緑のざわめき

【インタビュー】松井玲奈「表に出る人間と、それを応援する人間の両方の気持ち」

福岡、佐賀を舞台に、3人の異母姉妹が織りなす物語を描いた『緑のざわめき』で主演を務めた松井玲奈に、本作の撮影エピソードや、松井玲奈自身の最近のできごとなどについて話を聞いた。

本作では、東京から生まれ故郷のある九州に移住しようと福岡にやってくる主人公・小山田響子役を松井玲奈が演じる。
響子の異母妹であり、彼女をストーカーする菜穂子役を、『mellow』でヒロインを演じた岡崎紗絵、同じく響子の異母妹で佐賀の集落に暮らす少女・杏奈役を、オムニバス映画『21世紀の女の子』でも夏都とタッグを組んだ倉島颯良が演じる。

松井玲奈 インタビュー&撮り下ろしフォト

■観る人によって感じ方が様々になりそうな不思議な物語

‐本作出演のきっかけについて教えてください。

松井玲奈(小山田響子 役)
夏都愛未監督が私と同年代で頑張っていらっしゃるのが嬉しいのと、夏都監督が描きたい物語に力強さがあって、一緒に作品を作ってみたいと思ったのがきっかけです。

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松井玲奈

‐脚本を最初に読まれたときの印象は?

松井玲奈
観る人によって感じ方が様々になりそうな不思議な物語だなと思いました。
夏都監督がおっしゃっていた“ファミリーツリー”という、すべての人々がひとつの木から派生していくこと。この物語では3姉妹が同じ葉脈の栞(しおり)を持っているように、みんなどこかで繋がっているという人と人の関わりについて監督がお話をされているのを聞いて、腑に落ちる所がありました。
多くの言葉や、決してわかりやすい表現で伝えないけれども、映画を観る人にさまざまなことを感じてもらうことができる素敵な作品だなと思いました。

‐なるほど、劇中に登場する葉脈の栞にはそういう意味も込められているんですね。

松井玲奈
そうです。キーアイテムになっています。

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場面写真 葉脈のしおり (C)S・D・P

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■歩んできた人生が全く違う

‐“小山田響子”というキャラクターについて、ご自身の似ているところがほとんど無いとコメントされていますが、役作りはどうされましたか?

松井玲奈
歩んできた人生が全く違うので、彼女の境遇や感情をわかろうとするのはとても難しいなと思いました。
でも脚本の中から紐解いていって、友だちのように、彼女に寄り添って理解することはできるなと思ったので、そういう気持ちで脚本と向き合うことにしました。
そうして、撮影現場に行って、姉妹役の2人(岡崎紗絵、倉島颯良)と対峙したときに感じた気持ちをそのまま表現するというアプローチをしました。

緑のざわめき

場面写真 (C)S・D・P

‐共演者で印象に残っていることは?

松井玲奈
佐賀の家にいるときに、岡崎紗絵さん演じる菜穂子が忍び込んでくるシーンがとても印象的でした。
最初の設定では、響子は菜穂子の強い想いと突然の行動に対してそれほど拒否反応を示さないということになっていたんですが、いざやってみると、やはり響子にとって受け入れ難い部分が多いなと感じて、杏奈(演:倉島颯良)の話を切り出したのも、敢えて菜穂子を傷つけたいという衝動が出てきたからです。
ここは、リハーサルで実際にお芝居をしてみて出てきたところで、夏都監督も採用してくれました。結果的にとてもエキサイティングなシーンになったと思います。

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場面写真:松井玲奈(響子)/岡崎紗絵(菜穂子) (C)S・D・P

‐このシーンでは岡崎さんもかなり感情的になっていますが、これは最初から決まっていた?

松井玲奈
決まっていましたが、岡崎さんが持ってこられたプランです。見つかってしまうという怖さから出来てきた感情表現です。

‐一方で、杏奈役の倉島颯良さんとの共演はいかがでしたか?

松井玲奈
守ってあげたくなるような、妹みたいに可愛らしい子です。
「本が好き」というお互いの共通点があるので、お互いが思う面白い本を教え合ったりしていました。

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倉島颯良(杏奈) (C)S・D・P

‐響子の元カレ・宗太郎役の草川直弥さん(ONE N’ ONLY)は、舞台挨拶で「チャラい役をやりました」と話されてましたが、草川さん自身はどんな方でしたか?

松井玲奈
チャラくはないですけれど(笑)、明るくてはつらつとした方だなと思いました。

『緑のざわめき』完成披露舞台挨拶

草川直弥(ONE N’ ONLY)8月6日・完成披露舞台挨拶

■嬉野の方言はやりやすかった

‐ロケは九州だったそうですが、撮影で印象に残っていることは?

松井玲奈
佐賀での撮影が多かったんですけれど、武雄市にあった図書館が大きくてとても綺麗で、撮影の合間にはよくそこにいました。この図書館は劇中にも登場します。

‐ご自身の著書も置いてあったとか?

松井玲奈
はい、ありました!「カモフラージュ」とか全部あったと思います。

‐佐賀県嬉野の方言のセリフについて、違和感なくすんなりできたそうですが、その理由は?

松井玲奈
私の地元の言葉(愛知県三河弁)と、音の上がり下がりなどのイントネーションが似ているなと思ったからです。
もちろん、現場で直していただくこともありましたが、方言のセリフって音を間違えないようにするっていう意識がどこかにあるんですけれど、今回はそういうこともなく、しゃべることができていたので、(三河弁と)近しいものがあるのかなと感じていました。

‐では、方言のセリフとしてはこれまででは一番やりやすかった?

松井玲奈
一番やりやすかったのは、もちろん、朝ドラ「エール」で地元の方言でのセリフでした(笑)
何のストレスも無いどころか、「このセリフの方言は違います」って言って変えてもらうこともありました。

‐逆に難しいなって思う方言は?

松井玲奈
関西弁です。舞台で関西弁をやったときが一番大変でした。長いセリフも全部関西弁なので、セリフを覚えることと、関西弁のイントネーションを覚えることが重なるからです。気持ちがグッと上がるとイントネーションが変わってしまうこともあるんですが、大阪公演で関西弁でやらないといけないというのは、すごい緊張感でした。

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■夏都監督はおもしろい方

‐オムニバス映画『21世紀の女の子』では、作品は別でしたが、今回、夏都愛未監督と直接関わられてみて、監督の印象と、監督からはどういう演出がありましたか?

松井玲奈
ご自分で書いた脚本のご自分の作品なんですけれど、わからないことはわからないって言ってくれるんです。そこがおもしろい方だなと思いました。
「今からこのシーンを撮ろうと思います。でも、私はまだこのシーンについてわかっていないんです。」っておっしゃって、わかんないんだ!?っていう戸惑いもあるんですけれど(笑)、でも一度そのシーンをやることで何かが見えたりとか、このシーンはこう撮りたいというのが決まるともう、突き抜けたようにそこに向かっていくんです。「これはこれがほしい」「こう撮りたいんです!」って。そういうときは、表現したいものがすごく明快なので、そのモードになると、とても頼もしくてかっこいい方に感じます。

‐トライ&エラーというか、試行錯誤しながら進めていく側面もあるということでしょうか?

松井玲奈
その試行錯誤のために、撮影に入る前にリハーサルを入念にしていました。
それが一番多かったのが、先ほどお話した、菜穂子が響子の家に忍び込んでくるシーンでした。このシーンは監督もどう撮るかを悩まれていたので、かなりリハーサルを繰り返して、いろんなパターンを試しながら出来上がったシーンです。

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■4年ぶりのリアル・ファンクラブイベント

‐7月に久しぶりにファンの方との誕生日イベントがありましたが、どうでしたか?

松井玲奈
(コロナ禍もあったので)4年ぶりにリアルにファンクラブイベントを開催できたので、普段応援していただいている皆さんに、「ありがとう」という感謝の気持を伝えることができました。
日本では、誕生日にはお祝いしてもらうという感覚ですが、海外では逆に感謝を伝える習慣があるというのを聞いたので、ファンの皆さんに感謝を伝えるというイベントでもあり、プレゼント企画とか一緒に過ごす時間を多く作ったイベントでした。

‐ファンの皆さんの反応はいかがでしたか?

松井玲奈
皆さん、とても楽しんでくれていました。そういう中で嬉しかったのが、「小学生の頃からずっと応援していますが、その頃は会いに行けませんでした。今、大人になって自分のお金でイベントに参加できるようになって初めて会うことができました!」というようなことを手紙に書いてくださったファンの方が何人もいたことです。長く続けてきて良かったなと思いました。

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■表に出る人間と、それを応援する人間の両方の気持ちがわかる

‐最近、「アイドリッシュセブン」情報のことをよくSNSで投稿されていますが、このゲーム・アニメのどういうところに魅力を感じられていますか?

松井玲奈
プレイヤーはマネージャーとなって、アイドルグループと一緒に活動していくという内容なんですが、表に出る人間の葛藤がすごくうまく描かれているんです。
出る側も応援する側もそうなんですけれど、やっぱり人気が上がってくればくるほど、メンバーそれぞれの印象が人によって違っていきます。元気な○○くん、頼りないところも可愛い○○くん、歌っているところがかっこいい○○くんなど、みんなそれぞれの“好き”があって、だんだんそれに「応えなきゃ」ってなってくる。
最初は、ひとつふたつだったから応えられたものが、それが何百って増えていったら、「本当の自分って何なんだ?」「誰かに嫌われちゃったらどうしよう?」というような、だんだん応えられなくなってパンクしちゃうという出る側の人間の気持ち。
それに対して、「あのメンバーの子は嫌いだよ」って言っちゃうファンがいたり、すべてがリアルなんです。
私自身がアイドル活動をしていたので出る側の気持ちは当然わかるし、元々女の子のアイドルが好きだったのもあるので、ファンの気持ち、何かを応援する側の気持ちもわかるんです。
「アイドリッシュセブン」は、その両方の気持ちがリアルに描かれていますし、さらに言えば、(ゲームとアニメの)メディアミックスだったり、プロモーションの展開の仕方も、実在する場所で撮影したりするので、応援する側にとってもリアルな存在を感じられるんです。エンターテイメントとしてとてもよくできた素晴らしいコンテンツだなと思っています。

‐『緑のざわめき』含めて、出演作品が目白押しの松井さんですが、そういう忙しい中、最近のオフの日の好きな過ごし方を教えてください。

松井玲奈
大好きなスイーツがあって、それを月に1回食べに行くことをモチベーションにして頑張っています!

‐ちなみにそれは?

松井玲奈
ティラミスなんですけれど、毎月味が変わるティラミスを提供してくれるお店があって、来月は何の味だろう?とか考えるのが楽しみでもあるし、それを食べると今月も頑張ろう!とか、今月も頑張ったなっていう気持ちになれるんです。

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■周りで起きていることを受け止めていくことで物語が進んでいく

‐松井さんが演じられた役の観点からこの作品の見どころを語るとすれば?

松井玲奈
その観点では逆に無いんです。作品の主人公にはいろんなタイプがありますが、たとえば「ONE PIECE」のルフィのように自分から進んでいって物語を動かすタイプと、対比が極端ですけれど、本作の響子みたいに、周りで起きていることを受け止めていくことで物語が進んでいくというタイプがいて、すなわち響子は“静”の主人公なんです。
響子が何かをするというよりは、その周りに見せ場がたくさんあるんです。なので、私が演じる響子のここを観てくださいというのは無いんですが、ただ、映画を観てくださる方の驚きと、響子の驚きがリンクする部分は多いはずなので、そこが一緒になっていればいいのかなと思います。私自身もそういう想いで演じていました。

‐作品全体としての見どころはいかがでしょうか?

松井玲奈
夏都監督が特に伝えたい部分は寄りのショットになっていて、ここをわかってもらいたいんだなというのがはっきりしているんですが、一方で引きのショットも多くて、それは引きだからこそ相手の表情がよく見えなかったりして、例えば、杏奈と叔母さんが玄関で対峙しているシーンは、叔母さんが怒っているのはわかるけれど、彼女の表情はよく見えない。それによって、映画を観る人が、どんな表情をしているんだろう?という考える余白ができます。その受け取り方って観る人によってそれぞれ違うっていうのが、この作品の面白いところだなと思います。引いているからこそ感じられる、それぞれの感情の機微というものに注目して観てもらいたいなと思います。

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松井玲奈(まつい れな)プロフィール
1991年7月27日生まれ。愛知県出身。
2008年デビュー。主な出演作は、『よだかの片想い』(安川有果監督)、『幕が下りたら会いましょう』(前田聖来監督)、NHK連続テレビ小説「まんぷく」、「エール」、NHK大河ドラマ「どうする家康」、舞台『ミナト町純情オセロ ~月がとっても慕情篇~』(いのうえひでのり演出)等。放送中のテレビ東京系「やわ男とカタ子」ではヒロインを演じる。

■撮り下ろしフォトギャラリー

[ヘアメイク:藤原玲子/スタイリスト:鼻先さや(DRAGONFRUIT)/インタビュー・写真:三平准太郎]


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映画『緑のざわめき』

きっと全部、自分に折り合いをつけるための旅
生き別れた異母姉妹が手を取り合って、自らの力で居場所を切り開いていく姿を描く

《INTRODUCTION》
第14回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門に正式出品された、福岡、佐賀を舞台に、3人の異母姉妹が織りなす物語を描いた『緑のざわめき』。本作は、新鋭・夏都愛未監督(『浜辺のゲーム』)が、大江健三郎や中上健次の文學にインスパイアされ、葉脈と血の繋がり、ファミリーツリー、性と聖の繋がりをテーマに描くオリジナル作品。3人の異母姉妹に、元カレ、女子会メンバーらが交わり、物語は思いもよらない方向へと進んでいく…
女優を辞め、東京から生まれ故郷のある九州に移住しようと福岡にやってくる主人公・小山田響子役で、主演映画『よだかの片想い』や、 NHK大河ドラマ「どうする家康」でのお万役でも存在感を示した松井玲奈が出演。響子の異母妹であり、彼女をストーカーする菜穂子役を、『mellow』でヒロインを演じた岡崎紗絵、同じく響子の異母妹で佐賀の集落に暮らす少女・杏奈役を、オムニバス映画『21世紀の女の子』でも夏都とタッグを組んだ倉島颯良が演じる。
その他、響子の元カレ・宗太郎にダンス&ボーカルユニット「ONE N’ ONLY」のRAP&ダンサーの草川直弥、菜穂子の友人・絵里に『忌怪島/きかいじま』での熱演も記憶に新しい川添野愛、響子の親友・保奈美に『蒲田前奏曲』の松林うらら、杏奈に思いを寄せる透に『草の響き』の林裕太、村に住む長老にカトウシンスケ、杏奈の伯母・芙美子に黒沢あすか等、フレッシュな若手や実力派が集結した。

《STORY》
過去の痴漢被害のトラウマを抱えて生きてきた響子(松井玲奈)は、病を機に女優を辞め、東京から生まれ故郷のある九州に移住しようと福岡にやってきて、元カレの宗太郎(草川直弥)と再会する。
異母姉の響子と繋がりたいと、彼女をストーカーする菜穂子(岡崎紗絵)は、異母姉妹ということは隠し、響子と知り合いに。
施設に預けられていて、8年前から佐賀県嬉野で叔母の芙美子(黒沢あすか)と暮らす高校3年生の杏奈(倉島颯良)は、自分宛の手紙を勝手に読んだ叔母に不信感を募らせていた。「まずは話してみませんか?」という支援センターの広告を見て、身元もわからない菜穂子からの電話に、悩みを打ち明け始める。同じ頃、杏奈に思いを寄せる透(林裕太)は、杏奈とうまくいくよう、集落の長老・コガ爺(カトウシンスケ)に相談しに行っていた…
就職活動がうまくいかない中、 地元・嬉野に戻り、親友の保奈美(松林うらら)に就職の相談をする響子は、ひょんなことから自分と杏奈が異母姉妹ということを知ってしまう。菜穂子は、宗太郎に恋焦がれる絵里(川添野愛)等いつもの女子会メンバーとの旅先を嬉野に決め…

出演:松井玲奈 岡崎紗絵 倉島颯良
草川直弥(ONE N’ ONLY) 川添野愛 松林うらら 林裕太
カトウシンスケ 黒沢あすか

監督・脚本:夏都愛未
プロデューサー:杉山晴香 / 江守徹
撮影:村松良  照明:加藤大輝  音楽:渡辺雄司
配給:S・D・P  製作:「緑のざわめき」製作委員会
2023年/日本/カラー/4:3/Stereo/115分 ©Saga Saga Film Partners
文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業
公式サイト:https://midorinozawameki.com/

2023年9月1日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

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