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Ribbon

【コラム】女の子は牙をむく!モヤモヤ・怒りを見事に“エール”に昇華。のん監督・脚本映画『Ribbon』【ネタバレ無し】

のん脚本・監督・主演映画『Ribbon』(2022/2/25公開)の関係者・メディア向け試写会がスタートしている。当メディアもさっそく観てきた。完成した作品は、のんのアート活動の大きな源流となっているモヤモヤ・怒りが、見事に“エール”に昇華していた。(本文にネタバレはありません)

■女の子は牙をむく!

『Ribbon』は、コロナ禍により、多くの卒業制作展がなくなり、青春を奪われていく美大生がアイデンティティを自らの手に取り戻す作品となっている。
のんは、俳優以外に「創作あーちすと」の肩書を持ち、歌手活動のほか、絵画やイラスト、インスタレーションなどの美術活動にも精力的に取り組んでいる。
その活動の原動力になっているものについて、のんは「モヤモヤ」「悔しさ」「怒り」だと自身でこれまで何度か明かしている。
そのわかりやすい例のひとつが、2018年4月に開催された「‘のん’ひとり展 -女の子は牙をむく-」だ。“牙をむく”とは、内面の怒りを無鉄砲なパワーにして、楽しいこと・おもしろいことに変換するというのんならではの創作活動を意味する。
喜怒哀楽の中で、怒るという感情だけが“のけもの”みたいになっていることに違和感を抱き、「怒ることも必要なんだよ」と、のんは、彼女の創作活動を通して表現しているのだ。

展覧会公式アートフォトブック「女の子は牙をむく」

牙ポーズをするのん(2018年4月18日撮影)

■『Ribbon』制作のきっかけも「悔しさ」。

2020年春、のん自身が主催する音楽フェスが開催直前でコロナ禍により苦渋の中止を決断することに。その抗っても抗えない感情がずっとのんの中でモヤモヤとくすぶり続けていたという。
そんな時、のんは、美大の卒業制作展がコロナ禍により中止になり、学生たちが「時間をかけて作ったものがゴミのように思えてしまった」というインタビューを目にする。それが彼女の悔しさと共鳴して膨れ上がり、自身の無念、学生たちの無念をなんとか晴らしたいと脚本執筆に取り掛かったのが、本作制作のきっかけとなった。

当メディアが参加した試写会では、上映後、のん監督がスクリーン前であいさつに立ってくれた。そこでも、「命を繋ぐために懸命に努力している医療従事者の方たちのことを考えると、自分のフェスは中止にせざるを得なかった」と当時を振り返る。そして、「ほんとに苦しかったよね。悔しく思っていいよね。という感情を記録したくてこの映画を撮りました。」と、改めて制作のきっかけを語ってくれた。
そして、「その悔しいモヤモヤした気持ちを晴らして報われるような映画を目ざして作りました。同じように悔しい気持ちを持った美大生、そして世界中のアートに関わる人たちに、苦しい中でも“好き”を貫いていいんだという想いが伝わったらいいなと思います。」と締めくくった。

■いつかの“感情”を表現するリボン特撮アート

『Ribbon』では、主人公の美大生・いつか(演:のん)とその親友・平井(演:山下リオ)もコロナ禍により卒業制作展が中止になり、自分たちの気持ちの行き着く所を喪失してしまっていた。

Ribbon

のん(いつか役)/山下リオ(平井役)(2020年秋、ロケ地でのオフショット撮影)

物語は、この2人の感情の交錯を中心に進んでいく。その中で、“いつか”の内なる感情を“形”として表現しているのがタイトルにもなっている“リボン”だ。各シーンで“いつか”の想いに合わせて、“リボン”がさまざまな形に変化していく。
これは、のん自身のアイディアで、「ダークな感情をリボンで可愛らしく昇華したい」との想いからだ。
なお、劇中のリボン特撮アートは、『シン・ゴジラ』監督・特技監督の樋口真嗣、准監督・特技統括の尾上克郎の豪華タッグで実現されている。
“いつか”の悔しさ、悲しさ、行き場の無い怒りを、のんは見事な芝居で演じきり、そして、リボン特撮アートがそれに共鳴して舞う。これまで観たことが無い感情表現、映像表現に、この作品自体が単なる映画の枠を越えた美術作品としても成立しているのではと思わされた。

映画『Ribbon』

予告篇場面カット ©「Ribbon」フィルムパートナーズ

■コメディエンヌ・のん

そして、この作品のもうひとつの見どころは、「コメディエンヌ」としての のん の演技力だ。
“いつか”のだらしない日常生活、“いつか”が気になる男性(演:渡辺大知)との駆け引きなどで、クスクスと笑わされるシーンもたっぷり。
ちなみに、のんの日常生活も、もしかしたら“いつか”そのものでは?と妄想しながらこの映画を見るのも楽しみ方のひとつかもしれない。事実、“いつか”は、のんの高校時代の自分をイメージして当て書きしたものだという。

Ribbon

『Ribbon』場面写真 ©「Ribbon」フィルムパートナーズ

■こだわりのエンドロール

エンドロールも見どころ、聴きどころ満載だ。
サンボマスター書き下ろしの主題歌「ボクだけのもの」に聴き惚れながら、流れる映像やクレジットを注意深くご覧になることをお薦めする。
いつかや平井と同じように青春の一部を奪われてしまった多くの同じ立場の学生たちへのエールになっていると感じたからだ。
もちろん、本作制作にリボンアートなどで応援した一般ファンの方々のお名前もバッチリとエンドロールに流れるので、該当する方はそれもぜひお楽しみに!

■『Ribbon』は良質なオリジナル作品

『Ribbon』は、オリジナル作品(原作が無い作品)としては、とてもバランス良く仕上がった映画作品の印象を持った。
いわゆる映画作品人気ランキングでは、人気作品が原作だったり、有名俳優が出演しているなど、大衆向け嗜好のものが多く占める。それは、ある程度世間に認知された原作でないと、観客が興味を示さないことが多く、興行的なリスクがあるからだとされる。
ただ、そういったわかりやすい作品は、凡庸になりがちな側面もある。
逆に、映画通好みの、たとえばミニシアターなどで上映されるような、作家性の強いオリジナル作品は、芸術性は高いかもしれないが、観る人の「眼」も必要となり、観客に伝わらないと、結果的に作家である監督や脚本家の独り善がりで終わってしまうこともあるだろう。

そういったことを踏まえて『Ribbon』を観てみると、のん、渡辺大知など、世間で広く認知されている良質な俳優が出演していることと、彼らを通してバランス良く、のんの内面に滾っていた「負の感情」を誰もが共有できるものとして見事に表現されていた。
こういった良質なオリジナル映画作品が、今後ももっと増えて、興行的にも成立するように世間もついてくるようになれば、日本の映画界の将来にも希望を持てる気がする。
なお、『Ribbon』の応援PVに、映画制作スタッフ(スクリプター)の一人として出演している枝優花監督も若手映画作家であり、のん監督と共に、これからの日本映画界をリードしていってほしいと期待している。
[文:桜小路順]

映画と生きる 映画に生きる

「映画と生きる 映画に生きる」風篇 ©日本映画専門チャンネル/撮影=吉場正和(のん右横が枝監督)

Ribbon

メイキングカット ©映画「Ribbon」製作委員会(衣裳は劇中衣裳)

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映画『Ribbon』

Ribbonロゴ

2020年冬。コロナ禍により一年かけて制作した卒業制作は、発表の場が失われた。
家での時間があるのに、なにもやる気がおきない……。
表現の術を奪われ、自分のやるべきことを見つけだせずに葛藤する美大生“いつか”を女優・のんが演じます。
鬱屈とした現状を、のんが持ち前のパワーで痛快に打破していく“再生”の物語です。

あらすじ
コロナ禍の2020 年。
いつか(のん)が通う美術大学でも、その影響は例外なく、卒業制作展が中止となった。
悲しむ間もなく、作品を持ち帰ることになったいつか。
いろいろな感情が渦巻いて、何も手につかない。
心配してくれる父・母とも、衝突してしまう。
妹のまいもコロナに過剰反応。
普段は冷静な親友の平井もイライラを募らせている。

こんなことではいけない。
絵を描くことに夢中になったきっかけをくれた友人との再会、
平井との本音の衝突により、心が動く。
未来をこじ開けられるのは、自分しかいない―。

誰もが苦しんだ2020 年―。
心に光が差す青春ストーリー。

出演:のん 山下リオ 渡辺大知 小野花梨 春木みさよ 菅原大吉
脚本・監督:のん
製作統括:福田淳
エグゼクティブ・プロデューサー:宮川朋之
クリエイティブ スーパーバイザー:神崎将臣 滝沢充子
プロデューサー:中林千賀子
特撮:樋口真嗣
特撮プロデューサー:尾上克郎
音楽:ひぐちけい
主題歌:サンボマスター「ボクだけのもの」(Getting Better / Victor Entertainment)
企画:のん
配給:イオンエンターテイメント
制作プロダクション:ブースタープロジェクト
製作:日本映画専門チャンネル non スピーディ コミディア インクアンク
©︎「Ribbon」フィルムパートナーズ
作品公式サイト:https://www.ribbon-movie.com
のん公式サイト:https://nondesu.jp/
のん公式 YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCj4G2h4zOazW2wBnOPO_pkA
のん公式 Twitter:https://twitter.com/non_dayo_ne

2022年2月25日(金)よりテアトル新宿ほかロードショー!

映画『Ribbon』

メインビジュアル(公開日入り)

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