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劇場公演が当たり前でなくなった今、ダンスと映像の関係を見つめ直す。映画『Trinity』

8月30日、渋谷ユーロライブにて、企画イベント「new normal」の一貫として映画『Trinity』のトークショーが行われ、本作に出演している俳優/ダンサー・生島翔、ダンサー・森井淳、女優・広山詞葉、そして本作のコンセプト・脚本の堤幸彦監督が登壇した。

『Trinity』は、東京・伊豆大島の火山が創り出した圧倒的な自然の風景を舞台に、生命の誕生から、人類の進化といった時の流れを描き、いま直面している社会、経済、環境などの問題に苦悩する人間の姿をコンテンポラリーダンスと、断続的に吹き込まれる短い台詞で表現した約40分の作品。

制作のきっかけは、生島が主催した「new normal」という企画で、コロナ禍により劇場公演が当たり前でなくなったダンスを発信していくにあたり、ダンスと映像の関係を改めて見直し、芸術においての出自の異なるアーティストが捉えるダンスを映像という媒体で表現することをめざすもの。
『Trinity』は、生島ら日本側クリエイターが制作した映像作品で、同じ企画として『the unforgiving singularity』と題したドイツ側クリエイターが制作した映像作品もある。現在、渋谷ユーロライブで行われているイベント「new normal」では、この2作品を同時上映。

この日のトークショーでは、『Trinity』の振り返りと共に、登壇者らが作品に込めたことや今後の思いなどが語られた。

映画『Trinity』トークショーレポート

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生島翔/森井淳/広山詞葉/堤幸彦監督

■舞台作品がコロナ禍で無くなったのがきっかけに。

-舞台となった伊豆大島で、どのような形で映像を創り出したのでしょうか?

生島翔
最初は昨年の8月に東京芸術劇場さんの方でダンスシアター作品を制作する予定だったんですが、コロナ禍のために企画ごとなくなってしまうような時期がありました。けれどもこの時期に、自分たちの仕事であるアートやダンスやお芝居や映像といったものをどのように継続できるのかと考えた結果、映像作品を作ろうと思いました。
そこで、長年一緒にお仕事をさせていただいた堤幸彦監督にお願いをしたところ、二つ返事でいいよと言ってくださったんです。
ダンサーとこういった形の大掛かりなダンス映像作品を作る機会はなかなかなかったので、それを一緒にできるのはすごいいいチャンスだなと思って、今回の形で進めさせていただきました。

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生島翔

生島翔
日本で唯一“砂漠”と名がついている伊豆大島の裏砂漠を僕が写真でみて、「伊豆大島に行ってみたいなあ」と言ったら、その3日後には、監督が「船を予約したから!」となったので、とりあえず行ってみて、何か感じるものがあればやろうよみたいになりました。監督の行動力に引っ張られて助けてもらったら、このようになりました。

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『Trinity』場面写真(伊豆大島 裏砂漠)

■テーマは自然と人間

-監督の演出の前に振り付けがある程度できていたそうですね?

堤幸彦監督
振り付けが先というか、まず「自然の中での人間」といったテーマが決まっていました。自然は母でもありながら、その漆黒は恐怖の対象でもあります。
近代が文明として進む中で、人間は何かを壊してきたんじゃないかっていうメッセージがあり、いろいろあって大変だけども、最後には日は昇るという希望がある。そのようなテーマをまず翔くんと決めて、そこから彼らは振り付けに入ったんです。

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堤幸彦監督

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『Trinity』場面写真

■汗とローションにまみれて、岩場を裸で30分?

-ダンサーは基本的にステージがあって、お客様に観ていただいて生まれるものがあると思いますが、お客様がいないという伊豆大島の自然の中で踊るという体験はいかがでしたか?

森井淳
舞台とは全然違いました。むちゃくちゃ楽しかったです。その反面、舞台の500倍ぐらい大変でした。最初の岩場のシーンでは、足元を踏んだら沈むし痛かったです。

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森井淳

生島翔
最初のシーンの足元が砂利ではなく石なんです。

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『Trinity』場面写真(足が沈み込む石を踏みしめながら登るダンサー)

森井淳
しかも、原始時代の槍の先につけたりするような石なんです。

生島翔
そこに監督が業務用の2リットルボトルのローションを「全部かけろ!」と指示したんです。僕らはお互いの体を持ち上げるリフトをしていて、汗でも滑るんです。

森井淳
なので我々はできるだけ最小限の量だけをつけようと思っていたんです。そのシーンで利用したビニールを含めてめちゃくちゃ滑るので。

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『Trinity』場面写真(ビニールに包まれた3人のダンサー)

広山詞葉
そのシーンでは、私は端から皆さんを見ているだけだったんですが、裸で岩場を27分くらい登っているのをずっと見ていたら涙が出てきて、表現ってこういうことなんだなって思いました。

-生島さんは、ステージと違う自然の中で踊ったことについていかがですか?

生島翔
リハーサルをする舞台と、そのままやるというのは違っていました。撮影スケジュールは朝日が多かったので毎日ほぼ朝日狙いで、夏場なので午前3時に起きて、出発ということなので、やはり、普段の舞台のような、本番前にウォームアップして、2時間前から準備してみたいなのが全くない中で撮影が進むので、瞬発力が必要な現場だったと思います。
詞葉ちゃんもですけど、このメンバーだからどうにか走りきれたというのはありますね。

■出番が無いはずなのに・・・

-広山さんへの監督からの演出はありましたか?

広山詞葉
私にはテキストはほとんどなかったのですが、最後に「ワーッ!」と吠えるシーンは、その時に撮る予定ではなかったんです。
「今日は撮影は無いわ」と思ってたので、私服を着て監督の隣でモニターを見ていたら、「衣装持ってる?」って言われて、「持ってますけど」と言ったら、「ちょっと着て来て」と言われました。その後、タトゥーをいれてもらって5分後には撮影していました。

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広山詞葉

堤幸彦監督
衣装が素晴らしいでしょう。今日いらしているスタイリストの藤崎コウイチさんのおかげです。

-ばっちりでしたね。ラストでの絶妙なマッチ感が。

■ドローン自身がAI判断で自主規制?

-工場のシーンの撮影は大変でしたか?

生島翔
あそこは本当はドローンで撮る予定だったんです。

堤幸彦監督
本当は鉄塔の周りを回りたかったんですけど、飛行許可エリアなのにドローンがAI的判断で自主規制をかけて、降りてきてしまったんです。
そこで急遽プロデューサーに伝えて、バケットクレーンを借りてきてもらって撮影したんです。ただちょっと高さが足りなくて、工場の一番上にある生島翔くんが撮れませんでした。

生島翔
撮影の唐沢悟さんが、ウィーンって登っていくんですが、上限まで残り50センチくらいまで上がってくるので、僕も不安になりながら見ていました。

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生島翔

■何かの拍子に全裸に。

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『Trinity』場面写真(森井淳、皆川まゆむ、生島翔)

-生島翔さん、森井淳さん、皆川まゆむさんの3人だったからこそ生み出せた空気感や世界観を感じました。

生島翔
それを言ったら、裸のシーンですよ。

堤幸彦監督
淳さんがどうしても脱ぎたいっていうから(笑)

森井淳
いやいやそんなこと一言も言ってないです。もともと、前半の砂に埋もれているシーンで、そこは上半身裸の方がかっこいいからという理由で、上半身裸だったんですよ。でも、何かの拍子に全裸になりました。

堤幸彦監督
最後は慣れてしまって、「とにかく脱ごうか!」って。

森井淳
最終的には、脱ぐのがデフォルトになって、詞葉さんも結局脱いでいますものね。

広山詞葉
「日が沈むから、とりあえず脱いでみて」って言われましたね。それで私も「わかりました!」って。

■“全裸監督”と呼ばれるように?

-監督に質問です。ダンサーの方へ演出するにあたって、感覚的に何か試したことや面白さを感じたことはありますか?

堤幸彦監督
ダンサーの方々は、打てば響くんです。だからアドリブなり、思いつきを「その場で振りを考えてくれ」とかがいっぱいありました。
やはり、その現場に行って思いつくことっていうのはたくさんあるわけです。「こういう人間の配置にしたい」とか、「こういう高さのものを撮りたい」とか。
それに関しては、自然や現場の方が圧倒的に大きくて力を持ってる中で、この3人に、そして詞葉さんを加えて4人が、どう動いて表現すれば拮抗し、勝てるかというのをその場でもって、思いつきで言ってることを昇華していただきました。
非常に幸福な撮影だったなと思います。この全裸パッケージが取り上げられて、私も“全裸監督”と呼ばれるようになったりしてね。これはもう世界中に全裸ダンサーズとして輸出できるね。コロナが明けたらみんな頑張ってね。

生島翔
この4人組で、全裸ダンサーズとして、地球の各地を周りたいですね。

■最後にメッセージ

森井淳
こういうご時世で、特にアートや舞台はお客さんに入ってもらって開催することはできない状況です。けれども、我々はこれをするために生まれてきたんだし、どこまでも追求していきたいと思っていますので、ぜひ見に来ていただきたいし、むしろ一緒に踊りたいなと思っていますのでよろしくお願いします。

広山詞葉
コロナ禍でこんなにたくさんのお客さんに来ていただけることに、本当に感謝します。感染症対策には、プロデューサーの生島翔くんが頑張って、撮影の時からあれこれ試行錯誤してきました。
森井淳さんも言っていましたが、私達は仕事ってお金のためだけじゃなくて、生きがいとしてあるものだと思っています。そのために皆さんは踊っていらっしゃったり、私達は芝居をしていたりする中で、何か芸術とか舞台とか必要なのかなとか考えさせられる時期でした。
だけど、今日皆様にパワーをすごくいただいたなと思います。コロナに負けず、映画を作ったり、舞台を作ったり、企画展を作ったり、たくさん発信をしていこうと思いますので、何卒応援をよろしくお願いします。

生島翔
こういう時期で、家にいる時間や考えさせられる時間が僕自身多かったです。本日上映した作品ですが、この時間で皆さんが考えていたことと、どこかリンクしていると感じています。
楽しいことをする・自分の好きな料理だったり好きな人と時間を過ごすということも大事なんですが、自分自身と対話するとか向き合うということもどうしても必要な作業だと思っています。
今回どちらかというと重い作品というか、考えさせられる内容で、憂さ晴らしをしたり楽しかったと帰るような作品ではないと思います。ただ、僕たちは人間なので体なくしては生きていけないと思っています。
この作品を観ていただいて、ダンスというものに触れていただいて、言葉ではなくて、感性から導かれるものがあればすごく嬉しいです。ダンスでも音楽でも何についてでも全てを理解しなくていいと思います。感じられたその感覚だけ持ち帰っていただいて、どこかでふと思い出してくれたら嬉しいです。

堤幸彦監督
こういう大変厳しい状況なんで、表現の形もどんどん変わっていくと思います。過去にどんな作品を作ったとか、今がどうであるとか、監督の賞味期限って何歳だろうなって考えることもあります。75歳になってもまだできるのかなと思うこともあります。
でもめげずに、どんどん新しいことというと陳腐な言い方になってしまいますが、過激なことに突き進んでいきたいと思います。
もちろん望まれれば大きな作品もやりますし、前にどんどん進んでいきたいと思いますが、こういう時期だからこそ、スマホで撮っても、大きなキャメラでとっても映画は映画だし、撮るときは一緒なんだという撮影の原点みたいな所を忘れずに精進していきたいと思います。

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森井淳/生島翔/広山詞葉/堤幸彦監督

[写真・レポート:金田一元/構成:桜小路順]

「new normal」

INTRODUCTION
東京2020オリンピックへ向けてアーツカウンシル東京が助成する東京都文化事業『TokyoTokyo FESTIVAL』海外発文化プロジェクト支援を受け、2020年8月に東京芸術劇場シアターイーストにてダンスシアター作品をドイツと共同制作で製作・公演する予定であったが、コロナウィルスの影響により2021年8月にダンス映像作品に形を変えて発表する。
「new normal」と題したこの企画は、俳優/ダンサーの生島翔が代表を務める034productionsが主催し、生島は振付及び出演もする。
日本の監督は『ケイゾク』、『SPEC』、『池袋ウエストゲートパーク』といったテレビドラマシリーズや、日本アカデミー賞優秀作品賞受賞の『明日の記憶』などの映画に代表され、生島と『Kesennuma, Voices.』シリーズで約10年に渡り、東日本大震災のドキュメンタリー番組を制作してきた堤幸彦氏が務める。
音楽は坂本龍一とのセッションやダミアン・ジャレ+名和晃平«VESSEL»、野田秀樹の舞台作品、«JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS »パリコレクションの音楽などを手がけた原摩利彦が担当。
ドイツの監督/振付は、生島が以前ソリストとして活動していたドイツ・カッセル州立劇場芸術監督、及びベルリンで開催されているb12フェスティバルの主催者であり、ドイツの振付家賞Kurt Jooss Prize最優秀賞ほか受賞歴多数のヨハネス・ヴィランド氏が担当。

CONTENTS
コロナにより劇場公演が当たり前でなくなったダンスを発信していくにあたり、ダンスと映像の関係性を改めて見直し、ドイツでは振付家が映像に挑み、日本では映像作家がダンスに挑戦する。
堤幸彦は文明の発展と自然界のあらわしを大きな時間軸で捉え、その繊細なピアノや環境音、そして電子音などを自在に使いこなす原摩利彦の音楽とともに、時代とともに存在するしかない身体を切り出す。また、ドイツのヨハネス・ヴィランドはカメラワークを振付し、ダンサーにインタビューを行うことを主軸に置いた実験的なドキュメンタリー映像作品を制作する。
芸術においての出自の異なるアーティストが捉えるダンスを映像という媒体で表現する。

映画『Trinity』

クリエーター(日本)
監督・コンセプト・脚本:堤幸彦
振付 :生島翔 and the dancers
音楽:原摩利彦
パフォーマー:生島翔、森井淳、皆川まゆむ、広山詞葉(特別出演)

new normal

Trinity

映画『the unforgiving singularity』

クリエーター(ドイツ)
監督・振付:ヨハネス・ヴィランド
撮影:ケレン・シャーニゾン

new normal

the unforgiving singularity


主催・企画製作:株式会社034productions
「new normal」公式サイト:https://info2589120.wixsite.com/034newnormal

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