【松本穂香×渋川清彦インタビュー】“背中合わせ”な父娘を演じたふたりが思う血の繋がりとは?
3月6日(金)公開、映画『酔うと化け物になる父がつらい』。「家族とは?」「血の繋がりとは?」を観る者に問いかける本作のテーマについて、父娘を演じる松本穂香・渋川清彦に話を伺った。
本作の原作となる同名コミックエッセイは、著者・菊池真理子の実体験を元にしたもので、秋田書店のWebサイト・チャンピオンクロスにて連載され圧倒的な反響を呼んだ家族崩壊ノンフィクション。
父・田所トシフミ(渋川清彦)は毎日アルコールに溺れ、母(ともさかりえ)は新興宗教信者。
そんな両親のもとに生まれた主人公・田所サキ(松本穂香)は、酔って化け物となった父の奇行に悩まされ、母の孤独に触れながら、崩壊していく家族の中で、がむしゃらに未来を見つけていく…。
主題歌「背中合わせ」は、GOOD ON THE REELの書き下ろし。
松本穂香×渋川清彦インタビュー
■役作りについて
– 原作コミック著者の菊池真理子さんに直接お話を伺う機会はありましたか?
渋川清彦
お父さんについて、ほんとは優しいお父さんだったんですか?と聞いた覚えがあります。
松本穂香
撮影中に何度かお会いしましたが、そんなに深くはお話ししませんでした。
もともと、片桐監督と、原作はあるけれどそれに似せるとかではなくて、映画としての設定の方向にいこうとお話していたのと、それに実話である原作の内容が内容なので、あまり聞けないなぁというのもありましたし。
渋川清彦
俺は監督ともあまり話をしてないですね(笑)
– 撮影前に片桐監督と飲みに行かれたと聞きましたが。
渋川清彦
まぁ、よく飲んでますね(笑)たまたまなんですけど機会があって一緒に温泉に行ったりとか。監督を助監督時代からよく知っているんです。
– では本作での片桐監督の演出は?
渋川清彦
俺に関しては野放しなんです(笑)
「どんなプランなんですか?」っていうツッコミみたいなことはいつも言うんですけど、基本は野放しですね(笑)
松本穂香
役のことについてあまり詳しくは話していないんですけど、脚本を片桐監督が書かれているということもあって、言いにくいセリフは私が言いやすいセリフに全部変えてもらっていいからって最初からずっとおっしゃってくださっていたので、任せてくれていたといいますか、自由にやらせてもらってました。
ただ、“田所サキ”を演じるにあたって「フワフワしてていい」とはおっしゃってました。それでも、吐き出すところはちゃんと吐き出して強くバーンって出すところはあります。
– “田所サキ”というキャラクターについて、脚本に書かれていない部分も想像されたと伺いました。
松本穂香
経験したことのないことですからね。10年経つ中で、だんだんと自分の心に蓋をしていくっていう描写がありますが、どういう生活をしたたらそうなっていくんだろうっていうのはやっぱり想像するしかありませんでした。
■登場人物への思い
– 松本さんが思う田所サキというのはどういう女性ですか?
松本穂香
人の気持ちに敏感な女性。でも自分の中に思うことはたくさん抱えている。
中学生の頃は「なんでそんなに飲むの?」って言ってるシーンがありますが、それが成長していく中でだんだん言わなくなっていく。
それは、父にぶつけたけど返ってこないことで、どんどん自分の存在が薄れていって、愛されてないんだって嫌でも思わされる状況が続く中で、何かを諦めるしかなかった。自分がおかしくならないために。そういう女性なんだと思います。
– 劇中、バンドや恋愛もその嫌なことから逃げる目的として描かれていましたね。
松本穂香
たぶんそのずっと前からそういう“蓋をしてしまう”というところはあったと思うんです。
– 松本さんご自身が同じ境遇だとしたら?
松本穂香
私自身も親子関係でしんどい時期もありましたし、お父さんにモヤモヤを抱えていた時もあったので、大きさはぜんぜん違うかもしれないけど、そういう気持ちは知ってたので、愛してるんだったらもっと見てよっていう気持ちはわかります。自分に自信がないから、寂しいから、あんな彼氏と付き合っちゃったりとかしたんだろうなとかも。私が寂しいわけじゃないんですけど(笑)
渋川清彦
実際どうなのかなぁ。菊池先生は、お父さんを追っかけてるフシはあるのかなぁ?
松本穂香
あるみたいですよ。
渋川清彦
やっぱりあるのね。
松本穂香
男性と飲んでてもその人にすごく飲ませようとするとか。
– それはたとえば?
松本穂香
先生の中で、男の人はめちゃめちゃ飲むのが当たり前というのがあるから、飲ませてしまうとおっしゃってました。
お父さんが亡くなってもやっぱり影響し続けているのかなって。
– そのお父さん、本作では田所トシフミというお父さんについて、渋川さんはどのようにとらえて演じられてましたか?
渋川清彦
飲まないと話ができない人なのかなと。俺も飲んだ方が話をするのが楽になるので。
最初の頃はビール一杯で顔が赤くなっていたのに、飲んでちょっとごまかしてってしているうちにそれがクセになって、
気の小さな人なんだけど、優しいところはあるんじゃないかなって思いつつ、でも、ご本人がほんとはどういう思いだったのかはわからないですけどね。。菊池先生はそのように思ったのかもしれないですけれど。
– 娘の「飲まないで」っていう言葉をお父さんはどう捉えてたんでしょうね。
渋川清彦
女3人に囲まれているっていうのもあったかもしれないですね。兄妹で男がいたらちょっと違ったのかもしれないし。
でも、話が変わりますが、沖縄国際映画祭で本作を上映した時に印象的なことがあったんです。
上映後、沖縄のおばあちゃんが、俺のところに泣きながら来て、「お父さんを思い出した」って言ってくれて。
そんなふうに言ってもらったのが初めてだったし、それがすごく嬉しかったんですよね。
だからやっぱりこういうお父さんはいるんじゃないですかね。
– 劇中最後、お父さんの気持ちの片鱗が少し見えるシーンがありますが、お父さんとしても実はちゃんと思いがあったんでしょうね。
渋川清彦
でしょうね。でもやっぱりなかなか自分を変えられない頑固さがあったのかもしれません。
– 本作、オープニングとエンディングで重なっている印象的なシーンがあります。そこで松本穂香さんが涙を浮かべていますが、どのような感情で演じられたのでしょうか?
松本穂香
いろんな感情があったと思います。「もう遅いよ」っていう気持ち、そして「ズルイな」っていう気持ち。お父さんが亡くなってから、愛してたんだって思う自分のことも嫌だろうし、でもやっぱり一番は辛かったっていう気持ちなんだと思います。
■家族とは?血の繋がりとは?
– 本作を通して、家族とは?血の繋がりとは?っていうことを改めて考えられたことはありますか?
松本穂香
私だったら、血が繋がってるからこそお母さんにもっとなんか強く言ってほしいとか、お母さんらしく言ってほしいとか思っちゃったりします。
もしかしたら、お母さんとしては、娘にはこうあってほしいとか、みんなどこかそういうのがあると思うんです。
でも、家族って血が繋がっているけど、ひとりひとり人間だから話し合わないとうまくいかないこともたくさんあるだろうし、だからすごく気持ちを伝えることって大事だなっていうのを思います。でもなかなかそれができないから難しいんですけどね。
渋川清彦
難しいですよね。片親でも子どもは育つし、両親がそろっていたら必ずしもいいってことでもないですし。
– 普段の生活の中で、これって家族だなぁとか、血の繋がりのせいかなぁとか実感されることはありますか?
渋川清彦
俺の親父はあんまり酒が飲めなくて、正月とかにみんなが集まった時にちょっと口をつけるくらい。そしてすぐに顔が赤くなって。
俺もすぐに顔が赤くなるんですけど、俺は克服というか飲めるようにはなりました。顔は赤くなりますけど(笑)
たぶん、トシフミさんもそうじゃないですかね。セリフでもあるので。
あと、親父がおふくろにやってきたことは俺もそうなっちゃいますね。嫁さんへのちょっとキツイ口の利き方とか。そういうのはやっぱり似てきちゃいますね(笑)
– 亭主関白的な感じですか?
渋川清彦
そういう感じですね(笑)
– 松本さんはいかがですか?
松本穂香
私は両親ともお酒が強くて、私も強いって言われたり、顔色がぜんぜん変わらなくて、昼の顔をしているって言われます(笑)
なんか、すごい酔っててもちゃんとしゃべってるらしくて、だから損してるかもしれない(笑)
渋川清彦
記憶がなくなることは?
松本穂香
たまに。でもそんなに無いですけど。
渋川清彦
すごいねぇ(笑)その歳で記憶がなくなることがあるなんて(笑)
その歳って何歳でしたっけ?
松本穂香
23歳になりました。でも、そんなにお酒は強くないと思います・・・。そういうことにしておいてください(笑)
– 家族同士の接し方でご両親の影響を感じることは?
松本穂香
私はまだそんなに感じてないですね。将来、もし子どもができたら感じることがあるのかもしれないですけど。
– 好きなことの傾向がご両親と似ているところはありますか?
松本穂香
犬好きです。松本家は代々犬好きです(笑)
■撮影で印象に残ったこと
– 撮影で工夫したことや苦労したことなど、印象的だったことは?
渋川清彦
自分が片桐監督に提案したのは、飲んでるシーンとかは実際に飲んでやんない?って。
飲んでやってみたらどうかなって、面白そうだなって好奇心みたいな感じです。
ノってくれる監督なんで、その後のシーンに影響がない時は、実際に飲みながら撮りました。寒かったので、ウイスキーのお湯割りを水筒に入れて用意してました。
でもね、あんまり酔わないんですよね。緊張しているし、それは意識のどこかで本番撮影に対して気を抜いていないところがあったからだと思います。
– スナックで皆で飲むシーンとかでもですか?
渋川清彦
飲める人は飲んでましたね。宇野(祥平)とか、星田さんとかも。
片桐監督
へんに顔を赤く塗ったりするよりはいいですよね。酔ってる自然な感じになって。
※ここで、インタビューを見守っていた監督がフォロー。
渋川清彦
でもウイスキーのお湯割りを飲んでるのに顔はあんまり赤くならないんですよね。やっぱり(本番撮影をしているという)気持ちが抑えてるんだと思います。
– そこはさすが、プロの役者さんという感じがします。
渋川清彦
俺にもっと度胸があったら、ベロベロに酔っ払ってるんだろうけどね(笑)
– 松本さんはいかがですか?
松本穂香
お父さんを叩くシーンがあって、私の手がほんとにジンジンするぐらいの強さで叩いてしまって。
渋川清彦
俺がそうしてくれって言ったんですけど、けっこう痛かったです(笑)
松本穂香
叩く方も痛いんだなっていうのを身を持って実感しました。それまでそこまでの強さで人を叩いたことがなかったので、人を思い切り叩くのってこんなに痛いんだって、ほんとにビックリしました。
■松本穂香にとって“演じる”とは?
– 本作から少し離れて。2019年、主演映画が続いた松本穂香さんにとって「演じること」とはどのように捉えてますか?
松本穂香
まだそこは見いだせてないというか、はっきり言葉に出せるほどできていないので、楽しくできたら一番だなと思いますし、いろんな人と出会えたらいいなとか、お芝居を通して自分自身のなにかを見つけられたらいいなと思っています。
■作品をご覧になる方へのメッセージ
渋川清彦
菊池先生ご本人に起こった重い話なんですけど、それを本人がさらけ出して、先に進んでいるという印象を持っています。それは片桐監督のこの映画もそうだし、何かあっても先に進んでいます。
また、本作は片桐監督の日本映画界にはあまりない世界観を楽しんでもらえたらと思います。
松本穂香
いろんな家族がいて、それぞれいろんな悩みを持っている方がいると思いますが、絶対なにか響くものがあると思うので、大切な方と観てほしいです。
[松本穂香 ヘアメイク:倉田明美/スタイリスト:有咲]
[写真:桜小路順/インタビュー:桜小路順、安田寧子]
映画『酔うと化け物になる父がつらい』
【ストーリー】
うちの“常識”は、いつだってよその“非常識”。
日曜日、夏休み、クリスマス。思い出の父はいつも酔っていた。
普段は無口で小心者なのに、酔うと“化け物”になる父と、新興宗教にハマる母。一風変わった家庭で育った主人公のサキは、“化け物“のおかしな行動に悩まされ、徐々に自分の気持ちに蓋をして過ごすようになる。自分とは正反対で明るく活発な妹や、学生時代からの親友に支えられ、家族の崩壊を漫画として笑い話に昇華しながらなんとか日々を生きるサキ。そんなある日、アルコールに溺れる父に病気が見つかってしまう-。知っているようで、何も知らなかった父のこと。サキが伝えたかった、本当の気持ちとは?
松本穂香 渋川清彦
今泉佑唯 恒松祐里 濱 正悟
安藤玉恵 宇野祥平 森下能幸 星田英利 オダギリジョー
浜野謙太 ともさかりえ
原作:菊池真理子『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店刊)
監督:片桐健滋 脚本:久馬 歩 片桐健滋 音楽:Soma Genda 主題歌:GOOD ON THE REEL「背中合わせ」(lawl records)
制作:MBS よしもとクリエイティブ・エージェンシー 制作プロダクション:CREDEUS 配給:ファントム・フィルム
製作:吉本興業 MBS ユニバーサル ミュージック 秋田書店 VAP ファントム・フィルム
©菊池真理子/秋田書店 ©2019 映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
公式サイト:https://youbake.official-movie.com/
新宿武蔵野館ほか全国公開中
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