映画『星と月は天の穴』

【インタビュー】咲耶「カメラの前でのフルヌードは抵抗がないんです」映画『星と月は天の穴』

荒井晴彦監督最新作である映画『星と月は天の穴』(2025年12月19日公開)。綾野剛演じる主人公の心に無邪気に入り込む大学生を演じる咲耶(さくや)に、1960年代を舞台とした本作で自ら提案したことや、綾野との共演についての話を聞いた。(読者プレゼントあり)

荒井晴彦監督・脚本の映画『星と月は天の穴』は、長年の念願だった吉行淳之介による芸術選奨文部大臣受賞作品を映画化。過去の離婚経験から女を愛することを恐れる一方、愛されたい願望をこじらせる40代小説家の日常を、エロティシズムとペーソスを織り交ぜながら綴っている。主人公の矢添克二を演じるのは、荒井と『花腐し』(23)でもタッグを組んだ俳優 綾野剛。

咲耶 インタビュー&撮り下ろしフォト

■オーディションの段階からかなり準備した

‐ 台本を最初に読んだ時、作品全体にはどのような印象を持たれましたか。また、演じられた紀子という人物にどういう印象を持たれたのか教えてください。

咲耶(瀬川紀子 役)
作品については、元々私は文学が好きなので、こういった作品は好きなんですけど、「これはコメディだな」と思いました。撮影後も、その印象はあまり変わりませんでした。人間の滑稽で恥ずかしい部分を文学的に描いているけれども、それが余計に滑稽で、私としては面白いなと思っていました。
紀子については、ちょっと小悪魔で、かつ実はマゾヒストだという印象です。彼女は矢添と関係を重ねていくことによって、女性としての欲望が開花していく。こういった、これからの女の子というところに惹かれましたね。

映画『星と月は天の穴』

咲耶

‐ なるほど。荒井監督のコメントにもありましたが、オーディションの際にはかなり準備をされたそうですね。具体的にどのような準備をされたのでしょうか。

咲耶
オーディションに対する準備としては、まず原作と台本を、全てのセリフを覚えるくらいひたすら読みました。読みながら、その時代背景などを考え、描かれている時代の空気感をオーディションの時から持っていこうと考えました。自分の普段の現代の話し方ではきっとこの脚本では成立しないだろうと思い、かなり作り込んでオーディションに臨みました。

‐ では、映画本編で見られる紀子や矢添さんの60年当時の映像作品を彷彿とさせる独特のセリフの言い回しは、オーディションの時から既に意図的に作り込まれていたのでしょうか。

咲耶
オーディションの時もかなり作り込んではいたのですが、そこから実際に役が決まって、本読みや荒井監督に質問したりする中で、紀子という人物がもう少し鮮明に見えてきました。その後、さらに自分が作り込んでいたものを紀子に落とし込んでいく作業をクランクインまでにしていきました。
セリフの言い回しで一番参考にしたのは、1964年に公開された映画『卍』の若尾文子さんの発声の仕方です。あとは当時の女性のインタビューなどのドキュメンタリーの喋り方も参考にしました。やはり今の女性たちと、声を出す場所や言葉の選び方などが違いますから。

‐ 綾野剛さんのセリフの喋り方を聞いて、どのように感じましたか。

咲耶
綾野さんは、文学的なセリフに合うような口調になっていたので、私もその喋り方を聞いて少し安心したんですよ。最初、私は作り込みすぎたかなと思ったんですけど、実際にやってみたら、お互いにとてもちょうどよく収まったというか。お互い持ち寄ったものがたまたま同じ方向性を向いていたという奇跡の瞬間でした。現場に入ってみないと分からないこともたくさんありますが、綾野さんが引っ張ってくださる方ということもあり、とてもやりやすくて、収まるところに収まったという感覚があります。

‐ その1960年代の映画を見ているような錯覚を覚える発声方法などの雰囲気作りには、咲耶さんご自身のアイデアもあったのですね。

咲耶
そうですね、そこは(時代感に)寄せたかったんです。

映画『星と月は天の穴』

場面写真  ©2025「星と月は天の穴」製作委員会

■出演が決まった時は叫んだ

‐ 先ほど純文学のお話が出ましたが、「純文学の登場人物になりたい」という願望があったと咲耶さんはコメントされています。この作品を通して、純文学の世界を演者として生きてみていかがでしたか。

咲耶
やっぱり純文学を映像にするってものすごく難しいことだと思うんですよ。純文学は、大衆文学と違い、作家の芸術作品としての色が強いじゃないですか。そういったものを生身の人間で映像でやってみるって、やはりどこか現実的ではない部分が絶対的にあって。映画という形で、そういうリアルでないことをリアルなように見せる、絶対ありえないのに、あたかもリアルかのように映すっていう過程が、私は改めて面白いなと思いました。

‐ 実際に演じてみて、紀子になにか共感する部分はありましたか。

咲耶
やっぱり「ちょっとファザコンなところ」です。紀子はいつも父親の愛情を求めていますよね。私も今も父親と仲はいいですが、小さい頃に実生活では父親と離れていた時期があったので、どこかで父親にどこか似たような人やそういう人に惹かれる傾向があって、そういった部分は共感します。
もう一点は、精神的にマゾヒストだというところです。紀子は身体的なマゾヒストですが、私としては、役柄やお仕事がハードであればあるほど燃えるんです。大変な役であればあるほど楽しくなってきて、アドレナリンや脳内麻薬がものすごく出て「気持ちいい」ってなるんですよ。そういうちょっと自分を追い込みたくなる癖があり、そういった精神的な部分に共感があります。

‐ この作品はアドレナリンの分泌具合はいかがでしたか。

咲耶
もうドバドバでした(笑)オーディションからもドバドバでしたよ。出演が決まった時は、もう叫びましたね。

映画『星と月は天の穴』

■インティマシーコーディネーターの存在

‐ 荒井晴彦監督にはどのような印象を持たれましたか。

咲耶
周りの方からはきっと怖い方だとか、ちょっと気難しいとか思われるのかもしれないんですけど、私的にはシャイで可愛らしいおじいちゃんでしたね。
私が濡れ場のシーンを撮影した時、荒井さんとモニターを一緒に見ながら感想を聞いたら、荒井さんが照れながら「いやらしかった」って言ってものすごく満足してくれていたので、私は「監督、エッチ〜♪」って言いました(笑)

‐ 濡れ場のシーンについてですが、インティマシーコーディネーター(以下、IC)の方々とどのようにやり取りをし、最終的にご自身を納得させていったのでしょうか。

咲耶
そもそも私はカメラの前でフルヌードになることに対して抵抗がないんです。この作品のような場合、基本的に監督が演出することに関してNGはないんですよ。
ただ、そうでない方もたくさんいらっしゃるので、ICの方の存在はとても大事ですよね。ICはクッションになる方で、現場で誰も変な無理をしないために必要です。
私自身はNGはないとお話ししましたが、もし何かあった時にいざという時に甘えてもいい人が現場にいるというのが、ものすごく心強かった。この作品は特にインティマシーシーンがかなり激しいので、ICとのやり取りはたくさんありました。
私が助けていただいたのは、例えば前張りのことであったり、すべて初めてのことだったので知らないことを現場でサポートしてくださった点です。あとは、ちょっと汗をかいたからボディシートで拭きたい、というような細かなことに関して、「言っていいんだよ」とサポートしてくださったんです。私は自分の願望などをあまり口に出しづらい性格なので、そういう方がいるというのが私にとってはとてもありがたかったです。

映画『星と月は天の穴』

■私の不安な気持ちを汲んでくれた

‐ 一番共演が多かった綾野剛さんとの現場で印象に残っていることや、彼の印象を教えてください。

咲耶
綾野さんは本当にずっと一緒にいましたが、とにかく綾野さんが終始優しかったことです。撮影に入る前のリハーサルやカメラテストの段階からずっと優しかった。
特に印象的だったのは、クランクインの日です。画廊での出会いのシーンが私のクランクインだったのですが、まだ撮影の雰囲気が分からなくて、かなり不安で怯えていたんですよ。綾野さんは、多分私のそういう不安な気持ちを汲んでくださったんでしょうね。
綾野さんは私に対して、「僕はこの映画に対して昭和的ムードと文学のムード、モノクロのムードをものすごく大切に思っている」と伝えてくださいました。そして、「咲耶さんはもうその昭和のムードと純文学のムードをすでにまとっているからもう大丈夫」と言ってくださったんです。その言葉を聞いて私は安心して、そこから演じやすくなりましたね。
また、綾野さんは、私の母(広田レオナ)がヒロインを務めた若松孝二監督の映画『エンドレス・ワルツ』がお好きだとお話ししてくださり、「今回の『星と月は天の穴』は『エンドレス・ワルツ』ほど激しい作品ではないけれど、僕たちのエンドレス・ワルツにしていこうね」とおっしゃってくださり、ものすごく救われた部分がありました。

映画『星と月は天の穴』

場面写真. ©2025「星と月は天の穴」製作委員会

映画『星と月は天の穴』

■一人で自堕落的に過ごすのが基本

‐ 読者の方に咲耶さんの人柄を感じていただくために、オフの日の好きな過ごし方を教えてください。

咲耶
オフの日は、私は引きこもりなので外に出ません(笑)本当にとにかくインドアなんです。
家の中では、壁際のベッドの隅っこに体育座りをして過ごします。ひたすら音楽を聞いたり、映画を見たり、ぼうっと天井を見たり、一人でお酒を飲んだりします。一人で自堕落的に過ごすのが基本ですね。

‐ すみっコぐらしな感じですね(笑)ちなみに好きな音楽のジャンルはなんですか。

咲耶
私はディープテクノのDJをやっていた時期があるので、テクノというジャンルが好きです。あとは90年代の日本とイギリスのロックですね。例えばゆらゆら帝国とか、そういった路線の音楽が好きです。色々なジャンルを聞きますが、ディープテクノと、90年代から2000年代にかけての全体的に暗いロックが好きです。

‐ 最後に、これからこの映画をご覧になる方に、ご自身の役を含めたPRをお願いします。

咲耶
紀子という女の子は、こじらせた中年作家の矢添のコンプレックスなどを蹴飛ばして、どんどん彼の私生活に踏み込んでいく大胆な女の子です。ですが、そんな彼女も矢添と同じように滑稽な部分を持っています。
この作品は、パッと見は純文学でちょっと堅苦しい、分かりづらいかも、と思われて遠ざけられてしまうかもしれない。でも、蓋を開けてみたら『星と月は天の穴』はものすごくコメディだと私は思うので、実際くすっと笑えるところがたくさんあります。
この滑稽な人間たちの姿を、純文学ならではの表現、映画ならではの表現で、大真面目にやっているのが余計に滑稽なんです。そんなに堅苦しく構えてみるような作品ではないので、皆さん、フィルターなどを全部とっぱらって、一旦フラットな気持ちで見ていただけたら嬉しいなと思います。

映画『星と月は天の穴』

咲耶(さくや)プロフィール
2000年4月11日生まれ、東京都出身。
『お江戸のキャンディー2 ロワゾー・ドゥ・パラディ(天国の鳥)篇 』(17・広田レオナ監督)で俳優デビュー。
主な出演作に、「君が死ぬまであと100日」(23・NTV)、「笑うマトリョーシカ」(24・TBS)、『桐島です』(25・高橋伴明監督)などがある。
今後は、『金子文子 何が私をこうさせたか』(26/2・浜野佐知監督)、『粛々のモリ』(26 年以降)の公開が控えている。

■咲耶さん 直筆サイン入りチェキ読者プレゼント

咲耶さん直筆サイン入り撮り下ろしチェキを抽選で2名様にプレゼントします。
NB Press OnlineのX(旧Twitter)アカウント(@NB_Press_Online)をフォローの上、下記の本記事紹介&プレゼント応募告知ポストのRP(リポスト)で応募完了。
ご当選者には、XのDMにてお知らせいたします。(参考:個人情報の取扱いについて
応募締め切り:2026年1月12日(月)23時59分

映画『星と月は天の穴』

※当選された場合でも、どちらかを選択することはできません。

■撮り下ろしフォトギャラリー

[写真・インタビュー:三平准太郎/ヘアメイク:足立真利子]


関連記事

映画『星と月は天の穴』

《INTRODUCTION》
脚本・監督 荒井晴彦 × 主演 綾野 剛が織りなす日本映画の真髄
『Wの悲劇』(84)、『リボルバー』(88)、『大鹿村騒動記』(11)、『ヴァイブレータ』(03)、『共喰い』(13)でキネマ旬報脚本賞に5度輝いた(橋本学と並んで最多受賞)、⽇本を代表する脚本家・荒井晴彦。
『身も心も』(97)をはじめ、『⽕⼝のふたり』(19)、『花腐し』(23)など、⾃ら監督を務めた作品では⼈間の本能たる〝愛と性〟を描き、観る者の情動を掻き⽴ててきた。
最新作『星と月は天の穴』は、長年の念願だった吉行淳之介による芸術選奨文部大臣受賞作品を映画化。過去の離婚経験から女を愛することを恐れる一方、愛されたい願望をこじらせる40代小説家の日常を、エロティシズムとペーソスを織り交ぜながら綴っている。
主人公の矢添克二を演じるのは、荒井と『花腐し』(23)でもタッグを組んだ俳優 綾野剛。これまでに見せたことのない枯れかけた男の色気を発露、過去のトラウマから、女性を愛すること、愛されることを恐れながらも求めてしまう、心と体の矛盾に揺れる滑稽で切ない唯一無二のキャラクターを生み出した。
矢添と出会う大学生・紀子を演じるのは、新星 咲耶。女性を拒む矢添の心に無邪気に足を踏み入れる。
矢添のなじみの娼婦・千枝子を演じるのは、田中麗奈。綾野演じる矢添との駆け引きは絶妙、女優としての新境地を切り開く。
さらには、柄本佑、岬あかり、MINAMO、 宮下順子らが脇を固め、本作ならではの世界観を創り上げている。

《STORY》 いつの時代も、男は愛をこじらせる――
小説家の矢添(綾野剛)は、妻に逃げられて以来10年、独身のまま40代を迎えていた。離婚によって心に空いた穴を埋めるように 娼婦・千枝子(田中麗奈)と時折り軀を交え、妻に捨てられた傷を引きずりながらやり過ごす日々を送っていた。
そして彼には恋愛に尻込みするもう一つの理由があった。それは、誰にも知られたくない自身の“秘密”にコンプレックスを抱えていることだ。
そんな矢添は、自身が執筆する恋愛小説の主人公に自分自身を投影することで「精神的な愛の可能性」を探求していた。
ところがある日、画廊で運命的に出会った大学生の瀬川紀子(咲耶)と彼女の粗相をきっかけに奇妙な情事へと至り、矢添の日常と心が揺れ始める。

出演:綾野剛
咲耶 岬あかり 吉岡睦雄 MINAMO 原一男 / 柄本佑 / 宮下順子 田中麗奈
脚本・監督:荒井晴彦
原作:吉行淳之介「星と月は天の穴」(講談社文芸文庫)
エグゼクティブプロデューサー:小西啓介
プロデューサー:清水真由美 田辺隆史
ラインプロデューサー:金森保
助監督:竹田正明
撮影:川上皓市 新家子美穂
照明:川井稔 録音:深田晃 美術:原田恭明 装飾:寺尾淳 編集:洲﨑千恵子
衣裳デザイン:小笠原吉恵 ヘアメイク:永江三千子
インティマシーコーディネーター:西山ももこ
制作担当:刈屋真 キャスティングプロデューサー:杉野剛
音楽:下田逸郎
主題歌:松井文「いちどだけ」他
写真:野村佐紀子 松山仁
アソシエイトプロデューサー:諸田創
製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:キリシマ一九四五
制作協力:メディアミックス・ジャパン
レイティング:R18+ 上映尺:122分
©2025「星と月は天の穴」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/hoshitsuki_film/
公式X:https://x.com/hoshitsuki_film

予告編

YouTube player

2025年12月19日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー

映画『星と月は天の穴』

ポスタービジュアル

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA