80年代と現代。女優の質の違いは?ロマンポルノ時代から最新作『火口のふたり』まで。
直木賞作家・白石一文による同名小説を原作とした映画『火口のふたり』が8月23日(金)より全国公開されるのを記念して、かつて日活ロマンポルノ時代を築いた両雄、本作の荒井晴彦監督と、根岸吉太郎監督のスペシャルトークが実現。ロマンポルノ時代から『火口のふたり』に至るまで、表現の自由、女優のキャスティングなど、映画界の移り変わりなどを語り尽くした。8月16日、代官山蔦屋書店にて。
代官山シネマトークVOL.20 『火口のふたり』トークイベント
本イベントは、過去作から新作に至るまでの脚本術・演出術に迫る「代官山シネマトーク」のVOL.20。荒井晴彦監督は、1971年より若松プロで助監督、その後ピンク映画の助監督、脚本執筆を経て、1977年日活ロマンポルノ『新宿乱れ街 いくまで待って』で注目を浴び、以後、薬師丸ひろ子主演『Wの悲劇』を始め、数々の傑作を執筆。キネマ旬報脚本賞では5度の受賞を果たし、最新作『火口のふたり』は早くも傑作の呼び名も高く、この夏の注目作品だ。
対談を務めたのは、荒井晴彦が脚本を務めた『ひとひらの雪』『遠雷』『キャバレー日記』などの作品で、メガホンをとった根岸吉太郎監督。ロマンポルノ時代の貴重なトークが繰り広げられた。
映画『火口のふたり』は、8月23日から全国で公開。R18+指定。
女性の反応が良い、70年代を感じる青春映画の『火口のふたり』
– 代官山蔦屋書店店内のレジ前に『火口のふたり』のポスターを掲示していますが、びっくりするほど若い女性の反応が良いです。本作をご覧になった感想をお聞かせ下さい。
根岸吉太郎監督
私の知っている監督(荒井監督)、カメラマン(川上皓市)、役者(柄本佑)がやっているので、知り合いが作っている映画ということで、どうしても細かく観てしまいました。
今、表現の自由が問題になっていますが、政治的なことは置いておいて、映画を作る時は、一般の人が何を観たいのかという興行的な忖度にひっかかってしまいます。でもそれを乗り越えて、この映画があるということは、すごく共感するし、応援したいことだなと思いました。
まず、企画がいいですね。この原作を選んだってことが勝ちなんじゃないかなと思いました。
– 青山真治監督が「傑作すぎて非常に動揺している。70過ぎの高齢者にこんな若い映画を作られてはたまらない」と絶賛されています。
根岸吉太郎監督
この作品は青春映画とも言えるし、そのスタイル、若い二人の考え方のひとつひとつに70年代を感じさせるんだよね。そういう意味じゃ、(柄本)佑を観ていると、荒井晴彦が乗り移っているようだね。
今は裸になってくれる女優さんいない?
– かつては監督と女優の信頼関係である種成立したヌードシーン。でも今は、事務所の横槍みたいなものは感じられますか?
荒井晴彦監督
僕も根岸もロマンポルノやってたので、裸も衣装くらいに思ってたけど、今はぜんぜん違うじゃない。なので前作(『幼な子われらに生まれ』)でも(ヌードシーンは)実現できなかった。
– 『遠雷』(1981)では石田えりさん、『ひとひらの雪』(1985)では秋吉久美子さん。この2本は、濃厚なラブシーンがある映画の代表作になっています。
根岸吉太郎監督
『ひとひらの雪』を見返すと、我ながら改めて上手いなぁって思いますね。今、あれだけ裸をうまく撮れる若い監督はいないんじゃないですかね。
でも、今は脱ぐ人がいないという話がありましたが、時代もあったと思うのね。
80年代は、写真集でもいろんな人が新しい表現に挑戦した時代で、そういう挑戦しているっていうところが、映画の世界にも波及してきてた。
まぁ、裸も衣装って言うけど、脱ぐって大変なことなんですよ。
それを飛び越えるかなり大きなきっかけが無いと。精神的な強さが無いとできないこと。
ロマンポルノから1ステップ上がり、そして『遠雷』へ。
– 30歳と33歳当時のお二人の対談を読むと、「ロマンポルノからもう1ステップ上がりたい」ということを話されています。それから『遠雷』(1981)ができました。
根岸吉太郎監督
『遠雷』の2年前から、ATG(日本アート・シアター・ギルド)から映画を撮らないかって、その頃社長になった佐々木史朗さんから言われていた。なので、そんなに気負った感じはありません。
日活で映画を撮るといつも、重役クラスの講評会があって「なんで(根岸は)日活でATGみたいなのを作ってんだよ」って言われてたんで、ATGの中で、日活みたいなものを撮りたいとも思ってたし(笑)
でも、日活で自分たちがやっていることは間違ってないって言ったら変だけど、自信を持って映画を作っていた。それの延長線上で、急にアートだとか社会性だとかは言わないけど、自分たちがいつも思ってたことを、ちょっと素材は違うけど、出したいなっていうのは思ってました。
80年代と現代と女優の質の違い
– 80年代と現在とで、女優さんの質が下がったと感じますか?
根岸吉太郎監督
そんなことはないですよ。今の女優さんも面白いなって、興味を引く女優さんはたくさんいますし、素晴らしいなって思いますね。
今回の『火口の二人』の瀧内公美くんも素晴らしいなって感じてます。今、テレビドラマの「凪のお暇」(TBS系)にも出てるけど、あれだけ違ったことをドンってできるのは、やっぱり女優として次のステップも楽しみに思いますよね。
変化してきた映倫の基準
– では、80年代と今の時代とで、ラブシーン、濡れ場の演出方法の違いは?
根岸吉太郎監督
今は圧倒的に映倫の基準が変わってるのね。
先日、自分の作品『キャバレー日記』(1982)を久しぶりに観たんですよ。そしたらすごい大事なシーンで黒い四角がベタって出てきて隠してて、そんなの、自分でやったことも忘れてました。
このシーンは、ワンカットで、自分としては映倫的に大丈夫だなと思って撮ってたんです。
そしたら、映倫にずっとダメだダメだって言われて、だから頭に来て、「ダメだって言われました」っていうのを付けたのを思い出しました。
今観たら、この程度のことで映倫はダメだって当時は言ってたんだって。すごいもったいないので、今、外したいなって思います。
で、最近の若い監督の作品や、今回の『火口のふたり』を観ていると、こんなことも許されちゃうんだって思って。
– たとえば『ひとひらの雪』で言うと、最初にDVDが出た時は成人指定でしたが、後から出たブルーレイではR15になってるので、たしかに映倫の基準は変わってきているようですね。
今だから明かせる『ひとひらの雪』の裏エピソード
– 『ひとひらの雪』では、津川雅彦さんに女優さんの扱いについておまかせということはなかったですか?
根岸吉太郎監督
あのね、あの二人、仲が悪かったんですよ。秋吉久美子と津川雅彦は。
だから、おまかせしますなんてことはありえない。
ちゃんと段取りを演出してね。けっこうめんどくさい日々でした。今だから言うけど(笑)
映画に求めるものは今も自分に問いかけている
– 『遠雷』以降、ロマンポルノが終りを迎える時代になって、大手の映画会社の仕事をするようになって、変わったなっていうのはありますか?
根岸吉太郎監督
映画っていうもののエンターテイメント性というのかな、
今だに、映画作品ってどういうものがいいの?って自分に問いかけてしまうし、観ててもそうなんだけど。
上映が終わった時に、(お客さんは)どういう気持ちで出ていくのかなっていう、満足感があるのかしてないのかがすごく気になるんですよ。
映画を観た時には、すごく楽しかった、満足したっていうある種のエンターテイメント性みたいなものも大事だなって思うのと、そんなもの知らねえよっていう両方、(僕の)内側にいるんですよね。
若い頃は、エンターテイメント性の強い映画を作りたいっていう気持ちが強くあったね。
なので、メジャー映画作品を撮るようになっても、ロマンポルノを作っていた頃の気持ちが根底にあって、薬師丸ひろ子を撮ってても、ベッドシーンがあるみたいなね。
– その流れの典型が、『永遠の1/2』(1987、根岸監督)と『私をスキーに連れてって』(1987、馬場康夫監督)の当時の当方の二本立て興行っていう感覚があります。
根岸吉太郎監督
でも、ほとんどのお客さんが『私をスキーに連れてって』で満足してましたよね(笑)
馬場さんに助けられたなって思いましたよね。
[写真・記事/Jun Sakurakoji]
映画『火口のふたり』
【物語】
十日後に結婚式を控えた直子は、故郷の秋田に帰省した昔の恋人・賢治と久しぶりの再会を果たす。
新しい生活のため片づけていた荷物の中から直子が取り出した1冊のアルバム。
そこには一糸纏わぬふたりの姿が、モノクロームの写真に映し出されていた。蘇ってくるのは、ただ欲望のままに生きていた青春の日々。
「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」
直子の婚約者が戻るまでの五日間。身体に刻まれた快楽の記憶と葛藤の果てに、ふたりが辿り着いた先は―。
出演:柄本 佑 瀧内公美
原作:白石一文「火口のふたり」(河出文庫刊)
脚本・監督:荒井晴彦 音楽:下田逸郎
製作:瀬井哲也 小西啓介 梅川治男 エグゼクティブプロデューサー:岡本東郎 森重 晃 プロデューサー:田辺隆史 行実 良
写真:野村佐紀子 絵:蜷川みほ タイトル:町口覚
配給:ファントム・フィルム レイティング:R18+
公式HP:http://kakounofutari-movie.jp/
8/23(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開
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