羊とオオカミの恋と殺人

【朝倉監督インタビュー】ホラー苦手な少女がホラー映画監督に。『羊とオオカミの恋と殺人』

『羊とオオカミの恋と殺人』は普遍的な恋愛を描いたラブコメ物語

11月29日(金)全国公開、杉野遥亮×福原遥W主演映画『羊とオオカミの恋と殺人』。監督を務めたのは、ホラー映画には定評がある朝倉加葉子監督。18歳までは怖いものは一切受けつけなかったという朝倉監督が、“ホラー”に“面白さ”を見出したきっかけとは?そして、最新作に込めた思いについてたっぷりと語ってもらった。

『羊とオオカミの恋と殺人』は、人気漫画アプリ『マンガボックス』で閲覧数1位を独走した、自殺志願の男の子×殺人鬼の美少女が贈るスプラッター・ラブコメディ漫画「穴殺人」(作者:裸村)が実写映画化したもの。
受験に失敗し、ニート生活を送る自殺志願の“黒須越郎”を演じるのは杉野遥亮。そして黒須のアパートの隣に住む美人の殺人鬼“宮市莉央”を福原遥が演じる。

羊とオオカミの恋と殺人

杉野遥亮/福原遥  ©2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 ©裸村/講談社

朝倉監督インタビュー

朝倉加葉子

朝倉加葉子監督

“怖い”が“面白い”に変わる時

– 朝倉監督はもともとはホラー映画が苦手だったと伺いました。

朝倉加葉子監督
幼い頃から怖いものが苦手でして、映画に関わらず、マンガだったりテレビだったり一切ダメで、暗いのもダメみたいな。暗闇に行くと絶叫するみたいなタイプの子どもでした(笑)
でもずっと怖いものを避けて避けて生きてきて、逃げていたからこそ、やっぱり興味が出てきちゃったんだと思うんですよね。18歳の時、改めて『悪魔のいけにえ』(1974 米)を観てみようって決意しまして。私が怖くて観られないホラー映画っていうものを面白がっている人たちっていうのがちゃんといて、それはなぜなんだろう?って好奇心が湧いたんです。

– 『悪魔のいけにえ』を選ばれたのは?

朝倉監督
ホラー映画を愛している人たちが面白い作品にあげる代表作品のひとつだと思ったからです。

– 実際『悪魔のいけにえ』ご覧になって、それまでの“怖い”が“面白い”と感じられるようになったポイントはなんでしょうか?

朝倉監督
怖がらせようとすることってすごくワクワクできるものなんだなっていうことをとても体感したんです。ワクワクさせて、いろんな感情を引き起こして、五感に強く訴える。これがホラー映画なんだって衝撃を受けました。
私はもともと映画は好きで観ていたので、ストーリーにワクワクするっていうのはそれまでいっぱい経験してきたつもりだったんですけど、でも、ホラー映画には、もっと大きなワクワクが、しかもお芝居、音、画、照明とか、いろんなものによっていろんな角度から作られているんだなぁっていうのを発見して。
なので、怖いのは怖いんですけど、それがどういうふうに怖いのかっていうのが逆に気になるようになって。
そこから、他のホラー映画もいっぱい一気に観るようになって、ここはこうなってるんだ、あれはこうなっているんだっていうふうにどんどん発見していくようになりました。

– もしかしたら作り手目線なのかもしれないですね。

朝倉監督
そうかもしれないです。ただ、自分が怖かったものがどんな形をしているのかっていうのが初めてわかった感じがあって。だから映画以外でも「怖いってなんだ?」っていうのをいろいろ掘り下げていった時期でもあったかもしれません。

“ホラー映画”は、観客に訴えかける力をシンプルに追求したもの

– 朝倉監督がホラー映画を撮り続ける意義についてお聞かせください。

朝倉監督
それを言うと、今回の『羊とオオカミの恋と殺人』はホラー映画ではなくて、ラブストーリーになるのかなと思います。でも、ホラー要素はあってホラーコメディにもなっています。こういうホラー要素があるものは、作る側としてもすごく面白いものだなって思います。
私が『悪魔のいけにえ』以降ホラー映画を観続ける理由でもあると思いますが、ホラー映画が持つ“観客に訴えかける力”、もちろん他の映画にもあるんですけど、ホラー映画は特にそこがシンプルに問われる点がすごく好きです。なので作るのも観るのも楽しいですね。

– 確かに今作『羊とオオカミの恋と殺人』は、ホラー要素はありますが、ホラー映画というよりは、主人公2人のラブストーリーという印象が強いですね。朝倉監督は今後もこういったホラー要素を持った映画を撮っていきたいということでしょうか?

朝倉監督
ホラー要素が無い映画も撮りたいと思っています。でも、やっぱり好きなので、ホラー要素を持った映画になりがちなような気はします(笑)
でもそれは他の映画にも通底する要素だと思うんです。どんなハッピーな映画でも怖い瞬間やグッと引き込まれる瞬間ってありませんか?すなわち人間の五感が刺激されるような、映画自体にとって大きな力であり普遍的なもの。ホラー映画は他の映画より少しそこに特化しているだけなのではないかと思います。

– 朝倉監督のプロフィールにはよく“スラッシャーホラー”という言葉が含まれますが、朝倉監督にとっては、“スラッシャー”というジャンルにこだわっているわけじゃなく、それこそ過去の名作でいうと『羊たちの沈黙』のようなサイコホラー的なもの、最新作だと『ジョーカー』のようなホラーとは違いますが、“怖さ(ホラー)”という点で観客の五感に強く訴える力を持った映画に強く関心を持たれているということですね。

朝倉監督
そうですね。“ホラー”っていうものがすごくエンターテイメントだと思っているので、今、おっしゃられたように『羊たちの沈黙』であったりその他の作品にも見られる“怖くても引き込まれる要素”ってやっぱりその映画が持つエンターテイメント性の表れなんじゃないかなって思います。

朝倉監督のオールタイム・ベスト映画トップ3作品

– ちなみに、そういう朝倉監督のお気に入り映画作品ってなんでしょう?

朝倉監督
私のオールタイム・ベストは一応決めていまして、『悪魔のいけにえ』(1974 米)、そしてフィルム・ノワールの『過去を逃れて』(1947 米)、少しファンタジーな青春ドラマの『アリゾナ・ドリーム』(1993、米)の3作品です。

『羊とオオカミの恋と殺人』はきっと良いラブストーリーになる

羊とオオカミの恋と殺人

福原遥

– それでは『羊とオオカミの恋と殺人』についてお伺いします。原作コミック「穴殺人」を映画化することになった経緯について教えて下さい。

朝倉監督
漫画がまだ連載中の時に、企画プロデューサーからご紹介いただきました。

– 朝倉監督がこの原作コミックに惹かれたポイントは?

朝倉監督
設定がすごく面白いというのもありますし、黒須くんと宮市さんっていう2人のキャラクターがとてもコミカルでもあり、自分に対してはすごくマジメで、お互いに対しては不器用でと、すごくチャーミングな2人が揃っているなっていうところです。
彼らと、彼らを取り巻く周りの人たちの事件も面白いものがいっぱいありますし、何よりこれはきっと良いラブストーリーになるんじゃないかなっていうのを一番最初に思いました。

– ということは、「穴殺人」というタイトルを『羊とオオカミの恋と殺人』にされたのは、黒須くん(羊)と、宮市さん(オオカミ)の恋物語ということを表したかったからでしょうか?

朝倉監督
そうですね。それと、製作陣みんながこの映画を広く世の中に届けるための努力の一つとして改題を検討して、原作者の裸村先生も快諾してくださいました。最終的に決まったこのタイトルは私の案です。どっちが羊でどっちがオオカミというのは色々解釈できると思ってますし、そういう両極端の二人の恋愛の物語ということで可愛いタイトルにしたくて。

– 劇中、江口のりこさん演じる“延命寺玲奈”が「羊とオオカミは交わらないんだよ」っていうセリフが出てきますね。

朝倉監督
はい。それは映画タイトルから脚本の高橋泉さんが考えられたセリフです。ずばり核心の問いのセリフになっていますね。

羊とオオカミの恋と殺人

江口のりこ

– 原作コミックを映画化されるにあたって、朝倉監督として工夫された点はなんでしょうか?

朝倉監督
原作は全8巻あるので、そこからどういう要素を映画として表現するのかっていうのは試行錯誤しました。原作は自分と違う他者をどう認められるか、という「多様性の受容」の話だと思っています。なので原作から事件やエピソードを抽出しつつ、2人の恋愛を中心に置きました。私自身としては原作の本質にかなり近づけたのではと思っています。

杉野遥亮×福原遥

羊とオオカミの恋と殺人

杉野遥亮/福原遥

– 撮影にあたって、杉野遥亮さん、福原遥さんとされたコミュニケーションについてお聞かせください

“世界の隅っこにいる人”になってください

朝倉監督
この映画は個性的な人がたくさん出ている映画なので、杉野くんには“受けのお芝居”をお願いしました。変わった人たちの様を普通の目で見る人の役として。それはすごく難しいことなんですけど、でも杉野くんご自身の存在感をもってきっちり演じてくださいました。彼はイケメン役も多くやっている方なので、今回はそうじゃなくて「“世界の隅っこにいる人”になってください」とも最初にお願いしました。今回キラキラ感ではなくて、ホワッとした存在感にしてくれているのは、それを受けてなのかなと思っています。

羊とオオカミの恋と殺人

杉野遥亮

私たちの常識ではない特別な人間としての“宮市”

朝倉監督
遥ちゃんは、もともと殺人鬼役に興味があったと言って楽しみにしてくれていました。なので話が早くて、私たちの常識ではない特別な人間としての“宮市”としてどういうふうに考えるべきか、ここはどういうふうに笑うべきかっていうのを準備から現場中まで2人で細かく相談しました。取捨選択に悩んだらすぐ私に聞いてもらうようにして、けっこう細かく作っていったと思います。魅力的な殺人鬼であり、初めて他人と深く関わってみる女の子、という難しい役どころですが、遥ちゃんはもともとすごくお芝居ができる人ですし、現場に入った時にはもうしっかり宮市さんになってくれてました。

羊とオオカミの恋と殺人

福原遥

舞踏と古武術をベースにした殺人アクション

– 福原さん演じる宮市さんの殺人シーンでのこだわりは?

朝倉監督
小柄の体型の女性が殺人に興味があって独学で殺人行為を重ねていくという設定なので、そういう彼女が無理なく殺人を重ねられるようなアクションというのを考えました。
ダンサーでもあり振付家の青木尚哉さんが、古武術にもお詳しくて、自分の力をあまりかけずに最大限相手の身体を利用して組んでいく、且つ美しいアクションというのをいろいろと考えてくださいました。
なので、遥ちゃんには特訓をお願いしたんですけど、すごく綺麗に演じていただけて嬉しいですね。

羊とオオカミの恋と殺人

福原遥

羊とオオカミの恋と殺人

『羊とオオカミの恋と殺人』は普遍的な恋愛を描いたラブコメ物語

羊とオオカミの恋と殺人

福原遥/杉野遥亮

– 最後にこの作品の見どころについて、朝倉監督からご紹介ください。

朝倉監督
この作品は、殺人鬼の女の子とニートの男の子というすごい変わったカップルの恋愛物語です。殺人シーンだったりはありますが、2人のまっすぐで不器用な恋愛模様が一番の見どころです。ホラー映画に馴染みが無い方も、安心して、むしろ楽しんで観られる作品になっています。究極に価値観が違う2人がどのように恋愛するのか?ある意味普遍的な恋愛のドラマかなとも思っています。ですので、恋愛に悩む方に、そして2人の可愛らしい恋愛を観に、是非劇場に来ていただけたら嬉しいです。

羊とオオカミの恋と殺人

朝倉加葉子監督


インタビューの終わりに、宮市さんの部屋に置かれた“あるモノ”について朝倉監督に確認したところ、原作者からのアイデアを受けて原作コミックオマージュを表したものだそう。原作コミックファンはもちろん、初見の方も注目すると別の楽しみ方があるかもしれない。

[インタビュー・写真:Jun Sakurakoji、場面写真クジット:©2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 ©裸村/講談社]

朝倉加葉子監督プロフィール
東京造形大学卒業後、映画美学校フィクションコースを修了。2013年、アメリカ合衆国を舞台としたスラッシャーホラー映画『クソすばらしいこの世界』で長編映画デビュー。以後、ゆるめるモ!出演のファンタジックホラー『女の子よ死体と踊れ』や、村井良大・武田梨奈主演のアクションホラー『ドクムシ』など、残酷なホラー描写に定評がある。音楽ドキュメンタリー「RADWIMPS のHESONOO」なども手掛ける、新進気鋭の監督。

映画『羊とオオカミの恋と殺人』

<イントロダクション>
1,000万ダウンロードを突破している人気漫画アプリ『マンガボックス』で閲覧数1位を独走したコミック「穴殺人」(作者:裸村)の実写映画化。
自殺志願の男の子の黒須越郎役に『キセキ ーあの日のソビトー』『居眠り磐音』「スカム」等、ドラマや映画、CMで活躍中の杉野遥亮が映画初主演を務め、殺人鬼の美少女・宮市莉央役には、『4月の君、スピカ。』や「3年A組 ―今から皆さんは、人質です―」で話題を呼んだ福原遥がW主演として強烈なキャラクターを見事に演じている。
監督はスラッシャー・ホラー映画の『クソすばらしいこの世界』や『女の子よ死体と踊れ』を手掛けた期待の新鋭、朝倉加葉子。

<STORY>
大学受験に失敗し予備校もやめ引きこもり、ライフラインを絶たれ絶望した黒須(杉野遥亮)は、 壁につけたフックで首吊り自殺を図るもあえなく失敗。その弾みで偶然にも、壁に穴が空いてしまう。穴を覗くと、美人で清楚な隣人・宮市さん(福原遥)の生活が丸見えで・・・。その日から穴を覗くことが生き甲斐になり、どんどん宮市の虜になっていく黒須。しかし、ある日彼女が部屋で行っている凄惨な殺人行為を目撃してしまい、声をあげてしまう。目撃行為が見つかってしまった黒須はつい宮市に愛を告白。殺されるかと思いきや、結果彼女と付き合うことに!アルバイトも始め、デートをし、部屋では宮市の手料理を食べ、幸せ絶頂の黒須。しかし宮市は、黒須とのデート中も構わず殺人を犯し…。次は自分が殺されるのか?黒須の運命はいかに!?

出演:杉野遥亮 福原遥 江野沢愛美 笠松将 清水尚弥 一ノ瀬ワタル/江口のりこ
監督:朝倉加葉子  脚本:髙橋泉
配給:プレシディオ
©2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 ©裸村/講談社
公式HP:http://hitsujitookami.com/
Twitter:https://twitter.com/hitsujitookami
Instagram:https://www.instagram.com/hitsujitookami

ラブリー予告編「大好き♡宮市さん編」

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11月29日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー!

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