【映画『コントラ』インタビュー後編】“演出”。役者と監督それぞれの見方。[円井わん&アンシュル監督]
3月から東京で先行して公開され、順次全国へと展開している映画『コントラ KONTORA』。主人公を演じた円井わん、インド出身のアンシュル監督それぞれ別にインタビューすることによって、それぞれの立場での“演出の捉え方”の形が見えてきた(本作インタビュー3部構成その3)。
映画『コントラ』。後悔の念を浄化する為に過去に戻りたいと思う人間の願望。全編を通して、モノクロームの圧巻の映像と、プリミティブと哀感が絡み合う美しい旋律で紡ぎ出す独特の映像世界をアニメーターと言う経歴を持つインド出身の異彩、アンシュル・チョウハン監督が描き出している。
ワールドプレミアとして上映されたエストニアのタリン・ブラックナイト映画祭でのグランプリ&最優秀音楽賞受賞をはじめ、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭での国内長編コンペティション部門 優秀作品賞受賞、ニューヨークで開催されたジャパンカッツ大林賞など、数々の映画祭で高い評価を獲得してきた衝撃作が、満を侍して凱旋帰国。
3月より新宿K’s cinemaで公開が始まり、5月以降も順次全国公開される(詳細は作品公式ページにて)。
本作でソラを演じた円井わんは、ドラマ『全裸監督』(19)、映画『タイトル、拒絶』(20)ほか、21年には5本の公開待機作が控えている期待の俳優。
本インタビューでは、円井わん、アンシュル監督それぞれ別に話しを伺うことによって、双方の演出の捉え方についての答え合わせの形ともなった。
円井わんインタビュー
■「これはもうやるしかない!」
-今回の作品は様々な要素(歴史、家族、戦争、ファンタジー、謎解きなど)が含まれてましたが、脚本を受け取った時の第一印象はいかがでしたか?
円井わん(主人公・ソラ 役)
第一印象は「やばい!」としか思えなくて。脚本に関してさすがだなって、本当にすごい脚本をもらってしまったなって思いました。
この役はもう生涯演じることがないだろうなっていうのと、こういうキャラクターをもらった人は初めてだろうなって思いました。
私が演じたソラは、そんなにわかりやすくはないキャラクターでしたし、作品に登場する“後ろ向きに歩く男”というキャラクターが存在する時点で、「これはもうやるしかないでしょっ!」という気になりました。
この作品の内容は、理解するのにとても時間がかかるんですけど、時間とともに「なるほど…」と思うようになりました。
撮影中は分からない事がかなりあったんですけど、編集されて、完成した映像を見て、あらためて、「なるほどね…」と気付く部分がたくさんありました。
■演じる側も、観る側にも考えさせる映画
-映画を観る側としても、謎解きの要素がすごくて、宝探しや、“後ろ向きに歩く男”は誰なんだろうといった、頭を使うことが多い作品ですよね。なので、この脚本を読み取る側、演じる側はさらに大変だろうなと思いました。
円井わん
アンシュル監督は演出について、「そこは分からなくてもいい」と言うことが多かったので、私は「あぁ、分かんなくてもいいんだ…」って思って、分からないままに演じていました。
結果として、アンシュルの中だけに正解があったことが、面白かったのかもしれないと、今になって思います。
■役者からみたアンシュル監督の演出
-前回のインタビュー(2020年10月)の際、本作の撮影時にアンシュル監督とディスカッションをされたという話がありましたが、覚えているエピソードはありますか?
円井わん
撮影中、アンシュル監督が何をしてほしいのかわからないことがあったんです。
ソラが鼻をかんでから、部屋を移動するシーンがあるのですが、鼻をかんですぐに移動したら、「ダメ!もう一回やり直し!」って言われて、もう一回やったら、また「違う!」って言われたことがありました。
私にとっては鼻をかむって日常的過ぎたので何がいけないのか全く分からなくて、「なんでですか?何がダメなんですか?」って聞いたら、監督曰く、「日差しの入り方がすごく綺麗で、その美しい画を見せたいからストップして、それから部屋を移動してほしかったんだ。」というのが理由だったそうで、そんな説明を撮影し終わってから言われたんです。
なのでそれを聞いた時は、「その場で言えよ!」って思いました(笑)
もちろんそういった話だけではなく、さまざまなシーンで、「なんでソラはこういう行動をするの?」というディスカッションをしました。例えば物語の中にある、おじいちゃんの宝物を全力で探す考え・行動には、私はなかなかならないと思ったので、「なんでそうなるの?何を伝えたいの?」って、監督とすごい話し合いました。
[Dress designer/Styling:石垣陽輔 (Gakky)/Makeup:Risa Chino/聞き手・写真:金田一元]
アンシュル監督インタビュー
■映画のタイトル『KONTORA』の表記について
-オフィシャルコメントにて、下記のようにコメントされていますが、スペルが“CONTRA”ではなく、“KONTORA”にされている理由はありますか?
-題名の「コントラ」は英語のどんな言葉の略なのでしょうか?
「Contradiction ですね。『反対』という概念。後ろ向きに歩く男もそんな概念を表現していますね。」
アンシュル監督
意味としてはContradictionで、“逆の”という英語から名付けています。スペルとしては、本来はKではなく、Cから始まる表記であるべきものです。
ただ、“CONTRA”というタイトルはいろいろなところで使われています。例えば、ゲームのタイトルにも使われているということもあって、同じようなスペルではなく、差別化をする意味で、あえて、Kからはじめるタイトルにしました。
■日本を含むアジア地域の地理学を学んだ
-本作を観て、日本の歴史や地理について、細かく調べている作品だと思いました。インド出身のアンシュル監督が、日本の戦争と若者の置かれた立場だったリ、歴史や地理についてお詳しいのはなぜでしょうか?
アンシュル監督
私が長く日本に住んでいたというのが一番の理由です。海外に知り合いがいたりだとか、映画制作に関してコネクションが全くない状態だったんです。
私の長編一作目(『東京不穏詩』)も日本に住んでいたから日本で日本映画をつくりました。
『コントラ』が日本について、多くの情報を収集して作っている点については、私自身が大学で地理学を学んでいたからです。
なので、アジア地域に関しては特に知識を持っています。また、戦争や軍隊に関しては、私の父と祖父が軍隊に所属していて、戦争に関しても自分の生活の中で幼い頃から触れており、近い存在でした。
-監督自身も陸軍士官学校に通われていたそうですね。
アンシュル監督
陸軍士官学校には、9歳から18歳まで通っていました。卒業後は軍隊には入らずに、大学に進学し、地理学を専攻しました。
■監督からみた役者への演出
-昨年10月に、本作主演女優の円井さんをインタビューしており、その時に円井さんが監督から、お芝居に関して「そのままでいいよ」という言葉をもらったという話がありました。その理由にはどういった考えがあるのでしょうか?
アンシュル監督
「役を役として演じるな」ということが彼女に一番に伝えたいことでした。私が強く思っているのは、役者さんと話していく中で、“役者さんの過去の思い”と、“役が思っていること“がつながった時に、“本来、役者が感じていること・生の感情が出てくる”という考えなんです。
役者さんに伝えているのは、自身の過去の感情を引き出して、それを役に落とし込んでほしいということです。役づくりをするのではなくて、そんな彼ら自身のままでいて欲しいということを彼女に話しました。
-撮影初日に、円井わんさんの演技に納得がいかず、そのあと、何度もディスカッションをしたという話がありました。どんな会話をされましたか。
アンシュル監督
映画の話がメインというよりも、彼女自身の話をしました。
彼女にとって初めての主演映画で、大きなカメラを目の前にして委縮してしまうところがあったのではないかとおもいました。なので、彼女自身がリラックスできるような部分を話をしていく中でつかんでいきました。
[通訳:茂木美那/聞き手・写真:金田一元]
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映画『コントラ KONTORA』
STORY
高校生のソラ(円井わん)は、父親(山田太一)と二人暮らしだが、その関係は冷え切っている。そんなある日、急死した祖父が第二次世界大戦時の日記の中に遺していた、記号化された宝の存在を知ることとなる。彼女が密かに宝の探索を試み始めたとき、突然無言で後ろ歩きをする見窄らしい男(間瀬英正)と遭遇する。ソラの身に、ほぼ同時に起こった二つの事象。それは果たして何かの啓示なのか?
出演:円井わん / 間瀬英正 / 山田太一 / 清水拓蔵
制作・監督:アンシュル・チョウハン
脚本:アンシュル・チョウハン 編集:ランド・コルター 撮影監督:マックス・ゴロミドフ
配給:リアリーライクフィルムズ + Cinemaangel
配給協力:アルミード
(C)2020 KOWATANDA FILMS. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:www.kowatanda.com/kontora
予告編
3月20日(土)より、K’s cinemaほか、全国順次ロードショー
【映画祭&受賞歴】
・タリン・ブラックナイト映画祭(PÖFF) 2019 – グランプリ&最優秀音楽賞受賞
・SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 2020 – 国内長編コンペティション部門 優秀作品賞受賞
・大阪アジアン映画祭 2020 – 最優秀男優賞受賞
・ジャパン・カッツ 2020 – 大林賞受賞
・グラスゴー映画祭 2020 – 公式セレクション
・Ostrava Kamera oko 2020 – 公式セレクション
・ジャパニュアル・日本映画祭 2020 – 公式セレクション
・ハイファ国際映画祭 2020 – 国際コンペティション公式セレクション
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