のん監督「鋭さと可愛いもの。相反する魅力がぶつかる時にパワーを感じる」映画『Ribbon』日本外国特派員協会記者会見
2022年2月7日、FCCJ会場(東京都千代田区丸の内)にて、映画『Ribbon』の日本外国特派員協会記者会見が行われ、のん 監督(主演・脚本)が登壇。海外メディアの方々による試写鑑賞後の質問に応じた。
日本外国特派員協会(FCCJ)は、1945年、太平洋戦争の終戦に伴い日本に着任した、新聞社、通信社、雑誌社、ラジオ局に勤務するジャーナリストたちや写真家たちによって創立された。日本だけなく、アジアでのニュースを発信し続け、これまで、国内外の首相、大統領をはじめとした政治家、企業人、さらに芸術、文化、スポーツといった分野の、国際的な著名人が当協会を訪れ、会見を行っている。
丸の内にある会場に訪れると、これまで行われた錚々たる著名人の会見風景の写真が廊下の壁に飾ってあり、たとえば今、北京2022冬季五輪にも出場している羽生結弦選手の写真もある。
なお、次からの会見レポートの最後に、取材を終えての所感も記述した。
会見レポート
まず、司会のキャレン・セバンズ氏が、のん監督を会場に呼び込み、のん監督が、NHK朝ドラ「あまちゃん」の出演や、『私をくいとめて』では、東京国際映画祭で観客賞を受賞したと、簡単なプロフィールを英語で紹介。
同氏含めて質問したのは海外メディアの記者でほとんどが英語で質問。それを今井美穂子氏が通訳する形で質疑が進行した。
■美大生の苦悩を知って衝撃を受けた
キャレン・セバンズ氏(日本外国特派員協会 映画委員会 委員長)
コロナ禍が始まってから2年あまり、コロナ関連をテーマにした作品が出てくるのかなと思いきやなかなかそういう作品が見当たらない中、映画『Ribbon』では直接それが描かれています。のん監督のその決断はどこから来たのでしょうか?
のん監督
私がこの話を書き始めたのがまさにコロナ禍が始まった時期でした。なので、自然と自分の中でそういう気持ちが芽生えてきていたのです。
主人公の“いつか”という女の子については、何をしてる女の子にしようかなと考えた時に、私がとても美大に憧れがあったので、コロナ禍で美大生の方はどうされてたんだろうと調べていくうちに、1年かけて作った自分の作品がゴミのように思えてしまったっていうインタビューを見つけたんです。それにすごく衝撃を受けて、これを書かなきゃいけないと作品の物語が定まっていきました。
キャレン・セバンズ氏
“いつか”というキャラクターはとてもリアリティがあって非常に見入ってしまいます。このキャラクターには、幾分か自伝的な要素も入っているのかなとお見受けするわけですが、美大生に憧れていらしたとはいえ、のん監督ご自身もいろいろな活動をされている中で、少なからず(のん監督自身のキャラクターの)影響を受けていらっしゃる部分はありますか?
のん監督
私も“いつか”みたいに、自粛期間中に、おうちの中で寝ては起きてという生活をしていました。そういう部分は取り入れています。
あと、“いつか”の持ってるモヤモヤとか悔しさっていうのは、まさに自分が(美大生の方々に)共感した部分を描いてます。私は、コロナ禍が始まった時期に自分主催の音楽フェスを予定してたんですけど、第一波が来て中止にしたことがあって、その時の悔しさが美大生の方の卒業制作展ができなくて悔しかった想いに共鳴したからです。
そして、“いつか”はおうちの中でよく怪我をするんですけど、それはまさに自分のコロナ禍の生活でした(笑)
おうちの中でずっと過ごしてると、注意力散漫になって危機管理能力が低下するのか、よく怪我をするようになって、それも作品に取り入れてます(笑)
■スタッフには視覚的に伝えた
マーク・シリング記者(The Japan Times)
この作品は、Ribbonを登場させているシーンがとても印象的で、かといってメッセージ的にわかりやすくしすぎることは避けていて、とても繊細に描かれています。このイメージをどのようにしてスタッフ、あるいはそのCGを手がけているアーティストに伝えたのでしょうか?
のん監督
Ribbonは、“いつか”の口に出せないようなモヤモヤした感情や、片付けられないようなゴチャっとした感情を表現しています。
脚本の段階だと、「Ribbonが出てくる」とは書いてあるけど、どのぐらいのファンタジーな表現なのか、それは照明が変わるのか、場面が様変わりするのかとか、具体的なイメ―ジがわかりません。
スタッフの皆さんに伝える方法として、とにかく資料を集めて、自分でも絵を描いてみて、その上にRibbonを貼り付けて、色合いや、見え方などを視覚的にわかるようにしました。そして「普通の風景の中に違和感がある。そういう映像にしたい」というイメージも伝えました。
■奈良美智さんに弟子にしてやるって言われました
ジャン・ユン・カマン記者
のん監督自身は美術大学へ通われたことはないそうですが、美術、あるいは絵画等についてどういった勉強をされたのでしょう?そしてどういった経験を踏んで、このような活動をするに至ったのでしょうか?
のん監督
私は、ずっと絵を描くのは好きだったんですけど、高校生の時から絵を描くことにのめり込んでいきました。
美大生の方がどういう勉強をされているのかを調べた時に、デッサンをたくさん描くということを知ったので、自分なりにたくさんデッサンを描いて、自分の好きなものなどから影響を受けて絵を描いています。とにかく描き続けていました。
高校を卒業する年に、美大に行きたいなっていう憧れがあったので、美大のオープンキャンパスに行ってデッサンの授業に参加したりしていました。
あと、奈良美智さんに教えていただきながら絵を描くという雑誌の企画があって、奈良さんに見ていただきながら絵を描いたことが一度だけあるんですけど、その時に奈良さんに弟子にしてやるって言っていただけました(笑)
(会場笑)
■鋭さと可愛いもの。相反する魅力がぶつかる時にパワーを感じる
チャン記者
中国語ライターのチャンです。上海出身です。昨年、上海国際映画祭のGALA部門で『Ribbon』が上映されて大反響でした。おめでとうございます。
のん監督
ありがとうございます。
チャン記者
美術にはいろんな形がある中で、この作品でRibbonをアートの素材として選んだ理由について教えてください。
のん監督
Ribbonは私の中で大好きなモチーフで、昨年も自分がアートを作る上でRibbonをモチーフにした作品を集中的に作ってました。
Ribbonと言うと、ふつうは可愛いというイメージですが、私は、Ribbonが怖いものだったり、今回の映画で言うとモヤモヤしてたり怒ってるRibbonだったりと、また違う魅力になって出てくるのがすごくいいなと思っています。
一見、不気味に見えたりとか、このRibbonがたくさん集まってると、遠くから見るとゴミみたいに見えるかもしれないけど、光の当たり方だったりとか、近くで見たらアートになる。そのように見方によって違って見えるモチーフだと思っていて、そこがすごく好きです。
私は、宇野亜喜良さんという方の絵が大好きなんですけど、宇野さんの絵は、こっちを睨みつけてる女の子や、鋭い目線のエロティックでセクシーな女性など、Ribbonで可愛く着飾ってて、鋭さと可愛いものがぶつかっている、その相反するように見える魅力がぶつかっている時に、すごいパワーを感じます。
なので今回もRibbonが悔しそうに見えたり、怒ってるように見えたり、一見ゴミみたいに見えるんだけど、美しくも見えるっていうそういうものになるのを期待してRibbonをモチーフとしました。
美大生の方が、自分の作った作品がゴミのように思えてしまったっていう、一瞬にして自分でそう見えてしまう悲しさにとても衝撃を受けてたので、今回の作品では、Ribbonという可愛いものの象徴が負の感情として表れるという役割を期待しました。
チャン記者
エンドロールでたくさんのRibbon応援隊の方々の名前がありましたが、彼らはどういう形で協力したのでしょうか?
のん監督
Ribbon応援隊は、私のファンの方々にRibbonを結ぶご協力を募って、応募してくださった皆さんにRibbonを結んでもらいました。ラストの重要なシーンでRibbonが連なってる一つ一つが皆さんに手伝って結んでもらったRibbonになっています。
■本気にしますよ!?
ノーマン記者
素晴らしい作品ありがとうございました。ネガティブなことを体現したものとしてRibbonを使っていらっしゃるというお話でしたけれども、劇中に登場するRibbonアートは本当に美しくて、主演女優と同じぐらい美しいと思って観ていました。
(会場笑)
ノーマン記者
私は実はギャラリーを運営しておりまして、今年で50周年を迎えるんですが、ぜひのん監督の作品を展示させていただければと思うのですが、いかがでしょう?たとえば、Ribbonをモチーフにされている作品を集めていただけますか?
もしそれが実現したらのん監督を日本のRibbonクイーンにでもしてさし上げましょう。これは冗談ですが(笑)
のん監督
とても嬉しいですしありがたいです。もし本当に実現するんだったら是非よろしくお願いします。(ちょっとワルイちゃんな表情になって)本気にしますよ!?
■のん監督のクリエイティビティの背中を押すもの
キャレン・セバンズ氏
“いつか”が、とある人物に励まされる描写がありますが、監督ご自身の今の活動の背中を押してくれた人はいましたか?
のん監督
まず、今一緒に仕事をしてくださってるチームのスタッフは私のことをとても支えてくれています。自分のチームはとても大事に思っていますし、私の活動を受け止めて一緒に頑張ってくれています。
また、私が映画を撮る前のことですが、映画の自主制作をしている友だちがいて、その撮影に1日だけ参加したことがあるんです。私は音声レコーダーを首から下げて、両手でマイクブーム(=ガンマイクを付けた長いポール)を持ち上げて音を録る音声さんをやったことがあるんです。
それがもう本当に夢みたいに、自分の中の青春として色濃く残っていて、その時の友だちが私が脚本を書いたら絶対面白いと思うからひとつ書いてみてほしいって言ってくれたことがあって、その時はちょっといやあっていう感じで、半信半疑で嬉しいだけだったんですけど、その言葉が私の中で強く残っていて、今、こうして自分が脚本を書いて映画を撮ることに繋がっています。
■岩井俊二監督からの影響
キャレン・セバンズ氏
では最後の質問をお願いします。
男性記者
この作品は、冒頭から色使いや光の使い方が岩井俊二監督の『undo』(1994)のようなビジュアルになっていると感じました。やはり岩井監督にインスパイアされたものなのでしょうか?
のん監督
私は、岩井監督の映画はすごく大好きです。特に『花とアリス』(2004/鈴木杏、蒼井優)が大好きで、女の子が良い子じゃないところがすごく好きです。ワルイ子たちが、そういう性格ゆえに失敗をしたり、面白いことが起きたり、そういう女の子が描かれているところにとてもキュンとします。
そして、『undo』についてですが、この話が本当かどうか証拠を示すことはできないんですが(笑)、この作品の脚本を書き始めた時は、まだ『undo』は観たことがなかったんです。
ただ、自分がRibbonが好きだっていうこともあったし、Ribbonを纏っている女の子の絵がまずイメージにあって、そして岩井監督の映像のイメージもありましたので、岩井監督作品を研究していく中で、『undo』に出会い、部屋の中が糸で絡まってるのがすごく印象的だと思ったんです。一見不気味なんだけど美しく見えるっていう点でその時すごく影響されました。
■最後にメッセージ
ここで、いったん会見はクローズしかけたが、のん監督自ら「最後にもうひとこといいですか?」と次のように力強く語った。
のん監督
この作品は、卒業制作展が中止になってしまった美大生の主人公“いつか”を中心に描いていますが、“いつか”のことは学生の皆さんの話でもあるし、世界中の皆さんのことでもあります。いまだにコロナ禍の状況が続いていて、ニュースで、感染者数のこと、命が脅かされてる方のこと、医療従事者の方の大変なことが報じられている中で、命には変えられないものだから、みんなそれぞれの苦悩を少なからず我慢してると思うんです。
いろんなルールが一気に決まって、それまでと同じ状況ではいられない。
その我慢がずっと解錠されずに続いてる気がしてて、その我慢を『Ribbon』が代わりに叫んでくれてる、吐き出してくれてる、そんな映画になってると思います。
なので、この映画を見てみんなの悔しさとかモヤモヤとかを晴らせるような、我慢が報われるような映画になったらと思いますので、たくさんの方に届いてほしいです。
キャレン・セバンズ氏
間違いなく我々観客として持ち帰れるのは、この作品の、そしてのん監督の非常に感染力の高いエネルギー、きっとできる!という希望です。それが是非若い人にもどんどん伝わっていければと思っています。
そして、次の作品を携えて、またFCCJにいらしていただきたいと思います。
のん監督
ありがとうございました!
■レポート後記
当メディアはこれまでいくつかの作品のFCCJでの会見を取材してきたが、MCのキャレン・セバンズ氏自身が何度も質問をする姿は、今回初めて見た。それだけ彼女自身にとっても、映画『Ribbon』のこと、そしてなによりのん監督自身のキャラクターについて強く惹かれているをのを感じた。
また、のん監督自身も淀みなく質問に対する回答を述べ、時に通訳者が省略した作品の固有名詞も、のん監督が元の英語質問から聞き取れた部分については拾って真摯に答えている姿が印象的だった。
■フォトギャラリー
[写真:金田一元/写真・記事:桜小路順]
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あらすじ
コロナ禍の2020 年。
いつか(のん)が通う美術大学でも、その影響は例外なく、卒業制作展が中止となった。
悲しむ間もなく、作品を持ち帰ることになったいつか。
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出演:のん 山下リオ 渡辺大知 小野花梨 春木みさよ 菅原大吉
脚本・監督:のん
製作統括:福田淳
エグゼクティブ・プロデューサー:宮川朋之
クリエイティブ スーパーバイザー:神崎将臣 滝沢充子
プロデューサー:中林千賀子
特撮:樋口真嗣
特撮プロデューサー:尾上克郎
音楽:ひぐちけい
主題歌:サンボマスター「ボクだけのもの」(Getting Better / Victor Entertainment)
企画:のん
配給:イオンエンターテイメント
制作プロダクション:ブースタープロジェクト
製作:日本映画専門チャンネル non スピーディ コミディア インクアンク
©︎「Ribbon」フィルムパートナーズ
作品公式サイト:https://www.ribbon-movie.com
のん公式サイト:https://nondesu.jp/
のん公式 YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCj4G2h4zOazW2wBnOPO_pkA
のん公式 Twitter:https://twitter.com/non_dayo_ne
2022年2月25日(金)よりテアトル新宿ほかロードショー!
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