古川琴音「お芝居始めたばかりの頃に濱口監督に教えてもらったこと」映画『偶然と想像』公開記念舞台挨拶
2021年12月18日、Bunkamuraル・シネマにて、映画『偶然と想像』公開記念舞台挨拶が行われ、第一話『魔法(よりもっと不確か)』より、古川琴音、中島歩、玄里(ひょんり)が登壇。濱口竜介監督は電話での登壇となった。(動画&フォト)
※河井青葉、占部房子、渋川清彦、森郁月、甲斐翔真ら登壇の舞台挨拶レポートも記載してます。
本作は、日本を代表する映画監督・濱口竜介による、“偶然”をテーマに3つの物語が織りなされる自身初の短編集。
世界三大映画祭のひとつ、第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)に輝き、ナント三大陸映画祭では〈最高賞(金の気球賞)と観客賞〉をダブル受賞、第17回CineFestミシュコルツ国際映画祭では最高賞にあたる〈エメリック・プレスバーガー賞〉を受賞するなど世界の映画祭で快挙を果たしている。
メガホンを取った濱口竜介監督は『ドライブ・マイ・カー』(2021)が、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にて、脚本賞、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞を同時受賞している。
舞台挨拶レポート
■12月18日(土)公開記念舞台挨拶
第一話 『魔法(よりもっと不確か)』
登壇者:古川琴音、中島歩、玄里、濱口竜介監督(電話)
【動画レポート】
濱口作品に初めて出演した古川琴音は、監督から言われた本読みの段階で、感情抜きでセリフを読み、覚えようとせずに自然に覚えていくというやり方を今も続けているという。「台本に書かれている言葉は自分の言葉ではないので、口にすることに慣れていないんですけど、自分の耳で聞きながら感情を入れずにつぶやくと、口も慣れるし、何回もストーリーを流すことになって、自然と心情が流れるようになり、余計な力を抜いて相手との芝居、本番に集中できました」と語る。
中島歩はこの作業を準備期間中に実際の相手役(古川)と一緒にできたことが「重要なことだった」と述懐。「相手を信頼する作業であり、(本番に)初めて集まってセリフを言うのとは違って、相手の声で覚えていくこともできるし、撮影のときにセリフ以上のコミュニケーションが生まれるやり方だった」とその効果を口にする。
玄理は、映画本編では描かれていない、古川琴音演じる芽衣子とのタクシーでの恋バナのシーンの“前”の段階や、中島歩演じる男性とどのように出会ったのか? といった部分を濱口監督がきちんと脚本に書き、実際に撮影まで行われたことを明かし「それはすごく助けになったし、これまでもそういう部分を想像してやっていましたが、実際に演じてみると、より深く演じられて、感情の準備も肩の力を抜いてできました」と明かす。
隔離期間中のために電話での舞台挨拶参加となった濱口監督は、本編にないシーンまであえて作った意図について「そっちの方がやりやすいんじゃないかと思ったからです。役者さんの想像力はすごいので、最終的にはそれに頼らないといけないけど、“体験”することの密度は大きいと思います」と明かした。
互いに共演しての印象を尋ねると、中島が古川が演じた芽衣子について「怖かったです(苦笑)! 古川さん自身はかわいらしくて、(芽衣子のセリフのような)あんなことは言いませんけど…」と言えば、玄理は古川について「奈良美智さんの絵みたいな女子がまんま出てきたと思った(笑)。かわいいなって思いました!」と笑顔で語る。
また撮影現場でのエピソードでは、当時、中島さんや玄理が「バチェラー」にハマっており、その話題で盛り上がっていたことなどが明かされたほか、古川からは「オフィスでのシーンで、ラストを迎えるあたりで監督がむせて、リテイクになったのが忘れられない(笑)。ここまで来たのに…」と恨み節(?)も飛び出し、会場は笑いに包まれていた。
また、この日は、ちょうど玄理の誕生日ということで花束のプレゼントも!
玄理は「準備期間も含めてずっと楽しくて、賞もとれて、こんな素敵な映画館で舞台挨拶もできて…絶対にいい年になると思います!」と35歳の1年が最高のスタートとなり、満面の笑みを浮かべていた。
最後に濱口監督は電話を通じて「役者さんの演技を見る映画だと思います。スタッフも、役者さんが演技をしやすいようにということを一番に考えていたので、ぜひそこを見ていただけたら」と語り、舞台挨拶は幕を閉じた。
▼フォトギャラリー
[写真:金田一元/動画:桜小路順]
■12月17日(金)公開初日舞台挨拶
第三話 『もう一度』
登壇者:河井青葉、占部房子、濱口竜介監督(電話)
遂に初日を迎え、満席のお客さんを前に笑顔で登壇した河合青葉と占部房子。
占部は「全国50カ所以上の映画館で同時に上映が始まったというのは、本当に泣いちゃうくらい嬉しいです」と喜びをかみしめ、本作は「Bunkamuraル・シネマ」始まって以来の日本映画ということで、河井も「自分でもよく来ている劇場で、本当に嬉しく思います。海外では劇場や映画祭で上映していて、私もやっと日本で公開されるということで嬉しいです」と感無量の表情を見せた。
通常の作品よりも、いわゆる“本読み”をたくさん行うという濱口監督。
河井は「10日間事前にやって、撮影中も『撮影が終わったので、じゃあ本読みしましょう』、『おはようございます、じゃあ本読みしましょう』みたいな。撮影よりもそっちの方が長いんです」と明かし、占部は「これは3話に限ってなのかもしれないですけど、『台本を読んでこなくて大丈夫です、僕と一緒に覚えましょう』っていうスタートで。行ってから青葉さん(河井の演じた役名)と一緒に本読みをしながら、セリフを一つ一つ知っていくという感じをずっとしていました」と振り返る。
10日間本読みをすると、どうなるのか?と聞かれると占部は「セリフを覚えていく(笑)。そして「セリフ覚えましたね」って監督が喜んでくれる(笑)。優しいですよ」と笑顔で話すと、河井も「台本は読まなくていいよ、セリフは覚えなくていいよ、セリフが言えたら『すごいね』って(笑)」と濱口監督独自の方法を明かしていた。
また撮影現場では、準備体操的な感じで“しこを踏んでいた”という二人。河井は「昔の作品でもリハーサルの時に色々やっていたんですけど」と言い、今回しこを踏むことになった理由について、濱口監督は「腰が据わってくると当時知り合いのダンサーの方から聞いて、それってどういう感覚なのかなと。一緒に体を動かしていると得も言われぬ一体感というか、訳の分からないことを一緒にやっているというのは妙な一体感を生むなと思いました」と明かした。
以前、別の濱口監督作品に出演している河井と占部。
今回の出演について濱口監督は「お二人の演技というのをちゃんと見たいなと言う気持ちはずっとあって、やっていただこうとお願いをしたんですけど、本当に感動しちゃいましたね。自分が書いたテキストなんですけど、お二人がやるとこうなるのかっていうところがあって、単純にお二人のファンとして楽しみました。ありがとうございます」と感謝を伝えた。
そんな濱口監督について占部は、「今回改めて思ったのは、濱口監督はすごく私たちの芝居を見てくれていて…すごく嬉しかったです。こんなに近くでずっと見ている人ってなかなかいない。改めて楽しい人だなと思いました」と語り、河合も「濱ちゃんは動きも言っていることもそうだし、静かにずっと面白いことを言っている感じで、面白いですね」と語った。
■12月18日(土)公開記念舞台挨拶(その2)
第二話 『扉は開けたままで』
登壇者:渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、濱口竜介監督(電話)
初号試写に続いて、この日、映画館で本作を鑑賞したという渋川清彦は「(初回も)よくわかんないけど『すごいな』と思ったけど、いま観てもよくわかんないけど、すごい(笑)。長いセリフのやり取りをカメラを固定して撮ってるけど、あんまり退屈しない…何なんだろうね、あれは? 濱ちゃんのセリフのすごさかな(笑)?」と困惑しつつも感嘆する。
渋川清彦と森郁月のシーンは3日間で撮影されたそうだが、渋川は「初日で半分くらい撮れたんだけど、次の日にもう1回、やり直した(苦笑)」と明かし、森は「3日目には全部を通しで撮った」と述懐。
甲斐も「本番よりもむしろリハーサルのほうが記憶に残っています。とにかくスパルタで、セリフを覚えこませ、しみ込ませていく――『身体的に会話をする』というすごい経験をしました」とふり返った。
森に対しては、甲斐との自宅でのシーンで濱口監督から「重力に逆らってください」という指示が出たそうで、森は「私は人間なので浮くことはできないので、箱を置いてみたり、試行錯誤しました」と苦労を振り返る。
結局、甲斐が裏で森さんの身体を支えるなどして“浮かせた”とのこと。
また、甲斐はリハーサルで監督から「自分の胸の中に“鈴”があると思って、相手のセリフを受けて鈴が鳴ったと思ったら返してください」「相手の鈴を鳴らすつもりで話して」と言われたという。
渋川は「わかるはずがない」と苦笑し、森は鈴と聞いて「ドラえもんの絵が浮かびました(笑)」とその時の困惑を明かす。
甲斐は「“本当に届くってこういうことなのか?”と思ったりしましたけど、『(相手の胸の中の鈴が)鳴った!』と思ってる時ほど、鳴ってないんです…(苦笑)」と濱口監督のミッションの難易度の高さに手を焼いたよう…。
そんな苦労があったからこそ、キャスト陣にとっても思い入れの強い作品になったよう。
森は「数年後に観たとき、新しい発見がある作品だと思う」と語り、甲斐は「“偶然と想像”の世界で僕らは生きているんだと思えました」としみじみ。渋川は「2回観て、何が良いのかちょっとよくわからないけど、面白かった」と語った。
海外の映画祭から帰国後、隔離期間のため舞台挨拶への参加がかなわず、電話で声のみでの出席となった濱口監督は、自身の無茶ぶりを受け入れ、素晴らしい演技を見せてくれたキャスト陣を称賛し、改めて感謝の思いを口にしていた。
映画『偶然と想像』
第1話『魔法(よりもっと不確か)』
撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子(古川琴音)は、仲の良いヘアメイクのつぐみ(玄理)から、彼女が最近会った気になる男性(中島歩)との惚気話を聞かされる。つぐみが先に下車したあと、ひとり車内に残った芽衣子が運転手に告げた行き先は──。
第2話『扉は開けたままで』
作家で大学教授の瀬川(渋川清彦)は、出席日数の足りないゼミ生・佐々木(甲斐翔真)の単位取得を認めず、佐々木の就職内定は取り消しに。逆恨みをした彼は、同級生の奈緒(森郁月)に色仕掛けの共謀をもちかけ、瀬川にスキャンダルを起こさせようとする。
第3話『もう一度』
高校の同窓会に参加するため仙台へやってきた夏子(占部房子)は、仙台駅のエスカレーターであや(河井青葉)とすれ違う。お互いを見返し、あわてて駆け寄る夏子とあや。20年ぶりの再会に興奮を隠しきれず話し込むふたりの関係性に、やがて想像し得なかった変化が訪れる。
出演:古川琴音 中島歩 玄理 渋川清彦 森郁月 甲斐翔真 占部房子 河井青葉
監督・脚本:濱口竜介
プロデューサー:高田聡
エグゼクティブプロデューサー:原田将 徳山勝巳
製作:NEOPA fictive
配給:Incline 配給協力:コピアポア・フィルム
宣伝:FINOR / メゾン
2021年/121分/日本/カラー/1.85:1/5.1ch
©2021 NEOPA / fictive
Bunkamuraル・シネマほか全国公開中!
濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)プロフィール
1978年12月16日神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され話題を呼ぶ。
その後は日韓共同制作『THE DEPTHS』(10)、東日本大震災の被害を受けた人々の「語り」をとらえた『なみのおと』、『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(11~13/共同監督:酒井耕)、4時間を超える虚構と現実が交錯する意欲作『親密さ』(12)などを監督。
15年、映像ワークショップに参加した演技経験のない4人の女性を主演に起用した5時間17分の長編『ハッピーアワー』が、ロカルノ、ナント、シンガポールほか国際映画祭で主要賞を受賞。
商業映画デビュー作『寝ても覚めても』(18)がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、共同脚本を手掛けた黒沢清監督作『スパイの妻〈劇場版〉』(20)ではヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞。2021年『偶然と想像』は第71回ベルリン国際映画祭にて銀熊賞(審査員グランプリ)受賞し、同年の第74回カンヌ国際映画祭に出品された『ドライブ・マイ・カー』(21)は脚本賞など4冠に輝く。
いま、世界からもっとも注目される映画作家の一人として躍進を続けている。
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