【インタビュー】草彅剛(凪沙)を大きく変えていく圧倒的な存在感の新人女優・服部樹咲×内田英治監督。『ミッドナイトスワン』
草彅剛が主演を務める映画『ミッドナイトスワン』(9/25公開)より、内田英治監督と、新人俳優ながら、圧倒的な存在感と見事なバレエダンスを劇中披露している服部樹咲(14歳)に、本作出演について話を伺った。
内田英治監督×服部樹咲インタビュー
9/25全国公開となる映画『ミッドナイトスワン』。内田英治監督のオリジナル作品である本作は、主演・草彅剛自身が出演を決め、「脚本を読んだ時から自然と涙がこぼれた」とコメントしている。
その草彅剛演じる、トランスジェンダーの凪沙(なぎさ)の生き様を大きく変えることになるのが、桜田一果(さくらだいちか)。演じたのは撮影当時中学1年生で、しかも俳優としては新人の服部樹咲(はっとりみさき)。「バレエが踊れること」という難しい条件のオーディションを見事クリアした彼女について、内田監督はその存在感を絶賛。また、バレエシーンの撮影では、その場にいた皆が涙したという。
■服部樹咲 女優を目ざしたきっかけ
-服部さんが本作のオーディションを受けることになったきっかけについて教えて下さい。
服部樹咲(桜田一果 役)
ずっとバレエの道を進んでいこうと考えていたんですけど、ある時から女優になりたいと思うようになったんです。
そんな時に、この作品のオーディションに出会って、バレエも演技も挑戦できるから今の私にピッタリだなと思って受けました。
-女優になりたいと思ったのは?
服部樹咲
ドラマや映画を家で観ていて、自分だったらこういう演技したいなぁと想像するようになって、興味を持ち始めました。
-そもそもバレエを始められたきっかけは?
服部樹咲
幼寺園(お寺の中にある施設)の盆踊り大会で踊ったら、母が、私の指先や手の使い方が綺麗なので踊り系のものを習ったらいいんじゃないかって勧めてくれたのがきっかけです。
-お母様の目のつけどころがさすがですね。そういう意味では、本作劇中で、バレエ教室の片平先生(真飛 聖)が、一果(服部樹咲)のダンスのセンスを見抜くシーンと重なるようにように感じます。
内田英治監督
確かに。そういうシーンがありますね。
■服部樹咲「最初は自分の殻を破れなかった」
-初めてのお芝居はどのように取り組まれましたか?
服部樹咲
内田監督とは、ネグレクトな親を持つ子がどういう子になるのかということを話し合いました。あと、泣き叫ぶシーンがあるのですが、監督とたくさん練習して撮影に臨みました。
-お芝居で苦労されたことは?
服部樹咲
最初のうちは、自分の殻を破れなくて、感情的に泣いたり叫んだりする演技ができませんでした。でも回数を重ねるごとに、できるようになっていきました。
-イスを相手に投げつけるシーンがありますが、どうでしたか?
服部樹咲
ためらいもあったんですけど、中途半端なシーンになったら逆に周りに迷惑をかけてしまうと思ったので、頑張ろう!と思いっきり投げました。
■草彅さんはずっと凪沙のオーラをまとっていた
-撮影現場での草彅剛さんはどうでしたか?
服部樹咲
草彅さんは現場ではずっと凪沙のオーラをまとっていらっしゃいました。
内田英治監督
草彅さんは現場に入ってくる時と出ていく時の「ウス、ウス、ウーッス」っていうあいさつだけが草彅さん自身で、あとはずーっと凪沙になっていたよね。
服部樹咲
はい。
内田英治監督
カメラが回っていない時も、ずーっと凪沙でした。
-そのずっと凪沙だった草彅さんと休憩中にお話しされたことはありますか?
服部樹咲
私からは話しかけられなかったのですが、草彅さんの方から「嫌いな食べ物は何?」とか、私のことをいろいろ聞いてくれて、緊張をほぐしてくださいました。
■スタッフも涙したバレエシーン
-本作では、一果のバレエの踊りが見せ場のシーンがいくつかありますが、撮影に臨むにあたって、改めて服部さんが取り組まれたことがあれば教えて下さい。
服部樹咲
白鳥の湖(※劇中曲は「白鳥の湖 第二幕」よりオデットのヴァリエーション)は初めてでした。これは普通、プロの方しか踊らないので難しかったんですけど、バレエのレッスンはもちろん、筋肉や骨を整えるジャイロトニックにも取り組みました。
-撮影現場でも服部さんのバレエのシーンは感動的だったと伺いました。
内田英治監督
彼女のバレエは最初映像では見ていたんですけど、実際に踊っているところ見ると、ホロホロとちょっと泣いちゃうんです。プロデューサーたちも泣いてました。
やっぱりバレエって不思議な力があるなって。ヒップホップやジャズを見ている感じとは全然違う。撮影当時中学1年生の子が踊っている姿に、特別な力がバレエにはあるなって感じました。バレエって歴史がありますから、なんか背負ってるものが見えてくるからかもしれません。
服部さんがそれを表現できる踊りをしてくれたってことでもありますね。
■服部樹咲「女優活動は続けていきたい」
-服部さんの今後の抱負があればお聞かせください。
服部樹咲
表面上だけの芝居じゃなくて、内面からセリフが出てくるような、ウソがない芝居ができるような女優さんになりたいです。女優のお仕事はこれからも続けていきたいです。
■アジア人をメインにしたバレエ映画を撮りたかった
-5年ほど前から温められてきたオリジナル脚本ということですが、着想のきっかけと本作への思いについて教えて下さい。
内田英治監督
アジア人をメインにしたバレエ映画を撮りたいなっていうのがスタート地点でした。それとは別に、トランスジェンダーをテーマにしたアイディアもあったので、それを合わせた形にしたのが『ミッドナイトスワン』です。
僕の中では、バディ(相棒)ムービーなんですけどね。ひとりの人間とひとりの人間が合わさった時に何かに向かっていくというものをずっとやりたくて、この脚本が出来上がりました。
美味しい焼き鳥のタレみたいなもので(笑)、この5年間、いろんなタレ(要素)を足して足して本作の脚本になったというわけです。
-トランスジェンダーについても関心があったということですか?
内田英治監督
それはすごいあって、たとえば日本の社会的には、このことについてどうなのよ?っていう感覚もありましたし、トランスジェンダーの皆さんが持っている独特の感性とか、それによる音楽とかのカルチャーにも関心を強く持っていました。
■俳優自身が望む映画に出演すること。
-監督のコメントに、この作品に草彅さんが参加してくれたことで、より多くの人に見てもらえるチャンスが広がったとありましたが、そもそも草彅さんの出演の経緯について教えて下さい。
内田英治監督
主演俳優をずっと探していたところ、プロデューサー経由で草彅さんに本作の脚本が渡ったことがきっかけです。草彅さんに読んでいただいて、やっていただくことになりました。
これって、実は順当な流れなんですよね。でも、(今の日本の映画界では)なかなか無いことなんですよね。日本では役者に決定権が無い場合が多いので。
草彅さんは、新しい表現に飢えている方なので、そこにこの作品がハマったっていうのはすごい奇跡的なことだし、良かったと思います。
-いわゆる作家性が強いオリジナル作品に、草彅さんのようなメジャーな方が出演されるのは、日本の映画界においてもとても良いことだなと思います。
内田英治監督
いいですよね。やっぱり、どの作品に出演する・しないを、役者さん本人に考えてもらえれば嬉しい。それが、僕が考える演出家との良い関係だと思います。それが世界基準なので、本作がそういう着地ができたのはとても嬉しいです。
-監督がやりたいことと、俳優がやりたいこと、お互いが相思相愛の形で映画作品ができればいちばん良いですよね。
内田英治監督
そうです。なので、出てくれた草彅さんには恩返しをしたい。作品で。
こういう作家性の強い作品に出て、やっぱり人が入りませんでした、ってなったら申し訳ない。だから全力で面白い作品にしたいと思いながら現場には臨みました。
■草彅さんの目がもう女性だった。
-監督は草彅さんとはどういう話をされましたか?
内田英治監督
私、撮影前はめちゃめちゃ気負って、たっぷりリハーサルするぞ!って思ってたんですけど、衣裳合わせで初めて草彅さんと会って、「あ、もういらねぇや」って思いました(笑)
衣裳を合わせた草彅さんの目がもう女性だったんです。だから余計なことをするのはやめようって。なので、彼におまかせしましたね。
僕だけの視点で作る凪沙じゃなくて、草彅さんが持つ視点もミックスしていこうって、方向性も変えました。
-草彅さんから監督に相談されたことはありましたか?
内田英治監督
基本、無いです。彼はそういうタイプじゃない。あるがまま、その役に成りきっていくというタイプだと僕は思います。
■2人が見つめ合うだけで物語が進んでいく
-本作は、草彅剛さんをはじめ、豪華キャストの皆さんが勢揃いされていますが、その中であっても服部樹咲さんの存在感が際立っている印象を持ちました。服部樹咲さん起用の理由と、撮影を終えた今思う服部さんの魅力について教えて下さい。
内田英治監督
まず、バレエができることという難しい条件のオーディションでした。しかも、最後は世界に出ていくという設定が成立するような実力が求められます。
そして最初に残ったひとりが、服部さんだったわけです。バレエができて演技もできるっていう人はなかなかいないとは思いますが、見つからないままだったらこの映画が成立しないところでした。
-女優の素質はどういうものだと思われますか?
内田英治監督
女優の素質がなにかっていうのは、監督やプロデューサーによっても考え方が違うんですけど、僕はやっぱり存在感と、むき出しな自分をさらけ出せる人だと思っています。
ですので、服部さんに決めたポイントも立ち姿含めて存在感が大きかったです。当時まだ中学1年生になったばかりでしたが。
-確かに本作での服部さんの存在感はすごいです。特にセリフが無くても、その表情だけでも独特の存在感がある。
内田英治監督
眼力がありますし、セリフを言わなくても表現できるっていうのはいいですよね。それは草彅剛もそうですし。2人が見つめ合うだけで物語が進んでいくので。
だから僕はめっちゃ楽でした(笑)
■最後に作品をご覧になる方へメッセージ
-最後に内田監督、服部樹咲さん、それぞれから、本作をご覧になる方へのメッセージをお願いします。
内田英治監督
社会性を訴える映画ではなく、娯楽映画なので、気楽に観てほしいです。そして役者たちの演技を見てほしいと思いますね。日本は誇張された芝居が多いので、たまにはこういうナチュラルな演技の作品も観てみませんか?って(笑)
-良い意味での自主制作映画の雰囲気がありますよね。
内田英治監督
そうそう、僕が撮った自主制作映画だと思って観ていただければちょうどいいかもしれません。それくらい自由にやらせていただいた作品です。
-日本の商業映画ではなかなかこういうオリジナル作品は少ないですからね。
内田英治監督
はい、なので皆さん是非応援してほしいです。こういう作品で人が入らないと「ほらね」ってなって、今後ますます(お金が集まらなくなって)作りにくくなりますし、大げさな芝居だけが求められる映画界になっていきますからね。そうするといわゆる外に向けられない島国映画ばかりになりますから。
観ていただく皆さんのお力が必要です。
服部樹咲
凪沙と一果の関係が切ないのはもちろんですが、バレエをこれだけ取り上げている映画作品って日本にはあまりないと思うので、バレエのシーンも楽しんで観てほしいなって思います。
服部樹咲(新人)プロフィール
2006年7月4日生まれ、愛知県出身。4歳からバレエを始め、第76回NAMUEバレエコンクール名古屋 第1位、平成29年・30年ユースアメリカグランプリ日本ファイナル進出、NBAジュニアバレエコンクール東京2018 第1位など輝かしい成績をおさめる。演技未経験ながら、本作のオーディションで数百人の中からヒロインの座を射止めた。
監督・脚本:内田英治プロフィール
ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。週刊プレイボーイ記者を経て99年「教習所物語」(TBS)で脚本家デビュー。
14年「グレイトフルデッド」はゆうばり国際ファンタスティック映画祭、ブリュッセル・ファンタスティック映画祭(ベルギー)など多くの主要映画祭で評価され、つづく16年「下衆の愛」はテアトル新宿でスマッシュヒットを記録。東京国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭(オランダ)をはじめ、世界30以上の映画祭にて上映。イギリス、ドイツ、香港、シンガポールなどで配給もされた。
近年はNETFLIX「全裸監督」の脚本・監督を手がけた。
[インタビュー:安田寧子、写真:桜小路順]
映画『ミッドナイトスワン』
あらすじ
故郷を離れ、新宿のニューハーフショークラブのステージに立ち、ひたむきに生きるトランスジェンダー凪沙。
ある日、養育費を目当てに、育児放棄にあっていた少女・一果を預かることに。
常に片隅に追いやられてきた凪沙と、孤独の中で生きてきた一果。理解しあえるはずもない二人が出会った時、かつてなかった感情が芽生え始める。
出演:草彅剛
服部樹咲(新人) 田中俊介 吉村界人 真田怜臣 上野鈴華
佐藤江梨子 平山祐介 根岸季衣
水川あさみ・田口トモロヲ・真飛 聖
監督/脚本 内田英治(「全裸監督」「下衆の愛」)
音楽:渋谷慶一郎
配給:キノフィルムズ
(C)2020Midnight Swan Film Partners
30秒版予告編
60秒版予告編
100秒版(セリフなしVer,)
9月25日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー
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