【インタビュー】女優・宇野愛海×堀春菜。「頑張れ」という言葉への思い。
11月23日公開、佐藤快磨監督映画『歩けない僕らは』。回復期リハビリ病院で奮闘する主人公の新人理学療法士を演じる宇野愛海(21)、そして同作に出演、佐藤監督初長編作品『ガンバレとかうるせぇ』で主演をつとめた堀春菜(22)。二人の女優に作品への取り組み、そして両作品の共通テーマとなっている「頑張れ」という言葉に対する思いについて語ってもらった。
初の長編監督作品『ガンバレとかうるせぇ』(2014)が、ぴあフィルムフェスティバルで2冠を受賞し、アジア最大の映画祭である釜山国際映画祭に正式出品された佐藤快磨(たくま)監督。
2019年11月23日公開新作『歩けない僕らは』(37分の短編)は、回復期リハビリテーション病院の新人理学療法士と彼女を取り巻く人々を描いた作品で、2019年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で観客賞を受賞した。
本作で主演を務める宇野愛海(なるみ)は、岩井俊二プロデュースの連続ドラマ「なぞの転校生」、 映画『罪の余白』ほかで女優として活躍中(21、スターダスト所属)。
堀春菜は、佐藤監督初長編作品の『ガンバレとかうるせぇ』で初めてカメラの前に立って主演デビューを飾り、『空(カラ)の味』主演で第10回田辺・弁慶映画祭 女優賞を受賞している(22、映画24区所属)。
そして、山中聡(そう)は、『運命じゃない人』の他、バイプレイヤーとして映画・ドラマなどで活躍する(47、ザズウ所属)。
『歩けない僕らは』は、11月23日(土)より新宿K’s cinemaにて公開。『ガンバレとかうるせぇ』(2014、70分)も併映される。
インタビュー 宇野愛海×堀春菜
『歩けない僕らは』
回復期リハビリ病院での経験
– 回復期リハビリ病院での事前取材について。 本作の取り組みとして、回復期リハビリ病院に実際に行かれたと伺いました。それは本作の台本を読まれる前のことですか?
宇野愛海
台本ができあがる前に監督と一緒に行かせていただきました。
でも、役は1年目の理学療法士ということはなんとなく決まっていたので、実際の1年目の方に伺ったお話が特に役作りの参考になりました。
– リハビリ病院で経験されたことについて教えて下さい。またその中で特に印象に残っていることはなんでしょうか?
宇野愛海
一番勉強になったのは、患者さんとの距離感が大切だっていうことです。
1年目だとどうしてもいっぱいいっぱいでがむしゃらになって、距離感を詰めすぎたり、感情移入し過ぎてしまうことが多いらしくて。
でもこの病院は入院できる期間は決まっているから、最終的にどこまで回復するかはわからないし、できることも限られているんですよ。
患者さんが思ったように回復できなかったとしても、それは仕方のないことだけど、それに対して罪悪感を抱いてしまって、ずっと引きずっちゃったままだと、他の患者さんにまで引きずってしまう。
だから、遠すぎても信頼関係ができないからダメだし、近すぎても仕事に支障が出たり、精神的に追い込まれてしまったりするから、その距離感が大事だっていうのは教えていただいて、実際、柘植(落合モトキ演じる患者)との距離感も意識して演じられました。
– 患者との距離感という意味では、まさしく本作が描いているところですよね。
宇野愛海
はい、そうです。すごくヒントになりました。
お話を伺った理学療法士の2年目の方も、1〜2年目なので、「もし私が担当じゃなくて先輩が担当だったら、退院までに杖なしで歩けるようになっていたんじゃないか」と引きずってしまう、と話してくださいました。
– その方はもう立ち直られてるんですか?
宇野愛海
はい。でもたまに思い出してしまうそうです。それはベテランの方と言えども同じだそうです。
– リハビリ病院でその他、学ばれたことは?
宇野愛海
リハビリの施術の“形”です。本番直前まで習って、落合さん相手に練習させていただきました。
コツがわかるまでは相手の体重の重さで苦しくなってしまうんですけど、コツがわかるようになると少ない力でサポートし易くなりました。
– 周りの理学療法士さんの評価はいかがでしたか?
宇野愛海
慣れてきたね、と(笑)
でも、実際の1年目の方も、学校で習ってきたとはいえ、現場ではいっぱいいっぱいになってしまうこともあるそうなので、私も、演じるにあたって、施術をうまく見せようとは思わず、習ったことを一生懸命やるように意識しました。
– そのあたりのリアルさが映像にも表れていると思います。
宇野愛海
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019でご覧になった方の中に、理学療法士さんがいらっしゃったんですけど、すごくリアルで驚いたって言っていただいて、すごく嬉しかったです。
佐藤快磨監督について
– 佐藤監督とのコミュニケーションはどういうものがありましたか?
宇野愛海
演出自体はそんなに受けていなくて、役のその時の気持ちについて、私が迷った時に相談して、2人で話し合うようなことがありましたが、作品についての演出や、役についてのコミュニケーションというのはほとんどなかったです。
– 佐藤監督の印象はいかがですか?
宇野愛海
登場するキャラクター皆が人間らしさが詰まっているので、変に形を決めて格好つけるということはぜんぜんされなかったんですよ。なので本当にその場で思ったように動く感じでした。でも、佐藤監督の穏やかさとか、そういう部分には何度も助けていただきました。
– 佐藤監督は演者さんに任せるというのが基本スタイルなんですね。
宇野愛海
そうですね。でも、落合さんには演出して、私はそれを知らずに相手がどうくるのかわからないままやるというのはありました。
– それは敢えてそうされたのだと思われますか?
宇野愛海
たぶん。それに対して私がどう反応するかっていうのが自然に出てくるのを期待されてのことだと思います。
共演・落合モトキ(左片麻痺患者・柘植篤志役)
– その落合さんとは、演ずるにあたってなにかコミュニケーションされましたか?
宇野愛海
カメラ前以外のコミュニケーションはほぼゼロでした。まず、柘植(つげ)と遥(はるか)が距離感のある役で、理学療法士としても距離感が大切だって聞いていたので、あまり話しかけないようにしていて、そうしたら撮影期間中、挨拶しかしない関係になって(笑)
でも、その距離感があったからこそ、柘植と遥の距離感が役に生かせたのかなと思います。距離感があったから緊張感もより出たのかなと思います。
– そんな距離感の2人ですが、終盤近くでその距離が縮まる瞬間があります。その時の遥はどういう気持だったのでしょう?
宇野愛海
遥が柘植のことで悩んでいて落ちている時に佐々木すみ江さん(※)演じるタエと一緒にお墓参りに行って、自分より年上の方が前に進もうとしている姿を見て、私もこんなことでクヨクヨしてられないと柘植にズバズバと言って・・・
それまでにどんどん距離が縮まっていたので、言ったというよりは、「私が行動しなきゃ」と思って伝えたことだなと思います。それが観ている方に伝わったかどうかはわからないですけど、大事なシーンです。
※佐々木すみ江さんの遺作は4本あって、本作はその1つ。
名女優・佐々木すみ江さんとの共演
– ベテランで名女優の佐々木すみ江さんと共演されていかがでしたか?
宇野愛海
カメラが回っていないところでも話しかけてくださいました。気さくに明るく、役としても佐々木さんに励まされるんですが、宇野愛海としても頑張ろうと思えました。いろいろ学ぶことが多くて、さすがだな、かっこいいなって思って。
会話は意外と他愛もないことが多くて、私なんかに話しかけてくださることがまず驚きでしたし、嬉しかったです。
– 他愛もない会話ってところが大事かもしれませんね。
宇野愛海
はい。それまで、佐々木すみ江さんだ、と気を張っていたんですが、そこでちょっと緊張が解けた感じがしました。
宇野愛海・堀春菜 お互いの印象
– 本作では、宇野さんと堀さん、共演されていますが、まずお互いの印象はいかがですか?
宇野愛海
『ガンバレとかうるせぇ』を観ていて、同年代でこんなリアルな生々しいお芝居をされているのがすごい方だなと思いました。
– 堀さんは初出演の作品ですよね?
堀春菜
はい、そうです。
宇野愛海
それを聞いて、ヤバイ人だ!って思って(笑)
共通の知り合いがいたんですけど、その人にも「あの子は怪物だから」って言われていて(笑)
そんな方と共演させていただくというのは怖かったですね。プレッシャーがありました。
– お二人の共演シーンでは事前にこうしようとか、話はされましたか?
堀春菜
私がいた時は、この作品の控室はほんとに静かで、キャスト同士がたぶんほとんど話してないです。
なので、私と宇野さんも撮影が終わってからは少し話しましたけど、撮影が終わるまでは挨拶しかしてなかったです(笑)
でも、その控室のしーんとした雰囲気が私はすごく好きで、それぞれが脚本と映画に向かい合っている姿がカッコイイなって思いながら宇野さんを見つめてました。
『ガンバレとかうるせぇ』
– 『ガンバレとかうるせぇ』は2014年に、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)などの映画祭で披露されたのみで、今回初の劇場公開となります。そのお気持ちはいかがですか?
堀春菜
思春期の頃の私を覗かれるみたいでムズムズしますけど、本当に嬉しいですね。
こうやって5年経って公開できるという映画の凄さ、素敵な部分を見ている気がします。
泣きっぱなしの初主演作
– 5年前を振り返っていただいて、初の主演ということでどのような取り組みをされましたか?
堀春菜
監督も長編デビュー作で、私も初めてカメラの前に立つという状況でした。リハーサルはそんなにしていないんですけど、監督がたびたび「この作品に賭けているから。」って言って去っていくんですよ。ほんとにプレッシャーで(笑)
でも私はなんにもわからないから、「どうしたらいいかわからない」って、1週間ずっと泣きながら撮影をしていましたね。
でもその下手な、不器用さが演じた菜津の不器用さとして画面に出ているので、あの時にやったからこそできたことがいっぱいあって、ちょっと羨ましなって思います。あの頃の自分が。
– “なんにもわからない”というのは演じ方がということですか?
堀春菜
何がわからないかがわからない(笑)初めて脚本を読んで、脚本の読み方もまずわからないし、それをどういう風に言えばいいのかもわからないし、カメラとかスタッフさんがたくさんいる中で、「え?どうしたらいいの?」「何から聞けばいいんだ?」みたいな感じでした(笑)役もだんだん追い込まれていく役だったので苦しかったですね。
– その時、佐藤監督からはなにかアドバイスはありましたか?
堀春菜
いえ、ひたすら「もう1回」って(笑)
スタジアムに走っていくシーンがあって、その時はカメラに映っていないところから長い距離を走って行ったんですけど、その時も遠くから監督に電話して、「行けないです、わからないです」って言ったら、監督が「(相手役の)細川岳くんも俺もスタッフ全員もスタジアムで待ってるから大丈夫。もう走ってくればいいよ。」って言ってくださったので、ただ走ったみたいな感じでした。
– なるほど。では、ほんとに最後の最後まで、いろいろわからないまま突っ走ったってことでしょうか?
堀春菜
ほんとに突っ走った感じですね。
– 細かい話ですが、撮影当時、監督から「菜津はこういう曲を聴いているだよ」ってCDを渡されたと伺いました。どういう曲だったのでしょうか?
堀春菜
5、6曲入っているCDを作ってくださって、けっこうロックなガンガンな曲でしたね。撮影期間中、ずっとそれを聴いてました。実際、菜津が音楽をかけているところもその曲を聴いていたり。
役作りとかは当時はどうやったらいいかわからなかったからできなかったけど、曲を聴くことが役作りになったというか、“この曲を聴いたら菜津”っていうそのスイッチの切り替えはできました。
初主演から5年。女優としての変化点。
– 当時から5年経った今の堀さん。女優としてご自身が成長を感じられている点はありますか?
堀春菜
あまり変わってないとは思いますけど、あの頃と変わったことと言えば、映画や舞台で地方や海外に行くことがあって、いろんな人に出会って、大切な人が増えたことです。なので、地域のニュースを見ると思い浮かぶ顔が増えた。それがこの5年間、女優の仕事をしてきた中での一番の変化です。今まではニュースを見ても知らない地域の話だったのが、「あ、撮影現場だったところだ。大丈夫かな。」と思うことが増えました。
– 今はもう泣くことはないですか?
堀春菜
先日、台湾で舞台に出演したのですが、その稽古の時、1回だけ泣きました。皆の前に立たされて「何かやってみて」って。でも孤独すぎて何をやっていいかわからなくて泣くっていう(笑)だから5年前とあまり変わってないかもしれない。
「頑張れ」という言葉への思い
– 『歩けない僕らは』と『ガンバレとかうるせぇ』の両作の共通点として、辞めていこうとするキャラクター、それに対して「頑張れ」というセリフ。お二人は、この「頑張れ」という言葉はどのように捉えられてますか? 言われる側の立場、言う側の立場など。
宇野愛海
私は「頑張れ」って言われるのは好きで、その言葉によってやる気が出たり、元気になったりするんですけど、人に「頑張れ」って言うのは苦手で、なんかいろんなことを考えちゃうんです。無責任じゃないかな?とか、もう頑張ってるんじゃないかなとか。
「頑張れ」という言葉は好きだけど、いろんな捉え方を良い意味でも悪い意味でもされちゃうから、そんなに簡単には言わないようにはしています。
– 自分が言われるのは好きなんですね。それこそ「ガンバレとかうるせぇ」にはならないんですね?
宇野愛海
ならないです(笑)あ、でも自分が追い詰められている時は「うるせぇ」ってなるかもしれません(笑)
普段、言われる分には嬉しいです。
堀春菜
「頑張れ」って難しいですよね。応援しているっていう意味で言う「頑張れ」が、相手には「十分頑張ってるのに、なぜそれ以上に頑張れって言われなきゃならないんだ」って思われて、すれ違ってしまうこともあったりして。
でも、じゃあ他になんて声をかけられるかなと思うと結局「頑張れ」しか出てこない自分の語彙力の無さと、もどかしさと、そういういろんなことを感じる言葉です。私は、言ってもらえるのはなるべく素直に受け取りたいなと思います。
作品の見どころ
– 最後に、『歩けない僕らは』、『ガンバレとかうるせぇ』の見どころをお聞かせください。
宇野愛海
両作品ともすごく人間らしくて、リアルな作品になっていると思っています。
『歩けない僕らは』は、医療系の話なんですけど良い意味でぜんぜん重たくなくて、生きるとか、当たり前にできていることについて改めて考えるきっかけになる作品になればいいなと思っています。
堀春菜
両作品、出てくる全員が一生懸命で誰が正しいとか間違っているとかは無い物語だと思っています。
だからこそ、それぞれの役を演じた俳優たちが、どう脚本に向き合っていくのか、その瞬間瞬間の顔がそのままスクリーンに映し出されているなと思うので、そういうところを観ていただけたら嬉しいなと思います。
[インタビュー・写真:Jun Sakurakoji]
映画『歩けない僕らは』
【STORY】
宮下遥(宇野愛海)は、回復期リハビリテーション病院1年目の理学療法士。まだ慣れない仕事に戸惑いつつも、同期の幸子(堀春菜)に、彼氏・翔(細川岳)の愚痴などを聞いてもらっては、共に励まし合い頑張っている。担当していたタエ(佐々木すみ江)が退院し、新しい患者が入院してくる。仕事からの帰宅途中に脳卒中を発症し、左半身が不随になった柘植(落合モトキ)。遥は初めて入院から退院までを担当することになる。「元の人生には戻れますかね?」と聞く柘植に、何も答えられない遥。日野課長(山中聡)と田口リーダー(板橋駿谷)の指導の元、現実と向き合う日々が始まる。
宇野愛海 落合モトキ
板橋駿谷 堀春菜 細川岳 門田宗大
山中聡 佐々木すみ江
監督・脚本・編集:佐藤快磨(『ガンバレとかうるせぇ』、『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』、『きっとゲリラ豪雨』)
プロデューサー:登山里紗 撮影:加藤大志 撮影助手:勝亦祐嗣 照明:高橋拓 録音:吉方淳二 音楽:田中拓人
衣裳:馬場恭子 ヘアメイク:橋本申二 ヘアメイク助手:西田美香 助監督:葉名恒星 制作部:福島成人、原田親 スチール:西永智成
協力:医療法人社団友志会、十一合同会社、MotionGallery、独立映画鍋、ニューシネマワークショップ、アクターズ・ヴィジョン、栃木県フィルムコミッション、栃木市 配給:SPEAK OF THE DEVIL PICTURES
©映画『歩けない僕らは』 2018 / 日本 / カラー / 37分 / 16:9 / stereo
公式サイト:https://www.aruboku.net/
公式Twitter:https://twitter.com/uno_narumi_proj
11月23日(土)より新宿K’s cinemaにて公開他全国順次
併映作品『ガンバレとかうるせぇ』
PFFアワード2014 映画ファン賞受賞
PFFアワード2014 観客賞受賞
釜山国際映画祭 ニューカレンツ・コンペティション部門 正式出品作品
<あらすじ>
試合に勝っても褒められず、負けて責められることもない、そんな存在。
山王高校サッカー部の3年生マネージャー・菜津(堀春菜)は、夏の大会に敗退したタイミングでマネージャーは引退するのが通例のなか、冬の選手権まで残ることを宣言する。しかし、顧問(ミョンジュ)からも部員からも必要とされていないことに気づいてしまう。
一方、キャプテンの豪(細川岳)は、チームの要である健吾(布袋涼太)に夏での引退を切り出され、チームメートからの信頼の薄さも浮き彫りになっていく。
刻々と近づく最後の大会を前に、菜津と豪は選択を迫られる。
出演:堀 春菜、細川 岳、布袋涼太、柳沼 侃、江國亮介、山城ショウゴ、石上真紀子、ミョンジュ
監督・脚本・編集:佐藤快磨
撮影:加藤大志/録音:内田達也/プロデューサー:渡邊翔太
配給:SPEAK OF THE DEVIL PICTURES
2014/日本/カラー/70分/16:9/stereo
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