【インタビュー】伊藤沙莉「私は典型的な末っ子で優柔不断なんです。」映画『小さなバイキング ビッケ』
映画『小さなバイキング ビッケ』(10/2公開)で、主人公・ビッケの吹き替えを担当する伊藤沙莉に、アイディアとひらめきでピンチを乗り切るビッケに対して、彼女が芸能界でのピンチをどう乗り切るのか?など、たっぷりと話しを伺った。
伊藤沙莉の声優活動といえば、最近では『ペット2』(2019)でのデイジー役や、つい先日放送されたばかりのTVアニメ「映像研には手を出すな!」の浅草みどり役の記憶が新しい。
彼女は、自身の声をおばちゃんみたいと評するが、その独特の倍音?を含んだ声はとても心地良く、いつまでも聞いていたくなる魅力溢れる声だ。
その伊藤沙莉が、浅草みどりという女子高生のCVに対して、10歳の少年・ビッケの声をどう表現したのか?そして、「私は典型的な末っ子タイプなんです」と言う彼女が芸能界でどうピンチを乗り切っているのか?
「おしゃべり好き」ということで、たくさん話してくれた伊藤沙莉のインタビューを、撮り下ろしフォトと共にお届けします。
伊藤沙莉インタビュー
■“浅草みどり”と“ビッケ”、声の出し分けについて。
-ビッケという作品自体はご存知でしたか?
伊藤沙莉
このお話しをいただいてからオリジナルアニメ版を観ました。今回の映画版はそれとは別物じゃないかっというくらい絵のタッチが違いますが、ビッケの声はそこまでキャピキャピした感じではないので安心しました。
もちろん、オリジナルアニメのファンの方も多いと思いますし、私の母がとにかくドンピシャでリアルタイムに観ていて、そこはプレッシャーに感じつつも感慨深いなと思って嬉しかったです。
-ビッケを拝見して、伊藤さんの声の感じが「映像研には手を出すな!」浅草みどりとはまた違うなって思いました。そのへんの声の出し分けはどのように意識されましたか?
伊藤沙莉
私はプロの声優さんと違って出せる声も限られていますし、ほんとにちょっとしたアプローチの違いでしかないんです。
ビッケと浅草では、10歳の男の子と女子高生という違いはありますが、浅草はあんまり女子高生女子高生していなくて、知識はあるけど周りが見えなくなる、オタク寄りの早口でしゃべる感じのキャラです(笑)
ビッケの方は、ワクワクして好きなことに猪突猛進といった感じの雰囲気は浅草と似つつも、でも壮大な夢を追いかけていて、子どもっぽい雰囲気があります。
ビッケの声の演出として「声に張りがあって、男の子というか10歳ならではのパーンとした感じ」というのをいただいたので、そこは意識しました。
-男の子役のオファーはどう思われましたか?
伊藤沙莉
浅草みどりは性別不明なところがありましたし(笑)、兄もこの作品を観た時に「男の子役なんだ」と言われて、「全然見る目無いな」と話をしたり(笑)
でも、ずっと男の子の役をやってみたかったんです。
舞台やトランスジェンダーなどの設定の実写映画ならあり得るかもしれないですが、基本的に実写で私が男性を演じられる機会になかなか恵まれないので、男の子、しかも年齢も全然違う役が来たのは、すごく嬉しかったです。それに、もともと戦うシーンもやってみたかったので、ビッケ役はドンピシャで、本当に嬉しかったです。
■女優とアニメ、役作りの違い
-女優としての役作りと、今回のビッケのような声だけの役作りと、その違いはありますか?
伊藤沙莉
ビッケは、最初の声出しのリハーサルで、初めて私が声を出した時に、先ほども言いましたが、「ちょっと年齢が高く聞こえる。少年を表現してほしいんだけど、あなたの今の声は青年だから、そこを意識して張りのある声にしていただけると嬉しいです。」という演出をいただいて。
なので、基本的には目線を上にしてやっていました。それは、明るい声とか、歌う時もそうなのですが、出ない音域の声を出す時は、少し上を向いてた方が出たりするからです。
そういうことは意識しつつも、でも、アニメーションは、キャラクターがこういう表情しているから絶対的にこういう話し方になるよねとか、ある意味答えがそこにあります。そこが実写のお芝居とは、現場に臨むにあたっての意識の持ち方が違いますね。実写のお芝居はもう少しフワっとしたイメージで行くことが多いので。その代わり、(アニメは表情の)答えが出ている分、そこに寄せるのが難しかったりはします。
あと、実写はいらないものを排除してやる感じで、こういう動きは必要ないとか、無駄に動かないとか。
私は、そんなつもりはないのですが、基本的に無意識に変な顔をしている時があるらしくて(笑)、実写ではそうならないように気をつけています。アニメは、声だけの分、ある意味大げさに表現した方が近道だったりしますね。どんな顔をしていてもバレないので、そこは、こういう顔をした方がこの声を出せるとか、そういうアプローチができるので、縛られているようで自由かなって思います。
-吹替ならではの難しい点はありますか?
伊藤沙莉
ぜんぜんあります。原語音声として、すでにわかりやすく答えが出来上がっている作品にどこまで乗っかるかという塩梅がすごく難しいんです。
たとえばビッケの映画版の原語バージョンでは、実際に男の子が声をやっているので、どんな風に演じても男の子として成立するんですね。だから、あんまりパーンという声の出し方ではなかったんです。
でも、私がそれを真似しちゃうとたぶん本格的に大人の声になってしまうので、そこは変えた方がいいんだろうと思いました。
あと、外国の人特有の“Hmm”みたいな感じが日本語だとどう表現するんだろうというのが意外と難しい。日本のちょっと前の若者言葉だと、“あーね”(※2011年「女子中高生ケータイ流行語大賞」で第6位選出)みたいなのがありましたが、それをビッケが言うとビックリしちゃいますし(笑)
そういうところはどう言おうか、どういう声を出そうか悩みました。
-それはどうやって解決されたんですか?
伊藤沙莉
やりながら微調整しました。
■アフレコ現場
-アフレコ現場はいかがでしたか?
伊藤沙莉
「映像研」では、毎回ほぼ全キャスト一緒でしたが、吹替の製作現場がどういうものなのか、私の知識としてはそれまで『ペット2』しかなかったので、『ペット2』はまったくの一人だったんです。
ビッケはどうなるのかなと思っていたところ、こういう(コロナ禍の)ご時世なので、全員が揃うことは叶いませんでした。でも、ビッケと一番絡みが多いハルバル役の三宅健太さん、イルビ役の和多田美咲さんは一緒に録ることができました。ほんとにソーシャルディスタンスでビニールに囲まれながら、端と端とど真ん中で。
やっぱり、最初に私が一人でリハーサルをやっていた時のことを思うと、一緒にいてくださるのは心強かったです。プロの方とご一緒させていただくと、ほんとにテンションごと引っ張ってくださるので、自分ひとりじゃ持っていけなかったところまで引っ張って、確実に導いてくださるんです。
それは、「こうしたらいいよ」と具体的なアドバイスという意味じゃなくて、三宅さんや和多田さんが発する声の感じとか、表現の仕方でシーンごとの雰囲気をガッツリ作ってくださるという意味で。ほんとにお二人がいてくださったからこそのビッケになったと思います。
■伊藤沙莉のピンチ突破法
-ビッケは子どもで力が無いけど、「知恵は誰にも負けない」と、アイディアで様々な苦難を打破していく男の子です。伊藤さんが、芸能活動などでピンチになった時、どのように乗り切られますか?(一人で頑張られるのか、周りの方に相談されるのかなど。)
伊藤沙莉
私は何かを計算して組み立てていくという作業がほんとに苦手で、どちらかというと思いつきでピンチを乗り越えてきました(笑)
なので、私が「こうしたらいいんじゃない?」と言ったことにみんなが乗っかればやるし、逆に私が言ったことにみんなが意味不明な顔していたら、「嘘つきました」と言います。逃げるのは上手いんで(笑)そういう感じでやっています(笑)
-ヒラメキタイプって感じですか?
伊藤沙莉
そうです。ヒラメキタイプです。
-そういう意味では浅草みどりに近いのかもしれませんね。
伊藤沙莉
そうですね。ちょっとオタク気質なところも似ているかもしれないですね。
■私はサバサバの“サ”の字もない優柔不断な人間
-ビッケはまた、子どもながらもリーダーシップを発揮していくところまで、本作ではその成長が描かれています。伊藤さんご自身はリーダーシップを発揮される方ですか?また、芸能界というショービジネスの世界で、将来的に、セルフプロデュースしていきたいなどのお考えはありますでしょうか?
伊藤沙莉
私はあんまりリーダーシップをとる方ではないんです。ただ、学園ものの出演が多かった頃、最初は最年少だったのが、だんだんと最年長になっていくんですね。そうすると、自分の中で私はそんなキャラではないと思っているのですが、なぜだか“姉さん”というあだ名が付いて、4歳、5歳下の子が「姉さん、これどうしたらいい?」みたいに聞かれることも出てきて。
カッコつけるつもりはないのですが、悩んでいる人を放っておくほど非道な人間ではないので(笑)、「こうした方がいいんじゃない?」とか、一応、最年長なりの振る舞いをしていました。
基本的には、根っからの末っ子なので、自分で舵を切るのは苦手なんです。優柔不断ですし、何も決められないですし(笑)
だけど、やっぱり大人になってくるにつれて意見を求められることも多くなってきたので、そこは徐々に鍛えていけたらいいなと思っていますが、基本的には先頭に立ちたいタイプではないです。
なので、セルフプロデュースに関しても、すごい苦手で、どうしてもと意見を聞かれる時は、「強いて言うならこう思う」と言いますが、みんながこうしてって言ったら、「するよ」と言います(笑)
-映画『蒲田前奏曲』(2020年9月25日公開)では、同年代の女の子グループの中でまさにリーダーシップを発揮する役ですけどね(笑)
伊藤沙莉
そうですね。あれは役だからできました(笑)なぜかサバサバキャラみたいなのがすごい浸透していますが、サバサバの“サ”の字もない、本当にめんどくさい人間なんです、私(笑)
■やったことないことをやるのが大好き
-伊藤さんはほんとに素敵な声ですが、こういう吹替のお仕事はもともとやってみたいと思われてたんですか?
伊藤沙莉
アニメやナレーションなど、声だけで表現するということにすごく興味があったので、ずっとやってみたかったジャンルのお仕事でした。
-最初挑戦された時はいかがでしたか?
伊藤沙莉
ガッツリやったのは『ペット2』が最初なのですが、それよりも先に、私が小学生の頃、『イヌゴエ 幸せの肉球』(2006)という犬がしゃべる実写映画で、パグの声をやったのがとても楽しかったです。子どもがやっている声とは思えない、昔からおばちゃんみたいな声だったので(笑)
やっぱり、知らないことを知ったり、やったことのないことをやるのが、ほんとに私は大好きなんです。好奇心で生きてきたタイプの人間なので。とにかくそのジャンルにおいてとか、その世界においての新人でいることがすごく楽しいんです。イチからっていうのが。
声のお仕事は、もちろん緊張もありますし、足を引っ張ってはいけないとか、そういうマイナスな感情もありますが、それ以上に密かにワクワクして臨んでいます。
■おしゃべりして成り立つ仕事をやってみたい
-今後、こういう新しいジャンルをやってみたいなっていうのはありますか?
伊藤沙莉
えー?なんだろう?
先日、即興コントのお仕事をやったんです(土曜プレミアム『ただ今、コント中。』(フジテレビ系/2020年8月29日放送))。新しいことに挑戦することは大事だなと思いましたし、すごいありがたいことだなと感じました。
でも、こうやっておしゃべるすることが好きで、音声コンテンツ(伊藤沙莉のsaireek channel/AuDee)や、ちょっと前に「オールナイトニッポン0」で、ずっと一人でしゃべりをやったのですが、このように、好きなおしゃべりが何か形になったら面白いなと思っています。ただ、私はこのインタビューのように、しゃべり過ぎてしまって、確実に失敗もつきまといますからね(笑)
ちょっとまだ手が出しきれていないジャンルですが、いつかおしゃべりして成り立つ何かがあったらいいなと思っています。お芝居とは違うジャンルならば。
-では、記事の見出しに「オールナイトニッポン」を狙ってますとさせていただきますね?
伊藤沙莉
それは絶対にやめてください!怖いから!私は生放送だと絶対やらかすと思うんで(笑)
[インタビュー・写真:Jun Sakurakoji]
映画『小さなバイキング ビッケ』
ストーリー
「信じる。何があっても…」
少年ビッケは、愛する母イルバを救うため大海原へ旅立つ。海賊の父ハルバルと、仲間とともに――
ビッケは海賊の長ハルバルの息子。ハルバルは元気な力持ちだがどうも頭の回転が鈍く海賊長としては頼りない。
そんな父とは正反対にビッケは小さくて力もないが、知恵は誰にも負けませんでした。
ある日、母のイルバが魔法の剣の力で黄金に姿を変えられてしまいます。
ハルバルは案内役のレイフと船員たちと海賊船で剣の秘密を解く旅に出発!
おいてきぼりを食らったビッケはそっと樽に隠れ海賊船に乗り込みます。知恵と仲間の力で困難を乗り越え、ビッケたちが辿り着いたのは謎の島。人間界に追放されたアズガルドに住む神、ロキが待ち受ける。
ビッケたちの運命とは――!?
監督:エリック・カズ 「Vic the Viking」(TVシリーズ)
アニメーター:ティモ・ベルク 「SING/シング」「ペット」「怪盗グルーのミニオン大脱走」
出演:伊藤沙莉(ビッケ)、三宅健太(ハルバル)、前野智昭(レイフ)、和多田美咲(イルビ)、田坂浩樹(スベン)、前田雄(ウローブ)、鷲見昂大(ファクセ)、白井悠介(ゴルム)、神尾晋一郎(ウルメ)、長瀬ユウ(スノーレ)、坂田将吾(チューレ)、矢尾幸子(イルバ)、野津山幸宏(ソー)
2019/ドイツ、フランス、ベルギー/77分/英題:Vic the Viking and the Magic Sword
(C)2019 Studio 100 Animation – Studio 100 Media GmbH – Belvision
配給:イオンエンターテイメント、AMGエンタテインメント
公式サイト:vic-movie.com
予告編
10月2日(金)よりイオンシネマ他にて全国公開
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