岸井ゆきの「なぜ本気で殴ってこないのか」映画『ケイコ 目を澄ませて』第27回釜山国際映画祭レポート
岸井ゆきの主演映画『ケイコ 目を澄ませて』(12/16公開)が、第27回釜山国際映画祭 特別企画プログラム「Discovering New Japanese Cinema」に正式出品され、10月9日の釜山シネマセンターでの公式上映後のトークショーに、岸井ゆきのと三宅唱監督が登壇した。
本作は、本年2月に行われた第72回ベルリン国際映画祭のワールドプレミアを皮切りに、世界各国の映画祭に続々出品が決定し、世界中の映画ファンを魅了してきたが、いよいよアジアまで広がり、この釜山国際映画祭がアジアプレミアとなった。
スペシャルトークショーレポート
まず三宅監督から「アンニョンハセヨ。こうして釜山の大きなスクリーンで大勢の方と一緒に観ることができて楽しかったです」、岸井から「アンニョンハセヨ、岸井ゆきのです。アジアで最初のプレミアをご鑑賞頂きありがとうございます。この日を待ち望んでいたので感無量です!」と韓国語を交えた挨拶で映画祭での上映の喜びを伝えると、満席の会場より大きな拍手と声援が沸き起こった。
三宅監督は「この映画を作るまでボクシングについて全く知りませんでした。なぜ殴ったり殴られたりするのか分かりませんでした。でも多くの人がボクシングに夢中になってしまう。この謎について考えていくと、もしかしたら自分たちの人生についても考えていくことができるのではないかと思いました。この作品の主人公のモデルとなった小笠原恵子さんの生き方、純粋に自分のやりたいことをして、自分の人生を生きようとするエネルギーがこの映画の中心にあると思っています。岸井さんは映画の中でその全てを表現してくれています」とこの作品を作ったきかっけを披露した。
■シム・ウンギョンも応援に駆けつける
岸井ゆきの「これは二度とできない作品」
さらにこの日は、映画『新聞記者』で第43回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞したシム・ウンギョン氏が応援に駆け付け、本作に魅了され、岸井に圧倒された事などを語ると、岸井は「ボクシングのトレーニングを3か月行いました。その中でケイコを形作っていきましたが、トレーニング中からこれは二度とできない作品、役柄であるなという実感がありました。体づくりのために糖質制限をしていたので、すごく狭い世界しか見えなくなって、自分が見たいものしか見られない、聞きたい音しか聞こえないという状況でした。ある一点に集中力を注ぎ、その精神状態の中でケイコというキャラクターは作られていきました。この映画で身体が朽ちてもいいと思うほどに、このような経験は二度とできないだろうし、二度とできない瞬間をおさめてほしいと思いながら日々撮影に臨んでいました」と作品にかける並々ならぬ想いを打ち明けた。
■なぜ本気で殴ってこないのか、なぜ真剣に向かってこないのか
三宅監督は岸井とボクシング指導を担当した松浦慎一郎氏との撮影前のトレーニングをこう振り返る。「ボクシングの練習を始める前までは、ボクシングとはリングに一人であがって闘う孤独なスポーツだと思っていました。しかし実際に練習してみると、パンチをあてるのがものすごく怖いと感じ、互いに相手へのリスペクトがないと、ボクシングは練習すらできないということを学びました。ある日の練習で体格の全く違う僕と岸井さんがリングにあがって闘うという練習をしたときに、僕が本気で殴るわけにはいかないので遠慮してガードばかりしていたら、岸井さんから『なぜ本気で殴ってこないのか、なぜ真剣に向かってこないのか』と真っすぐ言われました。強さ、弱さは関係なく、その真っすぐな姿勢というものが、元々岸井さんにあり、ケイコというキャラクターにもあったのだと思います。それが“共に生きる”という姿勢にも繋がると、僕は練習中に感じ続けていました」と印象的なエピソードを語った。
それに対し岸井は、「映画のためというよりか、自分自身がいかに強くなれるか、を考えてずっとやっていました。この映画をやり遂げられなかったら、俳優でいるのは難しいと思うくらい、必死で日々練習に臨んでいました」と本作にかける強い想いが溢れ出た。
三宅監督から、「目の前に素晴らしい役者さんがいて、素晴らしいスタッフの働きがあって、素晴らしいロケ地があって、それを撮り逃さないようにするということをまずは意識していました。それから、シム・ウンギョンさんが仰ってくれた“共に生きる”ということは、このように劇場で多くの人と“共に観る”こととも繋がっていると思います。どんな物語であれ、僕が映画を作るときは、スクリーンの向こうの世界とお客さんが、どのように同じ時間を過ごせるのかということについて考えながら作っています」と映画作りへの想いを語った。
■私は映画が本当に好きなんです
そして最後に岸井から「私は映画が本当に好きなんです。この仕事を始める前からずっと観てきました。16mmフィルムで撮るということを知って、映画の撮影中にしか聞くことができないカラカラというフィルムの音を聞けるんだと思い、もう全てをここにかけるしかないんだという気持ちになりました。三宅監督と一緒に映画を撮るということ、16mmフィルムで撮るということ、そしてそのために集まってくれるスタッフの皆さんがいて、この映画を作ることができました。私はベルリン国際映画祭も他の映画祭も参加が叶わなかったので、この釜山が初めての映画祭となり、この映画を観た方とコミュニケーションとれる良い機会となりました。いま皆さんの表情を見て、この映画を観て何か感じて頂けたんだなということを思い、とても嬉しいです」と、海を越えて言語を超えて世界へ『ケイコ 目を澄ませて』を届けることができたことへの喜びを語った。
世界中の映画祭が、三宅唱に熱視線を送る。各国の映画祭で続々上映決定
第72回ベルリン国際映画祭
第27回釜山国際映画祭
第66回ロンドン映画祭
第56回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭
第11回バーゼル・ビルトラウシュ映画祭
第22回ニッポン・コネクション
第51回モントリオール・ニュー・シネマ国際映画祭
第37回バレンシア国際映画祭 Cinema Jove
第22回ギムリ映画祭
第21回ダラスアジアン映画祭
第22回エラ・ノヴェ・ホリゾンティ映画祭
第23回ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭
第2回クラーニ・アクターズ映画祭
第51回ニューディレクターズ/ニューフィルムズ
第35回東京国際映画祭
映画『ケイコ 目を澄ませて』
INTRODUCTION
2013年までに4戦を戦った元・プロボクサー・小笠原恵子さんの実話から着想を得て生まれた物語。
メガホンをとるのは、『きみの鳥はうたえる』がベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品され、同作が2018年映画芸術日本映画ベストテン1位にも輝いた俊英・三宅唱。
刻一刻と変化するケイコの眼差しと、彼女を案じる家族やジムの面々の心のざわめきを16mmフィルムに焼き付けている。
生まれつきの聴覚障害と付き合いながらプロボクサーとなった主人公・ケイコには、『愛がなんだ』で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞に輝き、ドラマ「#家族募集します」での好演も記憶に新しい岸井ゆきの。今回、プロボクサー役としてクランクインの約三か月前から厳しいトレーニングを行ったほか、劇中で使われる手話の練習など、入念な準備を行い撮影に臨んだ。日々の練習にひたむきに向き合い、家族やトレーナーたちの想いに触れることで揺れ動くケイコの感情の機微を、言葉ではなく眼差しで表現した岸井の新境地が垣間見える。
セコンドの指示もゴングの音も聞こえないケイコを受け入れ、再開発が進む下町で小さなジムを運営するトレーナー・笹木に、日本映画界で圧倒的な存在感を放つ三浦友和。喧嘩するように力んでしまうケイコに根気強く指導を行いながらも、次第に視力を失っていくという難役に挑んだ。
ケイコの実力と可能性を誰よりも信じるトレーナー・笹木、そしてその想いに応えるように“目を澄ませて”鍛錬を重ねるケイコ。言葉では語りつくせない、確かな絆で結ばれたふたりの関係が、静かに描かれている。
<物語>不安と勇気は背中あわせ。震える足で前に進む、彼女の瞳に映るもの――
嘘がつけず愛想笑いが苦手なケイコは、生まれつきの聴覚障害で、両耳とも聞こえない。再開発が進む下町の一角にある小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねる彼女は、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。母からは「いつまで続けるつもりなの?」と心配され、言葉にできない想いが心の中に溜まっていく。「一度、お休みしたいです」と書き留めた会長宛ての手紙を出せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出す――。
岸井ゆきの
三浦誠己 松浦慎一郎 佐藤緋美
中原ナナ 足立智充 清水優 丈太郎 安光隆太郎
渡辺真起子 中村優子
中島ひろ子 仙道敦子 / 三浦友和
監督:三宅唱
原案:小笠原恵子「負けないで!」(創出版)
脚本:三宅唱 酒井雅秋
制作プロダクション:ザフール
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
2022年/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/99分
公式サイト:https://happinet-phantom.com/keiko-movie/
公式twitter:@movie_keiko
2022年12月16日(金)テアトル新宿ほか全国公開
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