【監督・キャストインタビュー】声優・飯野茉優を実写映画主演に抜擢。「哀しそうな目がいい」
7月3日より、池袋シネマ・ロサにて、河辺怜佳監督特集上映が行われており、映画『過ぎ行くみなも』について、河辺怜佳監督と、声優としても活躍中で、本作が実写映画初主演の飯野茉優に話を伺った。
映画『過ぎ行くみなも』は、立教大学映像身体学科第三回スカラシップに選出され、映画化された作品。
監督を務める河辺怜佳は本作が初長編監督作品となる。本作は、拠り所のない女子高生と孤独を抱える主婦が互いに引き寄せられるときを描いた物語。主演の涼を演じたのは『風立ちぬ』などの劇場アニメに参加経験を持ち、声優として活躍する飯野茉優。実写映画主演は本作が初となる。
河辺怜佳監督特集上映
劇場:池袋シネマ・ロサ
上映期間:7月3日(土)~7月9日(金)
飯野茉優、河辺怜佳監督 インタビュー
■大人と子ども、曖昧な境界を描きたい。
-本作製作のきっかけを教えてください。
河辺怜佳監督
立教大学の映像身体学科のスカラシップ制度で募集があり、それに応募しようと思い、企画を立ち上げました。
こういった物語を描こうと思ったきっかけは、まず一つとして、大人と子どもを描きたいという思いがありました。この作品を撮っていた時は、自分自身も大人と子どもの狭間にいるような年代でした。大人と子どもの境界ってなかなかパキッと枠組みで切り分けられないものがあると感じていて、子どもでもその中に大人っぽさを持っていたり、大人でも子どもっぽさはやっぱり内包していたりするし、子ども・大人っていう枠組みに当てはめるのはなかなか窮屈だなと思うことがありました。
そういう曖昧な境界というものを描きたいなと思って、大人と子どもを描くことにしました。その中で関係性を物語の軸にしたかったので、涼(リョウ)という子ども(高校生)と、嶺(レイ)という大人を軸とし、さらに、この二人が抱える“不在”の存在(亡き母親・子どもがいないという不在の存在)との関係性を関連させながら描いていこうと思いました。
-撮影はいつ頃行われたのでしょうか?
河辺怜佳監督
撮影は、2019年9月頃から12月頃まで、長期間に渡りました。9月は大学の夏休み期間中で、そこで2週間ぐらい撮りました。同世代のスタッフが中心で、ほぼ全員が大学の同期か後輩だったので、授業が始まってからは、平日はなかなか撮れなくなり、土日が中心になりまして、飛び飛びで長期に渡って撮影していました。
-9月から12月というと季節も変わるので、撮影が大変だったのでは?
河辺怜佳監督
物語上の季節設定が変わらず、衣装も変わらないので、冬場は寒い衣装で撮影することもあって、役者の方々には本当に申し訳ないと思っていました。飯野さんの撮影の衣装は、制服が中心で、ブラウス1枚といった感じだったので、12月に河川敷でのシーンを撮影したときは、直前までベンチコートにくるまって待機していただきました。
-撮影場所となった川・河川敷を選んだ理由は?
河辺怜佳監督
メインの河川敷のシーンは、朝霞台駅の近くの黒目川で撮りました。そこで撮ろうと思ったのは、私が大学1年生の時に先輩が監督している自主制作映画の現場に入って、そのロケーションに出会ったことがきっかけです。大学の近くに、映画を撮るのに良い所があるな、ここで撮りたいなと思い、その場所で撮ろうと決めました。
-劇中で分水嶺(ぶんすいれい)が出てくるきっかけ、経緯は?
河辺怜佳監督
脚本の初期段階の話し合いから、分かれ(別れ)を象徴する分水嶺は取り入れたいと話になっていました。
ただ、関東圏にはなかなかなくて、調べたら岐阜と山形にあるということがわかったんですが、遠いので諦めようかという状況になっていました。でもやはり、川がモチーフの映画なので、分水嶺が持つ意味・ポイントを作品に出したいなと考え、捨てきれない思いと、大変だろうという思いを葛藤しつつ、撮影のために遠くまで足を運びました。
-作品に“水”というものが大きく関わってくると思いますが、この水に関する部分について教えてください。
河辺怜佳監督
まず、川をモチーフにしようと思ったきっかけが、黒目川の河川敷で撮りたいというのが先行してたので、きっかけはそこが始まりです。
川をモチーフに作品を撮ろうと決めてから、考えるようになったのですが、川の流れって、時間の流れみたいなものも含まれてると思って。川は流れていって、行く行くは雨になってまた戻ってくる・循環していく。川の流れってずっと同じように見えるけどでも、常に何か変化し続けている特性がある。川は、時間の流れと変化が含まれているなと。
-河辺監督の姓は“河辺”であり、まさに、川の流れに近い“川辺(河辺)”を表していると思うのですが、ご自身のお名前(姓)と、川辺がご自身のいわば安らぎの場であったり、作品のモチーフに川を使った点に、関連性や深層心理につながる部分はあったか、よろしければお教えください。
河辺怜佳監督
あまり意識したことはなかったのですが、自分の「河辺」という姓に関連する「川」という存在に心のどこかで惹かれていたのかもしれません。将来、姓が変わることがあったとしても、この名前を大切にしていきたいと思ってます。作品とともにこの名が残ると思うと嬉しいです。
■「飯野さんの哀しそうな目がいい」
-飯野さんを主演にキャスティングされた理由について教えてください。
河辺怜佳監督
まず、この映画の企画は、立教大学の映像身体学科のスカラシップ制度を通し、採択していただきました。そこで採択された直後から、主演の女の子を探し始めました。
いろいろ知り合いの方にも来ていただいてオーディションをする中で、プロデューサーの知り合いから飯野さんの名前があがりまして、オーディションに来ていただいて、そこで決まりました。
-飯野さんはオーディションに参加してみていかがでしたか。
飯野茉優
オーディションで与えられた課題が、物語の核心を突く、一番重要になるだろうというシーンだったのを覚えています。
河辺怜佳監督
当時は脚本もまだ固まっていない状態で、出来上がるか・出来上がっていないかぐらいの時でした。まだ、役名も違っていたと思います。嶺(レイ)役に対して、ぶつかるシーンをやっていただきました。その芝居を間近で見させていただいた時に、飯野さんの目がちょっと哀しそうなところがいいなと思いました。哀しさもあり、怖さもありといった部分をカメラで切り取ってみたいなと思いました。存在感がありましたね。
飯野茉優
このお話、初めて聞きました!
-飯野さんは、河辺監督の言葉にある「飯野さんの目が哀しそうだった・怖さもあった」といった部分に自覚はありますか?
飯野茉優
自覚はありませんでした。私は映像のお芝居に関する稽古やレッスンの経験はあるのですが、仕事としてきちんと撮っていただくことがほぼ初めてだったので、自分の表情がどういう見方をされているのか全くわかっていない状態でした。
そこで、台本を渡していただいて、「大丈夫かな?これ、できるんだろうか…」というように、未確定なものや、わからない部分が多かったんですけど、物語の中で重い役割を持っている子なんだろうと感じとったので、それをできれば飾らずに、そのまま表現できたらいいだろうという思いでオーディションに挑んだ記憶があります。
■「わかる!この不安定感」
-脚本を最初に読まれた時の感想や第一印象は?
飯野茉優
第一印象は、正直、「難しい!」と思いました。大人と子どもの狭間を描きたいというのは、先に聞いてから脚本を読んでいたので、自分の中で「このシーンはこういうことか」と、一つ一つ整理しながら読んだ記憶があります。
自分自身にすごく刺さったものも多かったです。今から2年前は、19歳から20歳になったところで、私も大人になっていく時期・狭間にいる時期を感じていました。そんな私のプライベートで持っていた複雑な気持ちが、そこにミックスする部分もあり、「わかる!この不安定感」と感じましたね。
-撮影時のエピソードはありますか?
河辺怜佳監督
役者さんに申し訳なかったのが、撮影しながら脚本を変えていたことです。
撮影をしていて、「ここはちょっと、レイとリョウの関係をもっと描きたい」とか、「やっぱり、何かもうちょっと弱みに付け込んでみたい」とか、いやらしい心が働いてしまって、脚本を結構変えていったんです。
そこで撮影の前に飯野さんから「このセリフってどういうことですか?」とか、「ここって、こういうことでいいんですか?」っていう確認の連絡がきたりして、私が脚本にメモしたことを送るようなやりとりをしていましたね。懐かしいです。いろいろ聞いていただいて嬉しかったです。
-飯野さんは、ご自身が演じられたその人物像をどのように捉えて芝居に活かしていきましたか?
飯野茉優
最初に監督から、「大人と子どもの狭間でさまよっているような子にしたい」って言うのを伺ったんですけど、脚本を読んでいても、涼にはすごく大人びて見えたり、幼い無邪気な子どもに見えたりというところがたくさんありました。高校生という、世間的にも子どもである年齢感をきちんと大切にして、軸を高校生にしながらも、見え方は大人と子どもの狭間にしなければいけないなと思いました。
涼の中でモヤモヤっと思っている欲やそんな気持ちというのは、なんかもう「人間だっ!」ていう、まさに人間らしさをいっぱい持ってると思いました。ピュアで芯は強くて、きちんと思慮を持った子なんだなというのをずっと思ってやっていました。こういう人物像っていうのはすごく言い表しにくい子だなと思って、その不安定感を私が体現しなきゃいけないんだなっていうのを思っていました。
■それぞれの“初体験”
-お2人にとっての“初”についての感想を聞かせて下さい。飯野さん的には実写映画主演としては本作が初。河辺監督的には本作の初長編監督作品。お互いの初めて同士ということになりますが、感想はいかがですか。
飯野茉優
(私は声優の仕事をしていたので)自分のお芝居を見られて撮られるっていうこと自体がほぼ初めてでした。
もう本当に何からすればよいのか、わからない状態でした。緊張と不安で記憶が吹き飛んでいます。
声の芝居が多いので、声だけが先行しないように、表情の一つ一つにきちんと意味を持たせることに気を付けようと思って、自分1人で勝手にピリピリしていました。
監督には、たくさんの「どうしたらいいですか!?」っていうのを聞いていただいて、相談にも乗ってくださって、周りの同年代のスタッフも「きっと、今ので大丈夫なんだよ」と声をかけてくれたので、現場の雰囲気は和気あいあいと、ありがたい現場でした。
河辺怜佳監督
初めての長編映画の撮影で、長い期間撮影したのですが、とにかく辛かったです。9月はまとまって撮っていたのですが、それ以降は飛び飛びの撮影で、長い期間、常に作品のことで頭がいっぱいでした。もちろん、辛さや大変な思いはスタッフ、キャストの皆さんも同じだったと思います。
それで結構、頭がいっぱいになってしまって、駄目だって思った時には、夜な夜な1人で、撮影していた川まで行きました。河川敷に座って川を見つめて、時が過ぎていくのを感じながら、考えをバーッと思いひろげて、「この場所で自分はまだ撮っていくんだ」という思いを噛み締めながら、夜の河川敷で一人、やる気を高めていました。
長編映画を初めて撮ったんですけど、とても勉強になりました。本編で使われてないシーンが、実はたくさんあるんです。
最初に仮編集したときは、尺が2時間ちょっとぐらいあって、そこからバッサリと切っていきました。撮っていく段階では、目の前のことに必死になってしまって、全体が見えてなかったことが反省点です。皆さんにご迷惑をかけるだけでした。
撮る撮らないの選択は監督のわがままになると思うんですけど、いろいろ撮ってみて、編集して長いなって、切っていって、撮影期間はすごい長かったので、皆さん大変だったと思います。なかなか難しいですね。
■声優と実写映像の芝居の違い
-先ほどもお話が出てきましたが、声優という仕事がそれまでメインで、実写での撮影に取り組んでみていかがでしたか?
飯野茉優
どうしてもセリフに頼ってしまう部分が多くて、難しいところがやはりたくさんありました。
普段の吹き替えの仕事では、セリフと向き合って、それをどうキャラクターに吹き込むかということに意識を置きます。では、お芝居では、まずどこに意識を向けたらいいのだろうと考えました。
お芝居の根本は変わらないし、役作りも同じように考えて芝居をするんですけど、やはり声優は制限が多いと思います。その制限が一気に無くなって、「自分が思うままに芝居をどうぞ!」ってされてしまうと、「どうしたらいいんだ…」となります。
なので最初はどう動けばいいのかなという感じでした。カメラの前でお芝居をするようになってからは考えすぎないで、その場で相手の俳優さんのお芝居を受けて、素直にそこに反応したり、その場で感じたものを涼として表に出すという風に、意識を変えていきました。
-共演された嶺役の水沢有礼さんとのエピソードはありますか?
飯野茉優
水沢さんはとても気さくで明るい方で、撮影の合間にいろんな話をしたんですけど、お芝居の話をする機会もあって、私が慣れない部分がたくさんあったので、「そこはどうやったらいいんでしょうか」という話もしました。
だんだんと水沢さんと距離が近くなっていく中で、私が勝手に思っているんですけど、芝居的にも距離が縮まったような感じがしました。それで涼と嶺が寄り添っていき、最初は気まずい感じなんですけど、並行して、私たち自身もマッチしていった感じがしました。なので、撮影が終わった後のお別れがつらかったです。
■最後にメッセージ
-作品紹介とみどころ・好きなシーン。お客様へのメッセージをお願いします。
河辺怜佳監督
私の思い入れがあるシーンは、夜の河川敷で涼と嶺が向き合ってぶつかり合うシーンです。そのシーンは私が一番やりたいことが出来ました。二人をぶつからせて、動かして私の欲望が弾けたシーンになっています。
飯野茉優
涼、そして登場人物みんなが、どこか欠けた部分を持っていて、そこを埋め合わせるようにぶつかり合ったり、寄り添ったりということが作品の中で起きます。みんなが求め行く先に何があるのか、どういう選択をしていくのかを見てほしいです。
私が一番大切なシーンだと思っているのは、涼が自分の中に持っていたモヤモヤしたものを解放するかのように嶺に告げるシーンです。私自身、そのシーンに一番力を入れた思い出の一番中心になります。
河辺怜佳監督
この作品は父親と暮らす女子高生の涼と子どものいない主婦の嶺が、互いに惹かれ合った求めゆく先を描いた物語です。二人の関係性の変化や欲望に注目して見ていただけたら嬉しいです。
[写真・聞き手:金田一元]
映画『過ぎ行くみなも』
INTRODUCTION
映画『過ぎ行くみなも』は、立教大学映像身体学科第三回スカラシップに選出され、映画化された作品。
監督を務める河辺怜佳は本作が初長編監督作品となる。本作は、拠り所のない女子高生と孤独を抱える主婦が互いに引き寄せられるときを描いた物語。
主演の涼を演じたのは『風立ちぬ』などの劇場アニメに参加経験を持ち、声優として活躍する飯野茉優。実写映画主演は本作が初となる。
STORY
父親と二人暮らしをする女子高校生の涼(りょう)は、バイト先で知り合った主婦である嶺(れい)に心を寄せるようになる。一方、不妊治療をめぐって夫との間に齟齬が生じている嶺は、涼の好意を受け入れ、二人で共同生活をしないかと彼女に誘いかける。
出演:飯野茉優、水沢有礼、小野孝弘、庄大地、三坂知絵子、及川綾、今村洋一 、中島ゆい、向井萌恵
監督・脚本・編集:河辺怜佳
助監督:松沢梢 演出助手:小倉大輝 撮影:福山晃大 撮影助手:馬場光太 照明:小川真由子録音:小林恵理香 亀崎沙弥子 衣装:塚﨑美和 美術:藤原汐里 制作:篠田衛
プロデューサー:髙橋美帆 音楽:平野義愛 協力:万田邦敏 立教大学機材管理室
(日本/カラー/16:9/DCP/77分)
池袋シネマ・ロサ公式サイト:cinemarosa.net
7/3(土)~7/9(金) 池袋シネマ・ロサにて 1週間限定レイトショー
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