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なら国際映画祭

若者たちが映画製作・宣伝を体験。河瀨直美監督“あなたこそが宝物”「なら国際映画祭」独自の若手育成プログラム

9月18日(金)から9月22日(火・祝)まで、奈良県にて開催される「なら国際映画祭」。それに先立って行われた、本映画祭の最大の特徴である「若手育成の3つの取り組み」について取材。そこから見えてきた「宝物」とは?

2年に1回開催される「なら国際映画祭」は、いわゆるレッドカーペットや各種上映プログラムに加えて、国内外の若手監督と奈良を舞台とした映画制作や、こども・海外学生とのワークショップなど、映画制作を通して、若い世代の育成に取り組んでいる。
その取り組みは、映画を創り上げるための技術的なことだけではなく、そのプロセスに関わる人たちの意見をひとつにまとめあげる、すなわち“価値観をシェアする”ことの体得に重点を置いている。このことは、次世代を担う若い世代にとって必要なもののひとつとして、本映画祭が捉えているためだ。
また、役者がよく言う「映画とは観客に観てもらって初めて映画として完成する。」という言葉のとおり、本映画祭のワークショップでは、“創る”先の“魅せる(届ける)”というテーマを設定しているものも注目だ。これは、創り手内の枠を超えて、宣伝会社、そしてそれを通して観客とも“価値観をシェア”することの学びにつながる。
本記事では、こうした若手育成プログラムの紹介と合わせて、主催側として河瀨直美監督、中川龍太郎監督、そしてプログラムを受講した高校生へのインタビューを紹介する。

なら国際映画祭2020

河瀨直美エグゼクティブディレクター/中野聖子理事長(8月4日、東大寺東大寺大仏殿前で行われた「なら国際映画祭 2020」オンライン記者会見より)

「なら国際映画祭」が取り組む3つの若手育成プログラム

「なら国際映画祭」の若者(ユース)育成プログラムは次の3つのプログラムで構成されている。

1.【創ること】ユース映画制作ワークショップ(プロサポートを受け、中高生が作品を創り、上映)
2.【魅せること】ユースシネマインターン(映画の「配給・宣伝」を体験)
3.【観ること】ユース映画審査員プログラム(10代の若者たちが映画を審査するプログラム)

「なら国際映画祭」実行委員会メンバーの生田紗千氏によると、2つめの「魅せること」が今年初めて実施することができ、これら3つの若手育成プログラム全てが揃ったのは今年が初だという。
「この3本で、なら国際映画祭のユースワークショップは初めて成り立ちます。その“魅せる”がやっとできるようになったのが、今年なんです。私たちとユースの取り組みを観に、映画祭にぜひお越しください。」と同氏は語る。
これら育成プログラムは、映画祭に先立つ7~9月に、オンラインや集合研修の形で、主に奈良県内で行われた。
そして、「映像制作ワークショップ」に講師として参加した中川龍太郎監督、「なら国際映画祭」エグゼクティブディレクターの河瀨直美監督、そして、実際にワークショップを受講した高校生に話を伺った。

■中川龍太郎監督「学びとは双方向であるべきもの」

中川龍太郎監督

中川龍太郎監督(「映画制作ワークショップ」講師)

▼映画制作ワークショップの特徴について
中川龍太郎監督
私は、今回初めて(ユース映画制作ワークショップに)参加させていただいたんですけれども、子どもたちが主体的になって、スケジュール設定、ロケ地確定、ストーリー考案、そしてその場で演技を決めて、撮るという工程を行っているところが特徴だと思いました。

▼映画制作を通じて文化全体の大きな流れへの可能性に。
中川龍太郎監督
映画を作るということを通して、他者との関係性を結ぶこと、すなわち、双方向のコミュニケーションを取ることを若者たちが経験することは、映画に限らず、文化全体に対しての大きな流れを作る営みだと思います。
「なら映画祭」がこのような取り組みをしていることは、いろんな可能性につながると感じています。いわゆる映画祭の、“監督を集めて、映画を上映する”ということに留まっていません。

▼映画祭来場者へのメッセージ
中川龍太郎監督
若者たちがワークショップで制作した作品が、9月22日にクロージング作品として上映されます。その前には、「なら国際映画祭」に招待していただいた私の映画『静かな雨』が上映されます。招待していただいた『静かな雨』も是非観ていただきたいのですが、その流れの中で、子供達が作った映画を多くの方と一緒に観れたらなと思っています。
ここの映画祭のその瞬間でしか見えない仕掛けになってると思うので、作品のクオリティの良い悪いじゃなく、その子たちの今が写っているものです。そういうものってテレビでも見れないし、映画館でも見れないし、インターネットでも見られません。なら国際映画祭」でしか見れないものだと思うので、そういうものも是非一緒に見たいな・一緒に見てくれたらなと思います。是非、上映の際にお会いできたらと思っております。よろしくお願いします。

■河瀨直美監督「あなたこそが宝物。」

河瀨直美監督

河瀨直美監督(「なら国際映画祭」エグゼクティブディレクター)

▼若者達へ。「日常はこんなにもキラキラしている」
河瀨直美監督
彼らにとって、何もないところから、日常の風景を活用して映画を作るということに対して、すごく学びがあると思います。普段当たり前に過ぎていく日常が、こんなにもキラキラしてるんだなっていうことに、立ち止まれる機会とだと思っていますし、延いては、「なら国際映画祭」の、次の世代を担う人として、どんどん才能を発揮してもらいたいなと思っています。

▼あなたこそが宝物「トレジャーハント」
河瀨直美監督
この若手育成に力を入れている点について、この映画祭がみんなにとっての宝物であってほしいということで、今年は「トレジャーハント」と言葉を付けています。
「この鏡に映る、あなたこそが宝物なんですよ」と、そして、この鏡のような(今年の「なら映画国際映画祭」のポスターは、一部が鏡面になっている)、ここに映る奈良の風景、その土地が持っているポテンシャル。それは世界中比べてみても、いや、比べる必要がない自分たちのオリジナリティがそこにこそあるんだよ、ということで、宝物再発見というのもテーマにしています。つまり、奈良に暮らしている人が自分達の街を誇りに思うってことと、外から来てくれた人たちと交流をすることは、実は千年前からの真の国際文化観光都市である奈良の役割なのではないかと思っています。

なら国際映画祭

「なら映画国際映画祭2020」ポスター

▼千年続けたい
河瀨直美監督
このワークショップをやっていると特に思うんですけど、彼ら(ユース達)が映画制作を通して、彼ら自身の中にある、何か見えない悶々としているものが、ポジティブな方向に進んでいく瞬間があるんです。映画を作ることによって、これに立ち会えるのは、本当に私たちの宝物だと思っています。
奈良の大仏様が千年も続いて、私達の目の前に存在し続けているのは、千年前の一人一人の力が集まって、あの大仏様ができたから。その時の権力者の権力だけで造ったのではない。そういう意味では「なら国際映画祭」は、千年続けたい。そういう祭典にしたいので、若手育成に一番力を入れています。

▼映画祭来場者へのメッセージ
河瀨直美監督
今のコロナ禍にあって、「なら国際映画祭」開催をどうしようかと、春先からずっとミーティングを重ねてきて、そのミーティングそのものも、みんなで直接は会えないのでオンライン上で語り合ってきました。 こういう時にこそ、芸術の力で人の心に光を灯したいっていう風にみんなが思ったので、9月の18日から22日まで開催を決定しました。とは言え本当に来ていただいて、観るっていう事と同時に、オンラインでの上映も数多く用意しています
詳しくは「なら国際映画祭 特設ページ2020」(LINK)にアクセスいただいて、そこから「なら国際映画祭」を楽しんでください。このユースの作品も最終日に22日に上映します。クロージングセレモニーの直前に、私たちの宝物であるユースが作ってくれた映画を是非、観に来てください。河瀨直美でした。ありがとうございました。

■ユースのことば「好きなことを通して学んだこと」

ユース映像制作ワークショップ参加が今回で3度目という、光宗里姫さん(神奈川県在住の16歳、高校2年生。ニックネーム“りこ”)に、ワークショップに参加した理由と、参加してみての感想を伺った。
そこからは、中川監督が語った「双方向コミュニケーションの学び」、河瀨監督の「あなたこそ宝物(トレジャーハント)」の精神が垣間見え、本映画祭での若者育成プログラムが実を結んでいることが確認できる。

なら国際映画祭

光宗里姫さん(神奈川県在住の16歳、高校2年生。ニックネーム“りこ”)

▼ワークショップ参加の理由
りこさん
最初に参加した時は、「将来こういう(映画製作の)道に進めたらいいな」っていう、“何となく…”という感じで参加しました。
一度目に参加した時は、“何となく”という感じで編集をやってみたかったんですが、その時はカメラを担当したんです。そうしたら、意外とカメラが楽しいことに気づいて、カメラをやりたいって思うようになりました。
二度目のワークショップでもカメラを担当しました。それに加えて、出る・演じる方もやって、3度目の今年、今一番やりたかった編集をようやくしています。
来年までしか参加できないので(※ユース映像制作ワークショップは、13歳から18歳までが参加対象)、そこで将来の夢が見つかったらいいなって思っています。

なら国際映画祭

映像編集の実習のようす(PCを操作しているのは講師のとしおかたかお氏。河瀨監督に教えたこともある)

▼ワークショップを通して学んだ双方向コミュニケーションの難しさ
りこさん
ここでの経験って、他では絶対体験できないことがたくさんあるんです。
スタッフの方々が全面的に協力してくれて、昨日も夜間撮影ができて、とても良い経験ができました。
また、今回、私はグループ内の話をまとめる役割を担当したのですが、とても難しいなって思いました。初日は参加者のみんなが遠慮して、意見を言わなかったりするので、意見を言いやすい雰囲気を作れたらと思って話を進めました。ところが、2日目、3日目となると、仲良くなったり、親しくなったりして遠慮がなくなるんです。そうすると言いたいことを言ってしまうので、仲良くなったからこその不満やトラブルのようなものが出てきて、場が緩んで話が進まなくなったりすることを経験しました。
体力の面では、今年は特に暑いし、午後になると頭も体も全く働かなくなった時に、話を進めようと努力するのですが、自分自身がバテてしまって、うまく進められなかったりとか、撮影から帰ってきてから、「あの時、もうちょっとこうすれば良かったな」って反省することがあります。また来年参加した時に、もっともっと、場がうまくまとめられたらと思っています。

なら国際映画祭

りこさん「夜間撮影はとても良い経験でした。」

▼ワークショップの中で受けた言葉やアドバイスで心に残っていること。
りこさん
中川龍太郎監督から、「そのままでいいよ」って言っていただいたことが、すごく嬉しかったですね。自分らしくいていいんだって思えて。
先ほどの話に戻りますが、話を進める側って自分がしたい方向性に持っていくという点で有利ですよね。でも私はそれがすごく嫌で、自分と違う意見を選択することになってもいいと思っています。それは、他の意見もひとつの意見だからというのもありますが、自分の意見・提案をグループとして選択することにすごい不安もあったからです。
そのことで悩んでいた時に、中川監督から「そのままでいいと思うよ」って言われたことが、すごい嬉しかったです。

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昼間のロケ撮影実習

▼今後、参加してくるユースの方々へのメッセージ
りこさん
このワークショップって、1回目の時はとても人数が少なくて、年々増えてきて、今年は、マックスの12人になりました。少しずつ知名度や参加者が増えてきてくれたのがすごく嬉しいです。私が今、この場にいるのは映画が好きだからで、もっと好きな人が増えてくれると嬉しいことだと思いますし、もっともっと学んでほしいなと思います。

■映画宣伝の難しさ

先述した、若手育成プログラムのひとつ「ユースシネマインターン(映画の「配給・宣伝」を体験)」は、学生たちにとっても難しいことのひとつだったようだ。
これにトライした高校生たちは、インターネット等からメディアの連絡先を調査し、判明した連絡先に、FAX、電話、メール等でアプローチしたものの、結果としては、ほとんどが担当者にまでたどりつけなかったという。
これは、映画業界だけでなく、一般企業の営業活動でも共通して言える難しさではあるが、高校生ということもあり、電話取次段階で断られると、そのまま引き下がってしまったとのこと。この点に関しては、担当者が不在ならば、「帰社時間を聞く」、「担当者の名前を教えてもらう」、「より具体的に、文化・芸能・映画の担当者への取次ぎをお願いします」と伝える等のアドバイスが講師からあった。

このことについて、同プログラムの講師を務めた増田英明氏は次のコメントを寄せている。

増田英明氏(株式会社ラビットハウス代表)
ユースシネマインターンとは、「なら国際映画祭」が掲げる若手育成を主眼として、16~18歳までの受講生たちに配給宣伝を座学だけでなく、体験学習してもらおうという試みです。
 このプログラムは、世間一般にあるワークショップではなかなか実現できない内容となっています。と申しますのは、世の中で行なわれている様々なワークショップは、ワークショップの教室内で完結するものが多く、実際の現場での活動を体験できる機会は少ないと思います。
 「なら国際映画祭」でのユースシネマインターンは、受講生たちが、プロのデザイナーと話し合いながらオリジナルでチラシを作成したり、自ら、新聞記者、テレビ、ラジオ番組編成担当者へアプローチをかけ、自身の言葉で「記事を書いてください!」というアタックをしています。ある意味、プロの映画会社の宣伝と競いながら記事枠を獲得しようとするものです。
 私も講師として、座学中心の最初の授業ではプレゼン資料を準備できたのですが、2回目以降、受講生たちのアイデアを受け止める役に回った途端、映画業界で出てこない発想が受講者から生まれ、緊張するとともに逆に教えられることも多く、勉強になったくらいです。
 ユースシネマインターンでの配給・宣伝の体験をきっかけに、受講生にはメディア リテラシーのようなものを少しでも感じてもらえたら嬉しいです。

増田英明

増田英明氏(株式会社ラビットハウス代表)

【「なら国際映画祭」ユースシネマインターン】 のページ
https://nara-iff.jp/2020/program/youthintern/

■インタビュー動画

【インタビュー】河瀨直美監督「あなたこそが宝物。テーマはトレジャーハント」『なら国際映画祭2020』ユースワークショップを通して。

【インタビュー】中川龍太郎監督「学びとは双方向であるべきもの」『なら国際映画祭2020』ユース映画制作ワークショップの特徴

第6回 なら国際映画祭

奈良の平城遷都 1300 年目となる 2010 年、映画作家の河瀬直美をエグゼクティブディレクターに迎え始まった「なら国際映画祭」。2 年に 1 回開催される映画祭の企画運営の他、国内外の若手監督と奈良を舞台とした映画制作や、こども・海外学生とのワークショップ、奈良市内を移動する映画館「ならシネマテーク」など、映画の魅力を伝える数々のプロジェクトが実施される。

開催期間:2020年9 月18~22日
なら国際映画祭公式HP:https://nara-iff.jp/

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