【インタビュー】女優・恒松祐里「私はネコです」子役から芸能界に生きる葛藤から得た境地とは?

映画『タイトル、拒絶』(11/13公開)で、主演の伊藤沙莉と共に、セックスワーカーの女性・マヒルを演じた女優・恒松祐里。心に深い闇を抱えているが、常に笑顔で振る舞うという難しい役に挑戦した彼女に、本作への取り組みや、大好きなポン酢についてのこだわりを伺った。(撮り下ろしフォトあり)

本作は、舞台演出家、脚本家として活躍する山田佳奈監督自身により 2013年に初演された同名舞台の映画化で、長編初監督作品となる。
それぞれが抱える事情に抗いながらも力強く生きようと進むセックスワーカーの女たちの姿を描く。
主人公・カノウを演じるのは、出演作が相次ぐ実力派女優の伊藤沙莉。カノウは、以前に体験入店で店に来たものの、いざ行為の段階になって怖気づいてホテルの外に助けを求めて逃げ出した女。伊藤自身「誰にも渡したくなかった」と話すほど意欲的に臨んだ役だ。
癖の強いデリヘル嬢役を恒松祐里、佐津川愛美、森田想、円井わん、行平あい佳、野崎智子、大川原歩、そして片岡礼子ら個性豊かな女優陣が演じる。
ほか、モトーラ世理奈、池田大、田中俊介、般若、でんでんなども出演。

昨年の第32回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門でワールドプレミア上映を飾り、主演の伊藤沙莉が東京ジェムストーン賞を受賞。
今年の7月に開催された第24回富川国際ファンタスティック国際映画祭(韓国)では、チケットが即完売するほどの注目作として上映された。また、JAPAN CUTS 2020(米)に続き、Fantasia International Film Festival(カナダ)でも上映が決定。国内外を躍進し続けている。

恒松祐里インタビュー

恒松祐里

恒松祐里

■心に痛みがあっても笑ってカバーできてしまう

-本作の脚本を読まれた時の印象について教えて下さい。作品全体のこと、そして恒松さんが演じられたマヒルのこと。

恒松祐里(マヒル 役)
私が今まで演じたことがないような役でしたが、台本を読み終わった時にはこの作品の大ファンになっていました。
女性の痛みと、そしてその痛みを超えた上でのパワーが、すごく台本の中からヒシヒシと伝わってきて、この作品に関わりたいって強く思えたからです。
私が演じるマヒルちゃんという役は、自分の心に痛みがあっても笑ってカバーしてしまう、それができてしまう役どころです。
台本を最初読んだ時はなんて可哀相な子なんだろうって思いましたが、演じていく上で、マヒルちゃんの痛みを心の中に溜めていくようになると、支えてあげたくもなりました。
私はマヒルちゃんの心の痛みを身体で表現して演じるしかできないんですけど、この作品を観た人がマヒルちゃんを見て、「こういう人って私だけじゃないんだな」って思えるようなマヒルちゃんになれたらいいなと思いながら演じていました。

恒松祐里

■マヒルを演じるにはほんとに心を痛めるしかない

-劇中のマヒルは、特に人前では常に笑っているのが印象的でした。目の前で誰かがケンカを始めたとしても。

恒松祐里
マヒルちゃんの気持ちを作る上で笑う時にどうしても無理して笑ってるようになってしまいます。それが正解で、マヒルちゃんってやっぱり無理して笑っている子で、どこか引きつっているように見えます。
お芝居を作って行く上であのような笑いになったんですけど、だんだんと表情筋が疲れて痛くなってくるんです(笑)
それは変な筋肉を使って笑ってる、心から笑えていない役どころだからこんな筋肉痛になるのかなと思いながら演じていました(笑)

タイトル、拒絶

人前では常に笑っているマヒル(恒松祐里)

-確かにマヒルのなんとも言えない笑顔が、お芝居としては素晴らしいなと感じました。

恒松祐里
表面的なお芝居だけじゃそれは表現できない、ほんとに心を痛めるしかないんだなと私は思って、マヒルちゃんのことを書き出してみたり、あとは、同じような仕事をされている方のブログを読んだりもしました。そして、山田監督にも相談しました。
撮影は10日間程度というタイトスケジュールだったんですけど、でもその間にマヒルちゃんの闇を心に溜めまくって、ほんとうに苦しくなるくらい溜め込んで現場に臨みました。

-今、山田佳奈監督のお名前が出ましたが、監督とはどういうお話をされましたか?

恒松祐里
表面的には笑っていても、心の内は浮き沈みが激しいという難しい役どころ。その中で激しい感情を表現する時に、監督がひとつひとつ気持ちの整理を一緒にしてくださってから「スタート」をかけていただきました。
撮影期間が1週間でしたが、とても濃厚な撮影現場でしたし、この作品も私にとって大切なものとなりました。

タイトル、拒絶

独りでいる時はTVを見ながら物憂げな表情になるマヒル(恒松祐里)

■共演の皆さんの人柄が生きていて、群像劇として誰もが主役になっている

-撮影現場で印象に残っていることを教えて下さい(共演者とのことなど)

恒松祐里
みなさんとても個性的な方でしたし素晴らしかったので、一人一人に思い出があります。仲良くなって撮影後もご飯を一緒に行くようになりました。
たとえば、佐津川愛美(アツコ役)さんは、ほんとにドラマチックで心からのお芝居が素晴らしいし、沙莉ちゃん(伊藤沙莉/カノウ役)は、とことん普通でいてくれる。
沙莉ちゃんの役どころは、作品の中では普通の人というキャラクターなのですが、沙莉ちゃんと私の2人っきりのシーンで、私が異様なのが私自身が感じるくらい沙莉ちゃんがとてもナチュラルに演じていたんです。
マヒルの笑いが自分の中で違和感に感じられてきて、「私、オーバーに芝居している?」って思ってしまうくらい。でも、それがマヒルにとっての正解ではあるんですけど、それくらい沙莉ちゃんのお芝居は素晴らしくナチュラルでした。
このように、みなさん一人一人のお芝居と人柄がちゃんと生きているからこそ、群像劇として誰もが主役になっているのかなとは思います。

恒松祐里

-伊藤沙莉さんとは仲が良いんですか?

恒松祐里
沙莉ちゃんとは、この作品の時は撮影期間が短かったので、ちょっと知り合えた程度だったんですけど、最近、また共演できて、仲良くなりました。

タイトル、拒絶

カノウ(左・伊藤沙莉)と、マヒル(右・恒松祐里)

■女性性としての生き辛さ

-山田監督が本作を作るきっかけとして、「女性性に対する違和感をずっと持っていた」とおっしゃっています。恒松さんご自身も一人の女性として、そして、一人の女優として、「女性性」についてふだん、感じることはありますか?

恒松祐里
あります。女性が身体を売ってお金をもらうっていう仕事って、ほんとに何千年も前からあるわけじゃないですか。
私、最近、ギリシャ神話に興味を持って調べることがあったんですけど、そのギリシャ神話の中でも女性は性の対象として見られて、一人の女性に多くの男性が群がる描写があるんですね。ギリシャ神話なんて、西暦が始まるよりもっと昔の話なのに。
やっぱりこういう現実に対して、もどかしさだったりとか、悲しさだったりとかは感じます。

-ちなみにギリシャ神話に興味を持ったきっかけは?

恒松祐里
いろんなドラマの元ネタになることがあって、そういうギリシャ神話ってどういうものなんだろうって、ずっと知りたかったんです。

-今、性の対象としてお話されましたけど、現代でいうと#MeToo問題のようなセクハラ、パワハラのようなことで、女性として生きづらいと感じることはありますか?

恒松祐里
あるとは思います。男の方もどこまで言って良くて、どこからが言ってはいけないということを、わからないままなのかもしれません。でも、わからないままだからこそ、一線を軽々と飛び越えてしまうというか、無自覚に言ってしまっている言葉が相手を傷つけていることってあるなって思います。
この作品は監督・脚本が女性で、演じているのも女性がメインという作品なので、こういう女性目線の作品を観て、感じ取っていただけるものがあったらいいなとは思いますね。

恒松祐里

■「私はネコです。」

-劇中、カノウ演じる伊藤沙莉さんが「この世にはタヌキとウサギがいる。私はタヌキ」と言うセリフがあります。昨年の東京国際映画祭での舞台挨拶では、伊藤沙莉さんご自身も「私はずっとタヌキとして生きてきた。」とおっしゃってます。恒松さんご自身は、タヌキ、ウサギのどちらだと思いますか?

恒松祐里
私はどちらかと言えば、ウサギの方が共感できるかなと思います。7歳の頃からこの仕事をしていたので、やっぱり小学校とか中学校とかでも、ウサギに見られがちでした。だからこそ、ウサギとして生きるしかないという。芸能人ってウサギとして見られやすいと思うんですよ。
でも、ウサギの人ってマヒルちゃんみたいに笑顔を被っているけど、実は心は荒れていたり、悲しいことを誰にも言えないで笑顔でカバーすることができてしまう。そういう面はあると思います。
ウサギと言っても、私はマヒルちゃんまでの闇はないですけどね(笑)
それでも、小さい頃からここ2、3年前くらいまでは、芸能人として良い子でいた方がいい、笑顔でいた方がいいって、ウサギとしての立ち位置しか無いような思いはありました。
でも、最近は、ウサギも脱皮してネコみたいな、ナマケモノみたいになってます(笑)なんか新たな境地、“On the My Way”みたいな感じになっちゃってますね(笑)
だから、タヌキはウサギになりたいと憧れるけど、実はウサギはタヌキになりたいと思っている。この作品のこの喩えって何にでも当てはめられるんじゃないかなって思います。

-そういう意味では、マヒルは究極のウサギを演じてるっていうわけですね。でも、今のネコっていいですね。マイペースというか(笑)

恒松祐里
はい。私はもうネコです(笑)

恒松祐里

■新人女優賞受賞は、自分のお芝居の方向性の希望に。

-今年1月に発表されて、先日やっとトロフィーが到着されたそうですが、おおさかシネマフェスティバル2020で、映画『凪待ち』での新人女優賞の受賞おめでとうございます。
『凪待ち』も郁夫という、人生に複雑な葛藤を抱えている男が主人公で、それにある意味振り回されてしまう美波役が素晴らしかったですが、改めて受賞のお気持ちをお聞かせください。

恒松祐里
『凪待ち』の撮影は『タイトル、拒絶』の後で、美波も重い役だったんですけど、役としては重く演じるけど、自分の心には負担をかけないようにする術とかを覚えてきた頃の撮影でした。
なので、自分の感情をコントロールしつつ、お芝居としての見せ方もコントロールできたので、自分の中でお芝居のバランスが取れた作品になれたのかなって思っていたんです。
その『凪待ち』で、賞をいただけたことは、自分の成長を認めていただいたような気がして、このままいっていいんだなって、自分の中の希望になりました。

恒松祐里

■主演をやりたい

-『スパイの妻』など出演作品の公開が目白押しの恒松さんですが、今後、女優活動含めて、抱負などがありましたらお聞かせ下さい。

恒松祐里
大きな抱負だと、まだ私の器ではないかもしれませんけど、20代前半のうちに主演をやりたい気持ちはあります。
あとは、最近、明るい役が増えてきたので嬉しくって(笑)でも、たまには心に闇を抱えている役を演じるのも好きなので、どっちも、陰も陽も使い分けられるような女優さんとして活躍できたらいいなって思います。

恒松祐里

■最後はやっぱり「味ぽん」に戻る。

-しばらく前の自粛期間中をどう過ごされていたのかということと、最近、ハマっていることなどがあれば教えて下さい。

恒松祐里
自粛期間中はずっと家にいました。チャーリーっていう猫を飼っているので、チャーリーと一緒に寝たりとか、あと、インスタライブで、ファンの方からのリクエストに応じて壁に絵を描くってイベントやったり。
私はインドア派で家で過ごすのが好きなので、けっこう充実した生活でした(笑)

-ポン酢がお好きだという情報がありますが、ポン酢料理はされましたか?

恒松祐里
「女子高生の無駄づかい」っていうドラマのクランクアップの時に畑芽育(はためい)ちゃんから、自分で作るポン酢セット、瓶の中に唐辛子、昆布、酢、醤油を入れるとポン酢ができるっていうセットをもらって、それがとても美味しいんですよ。
唐辛子入れるからピリっともしていて。それを自粛期間中に何回か作ってました。

-恒松さんおススメのポン酢は?

恒松祐里
やっぱりナンバーワンは「味ぽん」ですね。シンプルに「味ぽん」です!
『殺さない彼と死なない彼女』の撮影で20歳の誕生日を迎えた時に、誕生日プレゼントで20本くらいポン酢をもらったんですよ。
使い切るのが大変なんですけど、頑張って使い切ったんですよ(笑)
賞味期限が早い順に並べて、早いものから使い切ったんです。そうやっていろいろ食べた結果、もちろん美味しいものはたくさんあるんです。高級なお鍋の時に使いたいなって思えるものとか。
でもやっぱり「味ぽん」に戻るんですよね。

-ポン酢を使った料理で一番お好きなものは?

恒松祐里
やっぱり水炊きの鍋です。大根おろしポン酢を作って、鍋が出来上がるのを待っている間に、大根おろしポン酢を食べまくるのが好きなんです(笑)
で、鍋が出来上がる頃には、2杯目の大根おろしポン酢みたいな(笑)

恒松祐里

■最後にメッセージ

-最後に、『タイトル、拒絶』の見どころを、マヒルの役どころも含めてお願いします。

恒松祐里
この作品は、いろんな痛みとか、悩みとかを抱えたセックスワーカーたちの物語です。特に私が演じるマヒルは、心に誰にも言えない痛みを抱えつつ、笑顔で隠しながら日々生活しているという役どころです。
この作品をご覧になる方の中にも、誰にも言えない悩みを自分の中に溜め込んでいる方はたくさんいると思うんですけど、そういう方がこの作品を観て、独りじゃないんだなって思ってもらえたらいいなって思います。

恒松祐里

[ヘアメイク:横山雷志郎(Yolken)/スタイリスト:武久真理江/写真・記事:桜小路順/作品画像クレジット:©DirectorsBox]

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映画『タイトル、拒絶』

新進気鋭の山田佳奈監督による、女たちの本音に寄り添った先鋭的なオリジナル作品。

STORY
雑居ビルにあるデリヘルの事務所。バブルを彷彿させるような内装が痛々しく残っている部屋で、華美な化粧と香水のにおいをさせながら喋くっているオンナたち。
カノウ(伊藤沙莉)は、この店でデリヘル嬢たちの世話係をしていた。オンナたちは冷蔵庫に飲み物がないとか、あの客は体臭がキツイとか、さまざまな文句を言い始め、その対応に右往左往するカノウ。
店で一番人気の嬢・マヒル(恒松祐里)が仕事を終えて店へ戻ってくる。マヒルがいると部屋の空気が一変する。何があっても楽しそうに笑う彼女を見ながら、カノウは小学生の頃にクラス会でやった『カチカチ山』を思い出す。「みんながやりたくて取り合いになるウサギの役。マヒルちゃんはウサギの役だ。
みんな賢くて可愛らしいウサギにばかり夢中になる。性悪で嫌われ者のタヌキの役になんて目もくれないのに・・・。」
ある時、若くてモデルのような体型のオンナが入店してきた。彼女が入店したことにより、店の人気嬢は一変していった。その不満は他のオンナたちに火をつけ、店の中での人間関係や、それぞれの人生背景がガタガタと崩れていくのだった・・・。

伊藤沙莉
恒松祐里 佐津川愛美/片岡礼子/でんでん
森田想 円井わん 行平あい佳 野崎智子 大川原歩
モトーラ世理奈 池田大 田中俊介 般若

監督・脚本:山田佳奈
劇中歌:女王蜂「燃える海」(Sony Music Labels Inc.)
企画:DirectorsBox
制作:Libertas
配給:アークエンタテインメント
製作:DirectorsBox / Libertas / move / ボダパカ
©DirectorsBox
公式サイト:lifeuntitled.info
公式Twitter:@titlekyozetsu

11月13日(金)より シネマカリテ、シネクイント他 全国ロードショー

タイトル、拒絶

 

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