでも知られる本映画祭だけあって、その後観客から様々な視点の質問が飛び出した。
劇中に出てくる象徴的な川や月などの風景については、ホンが「月はCGではありません」と全て実景だったと明かし、「日本は韓国と違って空気が綺麗。撮影をした松本は特に風景が綺麗なところで、陽が落ちるまでの時間が長くてブルーがちょっと強め」と、自身を感激させた景色の美しさを振り返った。
それを受けて李は、「ホンさんが、(日本では)月がよく見えるなどと喜んでいて、普段見ている時(自分は)そこまで気が付けなかったので、今回はホンさんの視点に影響を受けた部分が大きかった」と話した。
また「ホンさんが早めに覚えた日本語は”月”、それから常に風が吹いたらそれを取り入れようという意識があったので”風”。あとは……”めしおし”(※撮影の都合で食事時間を後まわしにして撮影を続けること)でしたっけ(笑)」と、日本語エピソードで観客の笑いを誘った。
■過去作品との共通点は?
これまで監督した『悪人』『怒り』などの作品と本作に共通しているテーマのようなものがあるかという質問には、「一つにはイ・チャンドンさんの影響があるかもしれません」と切り出し、「社会の中で傷つき声をあげられない人たちの声を掬い取ることも映画の役割の大きな一つだ、というイ・チャンドンさんの言葉を若い頃に読んだことがあり、ものすごく感銘を受けた。自分も全く同じように思っていた。イ・チャンドンさんと同じようにはできないけれど、自分なりに、映画を作ることで目をそらさないように、通り過ぎていかないようにしているかもしれません」と、韓国の名匠イ・チャンドン監督の言葉に言及しながら、李自身が思う、映画を撮ることへの意味について力強く話す場面もあった。
イ・チャンドンといえば、直近作の『バーニング 劇場版』はホンが撮影監督を務めているが、二人の違いを尋ねられたホンは、「物語の伝え方には違いがあるが、コンテやカット割りをすべて決めずに、現場で相談しながら決めていく撮影方法は似ている」と両者の共通点をあげた。
■魂と魂がくっつきあう瞬間
また、「すべての人に共感を得られる作品というわけではないと思うが、なぜこういう映画の作りにしたのか」と問われると、李は「もしかしたら、人と人が“出会う”時というのは、年齢とか性別とかあるいは人種とかを超えて、本当に魂と魂がくっつきあう瞬間というものがあるんじゃないのかなという気がしている。人生の中で、生まれてから死ぬまでの間にそういうつながりを持てる人がいったいどれだけいるだろうかと考えた時に、やっぱり、あの二人にそういうつながりが存在したということが奇跡だと思った。そのことが、伝わる人にはきっと伝わるのではないかと思う」と本作に込めた、願いにも近い気持ちを明かした。
他にも、キャスティングについて、カメラアングルの意図、小説から映像化する際に悩んだ点についてなど、質問は40分の時間いっぱいまでとぎれず、韓国からの注目度の高さを感じさせた舞台挨拶は大きな盛り上がりを見せて終了。その後、李とホンの前には、サインを求める観客たちの長蛇の列ができるなど、最後まで人気ぶりを見せていた。
「23rd Jeonju International Film Festival/第23回全州国際映画祭」
開催日程:2022年4月28日~5月7日
開催場所:韓国・全州
公式HP:https://eng.jeonjufest.kr/
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映画『流浪の月』
INTRODUCTION
実力と人気を兼ね備えた俳優・広瀬すずと松坂桃李の2人が紡ぐ物語は、2020年本屋大賞を受賞し、同年の年間ベストセラー1 位(日販単行本フィクション部門、トーハン単行本文芸書部門)に輝いた凪良ゆうによる傑作小説が原作。
10歳のときに誘拐事件の“被害女児”となり、広く世間に名前を知られることになった女性・家内更紗(かない さらさ)を広瀬が、その事件の“加害者”とされた当時19歳の青年・佐伯文(さえき ふみ)を松坂が演じる。
また、事件から15年後に文と再会してしまう更紗の現在の恋人・亮を横浜流星が、癒えない心の傷を抱える文に寄り添う看護師・谷あゆみを多部未華子が演じることも発表されている。
恋愛、友情、家族愛……そんな既存の言葉では括れない、限りなく稀有な2人の関係性をスクリーンに描き出すのは、デビュー以来そのエモーショナルで骨太な作風で観客の心を鷲掴みにしてきた『悪人』『怒り』などの李相日(リ・サンイル)監督。
また、『パラサイト 半地下の家族』『バーニング』『哭声/コクソン』『母なる証明』など、韓国映画史に残る作品を次々手がけてきた撮影監督・ホン・ギョンピョ、『キル・ビル Vol.1』『ヘイトフル・エイト』『フラガール』『悪人』『三度目の殺人』など、世界を股にかけて活躍する美術監督・種田陽平ら、国境を越えた才能が集結した。
いつまでも消えない“被害女児”と“加害者”という烙印を背負ったまま、誰にも打ち明けられない秘密をそれぞれに抱えて生きてきた2人。15年後に再会した2人が選んだ道とはーー?
第一線を走る俳優陣とスタッフが集結して作り上げる2022年必見の1本。
STORY
雨の夕方の公園で、びしょ濡れの10歳の家内更紗に傘をさしかけてくれたのは19歳の大学生・佐伯文。引き取られている伯母の家に帰りたがらない更紗の意を汲み、部屋に入れてくれた文のもとで、更紗はそのまま2か月を過ごすことになる。が、ほどなく文は更紗の誘拐罪で逮捕されてしまう。
それから15年後。“傷物にされた被害女児”とその“加害者”という烙印を背負ったまま、更紗と文は再会する。しかし、更紗のそばには婚約者の亮がいた。一方、文のかたわらにもひとりの女性・谷が寄り添っていて…
原作:凪良ゆう「流浪の月」(東京創元社刊)
出演:広瀬すず 松坂桃李
横浜流星 多部未華子 / 趣里 三浦貴大 白鳥玉季 増田光桜 内田也哉子 / 柄本明
監督・脚本:李相日
撮影監督:ホン・ギョンピョ
製作総指揮:宇野康秀
製作幹事:UNO-FILMS(製作第一弾)
共同製作:ギャガ、UNITED PRODUCTIONS
配給:ギャガ
(C)2022「流浪の月」製作委員会
公式サイト:gaga.ne.jp/rurounotsuki/
公式Twitter:@rurounotsuki
5月13日(金)、全国ロードショー
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