「私たちのあみ子が多くの皆さんに愛されていくのは寂しいけど喜ばしいこと」『こちらあみ子』公開初日舞台挨拶
2022年7月8日(金)、新宿武蔵野館にて、映画『こちらあみ子』公開初日舞台挨拶が行われ、井浦新、尾野真千子が登壇。“あみ子”を演じた大沢一菜(おおさわかな)の代えがたい魅力と「自分たちのあみ子が皆さんに愛されていくのは寂しいけど、同時に嬉しい。」と公開初日を迎えた気持ちを語った。
なお、この日登壇が予定されていた大沢一菜と森井勇佑監督は、コロナ罹患により急遽欠席する形に。代わりに、MCより手紙の代読が行われた。
本作は、芥川賞受賞作家・今村夏子のデビュー作を映画化。主人公は広島に暮らす小学5年生のあみ子。少し風変わりな彼女のあまりに純粋な行動が、家族や同級生など周囲の人たちを否応なく変えていく過程を鮮やかに描き出す。
舞台挨拶レポート
■トークノーカット動画
■フォトレポート
あみ子を演じた大沢一菜についての印象を改めて聞かれると、父・哲郎役の井浦新は、「皆さんが今観てくださったあみ子そのものです。僕は彼女の野生感が大好きです。カメラが回っていてもいなくてもいつでも“あみ子”そのままで、彼女がいると現場がぐっと明るくなって、眠くてもエンジンがかかるところがありました。衣裳合わせで初めて会った時から只者ではない雰囲気を感じてました。」と振り返る。
母・さゆりを演じた尾野真千子も大きく頷きながら「作り物ではないあの表情や仕草、そして虫を捕まえるあの手といたずらする時の目は、普段からあの手と目でした。私たちが普段から見ているあみ子がそのまま映画の世界に入っている感じです。」と語った。
さらに井浦は「野生の中から飛び出してきたようなあみ子のすべてを、僕と尾野さんで受けていきながら、ワンシーン、ワンシーンの撮影に取り組んでいきました。ぼくたちの(俳優としての)キャリアを注ぎながら。」と、自分たちに任された役割を実感しながら撮影に臨んだことも明かした。
また、撮影現場では、井浦と尾野は、大沢一菜のことを“あみ子”と呼び、大沢からは“お父さん”“お母さん”と呼んでもらっていたことも明かした。
それについて井浦が「森井監督の現場がそういう空気だったからというのもありますが、それももしかしたらあみ子のおかげだったのかもしれない。」と言うと、尾野は「人と人の間の壁が無いというか。初対面の人でも別け隔てなく優しい空気と愛情を分ける子なんです。誰も区別しないし排除しない。」と振り返った。
そして、森井組ならではと思った点を聞かれると、井浦が「どの監督でもそうですが、初めての監督作品には初期衝動が込められています。森井監督にとっての初作品となる本作もそうですし、森井監督ももしかしたら“あみ子”だったのかもしれません。二人はいつも一緒にいて、一緒に走って、一緒に叫んで(笑)」と話すと、尾野は「監督はあみ子を愛して、あみ子の素晴らしいところをみんなに伝えたい、そのために力を貸してくださいと言っているようでした。」と、共演者として自分たちもその気持ちに自然と寄り添っていたことを明かした。
本作で初共演の井浦と尾野。お互いの印象は?という質問に、井浦は「尾野真千子さんとは、デビューした時期が近いし、映画の世界に放り込まれたという状況も似ていて、ずっと親近感を持っていましたし、いつか共演してみたいと思っていました。そんな尾野さんと向き合って芝居をする時は、こちらもかなり心していかないとはじき飛ばされるなとも思ってました。まるで全力のあみ子みたいな方だと思うので(笑)」と、事前の印象を明かすと、実際の現場ではなんて優しくて柔らかい女性なんだろうと感じたし、また違う作品でまったく違うことを一緒にやりたいとも語った。
それを受けた尾野は井浦の印象について、「会う前は、優しくて絶対に怖くない人だという印象を持っていましたが、実際のお会いしたらそのとおりでした。」と、井浦が想像通り優しい人だったということと同時に、「ずっと“現場を見てそこに居る人”なので、私は、新(あらた)さんを見て、今回の現場をこうしようと決めた。」と、井浦から影響を受けてお手本とし、あみ子たちをちゃんと知っていこうという気持ちになったことも明かした。
本作はあみ子の見ている世界を通して、自分の子ども時代を追体験するような感覚にもなる映画。
子ども時代はどんな子どもだったかを尋ねられ、井浦が「山猿のような子どもでした。木を見たら登りたくなるような。」と話すと、尾野も「私も山猿でした。カエルが友だちで、登り棒の代わりに竹、砂場の代わりに畑でした。でも人見知りな子でした。」と振り返った。
ここで今回体調不良で欠席となった大沢一菜と森井勇佑監督からの手紙がMCの奥浜レイラより読み上げられた。
大沢一菜(手紙)
皆さんこんばんは。
あみ子を演じた大沢一菜です。
今日はコロナにかかってしまって、舞台挨拶に行けなくて、悲しいです。
『こちらあみ子』いかがだったでしょうか。
撮影中で一番楽しかったことは、みんなと共演できたことです。
一緒に出演した子どもたちやスタッフたちと仲良くできて、とってもよかったです。
お父さん役の新さんは料理がとても上手で、
撮影が始まる前にハンバーグを作ってもらって食べさせてもらいました。
とってもおいしかったです。
お母さん役の真千子さんは、いろいろなところに遊びに連れてってくれました。
2人ともほんとうの家族みたいな感じでした。
監督は、撮影が終わってもよくメールをしあっていて、一緒に遊びに行ったりしています。
あみ子の映画を観て思ったことは、監督から撮影する前に「へたに演技をしなくていい。
カナのままでいいよ」と言ってくれたことで、自分もそのまんまで演じていたんですけど、
実際映画を観てみると、あれ、演技している感じがあるなと思いました。
皆さんに「こちらあみ子」を観てもらってとても嬉しいです。
これからも「こちらあみ子」を応援してください。
監督も、皆さんも、元気で体調を崩さないように頑張ってください。森井勇佑監督(手紙)
こんばんは。『こちらあみ子』の監督の森井です。
今日は映画をご覧くださりありがとうございました。
この映画を作っているあいだ、僕はずっとあみ子に共鳴し続けてきました。
観ていただいたお客さんの心の中にも、
自分の中にいるあみ子を見つけてもらえたらとても嬉しいです。
大事に大事に作った映画です。
これからは手の届かないところに行ってしまいますが、
どうか健やかで元気に過ごしてくれたらと願っています。
今日は観てくださり本当にありがとうございました。
最後に、井浦は「ちょうど1年前の今ごろ広島で撮影していました。森井監督も同じことを言ってますが、この映画を早く皆さんに観ていただきたいという気持ちと、僕のあみ子がみんなのあみ子になってしまう寂しい気持ちの両方があります。でも皆さんの感想を通して、あみ子のお父さんのような気持ちであみ子自身のことを知っていくことになるんだろうなとも思っています。この映画は、きっと家族や仲間たちと語り合いたくなる作品だと思います。」、そして尾野も「皆さんがあみ子を知って、たくさんのお母さんのような方々に愛されていくことで、私だけのはずだったあみ子がどんどん大きくなっていくのは寂しいです。でも同時にとても嬉しいことです。皆さんにあみ子を愛していただけたら喜びたいと思います。」と涙ぐみながら言葉を客席に向かって贈り、舞台挨拶は幕を閉じた。
■フォトギャラリー
[記事・動画:三平准太郎/写真:金田一元]
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主人公は、広島に暮らす小学5年生のあみ子。少し風変わりな彼女のあまりに純粋な行動が、家族や同級生など周囲の人たちを否応なく変えていく過程を鮮やかに描き出す『こちらあみ子』。
原作は「むらさきのスカートの女」で第 161 回芥川賞を受賞した今村夏子が、2010 年に発表した処女作「あたらしい娘」(のちに「こちらあみ子」に改題)。本作で太宰治賞、三島由紀夫賞を W 受賞して以降、新作を発表するたびに現代文学ファンの間で大きな話題を呼んでいる。あみ子を演じるのは、応募総数 330 名のオーディションの中から見いだされた新星・大沢一菜。演技未経験ながら圧倒的な存在感で“あみ子の見ている世界”を体現し、現場の自由な空気の中でキャラクターをつかんでいった。両親役には、日本を代表する俳優である井浦 新と尾野真千子。監督は、大森立嗣監督をはじめ、日本映画界を牽引する監督たちの現場で助監督を務めてきた森井勇佑。原作と出会って以来、映画化を熱望してきた監督が、原作にはないオリジナルシーンやポップでグラフィカルな映像描写で新たな風を吹き込み、念願の監督デビュー を果たす。そして、繊細な歌声とやわらかなクラシックギターの音色で聴く者を魅了し続け、国内だけでなく海外からも人気を集める音楽家、青葉市子が音楽を手がける。
芥川賞受賞作家・今村夏子のデビュー作を映画化感情と感性を刺激する映像と共に描く
無垢で、時に残酷な子どものまなざし
あみ子はちょっと風変わりな女の子。優しいお父さん、いっしょに登下校してくれるお兄ちゃん、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいるお 母さん、憧れの同級生のり君、たくさんの人に見守られながら元気いっぱいに過ごしていた。だが、彼女のあまりに純粋無垢な行動は、周囲の 人たちを否応なく変えていくことになる。誕生日にもらった電池切れのトランシーバーに話しかけるあみ子。「応答せよ、応答せよ。こちらあみ 子」―――。奇妙で滑稽で、でもどこか愛おしい人間たちのありようが生き生きと描かれていく。
ひとり残された家の廊下で。みんな帰ってしまった教室で。オバケと行進した帰り道で。いつも会話は一方通行で、得体の知れな いさびしさを抱えながらもまっすぐに生きるあみ子の姿は、常識や固定概念に縛られ、生きづらさを感じている現代の私たちにとって、かつて自分が見ていたはずの世界を呼び覚ます。観た人それぞれがあみ子に共鳴し、いつの間にかあみ子と同化している感覚を味わえる映画がここに誕生した。
大沢一菜 井浦新 尾野真千子
監督・脚本:森井勇佑
原作:今村夏子(ちくま文庫)
音楽:青葉市子
予告編
7月8日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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