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ハラスメント防止策についての要望書

是枝監督、深田監督ら映画監督有志の会が文化庁に映画制作現場でのハラスメント防止に向けての要望書を提出

最近になって、映画監督の立場を利用して出演俳優に対する性的被害が報じられているが、それらを受けて、3月18日に「私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。」という声明文を、是枝裕和、諏訪敦彦、岨手由貴子、西川美和、深田晃司、舩橋淳(五十音順)の連名で発表された。

以下、リリース内容(そのまま掲載)

【私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します】(映画監督有志)
https://action4cinema.theletter.jp/posts/877aa260-a60c-11ec-a1bd-3d3b3c9fc3bd
(※リンク先には、賛同者として、監督、俳優に加えて、一般の方の記載もあり)

発表後数日で300を越える賛同のメッセージをいただき、また異なった意見や今後の活動への激励、叱咤も含め大きな反響があったという。それは声明への賛同という以上に、この業界を変えていかなければならないという危機意識の顕われであると受け止めています。
私たちは声明において「何ができるかを考え、改善に向けたアクションを起こしてゆきます」と書きました。声明を声明だけで終わらせず、現状の把握、具体的な改善方法を模索すべく動き始めたいと思います。
このタイミングにおいて、文化庁ではフリーランスの俳優やスタッフが安心・安全な環境で働けるよう「文化芸術分野の適正な契約関係の構築」に向けた検討を行い、わかりやすい契約書のひな形が作成されようとしています。
現在映画界においては契約の書面化は進んでおりません。その事がハラスメント、精神的・身体的暴力などさまざまなトラブルの要因の一つとなっています。そのため、有志メンバーはこの契約書の作成において特にハラスメント防止が重要な検討項目と考えますが、会議において十分に議論が尽くされておらず、更なる検討が必要であるとの危機感から要望書を作成し文化庁への要請をしてまいりました。
きちんとした契約書の締結は、優位的な地位の濫用を抑止し、ハラスメントが起きにくい環境を整える上でも重要な前提となります。そのために、十分な当事者のヒアリングと慎重な議論が必要であることを訴え、更なる検討を要望しました。また、我々の元に寄せられたメッセージからも、ハラスメント被害の現状は極めて深刻であることも伝え危機意識を共有しました。
 しかし、ハラスメントについては、まず私たちも含めこの問題の当事者である映画業界自らが事態の深刻さを認識し、改善に向けた具体的な対策を講じる必要があると考えます。今後は省庁に限らず映画業界団体に対してもハラスメント防止に向けた働きかけをしてまいります。
問題意識を広く周知し改善の気運を高めるためにもぜひ掲載のご検討のほど、何卒よろしくお願いいたします。

文化庁・省庁要請実施報告

日程:3月24日(木)16:30~17:00
場所:文化庁
寺本恒昌文化経済・国際課長(文化庁)
中山恭幸 文化芸術活動基盤強化室 専門官(文化庁)
㮈村篤子 文化芸術活動基盤強化室 経営改善・市場流通係長(文化庁)
提出者:諏訪敦彦(映画監督・映画監督有志の会)
西川美和(映画監督・映画監督有志の会)

諏訪監督は「文化芸術分野の適正な契約関係構築について検討を始められているということでかなり重要な局面にあると思います。3/18に出した声明文を出したのですがかなり大きな反響がありまして、実に様々な現場の声が届いています。事態は想像以上に深刻です。そのような状況の中で、ぜひハラスメント防止の観点から幅広い現場の調査と契約書の項目についてもっと十分に時間をかけて検討していただきたい。」というお願いに対し、文化庁の寺本課長は「この取り組みは始まったばかりで、まずは最初の一歩として踏み出そうとしております。その中でさらに現場の方の声を取込みながら使っていただけるよりいい雛形をまずは作っていきたいと思ってます。」と言った。
西川監督は「声明を出してから5日間で300件ものメッセージをいただき、中には痛ましい実情の告白も多数寄せられました。このことは、そういう苦しみの受け皿が映画・映像業界に全く用意されずに来たことの表れでもありますし、また過酷な労働環境の中でスタッフや俳優はプレッシャーを受け続け、傷を負った人が上の立場に立った時には無意識に加害的になっているような連鎖もあります。ハラスメントの問題を重要な課題として捉えていただき、作成中の契約書のひな型のプラス面が将来的には広く当事者に伝わるようにしていただきたいと思います。」と切々と伝えた。

ハラスメント防止策についての要望書

左より西川監督、諏訪監督、寺本課長、中山専門官

「文化芸術分野の適正な契約関係構築」に向けて、ハラスメント防止策についての要望書

令和4年3月24日
文化庁長官 都倉俊一様
「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」 御中

映画監督有志の会
是枝裕和、諏訪敦彦、岨手由貴子
西川美和、深田晃司、舩橋淳(五十音順)

 映画・映像分野における労働環境について提言します。
現在、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」において準備されている文化庁発出の契約書の雛型にハラスメント防止策を組み込むことを十分に議論し検討することを要望します。

日本の映画業界は1960年代頃までは俳優もスタッフも撮影所に雇用され安定した立場で働いていましたが、その後のテレビの普及に伴う映像分野の多様化のなかで、雇用型の撮影所システムは終わりを迎え、その大多数がフリーランスとして不安定就業の形態で働くことになりました。しかし、そういった重大な労働形態の変化に残念ながら映像業界は十分に対応できてきたとは言えませんでした。
撮影所時代の労使間の争議によって取り決められた現場の安全を守るためのルールも、俳優・スタッフがフリーランス化するなかで無実化し、雇用者側である映画会社、プロデューサーは圧倒的に優位な地位を有したまま、労働者の権利は縮小し現場の労働環境は悪化していきました。

度を超した長時間撮影の常態化、指導という名のもとに行われる技師から助手、助手から助手への罵倒や暴行、そしてディレクターやプロデューサーによる優越的地位を濫用したスタッフ・俳優へのハラスメント、性的暴行など、撮影準備から撮影、配給から映画館に至るまでそのケースは枚挙にいとまがありませんが、最大の問題はこれらの悪習が当たり前のものとして問題視されず、芸術や教育の美名のもと看過され続けてしまったことです。その被害は誰もが受けることになりますが、そういった環境下で最も傷を負いやすいのは若い俳優やスタッフ、また女性であり、その多くが希望を失い声もなく去っていったことを重く受け止めねばなりません。

私たちはこの悪習を次の世代に残さないためにも、まずは映画監督の立場から映画監督の職掌のもつ権威性、暴力性について同業者に自覚を促すことを目的に3月18日に声明を発しました。

【私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します】
https://action4cinema.theletter.jp/posts/877aa260-a60c-11ec-a1bd-3d3b3c9fc3bd

声明発表後、同様の問題意識を持つ多くの映画関係者から賛同が届き、私たちはすでに300を越えるメッセージを受け取っています。中にはパワーハラスメント、セクシャルハラスメントの深刻な被害を受けていた方の極めて切実な声もありました。それらはすべて、この業界を変えなければならないという危機意識の顕われであるはずです。

映画の現場において俳優やスタッフの権利や人権が軽視されてしまう要因のひとつに、日本の商慣習における契約書締結の不徹底があります。契約書は労使の関係を明確にし、それぞれの持つ権利と負うべき責任を明確にします。契約書の雛形を出すことは契約書を軽視する業界慣習改善に効果が期待できますが、それはときにその内容に同意しない人を業界から排除することにもつながります。内容次第でハラスメント防止にも、その逆にもなりえるからこそ、その内容は十分に吟味されなくてはなりません。
省庁において「文化芸術分野の適正な契約関係構築」について検討が始まったことは歓迎すべきことですが、しかし、その検討期間が21年9月から22年3月末と短期間であること、検討委員のメンバーに実演家当事者の割合が極めて少ないこと、また検討にあたって現場における契約関係の実態を把握し参考にするためのアンケートの実施期間が21年12月17日から12月27日とわずか10日間であることから分母が少なくまた回答を得られた業種にも偏りがあるなど問題が多く、当事者、それも声をあげづらい現場労働者の意見をきちんと反映できているのか、公正な議論と検討が尽されているのか、疑問を持たざるをえません。実際、すでに公表されている3回の議事録を読む限り、ハラスメント防止に関する議論は、問題の深刻さに対しまだ不十分です。
今回作成される契約書の雛型は、今後のモデルケースとなる極めて重要なものとなります。だからこそ、省庁には拙速に結果を示す前に、議論のためのより十分な期間を設け、現場スタッフ、俳優らへのヒアリングをより丁寧に広範に行ったうえで、どうすれば態様
が多岐にわたるハラスメントを防止できるのかを真摯に検討することを要望いたします。

 

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