リリー・フランキー「スピード感持って作品公開できた。これをひとつのスタンダードに」映画『その日、カレーライスができるまで』公開記念舞台挨拶

2021年9月4日、池袋シネマ・ロサにて、映画『その日、カレーライスができるまで』公開記念舞台挨拶が行われ、主演・リリー・フランキー、そして本作企画・プロデュースの齊藤工が登壇。制作のきっかけと作品に込めた思いについて語った。

なお、本作は、伊藤沙莉が出演する、TOKYO TELEWORK FILM#3『HOME FIGHT』との併映となっている。

舞台挨拶レポート

■公開を迎えて

リリー・フランキー
２本立てで合わせて70分弱ぐらいなので、あれ？短くない？って思った方もいらっしゃるかもしれませんが、どうせだったら短い方が皆さんにお時間を取らせないっていうのもありますから（笑）
本作は、齊藤工プロデューサーが企画してから、今年５月に２日半かけて撮影して公開までおよそ４ヶ月。
最初は劇場で公開する予定はなかったんですよね？

齊藤工（企画・プロデュース）
最初はなかったです。

リリー・フランキー
だからほんとに自主制作映画という感覚でした。コロナ禍で皆さんに届けられる作品を作りたいという。
なので、この作品を劇場で観ていただけるのは不思議な感覚ですけど、このスピード感は、特にこういう状況ですから、これからスタンダードになっていくのかもしれないなって。今までのようにしばらく寝かせてからっていうことよりも。

■限定販売Tシャツ＆エプロン

リリー・フランキー
今着ているTシャツは、自分のイラストが描かれています。（MCの）伊藤さとりさんはエプロンタイプのを着てますが。

リリー・フランキー
昨日の初日舞台挨拶は、工くんがこのTシャツを着ていて、俺は普通にスーツを着ていたんですよ。で、工くんがこのTシャツを着てくれるんだったら、今日は俺も着てこようって思ったら、今日の工くんは俺の顔の実写版のを着てる（笑）なんで一緒のにしないんだ？って思うんです（笑）

齊藤工
かわし芸です（笑）

伊藤さとり（MC）
このTシャツは売り物なんですか？

齊藤工
限定販売しています。

リリー・フランキー
これを売るってねぇ。買う人はいませんよ。
しかもね、まだエプロンはいいんですよ。これは僕が宣伝の人に提案して作ってもらったんですけど。
工くんはね、エプロンを勝手にデコってるんですよ（笑）エプロンをジャンパースカートみたいにして。

齊藤工
背面を守りたくてね。

■作品制作のきっかけ

伊藤さとり（MC）
齊藤プロデューサーは、リリー・フランキーさんの一人芝居でこの作品を作ろうと思われたきっかけは？

齊藤工
そこまで意識的だったとは言えないんですけど、
この１年半くらい、ミニシアターに関する活動をさせていただいていると、（コロナ禍で撮影が滞って）今年に入ってから特に、上映する作品がだんだん枯渇してきている実情を目にしてきました。
そういう中で、劇場さんに対してなにかできることはと考えた時に、どうにか作品作って上映していただくことなんじゃないかなってことが念頭にありました。
本作は、脚本の金沢知樹の戯曲が元になっています。一人の中年男性が一人でただただカレーを作って３日間煮込んで旨味がでるのを待つというだけの戯曲ですが、同じ場所で、一見寂しそうな男性かもしれないんですけど、その人がどういう心づもりで、何を思って、何をするのかってことが、彼にとって希望的な満たされた時間になっていく。そういったものが自分の自粛生活と個人的にリンクしたんです。
で、この戯曲を今こそ形にしたいと思い、清水監督と「これをできたらリリーさんにやってもらったら最高だよね」って、ほんとにいち映画ファンとして、こういうのを観たいんですけどって気軽に掲げたというのが正直なところです。ただ、直接劇場に届くっていう見込みがあって始めたわけではありませんでした。

■２日半の撮影について

伊藤さとり（MC）
リリーさん、一人芝居の２日半の撮影はどうでしたか？

リリー・フランキー
映画をご覧になった方はそう感じられていると思いますが、僕がひとりしか出ていないっていう感じはしなくないですか？
（電話などで）いつも誰かと話してるし、一人暮らししていて何かを思ってカレーを作っているというのは、普段の僕と一緒ですけど、このおじさんはぜんぜん寂しい人じゃないんですよね。
心配してくれる人もいるし、その人のことを思ってカレーを作る相手もいる。だから、ダメなおじさんだけど、寂しい人じゃないから、映画を観ても一人しか出てないとは感じないんじゃないかな。
撮影については、あのアパートから一歩も出ないので、スタッフも俺もどんどん無口になっていきましたよね（笑）

伊藤さとり（MC）
リリーさんの一人芝居が見事なこの作品。出来上がりをご覧になっていかがでしたか？

齊藤工
私は、清水監督と、撮影の川上智之さんと、本作撮影直前まで、映画『CUBE 一度入ったら、最後』(10/22公開)という、まさに箱から出られない映画を共に作ってまして、リリーさんを『CUBE 一度入ったら、最後』にように、あのアパートに閉じ込めるという。リリーさんっていう象徴を捕獲したかったんですよね（笑）

リリー・フランキー
昨日はずっと俺の方が（CUBEより）“箱”が狭いって自慢してたんだよね（笑）
CUBEの方がまだ居住空間は良さそうだし、人もいっぱいいるしね。
でも、この作品ではほんとに良い経験をさせてもらいました。以前、「ペンション・恋は桃色」（フジテレビ系）っていう深夜ドラマをやったんですが、ほぼそ時のメンバーやスタッフで、今回の２本を作りました。そのドラマでは、みんなでペンションに泊まって、明日の撮影についてみんなで議論したり、合宿みたいな経験があったから、今回もできたんじゃないですかね。その場で話し合いながらモノを作っていくという。

■リリー「工くんはカレーだけじゃなく、カレーをかけるご飯にもうるさい」

伊藤さとり（MC）
３日間煮込まれたカレーは実際に食べられたんですよね？

リリー・フランキー
美味しいんですよ。さっきここに来る前に、この映画の特番で、本作のフードコーディネーターをされている松山綾子さんとの会話で「海外では作りたてが美味しいとされているのにん、なんで日本では３日目が美味しいって言われているんですか？」って聞いたら、「適度に雑菌が繁殖するから」って（笑）
聞きたくなかったなって（笑）

伊藤さとり（MC）
お二人は、実際にもカレーは作られるんですか？

リリー・フランキー
僕らは作りますよ。

齊藤工
僕は薬膳カレーが定番です。

リリー・フランキー
とにかくこの人は、ご飯を作るにも“大腸”のことしか考えてないからね（笑）
大腸に良いものじゃないと作らない。

齊藤工
そうなんですよ。
ゴボウとかレンコンとか、根菜類をとにかくたくさんいれます。

リリー・フランキー
根菜は身体にとってもいいんだけど、俺はずっと大腸憩室炎って言ってるけど、やっぱり繊維質が憩室に引っかかって炎症を起こしやすいんだって。

齊藤工
なるほど。逆に（笑）

伊藤さとり（MC）
リリーさんはどんなカレーをお作りになるんですか？

リリー・フランキー
僕は箱の裏に書いてあるレシピどおりに作るのは癪だっていう性質なので、余計なことをしすぎてすごいマズイカレーを作ってしまいがちなんです。
なので、最近はネットにあがっているピーターさんのレシピとか、タモさんのレシピとか、この人が作るカレーだったら美味しそうっていうレシピを守って作るようにしているんです。
さとりさんはどうなんですか？

伊藤さとり（MC）
私はリリーさんの反対です。めんどくさいから箱の裏のレシピどおりに作ります（笑）

リリー・フランキー
でもそういう女の子がいいよね。

齊藤工
っていう結論に今日はします（笑）

リリー・フランキー
各家庭の隠し味ってのもあるかと思いますが、工くんの場合はなんですか？

齊藤工
個人的には、醤油とかターメリック。追いターメリックとか。あとはウコン。ウコンも根菜類じゃないですか。

リリー・フランキー
あとこの人はね、カレーだけじゃなく、カレーをかけるご飯にもうるさいんですよ。白米じゃなく、なるべく何穀かほしがってるよね？

齊藤工
そうですね。できれば18穀米くらいにはしてます。

リリー・フランキー
殿様の発想ですよ。そのうち百万石（穀）とかになる（笑）

伊藤さとり（MC）
映画の中で作っているカレーはそんなに凝っているわけじゃないですよね。

リリー・フランキー
そうなんだけど、おじさんが作っているカレーにしてはお肉が良すぎるんでは？という話もあって、でもそれは、奥さんの誕生日のために作っているカレーのお肉だから、特別に良いものを買っているんですよ。豚肉ですけどね。

■僕も涙が出そうに・・・

伊藤さとり（MC）
映画をご覧になった方はわかりますけど、こんなにリリー・フランキーさんに泣かされるとは思いませんでした。

リリー・フランキー
泣きます？泣く方はそうとう情緒不安定なんじゃ（笑）

伊藤さとり（MC）
齊藤さんもそう思われますよね？

齊藤工
はい。僕も涙が出そうになりました。

リリー・フランキー
いや、泣いてないじゃないですか！

齊藤工
撮影の裏側も全部見てきましたからね（笑）
でも、リリーさんじゃなきゃ演じられない役柄だと思っています。

■最後にメッセージ

齊藤工
こういうご時世の中、今日という日を迎えています。これから、映画、そして映画館がどのような未来になっていくのか、とても重要な時期に今はあると思います。
その中で、従来の映画作品からはちょっと逸した形で、柔軟に皆さんに作品を届けていきたいと思っていますし、作品の内容も含めて今のコロナ禍を体験している中、生まれるべくして生まれた究極のステイホームの映画だと思っています。
今すぐにじゃなくてもいいので、今日観てくださった方でいいと思ってくださったら、この映画を必要とされる方がどこかにいると思うので、繋げていただけたら嬉しいです。

リリー・フランキー
齊藤プロデューサーが言うように、コロナ禍で、出演者が部屋から一歩も出ないという今の時代の設定です。でも兄弟喧嘩の話にしても、どういう状況にあっても、人は普遍的なことに悩みます。
そして、こういうスピード感を持って劇場で作品をお届けすることができるっていうのも、こうあるべきひとつの方法を発見できた気持ちになっています。
このような小さな映画館がもっと大変になっていくかもしれない状況の中で、かといって俺一人しか出ない映画でいいのかって話もありますが、こういうちっちゃな映画がどんどんどんどん増えていけばいいなって思いますし、３本立てでも４本立てでも、そういうきっかけになってくれればいいなとも思います。

■フォトギャラリー

[写真：金田一元／記事：桜小路順]

映画『その日、カレーライスができるまで』

INTRODUCTION
本作は主演のリリー・フランキーが初めてほぼワンシチュエーションでの一人芝居に挑戦。また齊藤工監督『blank13』（18）に続きリリーの妻役で神野三鈴が声の出演をしているほか、愛聴するラジオのパーソナリティは吉田照美、岡田ロビン翔子が務める。
監督は、密室スリラーのリメイク映画『CUBE』（10月22日全国公開）で注目の清水康彦。
原案・脚本はTBS系列ドラマ『半沢直樹』の脚本で話題の金沢知樹。本作は19年に野添義弘還暦記念公演のために金沢が演出家・いちかわニャーとともに創作した一人芝居が原案となっている。
企画・プロデュースはマルチに活躍する齊藤工。クリエイター活動10周年の節目に「映画は不要不急なのか」「混沌とした現代にどんな作品が生まれるべきなのか」という映画人としての思いを、信頼するチームへ託した。
後悔や希望をスパイスに、愛しい日常を想いながら大切な人のために作るカレーと、ラジオがきっかけとなり動き出す、やさしい奇跡をご賞味ください。

STORY
たまねぎ、にんじん、じゃがいも、豚肩ロース…… 見慣れた食材が並ぶ台所に立つ、くたびれた男。毎年恒例、三日後の妻の誕生日に食べる特製カレーを仕込んでいるのだ。外はどしゃぶりの雨。
愛聴するラジオ番組ではリスナーの「マル秘テクニック」募集に、男はガラケーを手に取り、コンロでぐつぐつと音をたてる “三日目のカレー”についてメールで綴り始める。
「今年も妻の誕生日にカレーを作っています。三日後が、誕生日です」「ただ、色々あって今年はひとりです」その横では、幼くして亡くなった息子の笑顔の写真が見守っている……。

主演：リリー・フランキー
出演（声）：中村羽叶 吉田照美 岡田ロビン翔子 黄 栄珠 福田信昭 ／ 神野三鈴

監督・脚本・編集：清水康彦 原案・脚本：金沢知樹 企画・プロデュース：齊藤工
主題歌：安部勇磨「テレビジョン」（Thaian Records）
製作：坂本 香 有馬一昭 佐久間大介／エグゼクティブプロデューサー：麻生英輔／チーフプロデューサー：小林有衣子／プロデューサー：野村梓二
撮影：川上智之／照明：上野甲子朗／録音：桐山裕行／美術：松本千広／音楽：香田悠真 ／助監督：草場尚也／フードコーディネーター：松山綾子／
スタイリスト：服部昌孝／ヘアメイク：岩城 舞 ／ラインプロデューサー：安藤光造／アシスタントプロデューサー：金川紗希子／デザイン：池田樂水 齊藤賢太郎
特別協力：ひかりTV・dTVチャンネル『地球の寿命-開放区-』、bayfm78『TAKUMIZM』
2021年／日本／5.1ch／カラー
(C)2021『その日、カレーライスができるまで』製作委員会
公式サイト：https://sonocurry.com/
公式Twitter：https://twitter.com/sonocurry
公式Instagram：https://www.instagram.com/sonocurry/
#そのカレ

9月3日(金）より、絶賛公開中

併映作品 TTF#3『HOME FIGHT』作品概要

各々の自室にいる兄（大水）と妹（伊藤）がオンラインで会話している。在宅自粛中のモヤモヤをぶつける妹と、物知り顔な口調で上から話す兄。
芯のない兄の意見に妹は違和感を覚えつつも、兄を傷つけまいと気遣いながら会話をつづけるが－－。
兄妹がパソコンのビデオ通話で交わすリモート会話劇の傑作。アドリブを交え繰り広げられる兄妹の攻防戦は伊藤沙莉、大水洋介の演技力によって電波状況のハプニングすらも笑いに昇華させ、見事なグルーヴを生み出す。

監督・脚本・編集：清水康彦
企画・プロデュース：齊藤工
出演：伊藤沙莉、大水洋介（ラバーガール）、酒井健太（アルコ＆ピース）

TTF公式サイト：https://teleworkfilm.tokyo/