大倉忠義が“窮鼠”になった瞬間。映画『窮鼠はチーズの夢を見る』公開記念舞台挨拶レポート
9月12日、都内にて映画『窮鼠はチーズの夢を見る』の公開記念舞台挨拶が行われ、大倉忠義、成田凌、行定勲監督が登壇。全国102館にライブビューイングとして中継された。
舞台挨拶レポート
-今年ベストの恋愛映画だという声もたくさん届いています。これを受けて、監督はどういったお気持ちですか?
行定勲監督
“恋愛映画の名手”とかってよく書かれたりするんだけど(笑)、ちょっとね気恥ずかしい思いを持ってました。
恋愛映画って、ジャンルから言うと軽視されがち。恋愛って誰でもするじゃないですか。
皆さんそれぞれにいろんな経験値があるから、こんなもんじゃないよって。俺はもっとこんな恋愛をしたとか、私はもっとこんな辛い恋愛をしたとか。
なので、恋愛というのは芸術としては評価されにくい部分がります。観た人たちにとって私事であったりもするから。
でも僕としては、映画の中には恋愛だけじゃなく、社会的なものとか人間のドラマがちゃんとあるでしょっていう気持ちがずっとあったんです。
ただ、この映画は、恋愛についての考察っていうか、とことん恋愛なんですよね。
だから、それが作れたっていうのは僕にとってはすごく胸を張って「これは恋愛映画です」って言える映画です。
なのでそれが皆さんに伝わってるんじゃないかなって思います。
■恭一と今ヶ瀬の恋愛と重なる部分
-恭一と今ヶ瀬の恋愛を見て、新たな発見やご自身と重なる部分はありましたか?
大倉忠義(大伴恭一 役)
男女に当てはめてじゃないけど、また別物として考えようと思ってたんですけど、なんかシーンを撮っていくごとに、「あ、なんかこの感じって経験したことあるな。」とか、そこが当てはまっていく感は、男同士だからとか考えなくてもいいのかなっていうのは発見でしたし、やりやすいところでもありました。
成田凌(今ヶ瀬渉 役)
ひとつ気づいたのが、恭一も今ヶ瀬もそうなんですけど、正しいことっていうのはイマイチわからないけど、正しくない事をしてるって言うのは分かるもんなんだなって。
今ヶ瀬は、傷つくことを前提に立ち向かっていって、当たって砕けろじゃないですけども、当たったらもう当たったまんまみたいな。
良くないのはわかってるけど、何をしたらいいのかわからない。
そういうモヤモヤが常にあるなっていうのはそうだな確かにあるなって、思いました。
-正しい正しくないで言うと、恭一は、自分ではそんなに悪いことしてる気持ちはないんですが、“流され侍”としてけっこうなクズっぷりを見せてましたよね?
大倉忠義
そうなんですよ。この作品を観終わった方は、僕の友人もそうでしたけど、「今ヶ瀬がカワイイ」って。絶対そうなんですよ。
でもそうなんですけど、ダメなやつを好きになってる今ヶ瀬もダメなんですよ。お互いダメなんですよ。
(恭一が)クズっていうのはわかります。僕もやってて。
でも、こんな男って、皆さんの周りにもいると思うんですよ。「あんな人やめとき」みたいな。
でも、結局そういう人が好きっていう人もいるわけじゃないですか。だからなんか複雑です。
成田凌
そうですよ。今ヶ瀬も悪いんですよ。今ヶ瀬が、勝手にワーッって行って、ワーっって傷ついて、またワーッっていって怒って。
何してんの?っていう(笑)
-(今ヶ瀬は)ハイチェアに可愛らしく座ってましたけどね(笑)
行定勲監督
(撮影に使ったそのイスは)今、うちの事務所にあるんだけど、イスとしての実用性は無いね。高さが高すぎて。だから物が置いてあります(笑)
大倉忠義
あのイスはね、成田くんのお尻じゃないとあの座り方はできないんですよ。
僕も試してみたんですけど、ちょっとケツでかいほうなんで、できなかったです。
成田凌
確かに、あれはムズいですよね。僕も今やれって言われたらできないかもしれない。
行定勲監督
撮影の時の成田は相当絞ってて細かったもんね。細い身体で膝を抱えて座っているのが印象的になっていいなって思いました。
■「恭一にはなかなか共感しにくいですよ。」
-成田さんは恭一みたいな男性はどうですか?
成田凌
なかなか「共感します」とは言いにくいですよ(笑)
でも、心のなかでは、まぁしょうがないって思っている部分はあると思います。
だから、男性の方に是非たくさん観てほしいですね。なんかどう見えるんだろうって。
■成田版今ヶ瀬は、原作よりも可愛くなっている。
-原作の水城せとな先生が、成田さんが演じる今ヶ瀬は原作よりも可愛らしくなってるっておっしゃってました。今ヶ瀬を分析された成田さんとしてはどうっですか?
成田凌
原作ってけっこうコミカルというか、明るくい部分もあるんですけど、映画では割とLowな感じでしたね。
行定勲監督
成田の今ヶ瀬はだんだん可愛くなっていったよね。女性性が出てくるというか、不思議だよね。
大倉忠義
最初はクールだったけど、だんだんお互いに人間らしくなっていったね。
-その中で、怒りとか嫉妬みたいなところがあらわになるシーンがありました。タイ料理屋のシーンはかなりスリリングでした。
大倉忠義
そのシーンはおもろかったですよね。あの後、僕、さとうほなみさんと一言も話してないんじゃないかな(笑)
成田凌
女性キャストはたくさんいらっしゃいましし、吉田詩織さんとは以前、ラブラブカップルとして共演したこともありましたけど。
なんか、大倉くんとか喋ってる時とか、ムカついちゃって。
大倉忠義
(笑)
成田凌
僕が出ていないシーンでも、(大倉くんと喋っている)女性陣を見て、ムカつくなぁって(笑)
だからあの時期、女性キャストの皆さんのことを嫌いでしたね(笑)
行定勲監督
現場で、大倉は成田に対してあんまり優しくないのよ(笑)
大倉忠義
ダメだなと思いつつも、距離感がすごい大事だなと思ったんです。
本当は空いてる時とか、飲みに行こうよって感じの雰囲気ではあったんですけど、多分そこまで近づいちゃうとそれはそれで違うかなとか思ってると、ちょっとね、なんか冷たくなっちゃってたみたいですね(笑)
■成田のベストアクト
-岡村たまき(吉田志織)のチーズケーキのシーン。今ヶ瀬が現れた時のたまきの顔とか、今ヶ瀬の言いっぷりとかの気まずいシーンがありました。
成田凌
このシーンは好きですね。
「どうも~」って言って入って、「どうも~」って言って去る。
大倉忠義
マウントを取り続けるっていう(笑)
成田凌
なんかそういうマウントを態度で取ってくるお姉さんっているよな、ってすごい思ってて。
僕は、個人的には、あの最後、別れ際のこのお辞儀が僕のこの映画のベストアクトだと勝手に思ってます(笑)
■シナリオを作る上での重要ポイント
-大倉さんはどのシーンが好きですか?
大倉忠義
(2人の関係が)おしまいだってなってから、海までの流れのところが好きですかね。
悲しいんだけど、絵が綺麗っていう残酷さが僕は好きですね。
成田凌
何で海に行ったんですかね。
大倉忠義
しかも、海に行こうって言って車を運転しているのが恭一なんですよね。
行定勲監督
そのシーンはシナリオ作る上で重要なポイントでしたね。
脚本家は、海のところまで書いて、いったん止めたんですよ。その先をどうするかってことで。
原作から少し逸脱していくわけですからね。それ以降の二人をどうするんだって。
海というどんつきに行くっていうことは、もうおしまいっていう、二人の心境を表しているって解釈すると、二人の精神的心中みたいな。
成田凌
原作だと、車の中の会話ですもんね。
行定勲監督
脚本でも、車の中でも外に出てもどちらも良いってなってたんだけど、出てよかったよね。突然風が吹いたもんね。
成田凌
すごかったですよね。
■まさしく“窮鼠”なシーン
-恭一もどんどん可愛く見えてくるなっていう印象も持ちました。グラタンのところとか最高ですね。
成田凌
グラタンのところは最悪じゃないですか(笑)
今ヶ瀬的には、手が震えながらタバコを吸うくらい怒ってるんですから。
行定勲監督
「食べてきたんでしょ?」って(笑)
大倉忠義
「ちょっとだけ食べよっかな」みたいな。
成田凌
で、今ヶ瀬がなんて言うかというと、「欲張り」って(笑)
全バレ(笑)
-ダブルミーニングにもなってますよね(笑)
行定勲監督
あそこの大倉の芝居は迫真に迫ってるんだよね。あれこそ“窮鼠”だよね。あれは追い込まれてるよね(笑)
大倉忠義
あんな経験あるのか?みたいなね(笑)
成田凌
上手いなぁ、なんでだろうなぁ?ってね(笑)
大倉忠義
ほんとはあんなにわかりやすくやっちゃったらダメなんですよね。「いいよ、食ってきたから」って言ったほうがバレないのに。恭一はね、バカなんですよ。
成田凌
でもなんで男はああいう時、優しくなっちゃうんですかね。それでバレるんですかね。
-文字通り“窮鼠”になった瞬間に、恭一に対して「こいつダメだなぁ」って可愛く見えてきますね。
成田凌
それは、奥浜レイラさん(この日のイベントMC)が大人だからじゃないですか?(笑)
だって、ああいうところで水城先生は笑うわけですもんね。何度も爆笑したって言ってましたもんね。
でも描いた人が笑うってことは、可愛いってことなんでしょうね。
-大倉さん、無言になってますが。
大倉忠義
自然とああなっちゃったんで。でもそれは全部、今ヶ瀬の態度を見てのことですから。めっちゃ怒ってますから。
行定勲監督
やっぱり漫画原作と違って、人が演じる映画の場合、誰がその役を演じるかによって変わりますから。大倉じゃない人間が恭一をやってたら、あんな風にしないかもしれない。
そこがやっぱり面白いよね。で、今ヶ瀬もあんな風に可愛く見えてくるかって言ったら、他の人がやったらまた違うものじゃないですか。
だから、この二人の恭一と今ヶ瀬以外はもう想像できないもんね。
■最後のメッセージ
大倉忠義
皆さん、貴重な時間を割いていただき本当にありがとうございました。
昨年の2月ぐらい撮ってた映画ですが、昨日、やっと公開されました。僕もすごく待ち望んでいた公開だったので、皆さんに届けられているこの今、すごい幸せを感じてます。
僕の友人も昨日観に行ってくれたんですけれども、その方達と話していると、「あのシーンってこういう意味なの?」とか、いろんな考察があるのを傍から見ていると、やっぱりそういう映画だなってすごく思いました。
成田凌
今、大倉くんが言ったように、この作品は観てくださる人をすごく信頼して作った映画だと思っています。
観てくれた人の数だけこの映画の受け取り方があるし、今ヶ瀬のあり方、恭一のあり方、それぞれたくさんの受け取り方があるんだなと思います。
昨日、今日、観てくれた方もたとえば一か月後に観たらまた違う受け取り方をしているかもしれない。
僕らももう一度観たら違うんだろうなっていうのをすごく感じています。
この映画を観て、是非人と話し合って、恋をしてください。
行定勲監督
胸を張って恋愛映画だと言える作品ができたと思います。
この映画を観て、いろんなきっかけにしてほしいです。愛の形っていうのはそれぞれが個人としてどんな選択をしてもいいんだと。
で、自分が予想だにしなかったことが、自分の身に降りかかった時に、そういう時こそ自分はどう生きるかって事考えると。
恭一も考えたように、覚悟みたいなものが、どんな風に世の中を変えていくのかっていうのは、今の時代にすごく通じてるものだと思います。
[写真・記事:Jun Sakurakoji]
映画『窮鼠はチーズの夢を見る』
【イントロダクション】
僕たちはまだ本当の恋を知らなかった
原作は、人を好きになることの喜びや痛みをどこまでも純粋に描き、圧倒的な共感を呼ぶ心理描写で、多くの女性から支持を得た水城せとなの傑作コミック「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」。
ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を2度も受賞するなど、日本を代表する映画監督・行定勲。その繊細な表現力と確かな演出力で、様々な愛のかたちを写し取った『ナラタージュ』(17)、『リバーズ・エッジ』(18)に続き、本作では、揺れ動くふたりの狂おしくも切ない恋を、時に繊細に時に大胆に描きだす。主人公の大伴恭一を演じるのは、映画では『100回泣くこと』(13)に続き、単独主演を務める大倉忠義。そして、恭一を一途に想う今ヶ瀬渉役には、『愛がなんだ』(19)、『カツベン!』(19)など話題作への出演が絶えない実力派・成田凌。好きになってはいけないと頭ではわかりながらも、どうしようもなく惹かれてしまう葛藤や強い嫉妬心・・それらの複雑な感情を、痛いほどリアルに、時に涙がでるほど美しくスクリーンに焼き付けている。
これは、胸が苦しくなるほど誰かを愛したあなたへ贈る、忘れられない恋の物語。
【物語】
7年ぶりの再会 突然の告白 運命の歯車が動き出す―
学生時代から「自分を好きになってくれる女性」と受け身の恋愛ばかりを繰り返してきた、大伴恭一。ある日、大学の後輩・今ヶ瀬渉と7年ぶりに再会。「昔からずっと好きだった」と突然想いを告げられる。戸惑いを隠せない恭一だったが、今ヶ瀬のペースに乗せられ、ふたりは一緒に暮らすことに。ただひたすらにまっすぐな今ヶ瀬に、恭一も少しずつ心を開いていき・・・。
しかし、恭一の昔の恋人・夏生が現れ、ふたりの関係が変わり始めていく。
原作:水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」(小学館「フラワーコミックスα」刊)
監督:行定勲 脚本:堀泉杏 音楽:半野喜弘
出演:大倉忠義 成田凌 吉田志織 さとうほなみ 咲妃みゆ 小原徳子
配給:ファントム・フィルム
(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
映倫区分:R15
公式サイト:https://www.phantom-film.com/kyuso/
公式Twitter:@kyuso_movie
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
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