永作博美「騙されているのでは?」河瀨組独特演出の“役積み”の驚きを語る。映画『朝が来る』完成報告会見
10月6日、都内にて、映画『朝が来る』の完成報告会見が行われ、河瀨直美監督、永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子が登壇した。
本作は、直木賞・本屋大賞受賞作家:辻村深月の感動ヒューマンミステリーを映画化。カンヌ国際映画祭公式作品【CANNES 2020】に正式に選出されている。
会見では、河瀨組独特の演出方法の“役積み”にキャストらが驚き、永作博美も「騙されているのでは?」と疑心暗鬼になったエピソードなどを披露。
また、朝斗役を演じた佐藤令旺もゲスト登壇し、サプライズ発表を行った。
会見レポート
■「感動しない小説は映画にしません」
-河瀨監督は原作のどんな点に惹かれたんでしょうか?
河瀨直美監督
感動しない小説は映画にしません。とても感動しました。
全てにおいて、その行間から溢れる新しい命の賛歌、その光に到達できるような映画にしたいと思って、原作の辻村深月さんのもとに行き許可をいただき、今日の日を迎えることができました。
-特別養子縁組という仕組みについてはご存知でしたか?
河瀨直美監督
特別養子縁組は知らなかったですね。実は私は養女なんです。養子縁組をしてもらった子どもなんです。
特別養子縁組と養子縁組の違いは、戸籍の中で実子として子どもを迎え入れるかどうか。そこは大きく違うなとは思いました。
この特別養子縁組のあっせんをされている全国のNPO法人の皆様も多くは真実告知をするということ、そこをきっちりとされています。
それを制度として本当に後押しするという仕組みなので素晴らしいなと思います。救われる命があるんだなって。
■河瀨監督は厳しい?
-河瀨監督は厳しい指導をされると聞きましたが、蒔田さんはどうでしたか?
蒔田彩珠(片倉ひかり 役)
厳しいというか(笑)、ふと(私から)“ひかり”が抜けちゃった時に、この映画の主題歌の「アサトヒカリ」を耳元で流して、これまでの撮影現場の写真を見せてきて、「こういう感じだったよね」というのはありました。
-永作さん、井浦さんはいかがですか?
永作博美(栗原佐都子 役)
何かを要求するというよりは無言の圧ですよね。
「わかってるよね?」みたいな(笑)
こちらに気づかせようとされますね。選択を迫られます。
井浦 新(栗原清和 役)
常に(監督からは)追い込まれてました(笑)
でもそれは監督が真剣に映画作りに取り組んでいるからだと思います。
印象的だったのは、とてもキツイシーンで、僕が呆然としていると、監督が横にちょこっと座ってくださっているんです。大変なシーンを投げかけられるからこそ、投げっぱなしじゃなくて、ちゃんとその後のケアをしてくださいます。なので、監督でありながら僕の中ではシャーマンのような存在でした。
■河瀨組独特の演出方法“役積み”
-河瀨組独特の演出方法としての“役積み”(役を積み上げる準備期間としてロケで使用する家に実際に住むなど)はいかがでしたか?
永作博美
この“役積み”に関してはスタッフをどんどん信じられなくなっていきました(笑)
たとえば、温泉のシーン。撮影前に、井浦さんと二人で温泉に行かされて、カメラは回ってない中、温泉で過ごす指示が出て。
その日は帰らなくちゃいけなかったのに、普通に食事が出て、井浦さんと二人で部屋に居させられて。
なので、これのまま泊まらすための罠だと疑心暗鬼にもなりました。河瀨組はここまでやるか?って(笑)
っていうように、どのシーンも“役積み”が必ずありました。
河瀨直美監督
(旅館の料理を)美味しそうに食べてたよ。
井浦 新
味はまったく覚えてないです。変なモードに入っちゃって(笑)
永作博美
井浦さん、すごい緊張してて(笑)
井浦 新
実はカメラが部屋のどこかに仕掛けられてるんじゃないかなって疑ってました(笑)
河瀨直美監督
“役積み”は、映画を観る人が違和感を持たないように、役者の皆さんにそこに完全に馴染んでもらうためですね。
-蒔田さんはどうでした?
蒔田彩珠
私は家族の方々と一緒に3週間近く一緒に住んでました。お母さん役の人がほんとに(衣裳の)洗濯をしたり、「お風呂に入って」って怒られたり。
その期間で出来上がった関係性が映画の中にも写っているなと思いました。
-蒔田さん演じるひかりを妊娠させた彼氏役の家に、ひかりのご両親が言って謝ってるんですって?映画には出てこないシーンですが、カメラを回さずに?
河瀨直美監督
はい。実際だったら普通行くでしょってことで。行く前と、行って帰ってきた時のお父さんとお母さんの感情が変わるんですよ。
-それをやるのが俳優かなとおもっていたんですけど。想像して。
河瀨直美監督
想像を超える現実っていうのがやっぱりあるんですよね。
その場には、彼氏役の巧を演じた俳優の子もいて、「娘と別れてくれ。二度と会わないでくれ」と言ってくるひかりの両親の言葉を影で聞いて泣いてるんです。私はその感情も引き取るわけです。
-そこまでやるんですね。カメラは回ってないということですが、メイキングは撮ってる?
河瀨直美監督
それは撮っています。
-では、DVDの特典映像でぜひ見せてください。それにしてもすごいことをやっているんですね。
■それぞれにとっての家族とは?
浅田美代子(浅見静恵 役)
「(家族は)神様からのおくりもの」
血の繋がりじゃないんだなと。自分が産んだかどうかは関係なく、神様が決めたんだと。本作を通してそう思いました。
蒔田彩珠
「(家族は)もう一人の自分!」
自分のことって自分が一番わかっていると思っていたんですけど、自分がわからないことを家族がわかっていたり、理解してくれてたりするので、家族はもう一人の自分かなって思います。
井浦 新
「(家族は)生きる」
自分の命が今あることも、家族のおかげでもありますし、日々、ご飯を食べて仕事をして、毎日生きていることも家族によって生かされていると思うから。僕にとって家族とは、生きることそのものすべてと思っています。
永作博美
「(家族は)なかま」
家族の中にいるとほんとに気づかされることが多くて、自分の良いところも悪いところもいつも家族から教わっているなと思うんです。
悲しみや喜びやいろんなことを一緒に乗り越えていく“なかま”だと思っています。
河瀨直美監督
「(家族は)河瀨組」
私は父と母には育てられず、そして家族とはなんであるかっていうことをずっと問うてきています。自分の作品の中には何かしらその“問い”があります。
今回の作品も、それを作り上げた“河瀨組”が私にとっての家族です。
■サプライズ発表!
特別養子縁組に出された栗原朝斗を演じた、佐藤令旺(さとうれお)が登場し、キャスト・監督に白いカーネーションのブーケを手渡し。
そして、次のサプライズ発表をした。
佐藤令旺(栗原朝斗 役)
『朝が来る』、世界25カ国公開決定!おめでとうございます!
■最後にメッセージ
河瀨直美監督
“朝斗”の笑顔が今ここにあるということは、物語がスクリーンを飛び越えて皆さんの前にやってきてくれたということです。
私たちの人生には、なかったことにしていることや、なかったことにされてしまったことがたくさんあって。
それに対してとても暗い、澱みみたいなものが自分の中に存在してしまうこともあるかもしれません。
でも、新しい命がどのような形であったとしても、この世界を美しいと思えるようなそういう場所に、私はこの映画が小さなカケラでいいから力になれればいいなと思っています。
自分にとって家族とは“河瀨組”と先ほど申し上げましたけれども、映画によってネガティブな感情をポジティブに変えていくことというのは、作り手にとってこんなに素晴らしい喜びはないなと思っています。
そこで抜き差しならない思いを抱えて、時にたくさんの人たちに大変な思いをさせてしまうこともあります。
でもそれを乗り越えた先に、今、この時間があるとしたら、それはまた続けて行きたい欲求に変わるんだなって思っています。
でも、それを最後に結んでくれるのは映画館に来てくれる皆さんです。どうぞこの映画を育ててください。ほんとに皆さんに会いたいです。ありがとうございます。
■トークノーカット動画
記事には未掲載の会見トーク全編は動画でどうぞ!
[動画・記事:Jun Sakurakoji]
映画『朝が来る』
STORY
一度は子供を持つことを諦めた栗原夫婦は、特別養子縁組という制度を知り、男の子を迎えいれる。
それから6年、息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。
ところが突然、産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子供を返してほしいんです。それがダメならお金をください」という電話がかかってくる。
当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子供への手紙を託す、心優しい少女だった。
渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい彼女は何者なのか、何が目的なのか。
監督・脚本・撮影:河瀨直美
原作:辻村深月 『朝が来る』(文春文庫)
共同脚本:髙橋泉
出演:永作博美 井浦新 蒔田彩珠 浅田美代子
佐藤令旺 田中偉登/中島ひろ子 平原テツ 駒井蓮
山下リオ 森田想/堀内正美 山本浩司 三浦誠己 池津祥子 若葉竜也 青木崇高/利重剛
製作:キノフィルムズ・組画
配給:キノフィルムズ/木下グループ
(C)2020『朝が来る』Film Partners
公式サイト:asagakuru-movie.jp
予告篇
10月23日(金)全国公開
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