「人との“違い”」とは?映画『カランコエの花』、前橋での2週間上映を終えて女優・手島実優が語ったこと。
当初自主制作映画ながら、ロングラン上映を続けている映画『カランコエの花』。
本作に出演する女優・手島実優の地元であるミニシアター「前橋シネマハウス」(群馬県前橋市)でも、1月18日まで2週間上映され、舞台挨拶が行われた。
エチュード(即興)方式で撮影されたという本作だからこそ、出演者の気持ちがストレートに作品に出ていると語った手島実優。そして、撮影を通して、映画を観たお客さんの反応に触れて、「人との“違い”をただ受け入れること」について思いが至るようになったという。
1月18日に行われた舞台挨拶レポート。
現在、DVD化のクラウドファンディングも実施中。2月20日まで。
映画『カランコエの花』
あらすじ
「うちのクラスにもいるんじゃないか?」
とある高校2年生のクラス。ある日唐突に『LGBTについて』の授業が行われた 。
しかし他のクラスではその授業は行われておらず、 生徒たちに疑念が生じる。
「うちのクラスにLGBTの人がいるんじゃないか?」生徒らの日常に波紋が広がっていき…
思春期ならではの心の葛藤が 起こした行動とは…?
出演:今田美桜/永瀬千裕/笠松将/須藤誠/有佐/堀春菜/手島実優/
石本径代/山上綾加/古山憲正/イワゴウサトシ
監督・脚本・編集:中川駿
企画:木佐優士/柴田徹也/中川駿 プロデューサー:山野淳/木佐優士
協力:茨城県立那珂高校/茨城交通株式会社/水戸市みとの魅力発信課/ニューシネマワークショップ 製作:中川組
公式HP:https://kalanchoe-no-hana.com/
舞台挨拶
地元・前橋の映画館で出演作が上映される喜び
手島実優
映画『カランコエの花』の仲良し女子高生4人組の中のいちばんうるさい役、矢嶋みどりを演じた手島実優と申します。
私は群馬県前橋市の出身・在住で活動しています。
その前橋で二週間上映させていただいたんですけれども、無事に最終日を迎えることができました。
前橋シネマハウス・支配人
映画館を運営・管理している側からすると、とてもたくさんのお客様が入った映画が最終日を迎えるというには寂しいです。次の日から心配になるような感じです。
手島さんには、9回も舞台挨拶に立っていただきました。
手島実優
『カランコエの花』は、東京、大阪など全国のいろんなところで昨年の7月から上映を始めて。
いろんなところをまわって、やっと私の地元での上映ということで、こちらの前橋シネマハウスさんで上映させていただくことになり、こうやって、群馬と東京を行き来して仕事をする中で自分が出た映画、都内で話題になった映画を地元で上映できる仕組みが嬉しいです。
この作品は映画好きな人に観てもらいたいという作品ではなくて、いろんな方々に観てもらって考えてもらってなんぼの作品だと思います。
特に地方の方々に観てもらいたいなという話をスタッフさんともつくっている途中から話していたので、こうやって前橋で上映できたことがすごく嬉しいです。
短編映画を上映することの難しさ
前橋シネマハウス・支配人
実際、短編映画だとやはり劇場で上映するのは難しいですものね。
昨年、高崎で、映画『赤色彗星倶楽部』を上映した時に手島さんとお会いして、その時に『カランコエの花』を上映できたらいいねなんて話をしながら、できれば秋くらいにできるかななんて思っていたんですけど、なかなか上映ができるようにならなくて。
手島実優
元々、本作は映画館で上映することは考えていなくて、映画祭に出展するために監督が自主制作で自分のお金だけで作った映画だったんです。
それが、東京・渋谷のアップリンクっていう劇場で、130日間もロングラン上映をさせていただいて、そこからいろんな方に観ていただいて各地方で上映するようになっていきました。
劇場でこれだけ多くのお客様に観てもらえるとは全然思っていなかったので、もうみんなてんやわんやっていうか(笑)
前橋シネマハウス・支配人
劇場に出すっていうのは、いろいろしがらみがあったりとか、個人の方が上映するには難しいので、大変だったと思うんですけど。実際、劇場からしても、40分の短編映画を上映するっていうのは勇気がいります。
手島実優
そうですよね。尺が短いから料金をどうしようとか。
オーディションも撮影も“エチュード(即興)”だった
前橋シネマハウス・支配人
この作品にはオーディションを受けられて出演されたそうですが。
手島実優
私は今もそうなんですけど、フリーランスでこういう仕事をしています。
パソコンの画面に“映画”、“役者”、“募集”で検索してでてきた結果の一つがこの作品のオーディションで、それで応募しました。
オーディション会場では、自己紹介、自己PR、特技披露、趣味に続いて、演技審査ではふつう、台本が出されて、この台本をやってくださいって言われるんですが、監督は「あなたに好きな女の子がいるとします。その子の恋バナをしてください。ではどうぞ!」って、突然しゃべらされて。
手島実優
実際の撮影でもこのやり方で、エチュード・即興っていうんですが、即興で状況だったり、キーワードだったり、ポイントだけ教えていただいて、セリフ、台本がないまま芝居をするっていうやり方がいくつかのシーンで使われています。
もちろん台本があるところもあるんですけど、私が出ている女子高生の会話とかはほとんどアドリブで、みんな何の打ち合わせもなく、ドーンっとやった感じなんです。
前橋シネマハウス・支配人
ほとんどアドリブなんですか?
手島実優
そうですね。この間、台本を見返したら、私の決まっていたセリフは1行しかなかったです。
あれだけしゃべっていたのに、私、一行しかセリフが決まっていなかったんだなって。
前橋シネマハウス・支配人
マシンガンのようにしゃべっていたのに?
手島実優
はい。でも、そういうやり方をしたおかげで、自分の役に責任をもって発言できるというか。
ただ、台本にあることを感情を込めて読むのではなくて、自分の役として、実際にその状況に置かれたらどう反応しますかっていう風に、逃げられない状況なので、しっかりまじめにやらないとできないんですよ。
そういう状況の中で、映画の内容がLGBTだからってことじゃないですけど、実際に友達がそうだったらどうしましたか?っていう投げかけを監督からされて、その考えがこの作品に完全に投影されています。
私以外のキャストもみんなそうだと思うんですけれども。
演じたことが自身の実際の経験になった
手島実優
そういった(エチュード方式の)撮影現場のおかげで、私は二年前の撮影自体が自分の経験になったというか、役がそのまま、自分が経験した感じになっていて、二年前の夏に同じ高校で仲良かった子を傷つけたっていうトラウマじゃないですけど、ちょっとやってしまったなっていうのが、自分事のように考えるようになって。
それも含めて中川監督は、作品として、役者として成長させてくれただけじゃなくって、人として経験させてくれたっていうところがすごい人だなと思いました。
前橋シネマハウス・支配人
まだご自身二作品目という中で、エチュード方式で演技をするっていうのは難しくなかったですか?
手島実優
私は難しくなかったです。好きにしゃべれるって思ったので。
前橋シネマハウス・支配人
では、映像で出ている演技している手島さんは実際の手島さんっていうことですか?
手島実優
いいえ、そういうことではないんですけど(笑)
あの当時はリアルだったかもしれないですけど、どうでしょうね。
いま、ここにいるのは最新の私です(笑)
タブーを恐れずストレートに言うことから始まる
前橋シネマハウス・支配人
いろいろそんな大変なことがありつつも、成長できた現場で監督さんもこういった作品を撮るっていうことは勇気がいることだと思うんですけど。中川さんって、どんな監督でしたか?
手島実優
繊細で芯の強い方です。
作品のテーマ(LGBT)について、皆の前で意見を言うことは、これはタブーでは?とか、プレッシャーがかかることだとは思うんですが、監督は、かなりはっきりとモノを言われる方でした。大丈夫なのかなって思うくらい、はっきりとストレートに。
手島実優
そして、監督は、私にも「役を通して思ったことをしゃべって」って言ってくれました。
人にとって何がイヤとかは、LGBTに関わらず、人それぞれが思っているものが違うので、そういうことは黙ったままだとわからないなと、ちゃんと言っていかないと、わからないこともあるなと感じました。
この作品ができあがって上映した時にお客様からいただいたご意見も、キャストやスタッフの中とかで話し合いをした上で出てきた感想は、しっかりとお伝えしたいと思いますし、そうしないことには始まらないなって思います。
手島実優
作品の中では当事者を傷つけてしまいましたけど、この状況にならないようにしようっていうのではなくて、こうなったらどうしよう、こうした後どうしようとか、どう展開するかっていうか、どういうふうに自分が改まるかみたいなことを考えないといけないなって思いました。
前橋シネマハウス・支配人
本当に考えてほしいからこそ、エチュード方式なんですね。
そういう中で演技をして、キャストたち自身はこう考えていたんですけど、皆さんはどう考えますかっていうことを監督は伝えたかったのかなと思います。
一方で、ああしなさい、こうしなさいっていう風には描かれていないので、観た人はしっかりと考えてほしいんだなということも同時に感じました。
ですので、映画を試写で観たときに、これはいろんな年代の方々に観てもらいたいし、この映画に描かれた当事者、高校生、中学生にも観てもらいたいなとも思いました。
「人との“違い”」とは?
前橋シネマハウス・支配人
今後、この映画をご覧になる方、また、今後のご自身の展望などありましたらお願いします。
手島実優
この作品に関わって、自分とは違う人を無理やり受け入れるのではなく、否定するのでもなく、ただ“違う”ということを受け入れるということ。
みんなそれぞれ違うんだから、それをいちいちそこに集中しなくても、ただ違うってことを違うんだねって言えればいいんじゃないかってことを考えるようになりました。
手島実優
そんなこの作品を東京・地方と上映させていただいた中で感じたことですが、
東京だと、人が多い分受け入れる人も多くて、そこが地方と違う点だなって思いました。
この映画は、舞台も田舎の高校で、こういう狭いコミュニティの中で、こういうことが起こった時に、どうしたらいいのだろうか?良かれと思ってやったことがどうなるかっていうお話なので、参考にしてほしいというと教育的になってしまうんですけれども、自分だったらどうするかとか、自分の周りに当事者がいたらどうするかとか、自分事だと思って考えてほしいなと思います。
LGBTに限らず、ただ人として、大切な人とどう向き合うかを考えてくれたらいいなと思います。
映画『カランコエの花』 進行中プロジェクト
映画『カランコエの花』は、作品を全国の鑑賞希望者の方々に届けるため、DVD化クラウドファンディングを実施している。
本作のクラウドファンディングは、プロジェクトが発表・開始された三時間後に目標金額を達成。設定された目標金額を大きく上回る支援が集まっている。その支援の大きさに応えるように追加特典が検討され、シークレットとなっていた特典が先日(1/19)に発表された形だ。
プロジェクトは、約一か月後の2月20日23:59まで支援を受け付けている。
LGBTを題材とした映画『カランコエの花』を全国に届けたい!DVD化支援プロジェクト!
https://motion-gallery.net/projects/kalanchoe-no-hana/updates/22444
前橋シネマハウスについて
2018年3月、前橋市に6年ぶりに復活した映画館。
前橋市は、県庁所在地でありながらしばらく映画館がなかったことと、街のにぎわいを取り戻すきっかけとするために、市が約400万円かけて、かつて同じ建物内で営業されていた映画館のスクリーン・座席や、映写機・音響機器のメンテナンスを行って復活させた。
1スクリーン・116席と、規模は大きくはなく、上映規模が小さい良作も上映するが、ミニシアター系に特化するわけではなく、シネコンで上映されるような興行的に大きな規模の作品も上映する。
1月18日の『カランコエの花』舞台挨拶で、オープンからの1年を振り返った前橋シネマハウスの支配人は、「なんとか1年を迎えられそうな時に、特に2019年の一番最初の映画に『カランコエの花』を上映できたのはとても良かった。」と語っていた。
[写真・記事:Ichigen Kaneda/構成:Jun Sakurakoji]
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