【インタビュー】上原実矩「何が“普通”かというのはそれぞれにあって難しい」映画『ミューズは溺れない』
2つの映画祭でグランプリを含む6冠を達成した、新鋭・淺雄望監督の長編デビュー青春エンタテインメント映画『ミューズは溺れない』(9/30公開)に主演する上原実矩に「死闘だった」という本作について聞いた。
上原実矩 インタビュー&撮り下ろしフォト
■死闘!?の末撮影を終えた作品
-撮影の時期はいつでしょうか?
上原実矩(木崎朔子/きざき さくこ役)
2019年の夏です。その時に人物パートを撮影しました。その後、人物が必要のないシーンの撮影を残していたんですが、コロナ禍になって撮れなくなって、やっと撮れたのが2021年の春。そこにアフレコを追加して映画祭に出品したのが2021年の夏となります。
-上原さんのコメントで「夏、死闘の末撮影を終えた今作品」とありますが、どんな死闘だったのでしょうか?
上原実矩
主演として気負うものがあったんです。『この街と私』という短編では経験があったんですけど、長編映画としては初めての主演で、主演として気負うものがありました。
撮影期間が短くて大変だったこともあり、芝居以外のところでの自分の気持の持ちどころなんかで、何かすごく戦っていたなっていう印象があります。
-やはり、座長として、自分以外の周りへの配慮での苦労ということですね。
上原実矩
そうです。現場を引っ張っていくというとおこがましいかもしれませんが、芝居はもちろん、座長としての現場での立ち振舞いを含めて、毎日毎日自問自答していました。
-長編初主演として本作のお話が決まった時、そして“死闘だった”とおっしゃった現場を終えた時、それぞれどういうお気持ちでしたか?
上原実矩
今までは脇で支える役割だったので、主演となると、大きく構えていないとダメなのかなとか、自分なりの理想を持って現場に入りました。
撮影が終わったあとは、開放感があったわけじゃなく、自分の中ではまだ足りないところがあったかなという想いがあって、でもそれは今では良い経験だったなって思っています。
そして、この作品が公開日を迎えて世の中に羽ばたいていくとまた印象が変わるのかもしれません。でもまだ観てもらう前の今は、少しソワソワしています(笑)
■いろいろ悩みを抱えているどこにでもいる女の子
-本作の脚本を最初に読んだ時の印象は?
上原実矩
とてもフラットに読めました。作品と“朔子”という人物に対して。分かりやすく言うと青春群像劇という側面もあるんですけど、それとはまたちょっと違った角度の新しい風が吹いている気がしました。オーディションには、脚本をひととおり読んでから臨んだんですが、監督にもそのようにお伝えしたのを覚えています。
-演じられた木崎朔子(きざき さくこ)はどんな女の子だと捉えて演じられましたか?
上原実矩
いろいろ悩みを抱えているどこにでもいる女の子だと思います。今まで私が演じてきた役は脇にいるのもあって、主人公にどう影響するかというのが自分の中の主軸にあったんですけど、今回は以下に朔子を受け入れて普通で居られるのかというのを意識しました。
-朔子、そして、若杉凩(わかすぎ こがらし)さん演じる西原光(さいばら ひかる)、それぞれが自分のアイデンティティに悩む中、森田想さん演じる大谷栄美が、朔子にも光にも(それぞれ別のシーンで)「あなたが何を考えているかわからない」と言いますが、この栄美の存在を通して、朔子と光のキャラクターをより際立たせているようにも感じました。
上原実矩
わかります。私も朔子のように悩むこともあれば、栄美の視点に立つこともあるし、人から見れば西原のように写っているかもしれないんですけど、何が“普通”かというのはそれぞれにあって難しいですよね。
-西原光を演じた若杉凩さんとの共演はいかがでしたか?
上原実矩
彼女のインタビューを拝見すると葛藤があったとおっしゃってましたが、現場では、そのまま西原として居てくれたなと感じていたので、私も朔子として演じやすかったです。
-劇中、朔子がモデルとなって西原が肖像画を描くシーンも印象的でした。
上原実矩
劇中の朔子の肖像画は別で用意されたものですが、若杉さんはご自身でも絵を描かれるので、私の似顔絵を描いてもらいました(笑)
■脚本の随所に監督が宿っている
-上原さんのコメントで「まっくろこげに日焼けしてる」とありますが。
上原実矩
お話をいただいたのが7月の中旬頃で、自然に日焼けしてたんですが、そのまま8月末頃の撮影に入りました。西原がすごく白いので、それと対比にもなって(日焼けが)うまく活きたなって思います。
逆に白くしてって言われたら大変でしたが(笑)
-役作りとしては?
上原実矩
淺雄望監督が長年温めてきた作品ということもあって、脚本の随所に監督が宿っているなという印象があって、現場でリハーサルや監督とお話しながら、監督の立ち振舞いを盗み見つつ、役に寄り添うようにしました。
-劇中冒頭、海に飛び込むシーンがありますが、泳ぐのはお得意なんですか?
上原実矩
不得意ってわけじゃありませんが、大きなアクション的な動きは苦手じゃないので、特に気負いなく飛び込めました。
-先ほど、座長として死闘だったというお話がありましたが、撮影全体を通して印象に残っていることは?
上原実矩
座長としてもそうですけど、朔子のモヤモヤとも相まって、とにかく大変でした。
先日、監督から初日から順番どおりに繋いだだけだというメイキング映像を見せていただいたんですけど、3年前だったということもありますが、それを見てもぜんぜん覚えてないぐらいです(笑)それほど、撮影期間中は日々生き抜くことに精一杯だったのかなと思います。余裕は無かったですね。
■映画の観方が柔軟になった
-オフの日など、上原さんのお気に入りの過ごし方や趣味など、今ハマっているものがあれば教えてください。
上原実矩
最近は図書館によく行きますし、映画館に行くこともあります。
-映画を観る時って、どこか俳優目線になることってありますか?
上原実矩
あります。以前は俳優として試されている気がして映画を見るのが苦手になっている時期があったのですが
ある映画を観て感想を求められた時、「私、途中で寝てしまって…」と言ったら、「私も寝ちゃった瞬間あったけど、面白かったよ」と言われたのが衝撃で。
そこで映画ってすごく自由なものだな、と気づいてから心が軽くなったんです。
そういえば、私が一番好きな映画でも寝ちゃいそうになる瞬間があるな、と思い出して。画面に吸い込まれるじゃないですけど…。
そういう部分も含めて何回も観たくなる作品なので、解釈ってほんとにいろいろあるんだなと受け入れた時に、自由になって、映画をより楽しく観れるようになりました。
最近は、自分が気づいたこと、他人が気づいたこと、それぞれを合わせればいいやって柔軟になれた気がします。
-こういうインタビューをさせていただく時は、私もどうしても映画を細かく観てしまいがちですが、いち観客としてはもっと自由でいいはずですからね。
上原実矩
はい。ついつい、細かいことを気にしてしまいますが、(作品を)受け取ってもらえたらそれでいいので、あんまり難しく考えなくてもいいのかなって思います。
-以前のインタビューで、「今後は海外の監督と一緒にやってみたいです」とおっしゃってましたが、
上原実矩
そこも目標にしつつ、今は目の前のことひとつひとつに対して自分がどれだけ向き合えるかっていうところを大切にしていきたいという想いが強いです。
■最後にメッセージ
-最後に『ミューズは溺れない』の見どころ含めたメッセージをお願いします。
上原実矩
一見、青春映画という枠組みに見えるところはありますが、どの世代にも問いかけるものがある作品なので、気負わずたくさんの方に観ていただきたいです。
もちろんそれぞれの視点からのいろんな意見が出てくると思いますが、そういうところも含めて楽しんでいただければなと思います。
■撮り下ろしフォトギャラリー
[インタビュー・写真:三平准太郎]
上原実矩(Miku Uehara)プロフィール
1998年11月4日生まれ。東京都出身。
俳優・モデル。映画『君に届け』(10)で俳優デビュー。独特な個性から、『暗殺教室』(15/羽住英一郎監督)、『来る』(18/中島哲也監督)や『青葉家のテーブル』(21/松本壮史監督)など多数の映画やドラマ、大手企業広告に出演。
主演を務めた『ミューズは溺れない』(21/淺雄望監督)では、第22回TAMA NEW WAVEコンペティションでベスト女優賞を受賞。
映画『ミューズは溺れない』
アイデンティティのゆらぎ、創作をめぐるもがき—
葛藤を抱えながらも社会の海へ漕ぎ出そうとするふたりの、高校最後の夏を瑞々しく鮮烈に描き切った青春エンタテインメントが誕生した!
STORY
美術部に所属する朔子は、船のスケッチに苦戦している最中に誤って海に転落。それを目撃した西原が「溺れる朔子」の絵を描いて絵画コンクールで受賞、朔子の絵は学校に飾られるハメに。さらに新聞記者に取材された西原は「次回作のモデルを朔子にする」と勝手に発表。
朔子は、悔しさから絵の道を諦め、代わりに壊れた鳩時計などを使って造形物の創作に挑戦するが、再婚した父と臨月の義母、そして親友の栄美と仲違いしてしまう。引っ越しと自宅の取り壊し工事が迫る中、美術室で向き合う朔子と西原。”できること“を見つけられないことに焦る朔子は、「なぜ自分をモデルに選んだのか?」と西原に疑問をぶつける…。
出演:上原実矩 若杉凩
森田想 広澤草 新海ひろ子 渚まな美 桐島コルグ 佐久間祥朗 奥田智美 菊池正和 河野孝則・川瀬陽太
監督・脚本・編集: 淺雄望
音楽:古屋沙樹
音楽プロデューサー:菊地智敦
油絵:大柳三千絵、在家希子
企画・制作・プロデュース:カブフィルム
配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
配給協力:ミカタ・エンタテインメント
2021年|82分|16:9|カラー
© カブフィルム
予告編
9/30(金)~10/6(木)テアトル新宿、10/14(金)・10/15(土)シネ・リーブル梅田 ほか全国順次公開
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。