映画『消滅世界』

【インタビュー】結木滉星「アナログな部分も残ってほしい」映画『消滅世界』

公開中の映画『消滅世界』。「性」という概念も消えつつある超少子化の近未来社会を描いた本作で、その“価値観”を象徴するような人物を演じる結木滉星に、本作に込められたテーマをどう解釈して撮影に臨んだのかを聞いた。(直筆サイン読者プレゼントあり)

本作品の原作「消滅世界」は、現在累計170万部を超える芥川賞受賞作「コンビニ人間」直前の2015年12月に刊行された長編小説。超少子化の先-「性」が消えゆく世界で激動する「恋愛」「結婚」「家族」のあり方に翻弄される若者たちを描いた本作は、「常識」という枠の中でもがく現代の私たち自身を映し出した合わせ鏡のような作品となっている。

結木滉星 インタビュー&撮り下ろしフォト

■「正しさ」「常識」とは?

‐ 映画『消滅世界』の原作、あるいは台本を読まれた時の最初の印象と、作者である村田沙耶香さんが描く「正しさ」や「理性を極めすぎた世界」というテーマについてのご感想をお聞かせください。

結木滉星(水内 役)
最初に原作を読ませていただいた時、これはフィクションの世界であるにもかかわらず、そう感じさせない不思議な魅力があると感じました。そう遠くない未来に、実際に起こりうるかもしれない世界が描かれているという印象でした。少し怖さも感じましたが、同時に強い興味が湧き、読み進めたのを覚えています。
今の私たちの常識からすると、この作品の世界はかなりかけ離れています。もし本当にこのような世界になったら怖いと感じますし、僕個人としては、嬉しいことではないと思いました。

映画『消滅世界』

結木滉星

‐ 蒔田彩珠さん演じる、主人公・雨音の母親は、作中では唯一、私たちの現実世界の「常識」に近い感覚を持つ人物として描かれています。

結木滉星
確かに、雨音のお母さんの気持ちにはすごく共感できますし、個人的に寄り添えると感じました。

‐ 結木さんが演じられた水内という役は、この物語においてどのような存在、立ち位置だと捉えて演じられましたか。

結木滉星
登場人物の中で、水内が一番この世界に「従順に」、そして「適応している」と感じていました。雨音の夫である朔(さく)以上に、彼はこの世界の住人であり、何の違和感もなく実験都市「エデン」に移住できる人間です。そのため、水内は、この作品の世界における「理解者」のような存在だと捉えていました。

‐ では、結木さん個人としては、水内の気持ちにはあまり共感できなかったのでしょうか。

結木滉星
大きく言えばそうなのですが、水内の中にもともと二次元キャラクターのラピスが好きという要素がありました。しかし、彼がエデンに行くにつれて、ラピスへの思いを少しずつ忘れ、承認欲求が強い方向にシフトしていったと感じています。その「承認欲求」という部分では理解できますが、それ以外の点では、僕自身、水内に共感できるポイントはあまりありませんでした。

映画『消滅世界』

‐ 水内を演じるにあたり、川村誠監督と相談されたことや、演技についての演出はありましたか。

結木滉星
役柄に対して「こうしてほしい」という具体的な演出や指示は、監督からはほとんどありませんでした。ただ、監督ご自身が、この脚本を書いた上で水内という役を大切にしたいとおっしゃってくれたことが、クランクイン前に聞けて個人的に大きかったです。

‐ 水内は、主人公の雨音をどのように見ていたのでしょうか。

結木滉星
雨音は水内にとって特別な存在ですが、あくまでラピスありきだと思っています。水内の目的は、ラピスを通して雨音と繋がっていたいという思いなので、雨音が水内に対して抱く感情とは、少し異なっていた気がします。

‐ 水内は、この新しい世界の常識に従順に見えますが、彼の中に「迷い」はあったと思われますか。

結木滉星
水内の中にも、どこかで迷いはあったのではないかと思います。

映画『消滅世界』

■蒔田さんは僕をいじってくるんです

‐ 蒔田彩珠さんとの共演で印象に残っていることはありますか。

結木滉星
芝居に関してはお互いあまり話し合うタイプではなかったので、特に相談はしませんでした。蒔田さんは「天性の勘」をお持ちなのではないかと思うほど、その場に自然と「いてくれた」という感覚で、僕はもう、お芝居を彼女に委ねるだけでしたね。

‐ 撮影の合間など、お芝居と関係ない場所での共演者とのコミュニケーションはありましたか。

結木滉星
蒔田さんと彼女のマネージャーさんのお二人がセットで、僕をよくいじってきました(笑)(取材日の)今日も先ほどお会いしたとき「何しに来たの?」って(笑)
そもそも僕は、年下や後輩の役者の友人からもよくいじられやすいタイプなんですよ。タメ口も、その方が仲良くなれるからと許しています。いじられたら、ツッコミ返すのが楽しいですね。割と親しみやすい雰囲気だったのかもしれません。

‐ 蒔田さんの印象について、「天性の勘」や「当書き(役柄通りに描かれている)なのでは」という話もありましたが、彼女の性格をどのように感じましたか。

結木滉星
彼女の性格については、まだよく分からないんですよ。もしかすると、そのミステリアスな部分が彼女の演技にも影響しているのかもしれません。素の部分をあまり知らないので、そこが(主人公の)雨音に似ていると感じました。

映画『消滅世界』

■可愛らしさと怖さが同居している

‐ 撮影全体を通して、特に印象に残っているシーンはありますか。

結木滉星
衣装や建物のイメージが独特な作品ですが、一番覚えているのは、エデンに行ってからの、たくさんの子供たちが真っ白な衣装でいるシーンです。その光景がすごく奇妙で、これがこの世界では「普通」なんだと思うと、ぞっとするような怖さがありました。また、作中で「子供ちゃん」と呼ぶ表現も、可愛らしさと怖さが同居していて独特でした。

‐ 完成した映像をご覧になっての感想はいかがでしたか。(川村誠監督はミュージックビデオ(MV)の制作経験が長い方です)

結木滉星
監督がMVなどをメインで撮られていたこともあり、映像がとにかく綺麗でした。特に「寄り」のカットが非常に印象的でした。作品の世界観と映像が見事にマッチしていて、テーマである人間の内面や、世界観の怖さといった部分がすごく表現されていたと思います。客観視はできませんが、一観客として見ても、すごく面白かったと感じました。

映画『消滅世界』

■アナログな部分も残ってほしい

‐ この映画は、私たちとは異なる常識の世界がベースですが、結木さん自身が普段の生活の中で、「これって俺だけの常識かな?」と世間とのギャップを感じることはありますか。

結木滉星
世の中は今、デジタル化がものすごく進んでいますよね。僕はアナログ人間なので、正直、世間から「取り残されている」という言い方が合っているかもしれません。そこにギャップをすごく感じます。機械が苦手で、パソコンも使えませんし、インスタグラムもよく分かっていません(笑)
スマホは最低限のLINEやメールでしか使わず、SNSは公式アカウント以外はほとんどやりません。フードデリバリーサービスも利用しませんし、通販で物も買ったことがありません。何か買いたいものがあれば実店舗まで買いに行きますし、食事は頼まずに食べに行きます。特に同世代と話しているとギャップを感じますね。この点に関しては、僕はまさに「消滅人間」です(笑)

映画『消滅世界』

‐ 未来に対して、今後も「変わって欲しくない」と思う常識や価値観はありますか。

結木滉星
発展しすぎる怖さがあります。デジタル化の発展が生んだのが、SNSでの誹謗中傷などの問題だと思います。顔がバレないから簡単に書き込めるという状況は、これ以上悪い方向には変わってほしくないですね。
また、アナログ人間としての意見ですが、ちゃんとお金を払って物を買う「お店」はずっと残ってほしいです。デジタルサービスを使わないと何もできない世の中にはなってほしくないと思っています。

‐ 最後に、これから映画をご覧になる方に向けて、ご自身の役柄を含めた見どころやメッセージをお願いします。

結木滉星
僕自身、水内を演じている時に、「もしこの世界が常識になったら、自分は順応できるのだろうか、抗うのだろうか」ということを常に自分に重ねて考えていました。
観客の皆さんも、「自分だったらどうするか」「この常識は正しいのか」という風に、自分に重ねた見方をすると、また違った受け取り方ができると思います。
この作品は、受け取り方は観客それぞれだと思いますので、自由に感じ取ってほしいです。一度見ただけでは気づかないこともあるかもしれませんし、二回見たらおそらく印象が変わると思うので、ぜひ回数重ねて見てほしいと思います。

映画『消滅世界』

結木滉星(ゆうき こうせい)プロフィール
1994年生まれ、大分県出身。
スーパー戦隊シリーズ「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」朝加圭一郎/パトレン1号役で注目を集める。
その他の出演作に、ドラマ「能面検事」、「パーセント」、「風間公親−教場0−」、「ゼイチョー〜『払えない』にはワケがある〜」、「ダブルチート 偽りの警官」など。
新水曜ドラマ「ESCAPE それは誘拐のはずだった」山口健二役で出演中。

■結木滉星さん 直筆サイン入りチェキ読者プレゼント

結木滉星さん直筆サイン入り撮り下ろしチェキを抽選で1名様にプレゼントします。
NB Press OnlineのX(旧Twitter)アカウント(@NB_Press_Online)をフォローの上、下記の本記事紹介&プレゼント応募告知ポストのRP(リポスト)で応募完了。
ご当選者には、XのDMにてお知らせいたします。(参考:個人情報の取扱いについて
応募締め切り:2026年1月4日(日)23時59分

映画『消滅世界』

結木滉星

■撮り下ろしフォトギャラリー

[インタビュー・写真:三平准太郎/ヘアメイク:速水昭仁(CHUUNi Inc.)/スタイリスト:伊藤省吾(sitor)]

映画『消滅世界』

《INTRODUCTION》
本作品の原作「消滅世界」は、現在累計170万部を超える芥川賞受賞作「コンビニ人間」直前の2015年12月に刊行された長編小説。
超少子化の先-「性」が消えゆく世界で激動する「恋愛」「結婚」「家族」のあり方に翻弄される若者たちを描いた本作は、「常識」という枠の中でもがく現代の私たち自身を映し出した合わせ鏡のような作品です。
「日本の未来を予言する小説」と各メディアで大きな話題となった圧倒的衝撃作を、MTV出身、RADIOHEAD、OASISなど国内外様々なアーティストのライブやミュージックビデオ、CM、ショートフィルム、大河ドラマのドキュメンタリーなど多岐にわたるフィールドで活躍する映像ディレクター・川村誠が脚本とともに映像化に挑みます。独自の世界観を築いてきた映画的・音楽的感性を存分に活かして、本作では繊細かつ耽美な異世界観を追求。本作が長編映画の監督デビュー作となります。
村田ワールド全開の最高傑作と呼び声の高い小説を、様々なジャンルの映像を手掛け着実にキャリアを積み上げてきた川村誠が類まれな映像センスとオリジナリティ溢れる演出で創造いたします。

《STORY》
人工授精で、子どもを産むことが定着した世界。 そこでは、夫婦間の性行為はタブーとされ 恋や性愛の対象は「家庭の外」の恋人か、二次元キャラというのが常識に。 そんな世界で「両親が愛し合った末」に生まれた主人公・雨音は、母親に嫌悪を抱いていた。 家庭に性愛を持ち込まない清潔な結婚生活を望み、夫以外のヒトやキャラクターと恋愛を重ねる雨音。 だがその“正常”な日々は、夫と移住した実験都市・楽園(エデン)で一変する。

出演:蒔田彩珠
栁俊太郎
恒松祐里 結木滉星 富田健太郎 清水尚弥 松浦りょう 岩田奏 / 山中崇 / 眞島秀和 / 霧島れいか

原作:「消滅世界」(村田沙耶香著/河出文庫)
監督・脚本:川村誠
撮影時期:2024.6.8~6.23
配給会社:NAKACHIKA PICTURES
©2025「消滅世界」製作委員会
公式サイト:https://shoumetsu-sekai.com/

2025年1月28日(金)新宿シネマカリテ他全国公開

映画『消滅世界』

ポスタービジュアル

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA