【インタビュー】のん「新しい物語を構想しています」~ のんのいま
7月13日に肩書きを 女優・創作あーちすとから 俳優・アーティストに改め、ますます活動の幅を広げていく表明をしたのん。そんな「のんのいま」を特集した番組が日本映画専門チャンネルで7月16日から放送されるにあたり、番組収録後ののんに今の気持ちとこれからのことなどを聞いた。
のん インタビュー&撮り下ろしフォト
■「のんのいま」
-「のんのいま」と題して、日本映画専門チャンネルでのんさんを特集する番組が放送されることについての想いをお聞かせください。
のん
自分の監督作品を放送してもらえるというのは、すごく嬉しいです!より多くの方に伝わって、作品が広がっていくのは、とてもありがたいなと思います。
役者の仕事も大好きということはこれからも変わらないので、『さかなのこ』もそうですし、いろんな形で観てもらえるというのがほんとうに幸せです。
■「あまちゃん」は自信になった作品
-「のんのいま」にちなんで、あのときのあの経験や、あの人の言葉があったから今がある、というエピソードがあれば教えてください。
のん
『Ribbon』がまさにそれです。この映画を作ることができたから、私はコロナ禍を乗り越えることができたなと思っています。それほど大切な作品となりました。
あとは、「あまちゃん」の撮影中、自分の演技がうまくいかない日々が続いたときに、宮本信子さんと尾美としのりさんに、それぞれ別のタイミングで「毎日、満足できない」と口にしたことがあって、そうしたらお2人が同じことを教えてくれたんです。「満足できないから続けられるんだ」と。
その言葉自体にも納得いったんですけれど、演技を極められているこのお2人でさえもまだ満足していないんだとすごく衝撃を受けて、まだまだ自分なんか落ち込んでいられないな、「頑張ろう!」って思えるようになりました。
-『Ribbon』は、リアルとファンタジーが混ざりあった、のんさんにしか撮れない映画だと思っています。劇中、のんさん演じる主人公の“浅川いつか”の絵をお母さんが捨てるシーンがありますが、このシーンの監督としての演出と、俳優としてのお芝居は、それぞれどう臨まれましたか?
のん
お母さんの立場、“いつか”の立場、どちらにも共感できるシーンにしたいと思っていました。お母さんが絶対的に悪く見えるようにはしたくなかったのですが、それを、お母さんを演じた春木みさよさんがうまく表現してくださいました。
春木さんにはこういうテーマの作品ですとは伝えていましたが、演出はあまりしていません。でも春木さんは、「娘を相手に稽古したら、娘から『ウザい』って言われたので、ヨシ!って思って来ました。」とおっしゃっていました(笑)
“天然なお母さん”をイメージして脚本を書いていたんですが、春木さんはそのままに絶妙なお母さんを演じてくださってよかったです。
演じる立場としては、「“いつか”がお茶碗とお箸を持ちながら怒る」という状況を、(脚本を)書いているときは面白く感じて好きだったんですけど、いざ撮影のときは、その状況の違和感の方が勝ってしまって怒りにくかったです。
-『Ribbon』のセリフの中で「重たい」や「モヤモヤ」というのが登場しますが、今ののんさんはそういうものは解消されましたか?
のん
“いつか”が思っている「重たい」からは脱出していますが、最近はほんとうに身体が重たいです!年齢のせいなのか忙しすぎるからなのかはわからないですけれど。
“いつか”が言う「重たい」とは、私が高校生のころ、まさにそんな感じだったのを思い出して(脚本に)書きました。自分がなりたいビジョンがあって、それを達成できると思っているけれど、周囲からはまだ評価されているわけじゃないので、自分だけが自分を信じているという時期。
そういう時期にコロナという壁が立ち塞がって、いきなりシャットアウトされたら、どんな気持ちになるかなって考えたときに「重たい」というワードが浮かんできたんです。
『Ribbon』のオープニングで、リボンのマントを纏っているシーンがありますが、あれは“いつか”が抱えている絵の重たさ、そのときの状況の重たさも重なっていて、いろいろと複雑な「重たい」を表現しています。
その「重たい」は、先ほども言いましたが、『Ribbon』を作ることによって、私は解消できました。
■監督と演者を兼ねると、自分には気兼ねなく厳しくできる
-自分で撮って、自分で演じるというのは大変だったと番組内でインタビュアーの軽部(真一)さんにおっしゃっていましたが、逆に、自分で撮って、自分で演じるからこそ良かったことはありますか?
のん
(自分に対してなので)気兼ねなく厳しくできるところです。もうちょっとできるんじゃないかって、自分がやれる幅を把握できるし、撮っている人と同じ脳みそを共有して演技してくれる人が真ん中にいるので、目指している作品のムードに最短で達することができる気がします。
-のんさんは、自分に甘くはならなかったのですね?
のん
ならなかったなぁ。もっとできるって思っちゃうので、そういう意味では面倒くさくもありました(笑)
なので、必要以上に厳しくなりすぎないように、ちゃんとこだわって撮るシーンと、そうでないシーンを切り分けるように意識して、撮影を進めていきました。コロナ禍というのもあって、撮影期間も約20日間と限られていましたし。
-監督を経験したことで、演者として変わったことはありますか?
のん
お芝居という観点ではあまり無いですけれど、瞬発力は磨かれた気がします。監督として脳みそがフル回転しているから、演技をするときも身体が起きている状態でずっとやれていたので。アドレナリンが出ていると素早く動けるんだなって(笑)
役者だけをしていると、待ち時間が長かったりするときは、眠くなっちゃうんです。そうすると、身体を起こして、五感を研ぎ澄ませていることが難しくって。眠たい中で泣くシーンとかになると最悪!みたいな(笑)
-演者として、監督を見る目は変わりましたか?
のん
変わりました。もともと、私はすごく気にしやすい質で、監督が悩んでいたり、OKの声が小さかったりすると、「OKじゃないやつのOKだ・・・」「妥協したんだ」とか、すごい勘ぐっちゃうんです。でも、自分が監督を経験してみたら、OKじゃないOKは出してないなっていうことに気づいたので、監督の機嫌を気にしないで現場に居られるようになりました。私にとってこれが一番の収穫ですね。
■「あまちゃん」は毎日やりがいがありました
-10年経った2023年、再放送されて、再び「あまちゃん」が大きな評判をとなっていますが、それについてはどう思われますか?
のん
とても嬉しいです。自分にとって基盤になる作品だし、私のことをたくさんの方に知ってもらうきっかけにもなった作品なので。日本を元気にする、笑顔にする作品であるということが誇らしいし、その作品を当時の私はやり抜いたんだなと思って、改めて自信になりました。
-のんさんご自身も再放送をご覧になってるんですか?
のん
観てます!
-ご覧になっていて思い出すことはありますか?
のん
ほんとうに良い現場だったなって思い出します。キャストのみなさんも、スタッフのみなさんも、みんなが宮藤官九郎さんが書いた脚本を面白いなって思っていて、ディレクターの方とシーンを作り上げていくのが楽しくてしょうがないという空気感が流れている現場でした。だから、ほんとうに毎日毎日やりがいがありました。
■自分の意志を押し通しました
-そもそもの質問ですが、表現者として目覚めたのは、いつ頃で何がきっかけだったのでしょうか?
のん
幼稚園児のときです。節分の日にみんなで鬼を描こうという時間があったんですが、みんなが、赤鬼、青鬼、緑鬼とか、カラフルな鬼を描いている中、私はいちばんかっこいい鬼を描きたいと思って、黒い絵の具だけで鬼を描いたんです。
それが、子どもの絵の展覧会に展示されることになって、私の鬼の絵だけが飾られたから、すごい嬉しくて、自信になって、自分は人より絵がうまいんだと思うようになって(笑)、その体験から絵を描くのが好きになりました。それからお裁縫なんかも好きになっていきました。
-その絵は今でもありますか?
のん
あります。母が保管してくれています。
-のんさんご自身の体験で、自分がやっていることが周囲に理解されなくて苦しんだということはありますか?
のん
「上京して役者の仕事をしたい」と母に言ったときは喧嘩になりました。最初は応援してくれたんですけど、当時の私は体型管理もなかなかできず、反抗的だったので、「そんなんじゃ(役者の仕事は)やっていけない」と、母にすごく怒られたんです。
-それをどうやって乗り越えられましたか?
のん
(私の意志を)押し通したって感じです。母を説得するとかじゃなく、ねじ伏せました(笑)
■さかなクンの“好き”には負けるかも・・・
-『さかなのこ』の出演に際して、さかなクンを研究されたそうですが、改めてさかなクンの魅力をどのように感じられましたか?
のん
自分の好きなこと、魚のことを知りたいっていう欲望にブレーキをかけないところがすごいなと思います。さかなクンもきっと、臆したり、こんなんじゃダメだなってこと、周りと比べることもあると思うんですけれど、でも「魚が好き」「魚のこんなことを知りたい、見てみたい」という気持ちについては、複雑さが無くて、他の感情が関与してこないところが魅力だなと思います。
そのくらい“好き”を貫けるって、なかなかできないことだと思うので、私もそんなふうになりたいなって憧れます。
-ミー坊を演じるときもそのようなお気持ちで?
のん
そうです。“好きに複雑さが無い”という点は大事にして演じました。
-『さかなのこ』では、そのように好きなことを追求する魅力と同時に、周囲から理解されにくい孤独も描かれていましたが、その点についてのんさんはどのように感じられましたか?
のん
孤独だと思います。ミー坊の気持ちに完全に共感してくれる人は、劇中でも現れていませんし。
ちなみに、先日、さかなクン、沖田修一監督、テアトルチームの方々と「ありがとう」のお食事会をしたんです。そうしたらさかなクンが「ほんとうに楽しすぎる!この会を毎月やりましょう!」って言ってくれて、そんなに楽しいんだと嬉しかったんです。
そうしたら、最近、さかなクンからスタッフに「次はいつやります?」っていう連絡が届いて、あれは本気だったんだ!、さかなクンもちょっと寂しいのかなぁって思いました(笑)
でも、好きなことがあるとやっぱり幸せなので、その中に身を置いて頑張れるし、苦しいことが苦しくなくなることもあります。とはいえ、さかなクンがあそこまでの熱量を持ち続けられるのはどうやっているんだろう?とも思います。
-でものんさんも好きなことをずっと続けていらっしゃいますよね?
のん
でも、さかなクンと比べると、私はその熱量を持ち続けられるスパンが短いように感じます。ひとつのことが終わったらしばらくはくたびれてしまいますし。
でも、さかなクンはお会いする度に、たとえば「今朝、漁船に乗って魚を捕ってきたので、プレゼントします!」って言うんですよ。たぶん、毎日のように朝、3時とか4時に船に乗って魚を捕りに行っているんです。なので、さかなクンとお会いするのがお昼ぐらいだと、目が開いていない(笑)
私、普段は朝が苦手だから真似できない…!と思いました。
■やっぱり個人的にも褒めてもらいたい!
-『さかなのこ』では、第46回日本アカデミー賞の優秀主演女優賞、第32回日本映画プロフェッショナル大賞の主演女優賞を受賞されましたが、改めて受賞の喜びをお聞かせください。
のん
めちゃめちゃ嬉しいです!映画は観てもらえることが一番嬉しいんですけれど、やっぱり個人的にも褒めてもらいたい!というのがあるので(笑)、賞というわかりやすい形でお褒めいただくというのは、ほんとうに気持ち良くて、よっしゃ!って感じです。
-日本アカデミー賞では、「あまちゃん」共演者の有村架純さんとのやりとりがありましたが、優秀主演女優賞受賞者という形で有村さんと対談されたことについての感慨深さなどはありましたか?
のん
「あまちゃん」では、有村さんとの直接の共演シーンはあまりありませんでしたが、共演以前から有村さんが出演されている作品は拝見していたので、その方から直接褒めてもらえた!って浮かれてました(笑)
■好きなことを仕事にするには・・・学生へのメッセージ
-『Ribbon』のセリフの中で「芸術なんかなくても生きていけるんだって」とありますが、のんさん自身はもちろん?
のん
生きていけないと思います。
食べるものがあれば生きていけるって言われたら、それはそうなんですけど、「あまちゃん」が決まる前の高校生の頃は、あまり役が決まらなくて鬱屈して、不安にもなっていたので、妹に電話で「もし私が役者をしていなかったらどうなっているのかな?」と聞いたんです。そうしたら「そのへんで野垂れ死んでたと思う」って言われたんです。
なので、役者もそうだし、芸術という形で表現する道に進んでいなかったら、私は生きていけないと思います。
-今のお話に繋がりますが、『さかなのこ』のモデルとなったさかなクンもそうですし、のんさんもまさにそうだと思いますが、好きなことを仕事にするにはどうすればいいか、学生の方々にアドバイスはありますか?
のん
難しいですね・・・。でも『さかなのこ』を通して感じたことは、好きなことを仕事にするというよりは、好きなことを大切にすることで、自分が豊かになっていく、生活が豊かになっていく、そのように感じたんです。
だから、仕事にするにはと聞かれると難しいですけれど、自分の“好き”に敏感になることは大切だなって思います。それがどんな風に好きなのか、自分の気持ちに目を向けて考えてみると、「あ、同じことでも、好きなものと嫌いなものがあるぞ」とか「これはすごいけど別に好きじゃない」とかが明確になってきます。そのように、自分の“好き”を追求して大切にし続けていたら、自分が豊かになることはあるんじゃないかなと思います。
-ありがとうございます。
のん
難しい質問だった!(笑)
■筋肉と次回作のお話
-7月13日で30歳を迎えられますが、直近でやりたいことはありますか?
のん
筋肉を付けたいです!割とタフな方だとは思っているんですけれど、どれだけ活動しても身体が軽い方がいいなって思って筋肉を付けたいというのと、見た目からケンカで負けなさそうになりたい(笑)
-強くなりたい?
のん
強そうに見えるようになりたい。ほんとにケンカしたいわけじゃありません(笑)
-番組内で次回作の話題も少し出ましたが、アイディアはいくつもお持ちなんですか?
のん
断片的なものがいくつかあるんですけれど、それらをひとつにできるなと思って、物語を構想しています。まだ具体的な話があるわけじゃないんですが、私の中では新しい作品をやりたいなって考えています。
■高橋幸宏さんへの想い
-6月28日(水)発売となった2nd Full Album「PURSUE(パーシュー)」のボーナストラックには、高橋幸宏さんとコラボされた未発表曲「Knock knock」が収録されていますが、この曲についてご紹介ください。
のん
「スーパーヒーローズ」(2018年)というアルバムに収録しようと思って作った曲で、めちゃくちゃ良い曲になったんですけれど、このアルバムの他の曲と一線を画す曲調だったので、「Knock knock」をもっとベストな状態で聴いてもらうにはどうしたらいいだろう?と探ってずっと温めていた曲なんです。
そして、今回私の20代を総括するような「PURSUE」というアルバムを出すタイミングで、ボーナストラックという形で収録するのが一番いいなって思いました。
-なるほど。いつ出すか、そのタイミングを探られていたということですね。
のん
そうなんです。幸宏さんの歌がめちゃくちゃカッコ良くて、包み込むような落ち着いた大人の雰囲気なんですけれど、とても鮮やかに聴こえてくる。そういう幸宏さんの歌声のパワーを感じられる曲になっています。
-曲を発表する前となりましたが、今年亡くなられた高橋幸宏さんへの想いをお聞かせください。
のん
私は、幸宏さん主催の「WORLD HAPPINESS」(2017年開催)というフェスで、幸宏さんバンドに混じって「タイムマシンにおねがい」を歌ったのが、のんとしての音楽活動のスタートだったので、自分の音楽の道は、幸宏さんに切り拓いていただいたという気持ちがすごく強いんです。なので、とてもとても恩義を感じている特別な人で、自分の音楽活動を語る上で欠かせない方です。
私が関わらせていただくずっと以前から、幸宏さんは音楽界のレジェンドですごい方だと思っていましたから、亡くなったことを知ったときは本当に驚きましたが、今回の「Knock knock」もそうですけれど、幸宏さんの歌声も、ドラムもギターも幸宏さんの作品全部、これからもずっと残っていくものだから、音楽を通して幸宏さんを感じられるのは幸せだなと思います。
のん プロフィール
1993年、兵庫県生まれ。俳優にとどまらず、音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。 2022年、自身が脚本・監督・主演を務めた初の劇場映画作品『Ribbon』が公開。本作品は上海国際映画祭、トロント映画祭、ニューヨーク・アジアン映画祭に参加、上映。 同年、さかなクンの半生を演じた映画『さかなのこ』、『天間荘の三姉妹』に主演。 さらに、自身がプロデュースするアップサイクルブランド「OUI OU(ウィ・ユー)」を展開し、RCサクセションの仲井戸“chabo”麗市、忌野清志郎(ベイビィズ)とコラボレーション。
のん2nd Full Album「PURSUE」発売中!
https://nondesu.jp/19382/
アートブック「Non」発売中!
https://nondesu.jp/19047/
■撮り下ろしフォトギャラリー
[スタイリスト:町野泉美/ヘアメイク:菅野史絵/インタビュー・写真:三平准太郎]
『Ribbon』TV初放送記念 のんのいま
俳優、アーティスト、という2つの顔を持ち、そのあふれる才能で幅広く活動しているのん。
日本映画専門チャンネルでは、のんが脚本・監督・主演を務めた、映画『Ribbon』のTV初放送を記念し、のんの“いま”に触れられる4作品を放送!
さらに、フジテレビアナウンサー・軽部真一がホストを務める「日曜邦画劇場」枠では、ゲストにのんを迎え、『Ribbon』『さかなのこ』についてたっぷり語っていただきます。
番組サイト:https://www.nihon-eiga.com/osusume/non-no-ima/
放送日程
7/16(日)・7/23(日)よる9時
→日曜邦画劇場ではゲストにのんを迎えて、『Ribbon』『さかなのこ』を2週連続放送!
7/26(水)・7/27(木)連日よる7時
→『Ribbon』『さかなのこ』『オフィス3〇〇舞台「私の恋人」』『オフィス3〇〇舞台「私の恋人beyond」』の4作品を一挙放送!
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