尾野真千子 大粒涙で「こんな最高な作品はありません。そういう気持ちで作りました」映画『茜色に焼かれる』公開前夜最速上映会
5月20日、TOHOシネマズ川崎にて、映画『茜色に焼かれる』公開前夜最速上映会舞台挨拶が行われ、主演の尾野真千子、和田庵、片山友希、石井裕也監督が登壇した。
舞台挨拶終盤、最後のコメントを求められた尾野真千子は、コロナ禍に対する不安、感謝とさまざまな思い、そしてその中で精魂込めて演じた本作への思い、いろんな思いが交錯したのか、大粒の涙を流しながら、「こんな最高な作品はありません。ぜひ、劇場で観ていただきたい。そういう気持ちで作りました。」と客席に呼びかけた。
この世界には、誰のためにあるのかわからないルールと、悪い冗談みたいなことばかりがあふれている。まさに弱者ほど生きにくいこの現代に翻弄されながらも、正面から立ち向かう一組の母子がいた。
この生きにくい世の中で、もがきながらも懸命に生きる親子、不器用ながらも己の信念に従って生きる主人公・良子の姿が、観る者の胸に深く突き刺さる感動作。
舞台挨拶レポート
■トークノーカット動画
■「今、作るべき映画だと思った」
尾野真千子(田中良子 役)
こんなに公開が嬉しいと思えるのは何年ぶりだろうっていうぐらい、とても感動しています。ありがとうございます。
-昨年8月に撮影、そして明日から公開。監督としては早く撮って公開したいという思いが強かったのでしょうか?
石井裕也監督
今、作るべき映画だと思いましたし、こういう状況ですけど、今、公開するべき映画だと思って万難を排して取り組みました。
映画館で鑑賞していただく方々には特別な体験になっていただければ嬉しいなと思っています。
-監督の作品は、生きるとは何か、あるいは社会の矛盾みたいなものをストレートに描きながらも決して暗くなりすぎず、常に希望を持ってとても優しい勇気を持った気持ちで劇場を後にできます。この作品もまさにそういった監督の姿勢を象徴している作品だったと思います。
石井裕也監督
今生きるのが大変だ、辛い、苦しいっていうのは、誰でも言えることで、その中でも希望のようなものを見出すことが、表現者としての仕事です。
この作品が少しでも前向きな映画になれているとしたら、これは、尾野真千子さんの存在だったと思います。この人にしかできない役だったし、映画だったと思います。
-尾野さん、一世一代の素晴らしい演技だったと思います。本作の台本を最初に読まれた時はどのように感じられましたか?
尾野真千子
(その前に企画書をいただいていたので)台本を渡された時は、もうやるって決めていましたが、これを全てちゃんと演じきれるかと、すごく不安でした。
伝えなきゃいけないことがたくさんあったので、それら全てを自分の身体ひとつでできるのかって思いましたけど、いやいや私ひとりじゃない。みんなとやればきっといいものができるし、伝わるんだと思ってもう覚悟してました。
台本の中に含まれている全ての物語が今、自分にとってやらなきゃいけないことがたくさん詰まっていて、本当に魅力的な台本でした。
-片山さんが演じられたケイも素晴らしい存在感でした。どのような気持ちで演じられましたか?
片山友希(ケイ 役)
私も撮影前から、この役は自分にできるんだろうかっていう不安がすごく大きくて、撮影始まってからも、石井監督が両手を広げて待っていてくれてるような気がしてたんですけど、でもどうしても私は怖くてそこに飛び込めなくて、そういう不安や恐怖がずっと自分の中にありました。
劇中で、「良子さんもっと怒った方がいい」って言って私は怒るんですけど、その言葉にすごく苦しめられて、もっとそういう怖いことや不安に、私は勝つべきだなと思いながらずっと撮影に臨んでました。
-和田さんが演じられた純平はもうひとりの主役だと感じました。こうしてお客様の前で舞台挨拶をする、今のお気持ちは?
和田庵(田中純平 役)
今回初めてお客様の前で挨拶をする事にすごい緊張している部分もあるんですけど、それ以上に僕をこの場に立たせてくださった監督への感謝の気持ちでいっぱいです。
■尾野真千子という存在
-素晴らしい父娘の関係を演じられましたが、和田さんから見て、尾野さんはどんな方でしたか?
和田庵
正直に言うと、お会いする前はほんとに勝手なイメージで怖い人だと思っていました。でも、初めてお会いした時は、全然そんなことはなくて、明るくてとても優しい方だと感じました。
現場でも本当の親子のように接してくださって、僕自身もすごく肩の力を抜いて自然な演技が出来たんじゃないかなって思います。
それもあって、クランクアップした後は、すごく寂しい気持ちになりました。
-小野さんは和田さんと共演する時に何か気を付けられたことはあったんですか?
尾野真千子
何もしてないです。
っていうのも、私が何かする必要が全くなくて、監督が、和田君とのコミュニケーションをすごく取って、現場に挑むわけです。
そしたら、私は何も言わなくても、どんどん成長してくるんです。
だから、きっと私はここに母として居ればいいんだなみたいなそんな感覚で、何もしていないです。
-片山さんは、尾野さんはどういった存在でしたか?
片山友希
私は自分自身がいっぱいいっぱいになってしまうタイプなんですけど、そういう時に尾野さんが、「ケイちゃん、コーヒー飲む?」とか、「お昼一緒に食べる?」って言ってくれて、その尾野さんの明るさにとても救われました。
撮影中も、「私は今、すごいかっこいい先輩とお芝居してるな」って何度も思って、めちゃくちゃかっこいい人だなって思います。
■「尾野さんがOKしなかったら止めていた」
-監督、この作品は、尾野さんを念頭に置いて書かれたというのは本当でしょうか?
石井裕也監督
本当です。今も僕は尾野さんていう人がどういう人なのかは、まだぜんぜんわからないんです。
すごく変わった人で、どこに本音、本質があるのか全然わからないんです。
今回は、自分の死んだ母親を想定して書いた作品ですが、自分の母親に対する歪んで理想化された願望のような母親像みたいなものがあって。
こういう母親像を演じられる人は、今は尾野さんしかいないって直感としてありました。
最初から、尾野さんにオファーしようと思っていましたし、もし尾野さんがOKしてくれなかったら、この映画は止めようと思ってました。
そして、尾野さんは、比喩ではなく、ほんとうに死ぬ気でやってくれたっていうのは、僕も重々わかりました。
■「これが本当の自分」
-尾野さん、良子という逆境に負けないように見えるとても難しい役にどう取り組まれましたか?良子と一体化されたのか、あるいは客観的に見ながらなのか。
尾野真千子
どちらもありました。
一歩引いて、ちょっと笑ってしまう時があったり、一方で、入り込みすぎて抜け出せなくなったり。
最近は、お芝居をしていて、入り込みすぎて抜け出せないっていう経験はあまりなかったんですが、今回は(良子が劇中経験するさまざまなことに)いっぱい傷つけられて辛くて、どん底に落ちてしまって、撮影中にちょっ時間をくださいって言ったのは、ほんとに何十年ぶりかのことでした。
でも、それぐらい自分が芝居に対して前向きに、真剣に全力で居れていることが嬉しかったです。
こんな自分いたな、これが本当の自分やなって。
いろんなことを思い出させてくれた、再度自分を見つめ直すことができた現場で、とても嬉しかったです。なんで涙が出るんやろ・・・。
ほんとうに大事な現場でした。
-「良子は演技が上手い」っていう冒頭のテロップから始まります。良子は辛い時にも明るくしてるのは辛い境遇でも彼女は演技をしているんだっていうことを匂わせるトーンがあります。尾野さんは、人生の演技をしている女性の演技をするんだっていうようなことは考えられましたか?
尾野真千子
どうなんでしょうね。私、お母さんってこうなんかなと思ったんです。
お母さん達って、いろんなことにお芝居しながら、嘘をつきながら、子どもを育てるため、家を守るため、生活をするためにそうしているのかなと。
-この映画が、このような時期に撮影したこと、そして役からなかなか抜けられないほど入り込んでしまったということ。この作品は、尾野さんの人生観を変えていくということはあるんでしょうか?
尾野真千子
完全に変わったと思います。こうやって片山さんや和田くんと芝居していくたびに、皆さんが全力で来てくれてたので、芝居ってありがたいな、監督ってこんなありがたいもんやったんやとか、いろんなものがすごくキラキラしたの。
だから、「そうそう私がいる場所ってこういう事」「私がやってる意味ってこう」、なんかいろんなことが納得できて、自分がここに居ることの意味や、嘘じゃない、やらされてるわけでもない、自分からちゃんと立ち向かっていってる。
皆さんとやることで、自分が変われたこと、自分だけじゃないやって思える、それがすごく幸せなだということに、今の年齢でこうやって思えたことは、ある意味コロナにも感謝しなきゃいけないんだなとも思います。もちろん、コロナは嫌いやけどね。
■「命をかけて撮った作品。こんな最高な作品はありません」
石井裕也監督
ニュースを見れば、ほんとかよっていうようなことが横行してる世の中ですけど、映画っていうのはそういう意味では嘘なんですけど、人生とか命をかけてつく嘘は、ものすごく尊くて、だからこそ映画が価値があるって事を、昨年から今年にかけて痛感しました。
そういう状況の中、リスクがある中、キャスト、スタッフの方々と全力で作り上げたの映画ですので、是非ご覧いただきたいと思います。
尾野真千子
この映画は、私にとって最高の映画です。もうコロナ関係なく言います。劇場で観てほしいんです。
怒られるかもしれないですけど、皆さんと手と手を取り合って観に来てほしいんです。
それぐらい、みんなで命をかけて撮った作品です(涙)
こんな状況で、やりにくい世の中で、私たちの仕事はもうできないかもしれないと恐怖が襲ってきて、でも、今こうやってみんなと、こういう作品を伝えなければいけないと、それは私たちの使命だと思って、みんなでスタッフも出演者も監督も命がけでやりました。
こんな最高な作品はありません。ぜひ、ぜひぜひ、劇場で観ていただきたい。そういう気持ちで作りました。
すんません、泣いて。
でも、皆さんが笑ってこの劇場に来てくださるよう、ずっと祈っています。
コロナに負けるな。頑張ろう。頑張ろうね。今日はありがとうございました。
■フォトギャラリー
[写真:金田一元/動画・記事:桜小路順]
映画『茜色に焼かれる』
悪い冗談みたいなことばかり起きるこの世界で母ちゃんも、僕も、生きて、生きる。
INTRODUCTION
この世界には、誰のためにあるのかわからないルールと、悪い冗談みたいなことばかりがあふれている。まさに弱者ほど生きにくいこの現代に翻弄されながらも、正面から立ち向かう一組の母子がいた。この生きにくい世の中で、もがきながらも懸命に生きる親子、不器用ながらも己の信念に従って生きる主人公・良子の姿が、観る者の胸に深く突き刺さる感動作。
果たして、彼女が最後まで絶対に手放さなかったものとは?これは、圧倒的な愛と希望の物語。あえて今の世相に正面から対峙することで、人間の内面に鋭く向き合ったのは、若手実力派監督の石井裕也。
傷つきながらも、自身の信念の中で真っ直ぐに生きる母親を、尾野真千子が驚くべき存在感で体現。茜色の希望をたなびかせて、厳しくも澄みきった人間賛歌がここに誕生。激しくも切ない魂のドラマが、真っ赤な希望をともす。
あらすじ
1組の母と息子がいる。7年前、理不尽な交通事故で夫を亡くした母子。母の名前は田中良子。彼女は昔演劇に傾倒しており、お芝居が上手だ。中学生の息子・純平をひとりで育て、夫への賠償金は受け取らず、施設に入院している義父の面倒もみている。経営していたカフェはコロナ禍で破綻。花屋のバイトと夜の仕事の掛け持ちでも家計は苦しく、そのせいで息子はいじめにあっている。数年振りに会った同級生にはふられた。社会的弱者―それがなんだというのだ。そう、この全てが良子の人生を熱くしていくのだからー。はたして、彼女たちが最後の最後まで絶対に手放さなかったものとは?
出演:尾野真千子
和田庵 片山友希 / オダギリジョー 永瀬正敏
大塚ヒロタ 芹澤興人 前田亜季 笠原秀幸 / 鶴見辰吾 嶋田久作
監督・脚本・編集:石井裕也
製作:五老剛 竹内力
ゼネラルプロデューサー:河村光庸
エグゼクティブプロデューサー:飯田雅裕
プロデューサー:永井拓郎 神保友香
共同プロデューサー:中島裕作 徳原重之 長井龍
主題歌「ハートビート」/ GOING UNDER GROUND(ビクターエンタテインメント)
『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ:朝日新聞社 RIKIプロジェクト
製作幹事:朝日新聞社
制作プロダクション:RIKIプロジェクト
配給:フィルムランド 朝日新聞 スターサンズ
(C)2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ
2021年/日本/144分/カラー/シネマスコープ/5.1ch R-15+
公式サイト:akaneiro_movie.com
予告映像
5月21日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。