伊東教授「のんさんの名前を出すと皆が明るくなるんです」のん監督登壇『Ribbon』東京藝大生限定試写会&トークイベント
2021年12月23日、東京藝術大学(台東区上野公園)にて、のん監督・主演映画『Ribbon』藝大生限定試写会&トークイベントが行われ、上映後、のん監督が登壇し、学生からの質問に答えた(ティーチイン形式)。
このイベントは、「【伊東順二特任教授 社会基盤としての芸術 特別講座】のん監督・主演映画『Ribbon』藝大生限定試写会&トークイベント」と題して、東京藝術大学在学生向け(学部問わず)に、受講生60名を募集したもの。東京藝術大学COI拠点文化外交・アートビジネスグループと「Ribbon」フィルムパートナーズが主催した。
本作は、コロナ禍により自らのアイデンティティを喪失する美大生を描いており、本イベントは、まさにその渦中にいる藝大生に先行上映という形で鑑賞いただき、その感想を伺い、そして質問に答えるという趣旨だ。
なお、映画『Ribbon』の一般公開は、2022年2月25日(金)。
特別講座トークイベントレポート
のん監督、伊東順二特任教授によるトークイベント(ティーチイン)は、映画上映後に行われた。
※映画本編ネタバレに触れる発言はカットしています。
■最初の挨拶
伊東順二特任教授
映画『Ribbon』を拝見して、なぜ藝大で上映した方がいいのかその理由がわかりました。私も学生に戻ったような気になりました。藝大の学生たちもまさしくその渦中にあります。
のんさんは美大にはいらっしゃらなかったそうですが、学生たちのフラストレーション、辛さがよく表現されていました。
美術は、何のために作るのか?と言われてもわからない。でも作る情熱はある。その情熱を騙すことができるのか?そういう命題が臨場感持って表現されているのを感じました。
のん監督
コロナ禍が始まった時、自分主催の音楽フェスを自分で中断の決意して、とても悔しく思いました。
それから自粛期間に入って、どんどん芸術やエンタメが不要不急のものとして扱われるようになっていく中、こうしちゃいられないと思って脚本を書き始めました。
おうち時間を過ごして、なんとなくやり過ごした人もそうでない人もいると思うんですけど、悔しさやモヤモヤをぜんぜん晴らせないままずっと続いている気がして、そういうのを取っ払う映画を作りたいと思ったからです。
■学生からの質問
Q1.『Ribbon』がコロナ禍の美大生に目を向けられた作品と知り、美術大学、藝大に通っている身としてとても嬉しく思います。飲食店や医療従事者の方々など、コロナ禍によって大変な思いを抱いている人々がたくさんいる中、美大生に目を向けた作品を作ったのは何かきっかけがあったのでしょうか?
のん監督
私自身がすごく(美大生の方々の置かれた境遇に)共感できたということがあります。
第一波が来て、自粛期間になって自分の仕事もほとんどが延期になったり中止になりました。ニュースでは感染者数が増え、命に関わる人が増え、飲食店の方たちの苦しさが毎日報道されていました。
そんな中で、映画、演劇、音楽のライブ、アート展なんかがやりづらい空気になって、同時に、そういうことに対して声を大にして悔しいと言うことは憚れる空気。自分のやっていることは確かに人の生命を救えない。
でも、私は芸術やエンタメの世界で生きているし、そういうものを見て私は形作られていることを改めて自覚することができて、必要なものだと強く思い至りました。
私は、美大生の方にすごく憧れを持っていたので、コロナ禍で美大生の方々はどうされていたのかなと調べているうちに、卒業制作展ができなくなって、1年かけて作った自分の作品がゴミのように思えてしまったというインタビューを見つけて、それに自分の悔しさが強く共鳴して、それで映画作品に残したいと思うようになりました。
伊東順二特任教授
ほんとにそういう気持ちを汲んでいただいた映画だと思います。私たちもアートワーク展をこれまでやってきましたが、それはワクチンのように直接病気を治すことはできなくても、芸術というのものは、心にワクチンを打つことができると思っています。そうでないと、芸術というのは意味が無い。その意味を探すためにも、このコロナ禍を耐える、その渦中を改めて思い知ることができたのは良い経験だったとも思います。
Q2.のんさんは、撮影中、監督と主演俳優とその2つをどのように両立していましたか?
のん監督
とても不思議な感じでした。がっつりと自分ばかりが出ている脚本を書いてしまったので、自分で演じて自分でカットをかけるということをしなくちゃいけなくて、その切替は大変でした。監督として、どういう絵を撮りたいかと頭を使っている時に、撮影に入っていきなり“いつか”(のん演じる主人公)の五感を動かさないといけないからです。
感情がエキサイトしているシーンで、 「ワーッ」って泣き叫んだ直後に、自分で「カット!」って言って映像を確認するのは、自作自演だなぁって思いながらやってました(笑)
私は、“のん”になってからアクティングコーチを雇っていて、今回は特に、監督から役に切り替える時にそれが助けになりました。
ハリウッドではすごくポピュラーな職業で、私はウィル・スミスさんや、ジェニファー・ロペスさんのアクティングコーチをされている方のワークショップに参加したことがあるんですけど、とても勉強になりました。このような、日本ではまだ新しいことを試みながらやっています。
Q3.映画制作にあたり、一番心躍ったことはなんでしょうか?
のん監督
自分がこう撮りたいとか、映像の色合いやトーン、構図を伝えたり、キャストの方にもこういうメッセージだということをその都度お話させていただいたりするんですけど、それを受けて、みんなが出してきたもののすべてがうまく歯車が噛み合って、これだ!っていう素晴らしい映像を撮れた時に「このために撮っているんだ」って幸せな気持ちになりました。
伊東順二特任教授
芸術って、感動のために生きているというところはありますよね。どんなに辛くて生活が大変でも。
僕がアートの仕事を始めたのは70年代の終わり頃からなんですが、金が無くて、みんな「なんのためにアートをやっているんだろう?」って思いながらも自分で描くことの感動を人にライブ感持って伝えたいという時代でした。
その後、アートブームとか言うものになって、作品にとんでもない価格がついたりして。でもそんなことは本来アートとは関係ない。
でも、今は、そんなお金のことよりも、自分が生きているという感動が大切にされる時代に戻りつつあるんじゃないかなと思ってますし、そうなってこそ、若い子たちが出る道があるんじゃないかと思います。
藝大には金の卵がいっぱいいると思うんだけど、金の卵がほんとうの金になるためには、自分で自分が金だと思わなきゃいけない。そういう瞬間を探してほしいと思います。
Q4.『この世界の片隅に』がとても好きで、何度も繰り返し観ました。今回、コロナ禍の美大生の役ということで、世界規模で起こっている社会的現象の中で生きる役という点が重なっているなと思いました。役を演じるにあたって、過去に演じた役から引き継いだことや、影響を受けたことがあれば聞いてみたいです。
のん監督
影響を受けた点で言うと、片渕須直監督からはたくさん勉強させていただきました。『この世界の片隅に』は自分がこれから役者人生を歩んでいく中でずっと残っていく作品だなと思っています。
役者のお仕事ってどんな役にも染まれるのが一人前という考え方もあると思いますが、私は、自分がやった役を背負っていきたいなと思っているんです。
この例えはちょっと違うかも知れませんが、『男はつらいよ』で寅さん演じる渥美清さんとか、「相棒」で杉下右京演じる水谷豊さんは、何年やってもその役を新鮮に演じ続けていらっしゃいます。私はそれくらい自分の魅力を大事にして、役者をやっていきたいなと思っているんです。
脚本を書く時も、自分が書きたい芝居はあるんですけど、“のん”がやるんだったらどういう女の子になるのかなという視点では、考えて書くようにしています。
なので、すずさんのキャラクターを演じた自分が入っている気もします。絵が好きで描くという点でも同じだし、自分のモヤモヤした感情はすぐには表には出さないところとか、似ているところはあるかもしれないです。
片渕監督から教えていただいたことのひとつは、「映画の物語は“起承転結”じゃなくて“起承転転結”だ」ということ。
ひとつめの“転”は、物語が大きく動く“転”で、ふたつめの“転”は“結”に繋がるもの。
“起”の部分は映画のストーリーが始まるパート、“承”はその映画がどのように進んでいくのかをわかってもらうレールを敷くパート。
そのように物語が作れたら、すごくいいって教えていただいて、それがとても勉強になりました。
Q5.創作活動をしていると、時に自分がやっていることが果たして世の中の役に立っているのだろうか、誰かが必要としてくれてるのだろうかと、疑問と不安が脳裏をよぎる瞬間があります。のんさんなら、そんな時どのようにして自分を奮い立たせていますか?
のん監督
コロナ禍ではまさに私もそういう気持ちになりました。自分がやっているお仕事って、娯楽を提供するお仕事で、ほんとうに直接的に命のためになっているものではないから、不要不急の中に入れられちゃうんだなって。
それこそ、『この世界の片隅に』の時に、すごくシンプルなんですけど「少しでも笑顔になれれば明日が見えてくる、明日を生きる糧になる」ということを学びました。
『この世界の片隅に』は戦時下の日本が舞台になっていて、ラストはすずさんが孤児と出会って、その子をおうちに連れて帰って、その子はシラミだらけの女の子なので、私はその子のことを“シラミちゃん”って呼んでるんですけど、 それで、家族みんなが「あぁ、シラミだらけだ」「お風呂に入れてあげなきゃ」「お洋服これサイズが合うかしら」とか言って、みんなが笑顔になるんです。
それまではみんなショボンとした気持ちになっていたんだけど、そういう笑顔になれることがあるだけで、明日を生きるために生活を回していかなきゃってなる。
そういう、人に笑顔になってもらえるような作品に参加したいし、作り続けていきたいなってその時に思ったんです。
だから、コロナ禍第一波が来て、自粛期間を過ごす中でも、芸術、映画、音楽、演劇も生きる糧になるって思いました。それを信じて、やり抜かなければならないんだなって思います。
映画『Ribbon』でもその点を感じていただけたらと思います。どれだけ自分が今やっていることが好きなのかってことを自覚できると、気持ちが定まっていくのかなって思います。
伊東順二特任教授
のんさんって言えば、僕は「あまちゃん」以来のファンなんです。今、三陸で復興事業を10年ほどやってまして、今も建築家の隈研吾くんと一緒に浪江町の駅を中心に新しくデザインしていて、うちのスタッフも隈研吾くんの事務所に通ってるんですが、そこでのんさんの名前を出すと、みんなが明るくなるんです。
それは、「あまちゃん」という作品だけじゃなくて、のんさんのひとつひとつの表情とかを覚えているからだと思います。
今日、ここでのんさんのお話を聞いて改めて思ったことは、「この方はなんで感動させることができるのか」と。それは、役をこなしているんじゃなくて、自分なりに役を生きて、それが真実であるっていうことを知らしめてくれてるからではないかと。
浪江町は今だに復興事業は成立していないし、立ち入り禁止区域もまだある。そういう中で生きていくというのは、ほんとうに大変なことなんですね。そういう時に、見た人が思い出して笑顔になれる作品や役を提供できるというのは、のんさんが持っている才覚かなと思います。ほんと頑張っていただきたい(笑)
のん監督
はい!がんばります!!
伊東順二特任教授
頑張って作り続けていただきたい。いちファンとしてはほんとうにそう思うし、いち同じ芸術分野に身を置くものとしてはそれを楽しみに見ていきたいなと思っております。
のん監督
ありがとうございます!!
■フォトギャラリー
伊東順二特任教授は、映画『Ribbon』のラストの展開について、美術評論家ならではの鋭い解釈も本イベントで語られました。ただし、これについてはネタバレになりますので、映画公開以降、どこかのタイミングで機会があれば紹介したいと思います。
[写真:金田一元/写真・記事:桜小路順]
撮影データ:Nikon Z 6II/NIKKOR Z 28mm f/2.8/TAMRON SP 24-70mm F/2.8 Di VC USD G2/SIGMA 14-24mm F2.8 DG HSM | Art/Godox AD300Pro ほか
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2020年冬。コロナ禍により一年かけて制作した卒業制作は、発表の場が失われた。
家での時間があるのに、なにもやる気がおきない……。
表現の術を奪われ、自分のやるべきことを見つけだせずに葛藤する美大生“いつか”を女優・のんが演じます。
鬱屈とした現状を、のんが持ち前のパワーで痛快に打破していく“再生”の物語です。
あらすじ
コロナ禍の2020 年。
いつか(のん)が通う美術大学でも、その影響は例外なく、卒業制作展が中止となった。
悲しむ間もなく、作品を持ち帰ることになったいつか。
いろいろな感情が渦巻いて、何も手につかない。
心配してくれる父・母とも、衝突してしまう。
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こんなことではいけない。
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誰もが苦しんだ2020 年―。
心に光が差す青春ストーリー。
出演:のん 山下リオ 渡辺大知 小野花梨 春木みさよ 菅原大吉
脚本・監督:のん
製作統括:福田淳
エグゼクティブ・プロデューサー:宮川朋之
クリエイティブ スーパーバイザー:神崎将臣 滝沢充子
プロデューサー:中林千賀子
特撮:樋口真嗣
特撮プロデューサー:尾上克郎
音楽:ひぐちけい
主題歌:サンボマスター「ボクだけのもの」(Getting Better / Victor Entertainment)
企画:のん
配給:イオンエンターテイメント
制作プロダクション:ブースタープロジェクト
製作:日本映画専門チャンネル non スピーディ コミディア インクアンク
©︎「Ribbon」フィルムパートナーズ
作品公式サイト:https://www.ribbon-movie.com
のん公式サイト:https://nondesu.jp/
のん公式 YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCj4G2h4zOazW2wBnOPO_pkA
のん公式 Twitter:https://twitter.com/non_dayo_ne
2022年2月25日(金)よりテアトル新宿ほかロードショー!
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