【監督・キャストインタビュー】「居場所がない透明な自分に恐れを感じていた。」-映画『透明花火』
注目の若手監督・野本梢監督の初長編監督作『透明花火』。
中学時代、自分の居場所を見つけられず、“透明な自分に恐れを感じていた”という監督自身の原体験を織り交ぜてに作られた本作のタイトルに込めた野本監督の思いとは何なのか?
そして、“群像劇”という形で語られる本作の物語に対する、キャスト自身の取り組みについて話を伺った。
『透明花火』は、5人の主人公がいる群像劇で、“5つの物語”がそれぞれ同時進行し、親子の絆や愛し合うことの難しさなどが描かれる。それぞれの主人公について野本監督は、「それぞれの主人公が何か引け目を感じていて、つい嘘をついてしまったりとか、逃げてしまったりとかしていく中で、それでも何かを見つけて進んで行こうとします。」と語っている。
『透明花火』は、3月14日から27日まで、池袋シネマ・ロサにて期間限定単独公開。
また、それに先駆けて、同館では2月29日から3月13日まで特集上映「野本梢監督特集『私』」が実施される。
インタビュー:群像劇で描かれる『透明花火』
▼“透明花火”とはどんな花火なのか?
インタビューに応じてくれたのは、野本監督と、群像劇である本作を構成する5つの物語の中から、4人のキャスト。
24 歳で女性経験がないことに引け目を感じている男性・圭太の物語からは、圭太演じる清水尚弥と、その交際相手・絵美役の土山茜。
ナンパ塾を経営しながら祖母と暮らす淳の物語からは、淳役の髙橋雄祐。
そして、バイト生活に明け暮れる楓がキャリアウーマンになった同級生と出会う物語からは、その同級生・庸子役の東野瑞希。
“透明であること”に恐れを感じていた
-『透明花火』というタイトルに関して、「透明であることに恐れを感じて生きてきた」という監督のコメントを拝見しました。これにはどういった出来事があったのでしょうか。
野本梢監督
主に中学時代なのですが、自分の居場所が無いような感じがしていました。イジメとかがあったわけではないのですが、自分に勇気がなくて話しかけられなかったことがあり、クラスの中に私がいてもいなくても、クラス自体は変わらないだろうなという考えがありました。
-居場所の無さ、存在感の無さを“透明”と捉えたということでしょうか。
野本梢監督
そうですね。それを強く感じていました。そこが作品の中の引け目を感じている登場人物達に一番寄り添える部分だなと思ったんです。そこから『透明花火』というタイトルになりました。
どの話の軸も帰着点は“花火”
-タイトルの『透明花火』は編集後に決まったそうですが、元々はどういったタイトルだったのでしょうか?
土山茜(武田絵美 役)
『透明花火』に決まったのは、事後報告でしたね。その前は、別のタイトルを知らされていました。
清水尚弥(立花圭太 役)
『そっと傷つく』というタイトルでした。
-タイトルが『透明花火』に決まったときに、どういった印象を持たれましたか?
土山茜
撮影時は作品全体を通して、“私たちは傷つき、それを埋めあいながら…”というイメージだったのですが、試写で出来上がったのを観て、みんなそれぞれの気持ちで花火を見ているんだなっていうのが分かりました。なので、花火に向かっていくということで、やはりこのタイトルにしたくなったという気持ちを感じました。
清水尚弥
どの話の軸にも帰着点が花火というワードにつながっているし、花火から始まって、話が転がって行くような部分もあるので、“花火”っていう印象的なキーワードが入ったことは、とてもなるほどなっていう感じでした。
髙橋雄祐(円城淳 役)
シンプルでいいなと思いましたね。
東野瑞希(佐々木庸子 役)
元々のタイトルが、『そっと傷つく』で、これも良いタイトルだなと思っていました。
『透明花火』になりましたって聞いていなくて、試写で観た時に、『透明花火』になっていて、「え、いいじゃん!」って思いました。
日本人は四字熟語に惹かれるというか、漢字4文字はバランスがいいし、言葉も“透明”と“花火”というなかなか無い組み合わせの言葉なんですけど、それがまた、綺麗でいいなと思いました。
“透明な人”に寄り添いたい
-ストーリーを知らずに、『透明花火』を初めて見た時に、色がある花火が透明とは、どんな意味があるのかが気になりました。“透明”に対してどんな印象を持ちましたか?
清水尚弥
「透明になってしまいたくなる」とか、いろんな感情があると思うんですけど、そういう“透明な人”に寄り添いたいっていう気持ちで、透明っていうワードをチョイスしたと監督がおっしゃっていて、なるほどなと思いました。
▼群像劇~監督と俳優
登場人物の多い群像劇だからこその工夫
-『透明花火』は5つの主人公による5つの物語で構成される群像劇である点に特徴があると思いますが、人物を識別しやすくするために同じ衣裳を着ているそうですね。衣裳選定のエピソードはありますか?
野本梢監督
主演の髙橋さんの衣裳は、彼が以前着ていた衣裳を私が覚えていて、そのイメージと淳とを自分の中で近づけていって、着て欲しいと思って選びました。
(ナンパ塾の受講生の)櫻井さんは、パーカーを着ているイメージがありました。劇中で着用しているのはご自身のものです。(黄色い)良い色の服を持ってきてくれたなと思って、そのままお願いしています。
清水さんはおしゃれな感じが出がちで『透明花火』のイメージと一致しないといわれることが多かったんです。撮影の時に、圭太に合わせるために髪を切って飾らない感じにしてくれました。演技経験が豊富な清水さんは、圭太のイメージをご自身で持ってきてくれて、その姿をそのまま採用しています。
自分だけの“波”を、物語全体の大きな“波”に乗せるように演じた
-本作の特徴である群像劇、5つの物語がある中で、一番他の物語と関りを持っていたのが髙橋さんだと感じました。別のインタビューで「バランスに気をつけた」と答えられていますが、それについて詳しく教えて下さい。
髙橋雄祐
この物語全体の大きな“波”があったときに、その波の中でのタイミングだとか、部分だとか、自分のシーンが切り取られる瞬間ってあるじゃないですか。特に群像劇なので、100分間の尺の中で、全体の大きな波があるならば、どのタイミングで自分のシーンが切り取られるかを周りのシーンから見るということですかね。
主人公・淳のリアルな時間経過という、彼自身の“感情の波”と“時間経過の波”とがある中、出てくるのは数シーンで、ポイントでしか切り取られません。なので、僕だけの波ではなく、全体の大きな波にどれだけ乗れるかが、この脚本を最初に読んだときに大事な気がしたんです。
バランスというか、“自分がどうあるべきか”よりも、“自分のシーンが(全体の大きな波からして)どうあるべきか”というのを普通の作品でも当たり前のように考えています。そのシーンの意味するものが、ずれてはいけないという気がしました。
– 群像劇への取り組みについて、清水さんはいかがでしょうか?
清水尚弥
僕の場合の役作りに一貫するのは、“作品の中での見え方”ではなくて、“役として、作品のお芝居中にどう生きるか”なのであまり変わらなかったですね。
-俳優の方々の言葉の中に、役柄を“演じた”ではなく、その役の人物そのものを“生きた”と表現しているのを見聞きしますね。
清水尚弥
お芝居を突き詰めて、真理や核といったものに触れた時に、逆に“演じる”っていう言葉が腑に落ちるときが来るかもしれませんね。
-なるほど。撮影を終えてこうすれば良かったなどの感想はありますか?
清水尚弥
こうすれば良かったなというのは、作品を通してではなくて、自分の表現に対して、やはり毎回あります。今回はやりきったなとか、できる限りのことをしたなと思っても、難癖はつくものなので。自分の表現に関して、「下手糞な芝居しやがって、辞めちまえ!」って思いますけど、トータルに関しては、監督がOKを出されていて、編集して我々に観せてくれた段階で、なによりも信頼していますから意見することは何も無かったです。
-土山さんは、群像劇に対して、脚本を読んだ時点ではどういった繋がりになるか不安があったそうですが、どのようにお芝居をされましたか?
土山茜
私の役どころは他の話にはあまりつながらないので、絵美が過ごしている軸だけをとりあえず考えようと思いました。他のシーンに合わせ、感情を流れに乗せて、同じ方向に向けるというよりは、自分のシーンをしっかりやることが一番大事なのかなと思ってお芝居をしました。
-東野さんは、この作品をどのように成立させれば良いのかを考えて、いろいろと想像したそうですが、具体的にどんなことを考えられましたか?
東野瑞希
この映画に出てくるキャラクターって、普段ならスポットライトのあたらない、どこにでもいる人たちなんですよね。その人たちが、ちょっとした成長とともに、ひとつの花火に向かう話だと思うんです。なので、どこにでもいる人にならなければいけないと思いました。いかにも芝居をしている状態だと、絶対に浮いてしまうし、観ている人が、「こんな子はいないよ」ってなると思うんです。庸子は、私がイメージする素敵な女性像に近いものでした。なので、そこを嫌味なく出して行くことを考えました。
▼役作り、芝居への取り組み
清水尚弥×土山茜 ~ この2人だからこその“透明花火”になった
-お二人の今回の役柄的に、女性経験がないことを引け目に感じている男の子と、好きな人には本気で、彼を引っ張っていく女性との関係でしたが、お芝居の中で心がけた点はありますか?
土山茜
役柄的には私が引っ張らなければいけない立ち位置だったんですけど、清水君には教えられました。役者として、今まで自分一人で芝居をしてきたところがありましたが、清水君はお上手な方なので経験もあるし、周りも見えている方で、相手がいて自分だけが芝居に集中すればいいんじゃないんだなってことを教えられました。人と人とでお芝居をするし、相手によってこんなに感情を引き出してくれたりするんだとか。こういう役者に私はなりたいってシンプルに思いました。こうやって本人の目の前で言うのは嫌ですけど(笑)
私としてはこの作品で清水君に出会ったのは衝撃的でした。
清水尚弥
何もしてないんですけどね。
-何もしていないけど引き出したというところがすごいですね。
清水尚弥
いや、本当に何もしていないですよ。ただ、土山さんがおっしゃていた通り、本当に僕は消極的な役柄で、全部受動的だったので、二人のお芝居に関しては、どちらかが能動的にならないと話が転がらないと考えていました。すべての能動はほぼ、絵美ちゃんだったので、芝居の中で全部、茜ちゃんに引っ張ってもらいました。
舞台ではありませんが、人が違えば芝居も違いますし、その日、朝食がパンかご飯かでも芝居が変わってくると思っています。それくらい繊細なものだと思います。
相手が茜ちゃんだったから、このお芝居になったし、『透明花火』になったので、茜ちゃんに映った“清水尚弥像”は、土山茜ありきのものだと思います。
最後のシーンの茜ちゃんは、もう本当に花火みたいでした。それは本当に“瞬間”で、あの時しかできなかったものだと思っています。
土山茜
確かにあのシーンはもう一度出来なかったですね。野本監督もおっしゃってくれましたが、「撮り直しは出来ない。2回はできない」って、よく言ってくれたわぁと思いました。それも清水君がいたからです。
清水尚弥
でもね。あのシーンは大変でしたよ。僕は頭を使い、めっちゃフルでした。でも、あのレベルでフルになっているからね。特に芝居面で、もうちょっと出来たかなと思っちゃうんだよね。でも良かったと思います。土山さん、めっちゃ良かった。
髙橋雄祐「実際にたくさんナンパをしてみた。」
-髙橋さんのコメントに、淳について、「彼のDNAが僕にも組み込まれていて…」というものがありました。芝居にあたって、取り組んだことはありますか?
髙橋雄祐
内面的なことは、自分の中で沢山作り上げられると思うのですが、リサーチだけでは到達できない所があると僕は思っています。価値観とか、彼が持っている考え方とか、大切にしていることとか、身なりとかは、語弊があるかもしれませんが、僕自身としては簡単に手に入れることができると思うんです。
でも、今回のように、ナンパをするとか、ナンパ塾をやるといった時には、どうしても到達できない部分があって、そういう時には実際にやるしかないと僕は思っています。なので、役を掴むにあたって、実際の行動に移し、実際に沢山ナンパをしました。実際に行動に移してみないと掴めない部分があるんです。アクションを起こしたことによって、得られる感覚とか感情があるので、それを大事にして、さらに淳という人物を形成していった感じです。
ナンパしている時の感情って、考えても到達できないことだったけど、それをすることによって、得た感情がありました。こういった部分は、実際にやってみないと得られないものでした。新しい発見があったら、それを使って、淳という人物をさらに豊かに形成していくことができました。
-対“人”という部分は、頭の中で考えるだけでなく、反応を見てみないとわからない部分ってありますよね。
髙橋雄祐
実際に、どう声をかけたら、その人を掴まえられるかというのは、調べたり観察することでもある程度はわかるんですけど、準備の時間がそんなにあったわけではないので、自分で得た方が淳になるにあたって、得というか、完全に近道な気がしたので行動に移してみました。
東野瑞希「社会に貢献している人たちに引け目を感じる」
-東野さんが関わった物語のように、学生時代の同級生の中で引け目を感じている人についての話をどなたかに相談されましたか?
東野瑞希
こういった話を周りに相談はしていません。私自身が普通の会社に就職して働いていなくて、役者をやっているので、夢追い人というか、仕事をやって、社会のために貢献している人たちに対して、憧れに加えて引け目を感じる部分があると思っています。
私はどちらかというと、楓の方に感情移入をする側なんです。楓の立場から見た時に、憧れを感じる対象は、しっかり仕事もしていて、マウンティングを取るとかではなくって、嫌味なく、ただ純粋にキラキラしている人だと思うんです。この本を読んだ時も、その言葉の端々から、庸子はキャリアウーマンですが嫌味がなくて、楓とは学生の時と同じ距離感だと思うんです。でも、楓が感じているのは引け目があって、遠い距離感なんだなと思いました。
周りに相談はしなかったのですが、本を読んで楓の立場を考えた時に、庸子のキャラクター像がかなり見えてきました。
あからさまにマウンティングしてくる人って、やはり、その程度の人だと思うんですよね。
その上を行く人というのは、キラキラしている・キラキラして見えると思いました。
▼撮影秘話
実はお互い初めてのキスシーン
土山茜
キスシーンが、早朝からあったんですが、お互いキスシーンが初めてだったんです。
清水尚弥
お互い初めてのキスシーンで、それを後から知るということがありました。
現場の雰囲気は、スタッフさんが率先して作ってくれました。特に衣裳部・ヘアメイク部をやってくださった大先輩のスタッフさんがいらっしゃるんですけど、その方が特に俳優部に近い部署だったので、それもあっての空気感だったと思います。
土山茜
私は、清水さんは役者歴が長いから、もう何回もキスシーンを経験しているだろうと思い込んでいて、「私、初めてだからどうしよう」と思っていました。
清水尚弥
僕は、土山さんの方が年上だし、歳を重ねていく毎に、若い時は無くても、絶対にキスシーンはあるものだから、「これは土山さんが先輩や!」と思っていたんです。お互いに相手が先輩だと思っていたのですが、終わってから「初めてでめっちゃ緊張した!」って言ったら、「私も!」って返ってきて、「はぁっ!?」ってなりました。
土山茜
その日の朝は、メイクの時から緊張していました。メイクの平林純子さんが、「あなたたちこれからキスシーンがあるんだから、手をつないで行きなさい」って、現場に移動する前に言ってくれました。うちらも手をつないで「頑張ろうね」って言って。ギクシャクしないように現場が準備させてくれていました。それも自分たちでやったほうが良かったんでしょうけど、お互い遠慮する部分がありました。それを導いてくれたのは、全部スタッフさんたちのおかげだと思います。
清水尚弥
特に空気感でパフォーマンスが変わりますね。
ケンカシーンの直前は話したくなかった
清水尚弥
ケンカシーンの直前は、ギクシャクしたがっていたよね。
土山茜
それ、あったね。清水さんの気持ちの切り替えが早いのが分かっていて、私は気持ちの切り替えが本当に不器用で、直前は話したくなかったです。
清水尚弥
僕はさ、カチンコの直前までふざけていてさ。いじわるしようかとおもったんだよね。
でも、それでイラっとするじゃん。(話さないだけなのと)どっちがいいかなと思ったんだけど。ストレートな感情がいいでしょって思ったんだよね。
土山茜
ケンカしているシーンも、カメラ位置を変えて、セッティングの時間になったときに、ちょうど私が出たら、清水君が先に出ていて、目がバチッと合って、話しかけたくなかったから、お互いにそっぽを向きましたね。あの時、そういう雰囲気を察知できる能力が高くて、下手に話しかけてこない所に、「ありがとう!」って心の中で思いながら、イライラを継続しましたね。
清水尚弥
イライラを察知して、その通りにしてあげるかは、僕の気分次第だからね。超自分勝手だから、自分。でも、本当に充実した現場でした。
キャスト、スタッフ全員での現場づくり
-現場といえば、清水さんご自身でも、助監督の代わりをしたそうですね。
清水尚弥
少人数の現場で、演出部の方が、前現場の撤収だかでいなくて、どうしようみたいなことになったことがありました。野本監督がカチンコを打つと言ったんですけど。すごい忙しそうに、カメラまで戻るかどうするかを2カットほど繰り返していました。僕はカチンコに慣れてはいなくて、ただ打ち方を知っている奴が打っただけなんですけどね。
土山茜
私も最後の清水君のシーンで、照明を持っていました。風も強いし、人も足りないからって、じゃぁ、私が持っておきますっていって。
清水尚弥
これぞ映画って感じでしたね。個人競技じゃない、チーム戦でした。
描かれていない家庭環境
-高橋さん演じる淳は祖母と暮らしていますが、劇中、両親についての描写がありません。淳の背景・設定は知らされていましたか?
髙橋雄祐
設定はざっくりとありました。淳が両親とはあまり上手くいっていなくて、親元を離れていて、独り暮らしのおばあちゃんの家にいたというのが、大まかな設定です。
僕が考えただけですが、淳は子供の頃、きっとおばあちゃん子だっただろうと思っていました。生きていく環境でいろいろことが起こるじゃないですか、悪いこと・汚いことをしたりすることがある中で、最後に子供の頃の淳に一瞬でも戻れたらなというのを考えました。全部余計なものを取り除いた時の温かみ、淳がおばあちゃんを思う心みたいなものが最後にでたらなと思いました。
ご覧になった方からどう見えたのか、その感想が気になります。
▼見どころとメッセージ
-最後に見どころとメッセージをお願いします。
野本梢監督
『透明花火』は、オムニバス形式の5人の主人公がいる物語になっています。それぞれの主人公が何か引け目を感じていて、つい嘘をついてしまったりとか、逃げてしまったりとかしていく中で、それでも何かを見つけて進んでいこうとして行きます。そこにご覧になられる方ご自身と重なる部分があればいいなと思います。
清水尚弥
圭太と絵美に関しては、男女関係になるので、わかりやすいと思うんですけど。異性であり、恋愛対象である知らない者から、知っている者になるんですよね。認識が変わる時に、それはある種、“慣れる”でもあるし、“綺麗だったものが汚くなる”でもある。でも、凝り固まった不必要なものが露わになることでもあるし、いろいろな変化の見方ができると思うので、そういう部分が、今回の作品では、特に男の子のほうが、わかりやすく描かれていると思います。なかなか見られないような、”生”に描かれている作品だと思います。
人間って自分本位じゃないですか。でも、だからといって、自分本位過ぎずに、ちゃんと偽善でもまごころでも人の為になにか動いているし。本当に脚本に人が生きているんです。ただ描いただけじゃなく。生々しさって言うのは特に、男女ともどの役に感情移入してみても、ただ、フィクションをみるのではなくて、例えばドキュメンタリーをみるような身近さで、感じられる作品だと思います。
土山茜
映画ってお互いの感情をみられたり想像ができるから、経験をしないと味わえなかった感覚を「自分ならばどうなんだろう」って考えることができると思います。
人間が付き合っていく中で、嘘って難しいですよね。相手のためについた方がいい嘘とか、隠し通すことが正義なのかとか。相手が本当のことを知りたがっているけど、全部言うことが正義なのか、いつもぶつかるところがあると思います。そういう“嘘をついたほうがいい”、“つかないほうがいい嘘”というのをそれぞれの立場で観てください。
髙橋雄祐
撮影場所もそうですけど、僕らが日常で生きている所に、近い環境で撮影していますし、そういう人って意外とどこかにいると思うんです。
すーっとその世界に飛び込んでいただけたらなと思います。
東野瑞希
ナンパ塾のところですかね。ホワイトボードにブラジャーが引っかかっていましたが。作品の中にいくつでてくるか数えてみてください(笑)
私のシーンではないですけど、一番、ぐっときたのが、おばあちゃんが押し入れから出てくるシーンが好きです。
すべてオファーだったキャスティング秘話
『透明花火』のキャスティングの多くは、脚本・企画・プロデュースの三浦賢太郎氏が推薦したもの。例えば、三浦氏から土山茜の紹介を受けた時のことについて、野本監督は、「彼女は見た感じやお芝居の雰囲気とかでいいなと思った部分で決めました。先に(相手役の)清水さんが決まっていて、彼が好きになる女性というところで魅力的だと思いました。」と明かす。
その三浦氏自身に、キャスティングの理由について語っていただいた。
三浦賢太郎(脚本・企画・プロデュース)
野本さんに声をかけたときに、キャスト、スタッフはいままでと違う人にしてほしいとお願いしました。
野本さんが脚本を担当しないということもあり、どうなるかわからないけれど、いままでとは違う作品にしてほしかったからです。
キャストが決まってからも、脚本の練り直しが続いたので、当て書きといえば、全員当て書きのような気もしますが、意識的に寄せた部分はなかったので、脚本のイメージ通りにキャストが集まったかと思います。
撮影から二年半ほど経ち、キャスト陣の活躍が目立ちはじめて、いまだったらスケジュール的に、このメンバーは集まらなかっただろうな、とも思っています。
- 清水尚弥(立花圭太 役)
過去に脚本を担当した『死んだ目をした少年』に出演してもらっていたのですが、はじめはナンパ師である淳役でお願いしようと思っていました。
イメージと違う役の方が本人も芝居を楽しめるかな、と。「いつもと違う役」でお願いしたかったからです。
野本さんに提案したところ、童貞の圭太がいい、ということになり現状の配役になりました。 - 土山茜(武田絵美 役)
絵美役を探していたときに『少女邂逅』に出演しているのを知ってお願いしました。
タイミングがあわず、芝居を拝見できない状態での声かけとなったのですが、Twitterなどのパーソナルな部分から、絵美と同じく、しっかりと「意志」のある人だなと感じたからです。 - 安藤輪子(楓 役)
大好きな映画『友だちのパパが好き』を観て、野本さんに提案しました。
ダメ元でオファーしたのですが、引き受けてくださって本当に嬉しかったです。 - 東野瑞希(佐々木庸子 役)
キャストを探しているときに、YouTubeを漁っていたのですが、そのときに観たCMで知りました。
調べてから、過去に観ていた『落研冒険支部』に出演していたことも知り、お声がけしました。 - 手島実優(本村かおり 役)
『カランコエの花』の予告に写っていた手島さんに惹かれました。
タイミングがあわず、本編は観られなかったのですが、本人のサイトの映像などから、「陽」の部分を感じ取り、かおり役にぴったりだと思いました。
芝居より、パーソナルな部分からお願いしました。
- みひろ(真希 役)
過去に脚本を担当した『デンサン』に出演してもらっていたのですが、イメージと違う役の方が本人も芝居を楽しめるかな、と。「いつもと違う役」でお願いしたかったからです。
求められて、男性受けする役が多いと思うのですが、違う役だったらどうなるだろうかと思い、当て書きしました。
- 道田里羽(桜庭美香 役)
『溶ける』を観ていて、なにかでお願いできないかな、と思っていました。 - 富岡英里子(斉藤直子 役)
『溺れるボレロ』、『ワークさん』を観ていて、なにかでお願いできないかな、と思って当て書きしました。 - つつじあゆこ(旧・河合亜由子)さん(橋本あやか 役)
バラエティ番組『おぎやはぎのブステレビ』に出演していたのを観て当て書きしました。 - 漫画『岡崎に捧ぐ』(山本さほ作、小学館)について
楓の物語は、漫画家だと嘘をつく話だったので、小道具として漫画が必要でした。
自作するにはクオリティ的に難しいだろうなと思っていたところ、好きで読んでいた『岡崎に捧ぐ』が、「漫画家になった女性が、幼なじみとの思い出を振り返る」という話で、久しぶりに再会した楓の話と重なることに気づいたので、編集部に連絡しました。こころよく許可をだしていただいて、本当に感謝しています。1巻の表紙も、楓と庸子の関係性に重なるなと思っています。
[聞き手・写真:Ichigen Kaneda/構成:Jun Sakurakoji]
映画『透明花火』
INTRODUCTION
主演は、『イソップの思うツボ』『あいが、そいで、こい』などに出演する髙橋雄祐が祖母の介護をするナンパ師を演じる。
共演には、『死んだ目をした少年』『羊とオオカミの恋と殺人』の清水尚弥が、初めて彼女が出来た童貞役、その相手役として『少女邂逅』の土山茜。
漫画家になったと嘘をつくフリーター役に『友だちのパパが好き』の安藤輪子、その友人役に東野瑞希。彼氏づくりを協力させられる女子高生役に、『次は何に生まれましょうか』の根矢涼香、親友役に『カランコエの花』の手島実優。続いて、みひろ、百元夏繪、櫻井保幸、古山憲正が名を連ねる。
STORY
~この花火を一緒に見ると、死ぬまで一緒にいられるんだって~
ナンパ塾を経営しながら祖母と暮らす淳(髙橋雄祐)。
24歳で女性経験がないことに引け目を感じている圭太(清水尚弥)。
キャリアウーマンとなった同級生と再会した、バイト生活に明け暮れる楓(安藤輪子)。
親友の彼氏作りを手伝う女子高生、理恵(根矢涼香)。
血のつながっていない息子との関係に悩む真希(みひろ)。
心に空いた穴にもがき苦しむなか、彼らは大切な人と約束した花火大会の日をむかえる。
親子の絆、見栄、愛し合うことの難しさといった、現代人なら誰もが抱える悩みや痛みを描く5人の群像劇。
キャスト
髙橋雄祐 清水尚弥 安藤輪子 根矢涼香 みひろ
百元夏繪 土山茜 櫻井保幸 東野瑞希 手島実優 古山憲正
道田里羽 仲原由里子 富岡英里子 河合亜由子 橘芽依 笠松七海 木全俊太 鈴木拓真
森累珠 水井章人 山崎まりあ
スタッフ
撮影:野口高遠/照明・スチール:大柳玲於/録音:横田彰文/衣裳・ヘアメイク:平林純子 松村南奈/衣裳・ヘアメイクアシスタント:西戸愛海 野口真由香/制作:斉藤良一 長尾雄一郎 石郷岡政人/助監督応援:川崎僚/音楽:ミドリカワ書房/編曲:中野悠平(世田谷ボーイズ)/小道具デザイン:淺川友希/合成:徳永修久/MA:北摂サウンドプロダクション/企画・脚本・プロデューサー:三浦賢太郎/監督・編集:野本梢
3/14(土)から池袋シネマ・ロサにて2週間限定レイトショー
野本梢監督特集上映
「透明花火」の公開に先駆けて、同館では2月29日から3月13日まで特集上映「野本梢監督特集『私』」を実施。
笠松七海を主演に迎えた新作『アルム』や、シングルマザーの葛藤を描く『次は何に生まれましょうか』、親友への思いに悩むレズビアンの女性を主人公にした『私は渦の底から』などがラインナップに並ぶ。
詳細は、池袋シネマ・ロサ公式サイトまで。
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