回復期リハビリ病院で奮闘する新人理学療法士。観客賞受賞『歩けない僕らは』、キャスト記者会見
11月9日、佐藤快磨(たくま)監督新作『歩けない僕らは』が11月23日より公開されることを記念し、東京・銀座にて記者会見が行われ、宇野愛海、堀春菜、山中聡、佐藤快磨監督が登壇した。
初の長編監督作品『ガンバレとかうるせぇ』(2014)が、ぴあフィルムフェスティバルで2冠を受賞し、アジア最大の映画祭である釜山国際映画祭に正式出品された佐藤快磨(たくま)監督。
新作『歩けない僕らは』(37分の短編)は、回復期リハビリテーション病院の新人理学療法士と彼女を取り巻く人々を描いた作品で、2019年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で観客賞を受賞した。
本作で主演を務める宇野愛海(なるみ)は、岩井俊二プロデュースの連続ドラマ「なぞの転校生」、 映画『罪の余白』ほかで女優として活躍中(21、スターダスト所属)。
堀春菜は、佐藤監督初長編作品の『ガンバレとかうるせぇ』で初めてカメラの前に立って主演デビューを飾り、『空(カラ)の味』主演で第10回田辺・弁慶映画祭 女優賞を受賞している(22、映画24区所属)。
そして、山中聡(そう)は、『運命じゃない人』の他、バイプレイヤーとして映画・ドラマなどで活躍する(47、ザズウ所属)。
『歩けない僕らは』は、11月23日(土)より新宿K’s cinemaにて公開。『ガンバレとかうるせぇ』(2014、70分)も併映される。
記者会見レポート
宇野愛海との出会い
佐藤監督は、プロデューサーから『回復期リハビリ病院が舞台の映画を作りませんか?』『ぜひ宇野愛海さんを起用したい』というようにお題が与えられての映画作りだったため、宇野愛海が参加した他の監督のワークショップを見学したそう。
佐藤快磨監督
宇野さんが目の前のことに素直に反応するようなお芝居をされていたので、頼もしかったですし、その中で宇野さんの負けん気も感じて、結果的に遥役が宇野さんに近づいていったのかと思います。
撮影前に行った回復期リハビリ病院の取材
そして、佐藤監督は、宇野愛海と一緒に回復期リハビリ病院で理学療法士さんたちを取材した。
佐藤快磨監督
1年目のセラピストの女の子が、担当した患者さんの希望を叶えてあげられないまま退院させてしまったというお話をされている時に、悔し涙を流されていて、ぱっと横を見たら宇野さんも涙を流されていたので、そこがリンクしました。あとは、目の前の悔し涙に対しての宇野さんと自分との差を感じ、(落合モトキさん演じる)柘植だとか違う人の悔し涙までの距離の違いみたいなものも、この映画で多面的に描けたら広がりのある映画になるのではないかと思い、ヒントになりました。
宇野愛海
人対人のお仕事で、正解がないからこそやりがいがあって、期間が決められている中での(回復期リハビリテーションでの)リハビリは緊張感や責任感があって、それはベテランになってもずっとついてくるものなんだなというのを感じました。
涙を流しながらお話ししてくださったことは、遥役の役作りとして、すごく大きくて、気が引き締まりました。
一番大切なのは距離感と聞きました。回復期リハビリテーションは、その人の将来を左右する医療機関で、責任感だとか言葉では表せないものがあるんですが、温かい職業だなと思いました。
運命的だった佐藤監督と堀春菜の出会い
佐藤監督が、堀春菜の演技を初めて見たのも他の監督のワークショップだった。
佐藤快磨監督
当時堀さんは中学2年生だったんですけれど、大人に混じって演技のワークショップを受けていてすごいなと感心していました。その中で堀さんが号泣されていたんですけれど、その姿・エネルギーに心揺さぶられたというか、演技が上手い下手ではない違うところで、自分の中で印象に残りました。
今回『歩けない僕らは』と同時上映される、監督の長編デビュー作『ガンバレとかうるせぇ』で堀さんをキャスティングした際に、運命的なことがあったと佐藤監督は語る。
佐藤快磨監督
堀さんの印象が残ったまま、2年後に『ガンバレとかうるせぇ』を撮るとなって、主演をぜひ堀さんにお願いしたいと思って堀さんを検索したんですけれど、堀さんは何もやられていなくて、最初は諦めました。けれど、諦めきれなくて、撮影直前にもう一度検索してみたら、ちょうど前日にツイッターを始めていました。それでツイッターで声がけをさせていただいて、お母様と三者面談をして、秋田に撮影に来ていただきました。
撮影から5年目の初劇場公開について
その『ガンバレとかうるせぇ』(2014)が初めてカメラの前に立った映画初出演作で、初主演作。そのような作品がやっと劇場公開されることについて、堀春菜は次のように語る。
堀春菜
映画自体もそうですけれど、私自身の思春期を覗かれるような気もして、嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちがあります。6年経って公開できるって、映画のいいところだなと思います。
(今回『歩けない僕らは』で、佐藤組に戻ってきたことは)佐藤監督に6年間今までどういう風に過ごしてきたかを見られる感じがして、すごく緊張しました。
台本になかったアイディアが現場から
本作は、栃木県最南端の野木町の回復期リハビリ病院で撮影されたが、山中聡は、野木の隣の茨城県古河出身。撮影の前日に、演じた日野課長のモデルの方にお会いして、台本にはなかったアイデアを出されたそう。
山中聡
日野課長役のモデルの方が、ゴッドハンドだと聞いていたので、どんなマッチョな方かと思ってお会いしたら、普通の北関東のおっちゃんで。僕の実家も近所なんで、北関東の方言やこの方の温かさをヒントに演じました。(劇中で)訛っているの僕だけなんで、どうなんだろうとも思ったんですけど。
佐藤快磨監督
脚本上は訛りだとかを書いていなかったです。山中さんに演じていただいた日野課長と、板橋駿谷さんが演じたリーダーの田口の違いを脚本上に出そうと思っていたけれど、いまいち自分の中で違いが具体的に仕上がっていなかったところを山中さんに演じていただいて、日野課長の包容力を出していただきました。柔と剛じゃないですけれど、田口がどちらかというと堅い感じで、日野課長が柔らかいという違いを出していただいて、ありがたかったです。
日野課長と、板橋駿谷演じるリーダーと、宇野愛海演じる新人と、3世代の理学療法士が居酒屋で並んで座って話しているシーンが良いと評判で、板橋駿谷は、3人並んだので、役者について先輩と話している気分だったそう。
日野課長の『なんでこの仕事選んじゃったんだろう。でも辞めなかったなぁ』というセリフについて聞かれた山中聡は次のように答えた。
山中聡
印象に残るすごくいいセリフなので、あまり感情を乗せない方がいいんだろうなと思いました。あまり感情的にやっちゃうとお客さんが入ってこれないので、さらっと言った方がいいんだろうなと思いました。
佐藤快磨監督
取材させていただくと、新人の方からベテランの方まで本当にやりがいを持って仕事をされています。脳卒中と言っても症状がそれぞれ違います。この職業って、決して歩けるようにするだけでなくて、その先の人生も一緒に考えていかなくてはいけないので、それからの人生を共有していくような仕事に対して皆さんやりがいを感じているというのを3人の背中で表せないかなと思っていました。脚本を書いている時は自分にはリンクしていなくて、セラピストの方のやりがいを表せたらなと思っていたのですが、山中さんと板橋さんのあのお芝居を見て、広がりを作ってくださったと思います。
本作が遺作のひとつとなった、名女優・佐々木すみ江
『歩けない僕らは』には、本年亡くなった佐々木すみ江が患者役で出演している。佐藤監督は、佐々木すみ江さんが、“役割”になってしまったかもしれないキャラクターを“人”として立ち上げて下さったと思ったと語る。
佐藤快磨監督
佐々木さんに演じていただいた患者・タエは、3シーン位しか登場しなく、一番書けていない、“役割”になってしまっていると思っていたんですけれど、佐々木さんに衣装合わせで細かいコートの色から提案をいただきました。お墓参りのシーンで、おじいさんとの日々みたいなものが見えたような気がしたので、佐々木さんには勉強させていただきました。
宇野愛海
佐々木すみ江さんは、すごく温かくて、かっこいい方でした。遥が悩んでいて落ち込んでいる時に、一緒にお墓参りに行くシーンがあったんですけれど、遥としても前向きな気持ちになれました。
自分の外側にあるテーマに挑戦したい気持ちがあった
– プロデューサーから提案を受けた時の気持ちをお聞かせください。
佐藤快磨監督
今まで自主映画で撮ってきたんですけれど、テーマが自分の内側から出てきたものしか撮ってきていなかったので、いつか外側にあるテーマにどうリンクできるのかという外側にある舞台を映画にしたいと言うか、しなければいけないという気持ちがあったので、ぜひ挑戦させていただきたいという気持ちがありました。
同時に、脳卒中になって歩けなくなってしまった方々を歩ける自分が描くということに対するおこがましたというものがずっと消えなくて、一年弱ずっと病院で取材をさせていただいて、少しずつかき集めて作っていきました。
それでも今でも描き切ったということはなくて、考え続けなくてはいけないテーマをいただいたという感覚です。
また、(疾患によって何日入院できるという)国で決められたルールがあるということを映画の中で提示することで、“回復期リハビリ病院の映画”だと狭くなってしまうのではないかと思いました。そこよりも外の社会まで描きたかったので、数字だとかルールみたいなものはぼかして描こうと思っていました。
宇野愛海・堀春菜・山中聡という俳優
– 3人のキャストの方について監督の感想をお聞かせください。
佐藤快磨監督
宇野さんは強さみたいなものが、弱さにも見える瞬間がこの映画に映ればいいなと思っていました。
宇野さんは感受性が豊かというか、目の前のものに反応する力があるので、今回、落合モトキさんと宇野さんが、打ち合わせで決めずに、現場で目の前で起きたことに反応されて、お芝居がどんどん変わっていったような感覚があるので、そこは宇野さんと落合さんの力を感じました。
堀さんは、宇野さんとは違う種類の頑固で、その頑固さがこの映画で対峙できる、ぶつかるようなシーンが描けたらなというのは最初から思っていました。
山中さんは頑固ではないですけれど(会場笑)、包容力で僕自身も包んでいただきました。病院に見学に来てくださって、モデルの方とお話しされた時にどういうものを見たかわからないですけれど、現場に入ってくださった時にそこに日野課長がいて、この映画を包んで下さったので、俳優さんってすごいなと思いました。
– 最初から短編で考えてましたか?
佐藤快磨監督
長さとかは最初からは決まっていなくて、色んな兼ね合いで短編になっていったのですが、長編にしないのかというご意見もたくさんいただいています。自分の中でこのテーマは描き切ったという感覚はなくて、考え続けていかなくてはいけないテーマではあると思うので、『歩けない僕らは2』なのか、今後長編映画につながっていくのかなと思っています。
最後のメッセージ
宇野愛海
『歩けない僕らは』は、人間臭くて、すごく繊細な作品だと思います。歩くだとか、そういった当たり前のことについて改めて考えるきっかけになるといいなと思います。
[取材・写真:Ichigen Kaneda]
映画『歩けない僕らは』
【STORY】
宮下遥(宇野愛海)は、回復期リハビリテーション病院1年目の理学療法士。まだ慣れない仕事に戸惑いつつも、同期の幸子(堀春菜)に、彼氏・翔(細川岳)の愚痴などを聞いてもらっては、共に励まし合い頑張っている。担当していたタエ(佐々木すみ江)が退院し、新しい患者が入院してくる。仕事からの帰宅途中に脳卒中を発症し、左半身が不随になった柘植(落合モトキ)。遥は初めて入院から退院までを担当することになる。「元の人生には戻れますかね?」と聞く柘植に、何も答えられない遥。日野課長(山中聡)と田口リーダー(板橋駿谷)の指導の元、現実と向き合う日々が始まる。
宇野愛海 落合モトキ
板橋駿谷 堀春菜 細川岳 門田宗大
山中聡 佐々木すみ江
監督・脚本・編集:佐藤快磨(『ガンバレとかうるせぇ』、『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』、『きっとゲリラ豪雨』)
プロデューサー:登山里紗 撮影:加藤大志 撮影助手:勝亦祐嗣 照明:高橋拓 録音:吉方淳二 音楽:田中拓人
衣裳:馬場恭子 ヘアメイク:橋本申二 ヘアメイク助手:西田美香 助監督:葉名恒星 制作部:福島成人、原田親 スチール:西永智成
協力:医療法人社団友志会、十一合同会社、MotionGallery、独立映画鍋、ニューシネマワークショップ、アクターズ・ヴィジョン、栃木県フィルムコミッション、栃木市 配給:SPEAK OF THE DEVIL PICTURES
©映画『歩けない僕らは』 2018 / 日本 / カラー / 37分 / 16:9 / stereo
11月23日(土)より新宿K’s cinemaにて公開他全国順次
併映作品『ガンバレとかうるせぇ』
PFFアワード2014 映画ファン賞受賞
PFFアワード2014 観客賞受賞
釜山国際映画祭 ニューカレンツ・コンペティション部門 正式出品作品
<あらすじ>
試合に勝っても褒められず、負けて責められることもない、そんな存在。
山王高校サッカー部の3年生マネージャー・菜津(堀春菜)は、夏の大会に敗退したタイミングでマネージャーは引退するのが通例のなか、冬の選手権まで残ることを宣言する。しかし、顧問(ミョンジュ)からも部員からも必要とされていないことに気づいてしまう。
一方、キャプテンの豪(細川岳)は、チームの要である健吾(布袋涼太)に夏での引退を切り出され、チームメートからの信頼の薄さも浮き彫りになっていく。
刻々と近づく最後の大会を前に、菜津と豪は選択を迫られる。
出演:堀 春菜、細川 岳、布袋涼太、柳沼 侃、江國亮介、山城ショウゴ、石上真紀子、ミョンジュ
監督・脚本・編集:佐藤快磨
撮影:加藤大志/録音:内田達也/プロデューサー:渡邊翔太
配給:SPEAK OF THE DEVIL PICTURES
2014/日本/カラー/70分/16:9/stereo
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