【白石監督インタビュー】「香取慎吾は衝撃的な俳優」映画『凪待ち』
2019年6月28日公開が決まった、白石和彌監督×香取慎吾主演映画『凪待ち』。既に公開されている予告編映像からも、これまで見たことがない香取慎吾の表情・演技に多くの注目が集まっている。
「香取慎吾さんとはずっと一緒にやりたかった」「衝撃的な俳優」と評する白石和彌監督に、『凪待ち』という作品について、香取慎吾さんのことを中心にお話を伺いました。(場面写真あり)
映画『凪待ち』白石和彌監督インタビュー
「喪失と再生」という本作のテーマについて
環境の変化で進化する男とのシンクロ
– 「喪失と再生」という本作のテーマの着想のきっかけについて教えてください。
白石和彌監督
まず、香取さんと仕事をしてみたかったというのがあります。
香取さんは、ハットリくん(『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』(2004))とか、『西遊記』(2007)とか、両さん(『こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 〜勝鬨橋を封鎖せよ!〜』(2011))とか、エンターテイナーでありながら、でもどっかこんな表情(本作『凪待ち』の木野本郁男のカットを指差しながら)も、どことなく僕は感じてたんですよ。
ほのかに垣間見える、普段の笑顔の裏にある香取慎吾というのがたぶんあるはずだと思って、それを見たいと思っていたからです。あとやっぱ身体が大きいっていう、厚味がある感じの人がタイプなので。
その後、Netflixで「火花」(2016)をやった時に、Netflixの人と仲良くなって「地上波でできない連ドラを白石さんやりましょうよ」ということになって企画をいくつか作ったんです。
その中に、僕的には会心の企画があって、その時に主役をやるなら香取さんしかいないなと思ってたんです。でも、結局いろいろあってその企画は止まり、オファーには至りませんでした。
それとは別に、僕自身が、“何かをきっかけに転落して転がっていく男が立ち直る話を描かなきゃいけない”って思っていて、でもたぶんそれはあんまりエンタメにできないだろうなとも。
なので、どのタイミングでやろうかなと思っていたら、今回の『凪待ち』のお話が来たので、香取さんを味方に引き込んじゃえば、あんまりそんなにエンタメしないでも成立するのではと考えました。香取さんは、ずっと超メジャーでやってきた人ですし。
同時に、香取さんが、大きな環境の変化のタイミングであったことが、『凪待ち』のテーマ“喪失と再生”と重なる部分があるのではとも考えました。
彼の人生と、この映画の物語とは、もちろん違うんだけど、香取さんが演じるということで、お客さんがシンクロして観てくれるんじゃないかなとも考えました。それで本作がスタートしました。
震災復興とのシンクロ
– 石巻を舞台にした理由について教えてください。
白石監督
助監督時代に大船渡で撮影した作品があって、その時すごいお世話になったんです。当然東日本震災があった後、どうなったのか心配もしていたし、僕自身の震災そのものへの向き合い方をどうしようかなとも考えていました。
もちろん、些少を寄付したりとか、簡単なボランティアとかはしましたけど、映画作家として向き合うことがずっとできてなかったので、なにかのタイミングでとは思っていたんです。
で、今回、香取さんと一緒にするんだったら、直感的に、震災を背景にして描きたいという想いがあって、当初は大船渡をイメージしていました。
ただ、脚本が出来上がるにしたがって、競輪のノミ屋やヤクザが登場するということになって、そうすると、比較的大きい街じゃないと成立しないということで、石巻が候補になりました。石巻は日本でも有数の漁港だし、震災からの復興半ばでもあり、街の雰囲気もあって決めました。
– 震災からの復興というのも、「喪失と再生」というテーマにかかってたりしますか?
白石監督
もちろんそうです。彼らの置かれた状況とは内容は違いますけど、それがゆっくりシンクロしている感じになるといいなと思っています。
荒れ狂う“心”に凪が訪れろ!
– 『凪待ち』というタイトルは石巻の海をイメージしたのでしょうか?
白石監督
海自体は、凪いでるんですけど、震災に遭った人たちの心の中には、やっぱりまだ完全な凪は訪れてないだろうと。
そして、郁男の胸の内、美波の胸の内、みんなやっぱりすぐには凪が訪れず、彼らの心の中の海は荒れ狂っているので、そこに凪が訪れろっていうことです。
役者感が変わる衝撃
– 本作の試写を拝見して、香取慎吾さんの演技に圧倒されました。
白石監督
僕も衝撃的でしたよ。香取さんに関しては、僕の役者感が変わってしまうほどです。
彼は、最初に読んだ台本の印象を大事にしたいっていう想いもあって、事前に作り込むということはしません。
現場の雰囲気を見て、僕に「これはどういう感じですか?」って聞いて、それでセリフを入れて作っていくんです。そしてそのスピード感がまず早いですね。
僕の現場での進め方は、自分が好きなのもあって、途中でセリフを変えたりとか、シーンを入れ替えたりとか、シーンの間を作ったりとか、いろいろしていくんですよね。
なので、事前に読み込んでくるタイプの役者さんは、やっぱりそういうのは嫌がるんです。「なんでそうなるんですか?」とか。
でも、香取さんはぜんぜん大丈夫なんです。「わかりました、ぜんぶOKです。」と。
それは香取さんが、最初の印象で撮影に臨むタイプだということもあるし、その場での対応のすべてが、感性とそれを支える高い技術力で成立させている。そういう現場で作り上げる過程が普通の役者とは違ったんですよね。それがもうとにかく衝撃でした。
– 白石監督のこれまでのご経験の中でも特徴的でしたか?
白石監督
すごいと思いましたよ。ほんとに。
– 先ほど、香取さんの笑顔の裏を見てみたいと言ってましたが、本作ではいかがでしょう?
白石監督
すごい出ていると思います。やっぱりこっちもいけたんだなっていう。
これを慎吾ちゃんファンの方々が見られてどう思うんだろうか?というのはあります。あまりのダメ男ぶりに、ファンも見放すかも?とか(苦笑)
ただ、やってみて反省しているのは、やっぱり香取さんは笑顔が似合う人なんだろうなって思って。それが本作にはほぼ無いから(笑)
これで良かったんだろうか?っていうのはあります(笑)
感性とそれを支える高い技術力
– 香取さんと監督と相談して進められたシーンはありますか?
白石監督
たとえば長回しで撮影した祭りのシーン。
香取さんって、感性でやっているという感じもあるんだけど、技術力もすごく高くて、普通の役者以上に被写体とカメラの関係性とか、映画の技術論的なこともすごいわかっているんですよ。
例えば、「カメラがそこにあるのね。じゃぁ、俺の立ち位置はここだな」っていうことが、ふつうの役者には説明することがすごい大変なんですけど、香取さんは全部わかっているんです。経験値があるからこそだと思いますが。
ですので、祭りで暴れるシーンでも、テストは1回です。香取さんにシーンの内容を僕が一通り説明したら、香取さんが「ここは普通に手でいくとグキッってなっちゃうんで、痛くないように毛布を入れておいてください。」とか、どういうタイミングだからケガする可能性があるかということを、彼は理解しているんです。ものすごくクレバーな方で、1回くらい軽く動いてみたら、いつでも大丈夫ですみたいな。
また、こちらが、カメラ位置を検討している時に、「じゃぁ、(カメラを)こういうふうにしてくれれば、僕はこうできます」とか、すべてにおいて話が早いんですよ。
あと、僕自身が演出家として言葉が足りてないところがあって、とりあえず段取りだけ伝えてみたいな時がたまにあるんですが、“多分監督が今説明したいのはそういうことじゃないんだろうな”ってことを、香取さんは察している可能性が高いです。それはすごい感じます。まるでエスパーのようです。
– 改めて、白石監督の香取さんについて俳優としての評価をお聞かせください。
白石監督
プロフェッショナルです。そして、映画映えする人、スクリーン映えする人だと思いました。
存在感は役所広司さんのようで、そのレベルの衝撃でした。
– 香取さんとはまたご一緒されたいと思いますか?
白石監督
ぜひやってみたいですね。オファーできなかった以前の企画含めて。これからたぶん、彼はいい歳のとり方もしていくだろうし、いろんな役の可能性がまた増えていくはずだから、ぜひ、僕だけじゃなくて、映画にどんどん出てほしいなと思います。
– 私も試写を拝見して、今回の香取さんは、映画界の新しい地図、新しい風という印象を強く持ちました。
恒松祐里という女優
– 恒松祐里さんの起用理由を教えてください。
白石監督
撮影の1年前くらい、彼女が17歳の頃に雑誌の企画で一緒に仕事をしていて、その時すごいいいなって感じて、なんとか十代のうちに仕事ができたらと思っていたんです。
そしたら、この作品の企画が出てきて、美波という重要な役で香取さんと渡り合えたら、たぶん彼女自身の女優人生も変わるだろなと思って、すぐオファーしました。
実際、素晴らしい女優になっていくでしょうね。もうすでになっているんだけど。
慎吾ちゃん、そりゃ愛されるわ!
– 撮影全般で思い出に残っていることは?
白石監督
海のシーンとかは大変でした。朝早く起きた日もいっぱいあったし。早朝のシーンって、脚本にうっかり書いちゃったので(笑)
でも、石巻はご飯がとても美味しかったし、香取さんも楽しくやられてましたし、現場は楽しかったです。
香取さんはね、やっぱり日本全国知らない人がいないから、「慎吾ちゃん、寄ってって!美味しいもの食べさせてあげるから」みたいな感じで言われたり。そしたら香取さん、普通にほんとに入って行っちゃって、ビール飲んで帰ってきたり(笑)
まぁ、そりゃ愛されるわって(笑)
加藤正人との脚本タッグ
– 加藤正人さんとの脚本の進め方は?
白石監督
最初は私一人で書いてみようかなとも思ったんですけど、他の案件もあって時間をとるのが難しくなったのもあって、加藤さんに相談し、やっていただくことになりました。
最初に、こういうことをやりたいんですって紙1枚くらい書いて加藤さんに渡して、それを元に加藤さんが競輪の話とか、加藤さん自身がやりたいことを盛り込んでいってもらいました。それをまた僕が引き受けて、ディスカッションして積み上げていった感じですね。時には一緒にホテルにも泊まって膝詰めで議論しながら進めたこともありました。
香取慎吾のいろんな表情を見つけてほしい
– 最後に監督として本作の見どころを教えてください
白石監督
見どころは、もうずっとダメな香取さんを見てください。ほんとそれです。
事件現場に行って、とうとう酒を飲んじゃうシーンの表情とか、どうしたらああいう表情ができるんだろうというのがいくつもあるので、それはぜひ見つけてほしいなと思います。
作品のベースにあるのは、どんなダメな人でも、たぶん何かのきっかけで人生をやり直せるものだという話だから、僕がいつもやっているエンタメ作品とは違うかもしれないですけど、何か心に残る映画だとは思っています。
[インタビュー・記事:Jun Sakurakoji]
場面写真フォトギャラリー
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映画『凪待ち』
出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー
監督:白石和彌 脚本:加藤正人
配給:キノフィルムズ
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS
公式サイト:http://nagimachi.com/
予告編映像
2019年6月28日 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー!
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