【インタビュー】やりたかったことは、映画とインターネットクリエイターとの融合
岡山天音主演の映画『踊ってミタ』が3月7日より公開中。メガホンを取ったのは飯塚俊光監督で、岡山天音とは3度目のタッグとなる。「地方再生型ヒューマン・ダンスムービー」と銘打たれた本作で飯塚監督がやりたかったこと。そして「僕の生き写し」と表現した岡山天音という俳優について、飯塚監督に話を伺った。
飯塚俊光監督は、北野武監督の『キッズ・リターン』(1996)を見て、「こんな映画が作れるようになりたい」と思ったのが、映画の道に足を踏み入れたきっかけだという。そして、ニューシネマワークショップで映画制作を学んだあと、伊参(いさま)スタジオ映画祭(群馬)、福岡インディペンデント映画祭、田辺・弁慶映画祭(和歌山)など、地方の映画祭で評価されてきた経緯を持つ。
そうした中で、地方の町が映画祭などの文化面の取り組みで活性化を図るさまを肌感覚で体験してきたと語る飯塚監督だからこそ描けた『踊ってミタ』は、「町興し」のため、人々が「踊ってみた」を通じて触れ合い、一歩踏み出し、自身と向き合うことで生きる活気や絆をとり戻してゆく姿を描く物語。
飯塚監督インタビュー
やりたかったことは、映画とインターネットクリエイターとの融合
– 『踊ってミタ』は、“地方再生型”、そして“町興し”と“踊ってみた”を融合させたオリジナル作となっています。まずは、本作製作のきっかけ・狙いを教えて下さい。”
飯塚俊光監督
『踊ってミタ』というタイトルになってますが、それは切り口です。
僕は、(「ボカロ」「VTuber」などの)インターネットの世界から出てきたクリエイターと、加藤小夏さんや岡山天音くんたちが主戦場とするテレビ・映画のコンテンツとが分断されているなっていう意識がありました。
なので、有名YouTuberが、映画・テレビにちょこっと出たりとかそういうレベルではなく、もっとしっかりとした形で融合していくものが時代的にそろそろ出てきてもいいだろうというのがそもそものきっかけであり、僕がやりたかったことです。
そのための一番合理的なテーマ、タイトルが“踊ってミタ”だったんです。
– “町興し”として地方を舞台にした狙いは?
飯塚俊光監督
僕は、地方映画祭で評価されてきた人間なんですが(伊参スタジオ映画祭、福岡インディペンデント映画祭2014、田辺・弁慶映画祭など)、これらはみんな、町を活性化するという目的でやっています。そういうことを肌感覚でいろいろ知っていますし、そういうものに接する機会が多かったというのがあり、“町興し”を題材としました。
それに、東京を舞台にして、ボカロやVTuberってやっちゃうと面白みに欠ける感じがするんです。それよりも、地方再生とVTuberという一見アンバランスなものをくっつけた方が、見え方としてすごく面白いなとも思ったんです。
物語の舞台は、実際にかつて文化人が集った町
– 劇中で登場する町は、「劇場通り」というボロボロの看板が登場したり、寂れゆく雰囲気がありましたが、物語の設定上はどういう町だったのでしょうか?
飯塚俊光監督
この劇場通りっていうのは、(栃木県)足利市です(*)。また、役場のシーンは群馬県の四万温泉がある、吾妻郡中之条町の伊参(いさま)スタジオがあるところです。
そこで行われている伊参スタジオ映画祭に僕は毎年行っているのですが、町長が「この町は過疎化が進んでいるんだ」っておっしゃってて。
で、今回の映画の舞台となるところをイメージしたのが、この中之条という町なんです。足利の劇場通りのようなボロボロな看板の感じが本作にマッチしているなと思いした。
事実、この中之条という町は、昔は、文筆家とかが温泉に入りながら小説を書きに来たところで、そういう文化人がいっぱい集まってきた町。本作もそれと同じく、昔は文化人がいっぱい集まってきた町だったのが、現在では廃れてしまった、という設定です。
*足利市の劇場通り・・・映画『今夜、ロマンス劇場で』(2018)にも登場
岡山天音くんは、どこか僕の生き写し
– 本作のキャスティングについて教えて下さい。
飯塚俊光監督
天音くんとは今作で3度目となるのですが、天音くんってどこか僕の生き写しみたいな感じなんです。オリジナル作品で自分を投影しやすい役者っていう感じがあって。
で、天音くんが決まると、必然的に天音くんとの相性がいいと思っている武田玲奈さん(前作『ポエトリーエンジェル』でも共演)に決めました。
この2人が決まると、僕にとって初めてだけど面白そうな方々をバンバン決めていったという感じです。
– “生き写し”とは具体的にどういう点がでしょうか?
飯塚俊光監督
今でこそ天音くんは中堅どころの演技派俳優として活躍されていますが、僕と初めて会った頃の彼はぜんぜんそんなことはなく、ずっと演じることについて(頭をかきむしって悩んでいました。自信を持てないから、ずっとセリフをしゃべってたり。彼は、努力で一歩一歩前に進んできたと感じています。
僕もどちらかといえば、一発でバーンって感じじゃなく、一歩一歩やってきたんで、そういう姿が自分の中で彼とすごく重なるところあって、すなわち、“悔しい思いをしてきた、負けてきた歴史”を感じるんです。
例えば、僕の中では加藤小夏さんは“勝ってきた歴史”を感じるんですよ。だからそんな2人のアンバランスさが面白いんですけど(笑)
– 最近の岡山天音さんの活躍ぶりはすごいですよね。
飯塚俊光監督
ですね。僕はずっと彼のことはすごいと思っていたので、(世間は)やっと気づいたかって感じですね(笑)
これから、年齢を重ねると共に男としての色気がどんどん出てきて、さらに良い役者になっていくんだろうなと思っています。
– 岡山さん演じる“三田”は、苦笑いしたり謝ってばかりの青年として描かれています。この“三田”という青年の役について、岡山天音さんと話し合われたことがあれば教えて下さい。”
飯塚俊光監督
天音くんに出演してもらった僕の過去2作品と、今回の『踊ってミタ』まで基本的には同じ感じのキャラクターなんですよ(笑)
『チキンズダイナマイト』(2015)はいじめられっ子で、『ポエトリーエンジェル』(2017)はニート。
『踊ってミタ』はプライドだけ高くて何もできないやつみたいな感じで、コアな部分は、彼が演じる上では同じなので、そんなに話し合うことはなくて、もうわかるでしょって感じでした。
ちなみに“三田”という、東京の広告代理店に勤め、優遇されていなかった僕の友だちをモデルにしています(笑)
女の子のキャスティングは魅力が被らないように
– 本作の魅力のひとつとして、可愛い女の子がたくさん出演されていることだと思います。加藤小夏さん、武田玲奈さん、横田真悠さんなど。彼女たちのキャスティングの理由について教えて下さい。
飯塚俊光監督
僕の好みは好みなんですけど(笑)、魅力が被らないようにはしました。
僕のイメージなんですけど、加藤さんは男性と女性のファンが半々、武田さんは男性ファンが多い、横田さんは女性ファンが多いと。
そうするとこの3人が揃うとすごくバランスが良いなって考えました。
– あと、コスプレイヤーの霜月めあさんとゆってぃさんのコンビがとても面白かったです。
飯塚俊光監督
二人の怪しい雰囲気は最高ですよね
“海=死”と捉える海外死生観から評価される「水中ニーソ」
– 本作では、武田玲奈さんが水中ニーソに挑戦されていますが、この“水中ニーソ”を採用された理由について教えて下さい。
飯塚俊光監督
“水中ニーソ”って日本だと単にオタクみたいに捉えられてしまいがちですが、海外ではアートとして捉えられていたりすることに興味があったのが一番大きいです。
海外の人にとって“海”は“死”に近いイメージがあるそうなんです。死生観と言いますか。
そこに可愛い女の子を連れてきて、ニーソックスにするっていうのは、海外の人からしたら異様で日本的なイメージに映るそうなんです。その話を聞いて面白いなぁって思って。
本作では、インターネットコンテンツが集結していった時に、全方位的にポップカルチャーが集まっていると面白いなって思ったんですね。それがアニメだったり、ボカロだったり、VTuberだったり、そして水中ニーソだったというわけです。
“前向き”を押し付けたくない
– 本作では、岡山天音さんをはじめとして、何人かのキャストが踊りを披露されています。彼らの踊りへの取り組みについて、監督から話されたことは?
飯塚俊光監督
僕が過去の踊りの映画を観ていく中で、気持ち悪いなって思うところが3つあります。
まず、全員衣裳が同じところ。振り付けを一切間違えないところ。必ず皆が笑顔なところ。
スポーツものの作品の場合だと仕方がないところはあるんですけど、これら3つが、僕の中ではなんか押し付けがましく見えてしまう一面があるんです。
もちろん、良い一面でもあるんですが、そう受け取れない人もいるのではと。すなわち、前向きに生きろって言われすぎると辛い人も世の中にはいたりするのではと。
だから僕の作品はどちらかと言うと、前向きに生きろって押し付けるよりかは、後ろ向きだけど生きていくために一歩踏み出すみたいな話が多いんです。
そう考えた時に、これら3つをとにかく崩そうと思ったので、全員、衣裳はバラバラにして、笑顔に関しても、笑いたくなければ笑わなくてもいい、あくまでも芝居の一貫としてやってくれと話しました。そして、振り付けを間違えたからといって撮り直しはしないのでぜんぜん気にしないでくださいとも言いました。
でも天音くんが振り付けを間違えているところは、あれは実は練習している時に間違えたんですよ。で、「面白いね」ってなって、本番でも必ず間違えようってなりました(笑)
エンドロールも見どころ!
– ネタバレに気をつけて話しますが、本作が最後の最後まで楽しませてくれるのは、エンドロールがダンスムービーになっていることです。これは監督のアイディアでしょうか?また、その意図を教えて下さい。
飯塚俊光監督
僕のアイディアです。
終盤のクライマックスシーンでは、ずっと踊っていますし音楽が流れています。その数分後にエンドロールになりますので、そこでまったくテイストの違う曲はかけられないなって思ったんです。で、もともとクライマックスシーンで使う予定だった「ハイドアンド・シーク」をエンドロールに使って、クライマックスシーンの曲の雰囲気もそのままに、そしてダンスシーンも入れて統一させることにしました。
– なるほど。
飯塚俊光監督
エンドロールの裏話をひとつ。当初、動画サイトで視聴している画面のイメージだったんです。そうするとほんとのネット上の踊ってみた動画みたいな雰囲気になるじゃないですか。でも、画面全体で踊りを見たいという意見が出てきたので、結果そうしています。
– エンドロールではダンスシーンと共に、劇中の伏線が見事に拾われますね。小牧那凪さん演じる“松田”と加藤小夏さん演じる“古泉ニナ”との関係性について。
飯塚俊光監督
その2人については、本編では、いくつか切っていったんですよね。劇中、松田(小牧那凪)が、ニナ(加藤小夏)に対して悲しそうな表情をするシーンがありますが、松田が抱えている“含み”みたいなものを感じ取ってもらえるようにするには、セリフが多くなって説明的になると野暮ったいと思ったんです。
– ちなみに小牧那凪さんは踊りのシーンは苦労されていましたか?
飯塚俊光監督
彼女は上手かったですよ。
最後にメッセージ。
– 最後に映画『踊ってミタ』をこれからご覧になる方へ、飯塚監督から見どころと共に、メッセージをお願いします。
飯塚俊光監督
色モノ映画っぽく見えるところがありますが、やっていることは青春の普遍的なテーマを扱っている映画です。今っぽい題材を扱っていますが、映画自体は老若男女に伝わる物語になっていると思っています。なので家族で観てもらえたりするとすごく嬉しいです。
[写真・インタビュー:Jun Sakurakoji]
映画『踊ってミタ』
≪STORY≫
スマホひとつで誰もが発信できる時代。東京で映像作家の夢破れた底辺YouTuberの三田は、春野山町役場シティプロモーション課で働いていた。
深刻な過疎化、観光資源なし、あるのは名物・干し芋と自然だけ。イケてるクリエイターとはあまりにもかけ離れたド田舎で、三田は現状を認められないまま腐っていた。
そんな折、町を活性化しろとの町長・丸山の命令で観光動画を制作することになる。「最高にかっこいい映像作るしかねぇだろ!」しかし意識は高いがセンスはゼロの三田。見かねた同僚の真鍋の提案により “踊ってみた”動画作成をスタート!
だが、期限はたったの2週間。集まった踊り手は、真鍋の妹で金髪ヤンキーのミネタ、盆踊り大好き外国人ダリ、そしてパラパラを踊るお爺ちゃんとその孫のたった4人…。
さえないメンツに気落ちする三田は、ご当地アイドル“星いもco.”の元メンバー・古泉ニナが町にいることを知り加入を迫るが「変態」と罵られ取り付く島もない。
まとまらないメンバーに町長の無茶ぶり、町の人にも白い目で見られ制作は難航。
それでも、三田の奮闘により完成が近づくなか、町全体を揺るがすネット大炎上事件が起こる。町長は辞職し、なぜか責任を問われた三田はついにブチ切れ、シティプロから逃げ出してしまう。
動画制作を真鍋に押し付け“すぐやる課”に異動した三田だったが、偶然シティプロ解体の危機を知る。新町長からの存続の条件は町のイベントで“踊ってみた”を生配信し、1万人同時視聴を達成という到底無理な命令だった…。
岡山天音 加藤小夏 武田玲奈 中村優一 横田真悠 ルー大柴 川原瑛都 えんどぅ 西村瑞樹(バイきんぐ)
松浦祐也 ふせえり 早出明弘 森田想 白石優愛 小牧那凪 ゆってぃ 冨樫真 BOB りりり 霜月めあ
大鳥こはく(角元明日香) 山本匠馬 味岡ちえり やついいちろう 有馬和樹(おとぎ話)中島ひろ子
監督・脚本:飯塚俊光
音楽:40mP 振付:めろちん CGディレクター:天野清之
配給:東映ビデオ
©2020「踊ってミタ」製作委員会
公式サイト:odottemita-movie.jp
公式ツイッター:@odottemita_mv
武田玲奈:水中ニーソ(撮影:古賀学)
ミネタ(横田真悠)MV「アスノヨゾラ哨戒班」(曲:Orangestar)
予告編
3月7日(土) 全国ロードショー
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