【中山咲月インタビュー&撮り下ろしフォト】自身初の告白フォトエッセイ「無性愛」に込めた溢れる感情
2021年はじめ、トランスジェンダーであると自覚し公表した、モデルで俳優の中山咲月が、9月17日に「無性愛」というタイトルの告白フォトエッセイを発売する。それに至るまでの自身のことと合わせて、本書に込めた思いを伺った。(撮り下ろしフォト)
中山咲月は、以前から、性別に関係なく恋愛感情を持てない「無性愛」であることは公表していたものの、トランスジェンダーでもあることに明確に自覚した時は、それを告白するまでの1ヶ月間は思い悩み、その辛さは「死にたい」と思うほどだったという。今回のフォトエッセイには、その時の溢れ出る感情が綴られている。
一方、6つのテーマに分かれた各章の写真は、まるで映画を観ているような魅力にあふれており、エッセイとして綴られた人間・中山咲月と、写真の中で演じている俳優・中山咲月の2つを同時に感じることができる。
中山咲月インタビュー&撮り下ろしフォト
■「そんなに怯えなくて良かったんだ」
-ご自身がトランスジェンダーと気づかれたことについて、今年の2月にブログで書かれています。トランスジェンダーだと明確に告白されたのはこの時が初めてでしょうか?
中山咲月
そうですね。あのブログが初めてです。
-書いた時はどんなお気持ちでしたか?
中山咲月
あのブログを書くまで実は1ヶ月くらいの時間が自分の中にありました。
きっかけになった映画を観てから、自分がトランスジェンダーなんじゃないかって気が付いたものの、すんなりとはやっぱり受け入れられなくて、やっぱり自分は違うんじゃないか、一時の迷いなんじゃないかって葛藤があったからです。
そうだと気づく前、まだ無意識だった頃の自分は、仕事の現場で女性として扱われても、心の中のモヤモヤはずっとありましたが、確証はなかったので、やってこれてはいたんです。
でもいざ、自分がそうかもしれないって気づき、自分の中で答えができると、今までガマンできたことがガマンできなくなってしまって。そういったことも悩んだ1ヶ月でした。
今回のフォトエッセイに「死にたいと思ったことはことありますか?自分は、あります。」って書いていますが、それはそのブログを更新する数時間前の頃のことで、生きるのが辛く死んだ方が楽かもしれないって限界になったんです。そうしたら、一緒に住んでいる友だちが「死ぬぐらいだったら全部ワガママになっていいんじゃないか」って言ってくれ、そのタイミングでブログを書きました。
-きっかけとなった映画とは、『彼らが本気で編むときは、』で、2021年の1月にご覧になった時だと伺っています。
中山咲月
はい。きっかけがその映画だったといろんなところでお話しているんですけど、きっかけはどうでもよくって、今までも無意識ではそうだったけど、世間の目だったり、生きやすさの方を選んで自分にウソをつき続けてたんじゃないかなって思います。
また、どっちかって言うと、自分は悩んでも一人で解決するタイプだったので、周りに相談っていう選択肢はありませんでした。
-ブログに書かれてから、周りはどんな反応でしたか?
中山咲月
いちばん最初に伝えたのは、一緒に住んでいる友だちなんですが、「知ってた」って言ってくれました。自分の中にあった“無意識”みないなものに気が付いてくれていて、なおかつ、女性としてではなく、人間として接してくれていいて、自分にとってとても居心地の良い場所を作ってくれていたんだなって改めて気づきました。
ファンの方からも「そうだと思ってました」「発表したからって中山咲月であることは変わらないよ」と言ってくださったので、そんなに怯えなくて良かったんだって思いましたし、気持ちもスッキリとしました。
■「自分の感情が溢れた時に書き溜めていた」
-今回は写真集ではなく、フォトエッセイとして出すことになった理由は?
中山咲月
今回のお話があった時、ただの写真集というよりも、自分の内面的なところをできれば出したいと思ってフォトエッセイにしました。自分は見た目よりも中身を知ってほしいと常日頃、SNSとかで言っていたので、それが本になったという思いです。
-エッセイは全部ご自身が書かれたものですか?
中山咲月
そうです。エッセイに書いたことは、一番悩んでいた一ヶ月間、自分の感情が溢れた時に、携帯のメモに書き溜めていたものです。まだフォトエッセイの話をいただく前でしたので、たまたまなんですが、自分が辛い時の感情がリアルタイムに残っていて、それをエッセイとして書き出すことにしました。
-とてもリアルな気持ちが伝わるエッセイに感じました。
中山咲月
見返していると自分の文章なのに「あっ、こんな気持だったな」って思い出すくらいリアルだなと思います。
嘘をついた。
メンズっぽいのは服が好きだからで、そのほかは「普通です」と。
《 中略 》
自分で刺した嘘の鍼はそこからどんどん腐食が進み、中性的な役を演じることでさえ、痛みを伴うようになった。
中性的を突き詰めればベースは「女性」。
周りが求めるジェンダーレス像は自分を消した上でしか成り立たないものにいつしかなっていた。
「女の子なのに、男の子みたいにカッコいい」という付加価値。
「もとは女性」というチャームポイントの違和感。
気づいた時には、もう息ができなかった。
《本文より抜粋 》
■タイトル「無性愛」について。
-今回のエッセイのタイトルにもなっている「無性愛」。2年前のブログでもすでにご自身が無性愛であることを明かされています。
中山咲月
はい。今年、トランスジェンダーだと気づくよりも何年か前にそのことに気づいたんです。当時、自分の中に恋愛感情が無いんじゃないかって思って調べたら「無性愛」って言葉が出てきて、そこに書かれていること全部に共感できるし、自分に当てはまるなって思ったんです。
その時は、「あ、そうなんだな」って、トランスジェンダーでわかった時は苦しんだんですけど、無性愛だって自分がわかった時はすぐに受け入れられました。今まで悩んでいたものに名前が付いた、自分だけじゃないってわかってスッキリしました。
-異性の誰かを好きになることが当たり前とされている世の中なので、そうじゃない人のことはなかなか理解されないということは感じられますか?
中山咲月
はい。共感してもらうのは難しいかなって今だに思っています。
これまでも、友だちと話してく中で、必ず恋愛の話になるんですけど、いざ自分のことを聞かれた時に答えられないんです。愛情はあるんですけど、恋愛感情が無いだけなので、友だちとの話についていけなくて無理やり合わせていました。恋愛感情が無い世界をわかってもらうことは絶対にムリだなって思っているので。
ただ、共感はできなくとも、この恋愛感情が無い世界というのは、思うほど難しいものじゃなくて、恋愛をしていないとダメな人もいれば、逆に、恋愛できない人もいるっていうことをただわかってくれればいいかなって思っています。それもあってタイトルを「無性愛」にしました。
-恋愛感情のことに限らず、自分だけが違う、自分だけができないことが私にもあるので、そのときに周りから、いつかできるよ、気のせいだよなどと言われるのはつらいですよね。
中山咲月
そうですね。そういうことを言われた時に、言われた自身の辛さもありますが、どちらかというと、相手に悪気がないからこその辛さもすごくあります。相手からしたらそれが普通だし、一般的な常識でもあるので、そういう言葉が出るよなって思うと、強く言い返すというのもなんか違うなっていうのもあって自分の中に飲み込む。それがすごく辛かったですね。
■ページをめくる度、映画を観ている感覚に。
-今回のフォトエッセイは、6つのテーマで構成されていて、それぞれ元となった映画や小説のことも書かれています。これらは全部ご自分で考えられたんですか?
中山咲月
はい。自分からこういうテーマで撮りたいっていうことを提案しました。映画の作品名については、私の考えたテーマに似た映画があるよって教えていただき知ったのですが、実際に観ると、まさしくこの世界観だって思いました。
-それぞれのテーマの着想のきっかけは?
中山咲月
フォトエッセイとして、自分自身を出すこと、そして今まで見せたことがない姿を見せたいと思ったことがきっかけです。たとえば今回、和服も着てますが、これは今までのモデルの仕事でも着たことはありません。また、ページをめくる度に映画を観ている感覚になれる本にしたいなと思って、いろんな要素を詰め込みました。
-特に思い入れのあるテーマを是非教えて下さい。
中山咲月
どれかひとつを選ぶのは難しいですが、たとえば、「ヴェニスに死す」のテーマで少年のように撮ったテーマです。それぞれのシーンは伯爵邸で撮ったのですが、少し人形っぽくもある少年らしいテイストを意識しています。
-まるでその屋敷に最初から存在していたような印象を持ちました。
中山咲月
そうですね。住んでた感が出たらいいなって思って撮影していたので、ストーリー的なものを想像しながら見てもらえたら嬉しいなって思います。
■寒い海に縁が・・・
-今回、撮影するにあたって何か取り組まれたことは?
中山咲月
それぞれのテーマを撮影したタイミングはバラバラなんですが、ひとつひとつのテーマに対して役づくりをしました。このキャラクターはこういう性格で、こういう生き様で今ここにいるということを自分でメモして、役づくりをしてから(撮影に)臨みましたので、それぞれのキャラクターの感情をこめています。そういう意味では、自分じゃなくそのキャラクターに見えたらいいなと思って撮影しました。
-撮影で印象に残っていることはありますか?
中山咲月
制服のシーンは、葉山の海で撮ったんですけど、海水浴には早い時期で寒くて震えながら撮りました(笑)波もたまたま強くて、カメラマンさんも流されないように必死に堪えながらで。
出来上がった写真を見るとクールな表情していますが、実は意外と大変だったんだよって(笑)
そういえば、以前、山本彩さんの「棘」のMVに出演させていただいた時も冬の海だったので、寒い海での撮影に縁があるのかもしれません(笑)
■ひとりの人間・中山咲月として。
-今後は、モデル/俳優など「男性」として活動されていく思いでしょうか?
中山咲月
“トランスジェンダーの中山咲月”って付いてまわるのはやっぱりしょうがないなって思っています。でも、“元女性”だっていうことを取っ払って生きていくのが一番いい形だと思っています。“一人の人間・中山咲月”として、俳優業だったり、そういうお仕事をたくさんできたらいいなって思っています。
-ホルモン治療されていることはSNSでも書かれてますし、インタビュー前も、声が以前より低くなってきたとおっしゃってましたが、ご自身で感じる変化はいかがでしょうか?
中山咲月
する前より断然した方が自分は気持ちが楽になりましたし、かなりしっくりきています。
ホルモン治療を始める時に、ファンの方々には「もしかしたら変わっていくかもしれない」と言ったのですが、「副作用もあるから」って心配の声もいただきました。でも自分は副作用は確かにあるけど、それに勝る、生きることが楽しいっていう気持ちには替えられないので、ほんとにしてよかったなって思っています。
-フォトエッセイの中で「今生きるのが楽しくてしょうがない」と書かれていますが、それはホルモン治療も影響しているということですね。
中山咲月
はい。自分の中でかなり大きいなと思います。
■自分で撮影したフォトブックも出してみたい
-今後の俳優活動として、出演してみたい作品ジャンルや、演じてみたいキャラクターがあれば教えてください。
中山咲月
自分はオタクな方で、アニメやゲームが好きなので、そういう原作の実写化作品に出てみたいです。
-好きな作品はありますか?
中山咲月
少年マガジンの「東京リベンジャーズ」のような作品に出てみたいなって思います。
-中山さんの憧れの人っていますか?
中山咲月
実は憧れの人がいなくて、今まで一度もできたことがないんです。なので、自分が服を選んだり、目標にしているのも、未来の自分を想像して、それを目標にしているので、自分がこうなっていきたい、こうなった姿を頭の中で想像して、それに向かってどう努力するのかを考えています。それは中学生の時くらいからずっとその考え方で生きてきました(笑)
-ゲーム、アニメ以外でハマっているものはありますか?
中山咲月
カメラが好きで、自分で一眼レフ買って、レンズも揃えています。
-どんなものを撮影しますか?
中山咲月
ディズニーが好きでよく行くんですが、撮影のためだけに行ったりとか(笑)
-よろしければ機種を教えてください?
中山咲月
Canon EOS 5D Mark IIIです。レンズも、F/1.2のものを買ったんですが、(開放だと)ピントを合わせるのが難しくて撮影の練習しています。
カメラ、レンズの保管のために、(電気式の)防湿庫も買いました。
-自分で撮影された写真のフォトブックをいつか発売されることは考えてますか?
中山咲月
実は将来やりたいなって考えていて、いつかカメラで仕事してみたいってずっと言ってます。まさしくちょっと目標にしています(笑)
-オフの日はどのように過ごされてますか?
中山咲月
インドア派で、それこそ、アニメ、ゲームをやったり、猫も飼ってるので家でダラダラしていることが多いですね。でも、最近は家にいることが褒められるので良かったなって思って(笑)
-時代が中山さんに追いつきましたね(笑)
中山咲月
そうですね。自分の時代が来ました(笑)今まではさんざん家にいて、「外に出なよ」って言われてたのに、今は「エライね」って言ってくれる(笑)
■最後にメッセージ
-今後の抱負があればお聞かせください。
中山咲月
今、ほんとに生まれ変わったと言っても過言じゃないくらい、とても楽しく、仕事も、以前よりこういうことをやってみたいと思うものが増えてきました。
自分はあんまり目立つことが得意じゃないって(フォトエッセイにも)書いているんですけど、この仕事を続けられているのは、ほんとにファンの方々のおかげなので、ファンの方々が中山咲月って、すごいんだよって思ってくれるような人間になれたらいいなって思いますし、そう思ってもらえるような仕事をたくさんできたらいいなって思っています。
-最後に今回のフォトエッセイ「無性愛」について、PRメッセージをお願いいたします。
中山咲月
今回のフォトエッセイは、ジェンダーで悩んでいる人、そうじゃない人も、やっぱり生きていく上で、理不尽なことだったり、すごく悩んでいる人もたくさんいると思いますので、そういう人がこの本を見た時に「少し頑張ってみよう」と思ってもらえるよう、元気づけられたらいいなと思います。
■撮り下ろしフォトギャラリー
[聞き手:安田寧子/写真:桜小路順]
中山咲月(なかやま・さつき)プロフィール
1998年9月17日生まれ、東京都出身。モデル・俳優。13歳でモデルデビュー、雑誌や広告で活躍。俳優として初出演した「中学聖日記」のジェンダーレスな役が話題に。2020年には「仮面ライダー ゼロワン」亡役に抜擢。 2021年、日本の結婚観に一石を投じたオンライン演劇『スーパーフラットライフ』に出演し話題に。
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撮影:高野友也
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収録カット
「無性愛」プロモーション動画(その1)
「無性愛」プロモーション動画(その2)
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