初の女性監督特集上映。会社勤めしながらも映画監督業をこなす佐藤監督の想いとは?
1月18日より、池袋シネマ・ロサにて、新人監督特集 Vol.5「佐藤睦美監督特集上映 ロマンス/生活」が開催される。選出された佐藤睦美監督は、本特集上映で初となる女性監督。WEBディレクターとして会社勤めをしつつ、映画監督業もこなす佐藤監督とキャストの二人(主演・田口夏帆 出演・櫻井保幸)に、作品に対する想い、撮影秘話などを伺った。
生活とロマンスの狭間で迷い、傷つき、選び取る女たちを描いた2作品
本特集で上映されるのは『ゴミのような』(2017)と『ラウンドアバウト』(2019)の2作品。両作の主人公は、仕事がつらくても、クズ男に振り回されても、自らの選択権を手放さない女性。悩んで、傷ついて、選び取る。そして彼女たちが苛立ち、迷い、欲情する瞬間を、佐藤監督は生々しくカメラに収めている。
『ゴミのような』の主人公は、優しく尊敬できるが無職の恋人・一恵と同棲中の美乃。一恵を支えようとするも、次第に卑屈になる彼と傷付け合いすれ違っていくさまが描かれる。
『ラウンドアバウト』は、夢だった飲食店に就職するも、過酷な環境のため退職した主人公・みちるだったが、母親から安定した仕事を探すよう言われるが再び飲食店で働き始め、葛藤していた彼女のもとに元恋人の壮介が現れることから展開していく物語。
佐藤睦美監督&キャストインタビュー
会社員と映画監督の兼業
– 佐藤監督は、会社員と監督業を両立されているそうですね?
佐藤監督
普段、職業的には、WEBディレクターを担当しています。WEBページの制作がメインですね。会社自体は、WEBのシステムも行っているんですけど。
– 会社員と監督業の両立は大変ではないですか?
佐藤監督
撮影の際は、謝罪しかないです。役者・スタッフともにきついスケジュールを強いて、ご迷惑をおかけしています。会社でも締め切りに追われ、土日も締め切りに追われる生活になってしまうんです。
櫻井保幸(『ラウンドアバウト』岡壮介役)
佐藤監督のTwitterを見ていると、監督をされている方とは違うなと感じます。普通のサラリーマンのツイートだなと(笑)
僕がフォローしている人には佐藤監督のような人がいないから、改めて、佐藤監督って会社勤めをされている人なんだなって思います。
佐藤監督
今のところ、普通のサラリーマンなので、そこを自分の持ち味にしていきたいですね。
働くのが苦手な人たちの恋愛を肯定したい佐藤監督の思い
– ニューシネマワークショップ(制作スタッフの育成、映画業界への就職斡旋を行う映画学校)で映画を学んだのはいつ頃ですか?
佐藤監督
2016年になります。ニューシネマワークショップでの実習作品が『ゴミのような』です。
– 監督が描きたい物・人のメインになるのは、両作品で共通に描かれている女性だったり、ダメ男だったりするのでしょうか?
佐藤監督
私は登場人物の男性を魅力的だと思っています。なので、“ダメ男”って言いたくないんですが、説明が長くなるので取材等では“ダメ男”って呼んでしまっているんですけども。
– なかなか、ふさわしい言葉が見つからないですよね。
櫻井保幸
まずは、“ダメ男”って言っておかないといけないような所がありますよね。
佐藤監督
話す相手に、登場する男性について、まずは“ダメ男”だと伝えているけど、私は魅力的だと思って脚本を書いているんです。
働くことに向いていないというか、生きづらいだろうなと思うんですよね。
私自身、会社員の仕事の中で、どちらのミスにするかという話をしたり、いかに自分の仕事を少なくするか考えていたりすることがあって、人のずるさを感じながら働いています。ズルさがないと、“うまく立ち振る舞えない人”だとか、“出世できないタイプ”として扱われてしまう。そういう人とは一緒に働きたいわけじゃないけど、いい奴だなと思う人も多いんです。
だから、働くのが苦手な人たちの恋愛を肯定したいところがあります。まだどうすればいいのか答えは出ていませんが。
主人公が女性なのは、現状だと、やはり女性の方が働きづらいという考えと、男性が働けないと男性自身も行き場所がない状況が今なお残っていると思うので、必然的に働かない男の人と、働く女の人の話を書いています。
地道な日常にもロマンスがある。
– 今回の特集上映にあたり、サブタイトル的に「ロマンス/生活」と名付けられていますが、その理由は何でしょうか?
佐藤監督
私は、地道に日常の生活を営んでいる人が好きです。そんな人たちの生活の中にもロマンスがあるという考えています。
ただ、だいたいの人はそうは思っていないので、そのような人達との葛藤を描いている部分があります。
今回上映する2つの作品に登場する主人公の女性達はロマンスをかき集めて生きられる人達なのですが、男性の方は生活とロマンスを切り離して考えている人達になっています。そのもつれ絡む様、迷いや悩みを描いているところがあったので、「ロマンス/生活」と名付けています
– “ロマンス”といっても、空想的な恋物語ではなく、日常生活での恋愛や情事としての意味なんですね。好きな人から、「佐藤監督の映画は恋愛映画ではないよね」と言われたことがあったそうですが、ショックでは無かったですか?
佐藤監督
彼氏から「(佐藤監督がつくる映画って)恋愛映画じゃないよね」って言われたんです。
「えっ!?マジで?」と思いました。
「2本とも恋愛映画だからさぁ」といったら、「え?恋愛映画だったの?」と言われて…。
その時はパニックになりました。私の作品って、恋愛映画ですよね?
櫻井・田口
恋愛映画ですよ!
佐藤監督
まぁ、真っ当な恋愛ではない感じではありますけれど。
– キラキラ系ではなく、まさに、日常の生活の中にありそうなリアルなところがありますよね。
櫻井保幸
多くの人が描きそうにないようなキラキラしていない恋愛で、実際は日常的に“あるある”なドラマを描いていますよね。
– 今回、女性が主人公の2作品を上映されますが、作品同士の繋がりを考えた部分はありましたか?
佐藤監督
自分の中に撮りたいテーマがそんなにたくさんあるわけでは無くて、割と繋がっているかなと思います。
自身に向かない仕事をしている女性が男性の言葉に翻弄される様を描いた2作目
– 制作の経緯を教えてください。
佐藤監督
前作の『ゴミのような』では、主人公の相手の男性があまりしゃべらなかったので、今回の『ラウンドアバウト』では、主人公が男性にもう少し翻弄されるような話にしたかったんです。嘘か本当かわからないことをいう男の“嘘かもしれないこと”に励まされる“ロマンス”を書きたいなと。また、自身に向いていない仕事をしている女性というのを書きたい点がありました。
『ゴミのような』では、働く女性を小畑みなみさんに演じてもらったんですけど、「キャリアウーマンにみえない」という意見があったんです。
ただ、いまどきバリバリのキャリアウーマンに見える人だけが働いているわけではないと思うところがあって、向いていなくても好きで仕事をしている人を書きたいなというのもありました。
それと、『ゴミのような』を撮影するにあたって、ゴールデン街で働いて撮影資金を貯めていたんですけど、その時に出会った夜中に働く人達が好きで、そういう人を書きたいなと思ったんです。
もう一点、大きなテーマとして、好き合わない男とセックスをしてもいいんじゃないかという点があります。好きということだけではなく、自分の性欲だけで、セックスしてしまってもいいんじゃないかと。そのあたりを混ぜてつくりました。
社会の立場・人間の優劣を抜きにした人の幸せとロマンスが描かれている
– 演じる側として佐藤監督の台本・脚本はいかがですか?
櫻井保幸
前作の『ゴミのような』の時から、佐藤監督の作りたいものとして、人をきちんと描こうとしている点を感じています。登場人物同士の会話が成立していて、場面も納得できる。読んでいて映像が頭の中にイメージできるような脚本でした。
今回の『ラウンドアバウト』を読ませていただいた時も、佐藤監督が作りたいものは変わっていなくて、きちんと人間が描かれていると思いました。僕はそういう人間臭い作品が好きなので、そこは合っている部分かもしれません。
あと、社会的に不適合だったり、世間から見ると弱者だったりするものを取り上げても、それを弱者として描くのではなくて、それが当たり前かのように、ごく日常の中に描く点が、僕はすごく好きです。
人生の良い悪いって第三者からは決められないはずなのに、客観的だったり、社会一般からみると、決めつけられてしまうじゃないですか。学校でいうとスクールカーストとか、職業に就いたら収入とか、生活水準で決められてしまうように。
佐藤監督はそういうのを抜きにして、その人の日常に描かれる、人の幸せやロマンスをきちんと描こうとしているので、優劣なく描かれている人たちを脚本にしているなと思うことができました。演じるうえでも楽しいだろうなと。
ただ、演じる人によって、見え方がすごく変わると思います。僕が演じた岡の役を他の役者がやっていたら、全然雰囲気の違う、もっとアクの強い岡になる気がしますね(笑)
僕がやったから、あれくらいマイルドになっていたと思います。
佐藤監督
マイルドかなぁ(笑)
撮影秘話
ベッドシーンの音の秘密
– ベッドシーンの音の表現にこだわりを感じましたが、どのように収録されたのでしょうか?
佐藤監督
音はいろいろと試行錯誤しましたね。
田口夏帆(『ラウンドアバウト』主人公・柏木みちる役)
棒付きキャンディーと魚肉ソーセージで試しましたね。あれはどちらを使ったんですが?
佐藤監督
棒付きキャンディーの方を使っています。魚肉ソーセージの方がいいかと思ったんですけどね。
田口夏帆
魚肉ソーセージは難しかったですね。
櫻井保幸
控室で音の収録をしてたんですよ。僕のいる前でやっていて、少し気まずかったです。
あと、魚肉ソーセージを試しているときに、田口さんが食べちゃうんですよ。
「ぁ、食べちゃった」って(笑)
田口夏帆
やわらかすぎて、つい。ものをしゃぶることって、あまり無いですよね?
佐藤監督
無いことをやらせていますからね。しかも音を出してって。
– あれは、リアルに田口さんが実演されていたんですね。
田口夏帆
はい。田口さんが(笑)
佐藤監督
いろいろと田口さんも体当たりでやってくれたのでありがたかったです。
初めての男性とのキスシーン
田口夏帆
体当たりと言えば、男性とのキスシーンが初めてでした。
初めてのキスシーンの相手が女性だったんです。お母さん役の。嫌でした。その時は。
櫻井保幸
ぇ?嫌だったのは、お母さん役の方とのキスのことですよね?
田口夏帆
?
櫻井保幸
僕とのキスシーンが嫌だったって意味かと思いました。
田口夏帆
良いとも言わないですけどね(笑)
櫻井保幸
それも複雑ですね。一年越しのカミングアウトみたい(笑)
– インタビュー中のこのやりとりが、劇中にも表れていた感じがしますね。
佐藤監督
そこからの二人の役作りがあったんでしょうね。
櫻井保幸
そこからの役作りはないと思います(笑)
佐藤監督
でも、現場が温まって良かったです。ここは撮影の序盤に撮ったんですけど、二人が仲良くやってくれたからありがたかった。良いシーンになったと思います。
作品をご覧になる方へのメッセージ
– 最後に作品をご覧になる方へのメッセージをお願いします。
佐藤監督
不器用な人たちが生きづらい世界だと思うのですが、だからこそ、自分自身が意志を持って行動してほしいと思い、作品を作っています。意志を持ちづらいという瞬間もあると思うんですけど、この映画を観て、意志を持つことの大切さが伝われば嬉しいです。どちらの主人公も人によってはあまり共感できないこともあるのではないかと思うのですが、そういう人たちの決断というか、そういうものを見守りに来ていただければいいなと思います。是非、見に来てください。
田口夏帆
私は、みちるのような女性を演じるのが初めてでしたが、自分らしさを出せたので、それを観て欲しいです。
好きなシーンとしては、土手で謎の男がギターを弾くシーンが好きです。2人の関係性が興味深かったです。みちるから、ギターを弾く男性が見えているのかなと思える部分があったので。
ハッピーエンドだったのかどうか、私もわからない部分があるので、観た人の感想が気になっています。
櫻井保幸
人間の日常がきちんとリアルに描かれている作品なので、「ロマンス/生活」という企画タイトルや、恋愛映画の感覚で観にくると、違和感を抱くかもしれません。でも、そのリアルさに、恋愛観・仕事・お金・家庭などの人生観について、何が一番自分の中で大事にしていったらいいのか、観た後に皆さんの過去を回顧していただけたら、すごくいいなと思います。
あとは、カップルとか、男女で観に来ていただいて、その後にカフェとかで、「どうだった?」って会話をしてもらって。そうしたら、お互いの恋愛観が合致するかどうかが分かるのかなと思います。
付き合う前の男女とか、ちょっと気になる相手を誘って、観に来てくれたらいいと思います。
佐藤監督
幸せな結果を生む感じが私はしないです(苦笑)
田口夏帆
二人が話すきっかけになると思いますね。
「あの人の気持ちが分かる!」、「えー、分かんないよ…」みたいに。その後は、キラキラな映画を観に行ったっていいんだし(笑)
新人映画監督特集vol.5佐藤睦美監督特集上映「ロマンス/生活」
『 ラウンドアバウト』
出演:田口夏帆 櫻井保幸 岩松れい子 小畑みなみ 松岡真吾
監督/脚本:佐藤睦美 プロデューサー:高橋正樹 撮影:川崎誠 録音:芦澤麻有子、藤本匠 助監督:松隆祐也 制作:坂入亞津然 撮影助手:岩本真 録音助手:森健一
テーマソング「fraction」作詞/作曲/演奏:タカハシナミ タイトルデザイン:広谷紗野夏 協力:ニューシネマワークショップ
2019年 | 日本 | 39分 | カラー
『 ゴミのような』
出演:小畑みなみ 西留翼 賀津塔 櫻井保幸 鳥羽優好 柳原光貴
監督/脚本:佐藤睦美 プロデューサー:高橋正樹 撮影:岩本真
録音:宍戸絹代
助監督:長谷川雄規 美術:宍戸絹代、チルカサトシ 制作:青山孝
主題歌「ごみのような」作曲/演奏:高橋正樹 協力:ニューシネマワークショップ
2017年 | 日本 | 28分 | カラー
●上映劇場
池袋シネマ・ロサ http://www.cinemarosa.net/
●上映期間
2020年1.18(土)~1.24(金)1週間限定ロードショー
●チケット情報
前売り券:1,300円(税込) 当日券:一般1,500円(税込)
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