最優秀女優賞・河合優実「それだけが自分の仕事だと思っている」第16回TAMA映画賞授賞式【完全フォトレポート】
2024年11月30日、パルテノン多摩大ホールにて、第16回TAMA映画賞授賞式が行われた。本記事は、そのうち、最優秀女優賞を受賞した俳優・河合優実(『ナミビアの砂漠』『あんのこと』『ルックバック』『四月になれば彼女は』)の受賞スピーチを特集。
受賞スピーチ【完全】レポート
河合優実
素敵な賞をほんとうにありがとうございます。今、舞台袖で皆さんの受賞スピーチを見ていて、いろんな人の努力、歴史、作品とかそういうものを讃えるとてもいい映画祭だなと感じました。TAMA映画祭にはすごく感謝しています。ありがとうございます。
今年公開された作品については、どの現場も、できればこの先もこのように映画を作りたいなと思えるような、人の探究心や信念をたくさん見ることができて、キャスト、スタッフの皆さんに心より感謝申し上げたいですし、皆さんのことをすごく誇りに思っていることを伝えたいです。
あとひとつ、この場を神聖な場所だと信じて言及したいことがあるんですけど、私が感謝したい人の中に、もうこの世界にいない人がいて、その人のおかげで作れた映画がひとつありました。ほんとうはいただいたトロフィーを見せに行って「ありがとう」という言葉を伝えたいんですけど、この場を借りて伝えさせていただきたいと思います。ほんとにありがとうございました。
‐河合さんは、2022年に新進女優賞を受賞されて、2年ぶりにTAMA映画賞に帰ってきていただきました。今年は5作品、劇場公開されて、テレビドラマでも話題となって大活躍の1年となりました。その中で特に印象に残ったことは?
河合優実
ほんとうにたくさんのことがあった1年だったんですけど、カンヌ映画祭に行かせてもらって、その時に今まで自分がやってきた作品や、今年日本で公開されたいくつかの作品をちゃんと観てくれている海外の方々に出会って、自分の見えない人にも届いているんだなということをすごく実感しました。
‐映画祭のパンフレットにいただいたコメントに「今年はいくつかの奇跡的な出会いに恵まれました」とありますが、どのような出会いだったのでしょう?
河合優実
今年公開されたいくつかの作品で、自分の心に残っていくような、特別なものづくりの場に立ち会えたことがすごく多くて、それが嬉しいなと思っています。
‐ここで、『ナミビアの砂漠』の山中瑶子監督、『ルックバック』の押山清高監督にもご登壇いただきます。まずは押山監督。『ルックバック』はオーディションだったということですが、河合さんをキャスティングされた決め手は?
押山清高監督
最初、テープオーディションという形を取りまして、声優さん、俳優さんと100人以上の声を聞かせていただきました。『ルックバック』の主役の藤野はすごく難しい役ということもあって、オーディションはすごく悩むかなと思っていたんですが、河合さんの一言目を聞いたときに、この子だ!って僕の中ではすぐに決まりました。こんなに簡単なオーディションはあるのかっていうぐらい、すんなり決まってしまいました。
‐河合さんにとってオーディションはいかがでしたか?
河合優実
もちろん、決めてもらえるかまったくわからなかったですし、テープオーディションのときからも、藤野と京本のどちらの声も出していて、そのあとアフレコをするときも、どっちもやったりとかで、一体どう見られているんだろう?というのは最後まで予測できていませんでした(笑)
‐今の押山監督の話を聞いていかがですか?
河合優実
すごく嬉しいことです。オーディションが決まってからですが、押山さんからアニメーション映像が送られてきて、ものすごく感動したので、参加させてもらえてほんとうに良かったなと思っています。
‐押山監督にとって、河合さんの声のお芝居で一番印象に残ったところは?
押山清高監督
その前にまず、役者としての河合さんが初めて声優に挑戦されるにあたって、今までとはやり方が全然違ったと思うんです。というのも、声を吹き込む前に、未完成とはいえ、登場人物の表情を見ることになります。そういうある種形にはめられた状態からのスタートなんですね。そういう中で最適なパフォーマンスをするというのは、声優にとっての難しさなんですが、河合さんはいきなり上手くて、ディレクションする側の不安をふっ飛ばしてくれたというのがまずありました。
そういう中で、一番印象に残ったことを選ぶのは難しいんですが、強いてひとつあげるとすれば、クライマックスで、2人の少女の青春を回想する場面があるんです。最初音楽を流していて、それが終わったときに藤野が涙を流しているという場面。
アフレコでも音楽を聞いてもらって、その流れで藤野の涙のシーンを演技してもらうことにしていたんですが、アフレコブースの中に河合さんが入っていて、僕はチェックする側なので別の部屋にいるために、河合さんの演技している表情や姿はちゃんとは見えないんです。でも、声が本当に泣いているなって思って、たぶん本当に泣かれていたと思うんですけど、鼻をすすってちゃんと泣いてくれていた。
およそ3分くらいの音楽の映像のあとに、既にストーリーの中で、藤野自身になりきって、作品を理解してくださって、演技をされていたんだなと思ったら、すごいプロフェッショナルを感じて感動しました。
‐今の押山監督の話を受けて、河合さんはどのように感じられていますか?
河合優実
その時のことを覚えていますし、私は反対に、3分はけっこう長いので、スムーズに進めようと思ったらやらなくてもいい工程だったし、それを演技やお芝居ということに思い入れと経緯を持ってくれて、最初から流して見せてくれたことに、すごく丁寧さを感じて、本当に心が動いてました。私は逆に押山さんのチームに感動していました。
‐さて、山中監督。6年前、まだ俳優になる前の高校生だった河合さんから「いつか出演させてください」と手紙をいただいたことが、『ナミビアの砂漠』を撮るきっかけになったと伺ったんですが、当時の印象はいかがでしたか?
山中瑶子監督
その時の光景はとてもよく覚えていて、眼差しの鋭い、勝ち気な目をした子が来たなと思って、高校生特有の万能感とか、ちょっと無双感みたいなものを感じて、3年ぐらい前の自分を思い出して懐かしくもあり、とても印象に残りました。
‐河合さんは振り返ってみていかがですか?
河合優実
非常に恥ずかしいです(笑)それでもやっぱり、その恥ずかしい行動をしなかったら、『ナミビアの砂漠』はできていなかったので、あの時は必要だったパワーなのかなと思います。
(客席から大きな笑い声)
河合優実
めっちゃ笑ってる(笑)
(会場笑)
‐すごい笑い声があがりましたね(笑)さて、『ナミビアの砂漠』の現場で、イメージを超える場面がいくつもあったと伺っています。どのようなシーンだったのでしょう?
山中瑶子監督
先ほど、押山監督がおっしゃっていたように、河合さんは声のお芝居というか、使い分けが素晴らしくて、私も本読みの段階から、本読みの第一声から「カナだ!これでもう大丈夫だ!」って確信しました。
撮影初日に最初に撮ったのは、寛一郎さん演じるホンダがハンバーグをこねていて、河合さんが手伝わずにベッドでアイコスを吸っているシーン。そこで、河合さんがアイコスを吸うのを止めてキッチンに向かってくださいという動線を言ったとき、河合さんが口でアイコスを捨てる所作がすごすぎて、このシーンを撮り終わった直後、まだ初日なのに私が堪らず「これは傑作になるぞ!」って言って、すごく拍子抜けされてましたよね?(笑)「大丈夫か?」みたいな(笑)
河合優実
カットをかけたあと、「これは傑作になっちゃうぞ~」って言いながら現場に走ってらして(笑)
私もすごくいい映画になるのかなって思いました(笑)
‐そのシーンは河合さんはどういう想いで役作りをされていたんですか?
河合優実
いえ、言われるまではまったく重要なことではなかったんですけど、アイコスを吸ったことはなかったけど、吸ってる人は歯で吸い殻を外したりするのかなみたいな想像を肉付けしていくことは好きなので、そういうことの一貫でした。
‐河合さん、最後に今後の抱負や映画のご予定があればお願いします。
河合優実
先ほど、山中さんの受賞スピーチで私が思っていることと同じことをおっしゃっていてビックリしたんですけど、ガザで今起きていることとか、ウクライナでまだ続いていることとか、それ以外の国でもまだ光があたっていないことがたくさんあって、やっぱりどう考えても、痛みみたいなことが溢れ続けていると私は感じているので、そういう世界で、自分がものを作っているということが、世界に対して一体どういう働きかけになっているのかということを考え続けていたいし、大きく言うと、そいうことだけが自分の仕事だと思っているので、そういう仕事を続けていきたいと思っています。
■フォトギャラリー
[記事・写真:三平准太郎]
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