責任もあって毎日を生きることに精一杯なたくさんの方に。映画『愛のくだらない』舞台挨拶
2021年8月28日、テアトル新宿にて、野本梢監督 最新作『愛のくだらない』の舞台挨拶が行われ、主人公を演じた藤原麻希、そして橋本紗也加、手島実優、根矢涼香、野本梢監督が登壇した。
本作は、多くの映画祭で受賞作がある新鋭・野本梢監督が、自身のリアルな体験からの内省を元に描いた渾身の一作。
物語としては、”女性のキャリアと出産”という形を借り、主人公のさまざまな葛藤が描かれているが、そのことだけに焦点を当てたものではなく、夢を持って仕事にプライベートに人生を歩み始めたはずが、いつの間にかどこかで人生の針にズレが生じてしまった苦い経験を持つすべての人に通じるテーマとなっている。
2020年に開催された、新人監督の登竜門でもある第14回田辺・弁慶映画祭では、弁慶グランプリ受賞&映画.com 賞のダブル受賞を果たし、今回、8月27日(金)より、「田辺・弁慶映画祭セレクション 2021」内で、1週間限定でテアトル新宿にて上映中で、今後、劇場でのロードショーも調整されている。
また、ニューヨークを拠点に毎年開催されている「JAPAN CUTS: Festival of New Japanese Film」にて、8月20 日より9月2日までの期間、オンライン上映中(英題:My Sorry Life)。
以下にレポートする舞台挨拶は、28日に行われたもので、野本監督が改めて本作製作のきっかけを語ると共に、各キャストは出演の経緯や、本作への取り組み、今後の抱負などを語った。
舞台挨拶レポート
■野本監督自身の炎上経験がきっかけに。
-この映画を製作するに至った経緯は?
野本梢監督
この話は自分自身の話です。
本作では、(SNSでの)炎上みたいなエピソードがありますが、こと似たようなことが私のリアルな体験としてあったんです。
自分が参加していた映画を作る取り組みの活動の中で、私の中の経歴にある「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」をプロフィールとして掲載するのはどうなのかっていう指摘が周囲からあり、私はすごくショックを受けたんです。そのショックの感情に任せて、SNSに書き込んでしまったところから、火がついてしまったんです。LGBTが何か非難されてしまっているっていう誤解が生じ、新聞社からの取材が来るほどまでに。
私が想定していなかったところに矢が飛んでいってしまったのは、私が感情に乗じて書いてしまったことに起因するんだなということを、徐々に反省するようになり、そういった部分もこの映画の一部として反映させ、作品全体を自分の反省の物語として客観的に書いていくことにしました。
ちょっと難しかったり、主人公に共感できない部分もあるかもしれないんですけど、最後、彼女が前を向いていけるようになるっていうところを寛容になって応援してもらえたら嬉しいなという思いを持っています。
-物づくりの話とか、男女の話とか、いろんなところで監督が自分の経験を投影してるってことですね。
■キャスト、それぞれの取り組み
-藤原麻希さんは、過去にもヒロインや脇役で野本組作品に出ていらっしゃっていますが、改めて長編の主役ということで、今回はどのように取り組まれましたか?
藤原麻希(玉井景 役)
もともと、梢ちゃん(野本監督)とは友だちで、一緒にお酒を飲んだ時に「長編は麻希さんで」って言ってくれてたんです。夢の話ように嬉しく思ってはいましたが、瞬く間に野本監督がどんどんいろんな作品を撮られて活躍されるようになって、正直私なんかじゃ申し訳ないんじゃないかっていう気持ちがありました。
それでは役者としては駄目なんですけど、いち友人としても、何だか義理だけでやらせてもらうのも申し訳ないし、かといって断るといったら失礼かなとか悩んだりもしました。ただやっぱりどうしてもやりたいっていう気持ちがあったのでお引き受けして、できる限りのことを自分でやろうと思いました。短編ともまた違う責任感とか覚悟はありました。
-橋本さんは4年前の田辺・弁慶映画祭の『私は渦の底から』という作品で、LGBTの女性のヒロイン役をやられてますが、今回はガラッと違う役です。役づくりはどうされましたか?
橋本紗也加(スミス椿 役)
私自身が小さい子どもとの関わりがあまりないので、
私は、見た目や雰囲気とかでよく、「いいお母さんになりそうだね」とか言われるんですけど、実際の中身としてはあまりお母さんの要素がないので、友だちの話をいろいろ聞いたり、知り合いの赤ちゃんに会いに行くなどして経験するようにしました。
-手島さんは野本組は『透明花火』以来ですが、キャスティングの経緯は?
野本梢監督
脚本を書いてるうちに、勝手にずっと手島さんで考えて書いていて、それでオファーさせていただきました。
-では、あて書きだったんですね。
手島実優(紗希子 役)
ありがとうございます。
野本梢監督
手島さんって、とても慈しみが溢れてる感じがするんです。
-今回は今まであんまりやったことないタイプの役ですか?
手島実優
そうですね。年齢的にも学生役が多く、しかも天真爛漫な女の子みたいな役が多かったんですけど、今回はいわゆる一般的にいる女の子かなと思います。
自分の恋愛感と行き来する部分もあって、LGBTQとか、自分もあまり相手が男か女かってあんまり考えたくないし、相手にも気にしてほしくない。
野本さんがあて書きしてくださったっていうのは先ほど初めて聞いたんですけど、台本の内容がすんなり自分の中に入ってきました。
-監督の眼力というか、これが手島実優だと思ったっていうのは、ある種ぴったりだったわけですね。
野本梢監督
私に見る目があったってことですね(笑)
-根矢さんは『透明花火』と『次は何に生まれましょうか』と、野本組としてはこれで3作目で、それぞれ全然役が違いますね。
根矢涼香(古山杏奈 役)
全く違うんですけども。一貫して言えるのが、いわゆる“不器用”、“変な人”という言葉で括られるキャラクター。
でも、今回演じた杏奈みたいに、ちょっと距離感が行き過ぎてしまう人でも、ただ変な人ってくくるのは簡単なんですけど、そういう人の中の複雑さとか、理由とかに何かちゃんとまず筋を先に見つけてくれるのが野本監督だと思います。
それは、野本監督のどの作品にも一貫していて、誰もひとりぼっちにしないでいてくれるところが同じだなと思います。なので、毎回どういう役が来るのかすごくそわそわしています。クセがあって一見理解されにくいような役をいただいてる気がします。
■キャストが感じる野本組の進化・進歩
-橋本さんは、野本組には3年ぶりぐらいになると思いますが、この3、4年で、野本監督の進化とか進歩を感じたことがありましたか。
橋本紗也加
もともと、芯が強い方っていうのは感じてはいたんですが、それがもっと太くなったと思います。「ここはこうしたいんです」という言葉や意志に力強いものがあるのを感じます。
何か確固たるもの、自分がこう撮りたいという思いがより出てきたなっていう感じがします。
手島実優
それ、わかります。現場でカメラマンさんが「野本さん、どうしましょう?」みたいな相談しているのをみていると、野本監督は「あぁ、どうしましょう」って言うんですけど、その後がしっかり決まってるし、間違いなくそれが正しいと思うので、それを感じました。
-根矢さんも野本組の変化は感じますか?
根矢涼香
はい。でも完全体になるのはきっとまだこれからで、どんどんいっぱい進化するんだと思います。
■最後にメッセージ
-野本監督は、今回がオリジナル脚本として初の長編ですが、今後も積極的に続けていかれる感じでしょうか?
野本梢監督
そうですね、まずはこの作品をしっかり届けていきたいなと思っています。なかなか隅々までは伝えられないけど、絶対に必要としている人もいるだろうなと思うんで、皆さんがこの後感想をいろいろな場所で書き込んでくれることを願っています。
1回観て、また何かいろんな人の境遇を知った上で、また最初からご覧いただくのと、気づくポイントがまた違うかと思いますし、舞台挨拶にはいろんなキャストさんがいらっしゃるので、その彼女・彼らがどういう視点でいたかっていうのを聞いてもらえたら嬉しいですね。
-最後にキャストの皆さんからもメッセージをお願いします。
藤原麻希
90分の作品に主役として出演し、こんな大きな劇場で公開していただくという機会はなかなかないことだなと思っています。
また、作品を見返してみて、野本監督が伝えようとしていることで、自分の身に置き換えて反省すべき点がいっぱいあるので、人としても少し成長できるかなと思っています。
今後、「ジャパン・カッツ(※)」で海外での上映、そして他の劇場での公開も調整中とと聞いていますので、これを励みにまた更に頑張っていこうと思います。
※JAPAN CUTS: Festival of New Japanese Film 2021(2021/8/20~9/2)新鋭監督の長編コンペ部門「Next Generation」ノミネート
橋本紗也加
この作品は、役者目線で見ても「この人、いい芝居しているなぁ」と、とても刺激を受けるところが多く、自分が向上していくきっかけにもなりました。
また、このような劇場で上映していただける機会はすごくありがたいと思っています。
手島実優
コロナ禍という状況も含めて、今の自分にとってかなり大切な映画になりました。人と会うことが叶いにくい中、いろんな人の人生がちゃんと描かれているこの作品を観て、自分が何をしたいのかはもちろん、自分を大切に思ってくれる人をどう大切にできるのか。そういう人と人との距離感、関係性について改めて考え直すきっかけにもなりました。
根矢涼香
まず大切な作品であることも変わりないんですけれど、私の中で、一本の映画に出演するっていうことは、ただ自分の出演歴が増えるっていうことだけじゃなくて、監督の背負っている過去とか、物語の持っているエネルギーとかメッセージとか、それごと一緒に背負うことだと思っています。
映画全部を自分の体の中に込められるわけじゃないですけれど、これから先、また数年後に上映があった時に、映画をちゃんと背負いながら、この先も生きていって、もっとこの映画を言葉で表現・体現できるような、ずっと一緒に歩いていきたいなっていう作品だと思っています。
■フォトギャラリー
映画『愛のくだらない』
INTRODUCTION
新人監督の登竜門「田辺・弁慶映画祭」にて弁慶グランプリ・映画.com 賞 ダブル受賞!
『横道世之介』の沖田修一監督や『あのこは貴族』の岨手由貴子監督ら、これからの映画界を切り拓いていく才能を輩出する田辺・弁慶映画祭にて異例の弁慶グランプリと映画.com 賞をダブル受賞した期待作。
本作は“女性のキャリアと出産”という話ではない。ひとりの30代の人間が、忙しさや意地の張り合いから、仕事でもプライベートでも失敗しながら成長する姿を描く。キャストでは、監督の処女作から共にする藤原麻希に加え、お笑いトリオ・ななめ45°の岡安章介が、誰にも言えない秘密を抱えた恋人役を好演。「生きづらさ」を感じている人々を描き続けてきた新鋭・野本梢監督が、自身のリアルな体験を元に描いた渾身の一作である。
一度炎上したら「厄介者」のレッテルを貼られてしまう今、見るべき話題作。
STORY
誰かの恋人で 友達で 上司で 部下で
テレビ局で働く玉井景(藤原麻希)は、芸人を辞めてスーパーで働く彼氏のヨシ(岡安章介)と同棲している。体調不良で仕事をすぐ休み、結婚に対してはっきりしない。そんな頼りないヨシを置いて景はついにある嘘を隠したまま家を出る。
番組制作に意気込む景だったが、出演をオファーしたトランスジェンダーの金井(村上由規乃)を取り巻くトラブル、やけに気になるヨシの存在…。と、多忙を極める中で次第に周囲と歯車が狂い始める。そんな時、ヨシからある事実を告げられる--
出演:藤原麻希 岡安章介(ななめ45°) 村上由規乃 橋本紗也加 長尾卓磨 手島実優 根矢涼香 ほか
脚本・監督・編集:野本梢
劇中曲 「天気がいい日は」 作詞・作曲・歌 工藤ちゃん
主題歌 「嘘でもいいから」 作詞・作曲・歌 工藤ちゃん
制作協力:ニューシネマワークショップ
製作:野本梢 株式会社為一/株式会社Ippo
配給:『愛のくだらない』製作チーム
©2020『愛のくだらない』製作チーム
公式サイト:kudaranai-movie.com/
予告編
2021.8.27(金)より [田辺・弁慶映画祭セレクション 2021] にてテアトル新宿にて1週間限定公開!
2021.9.24(金)よりシネ・リーブル梅田にて3日間限定公開!他全国順次公開!
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