【松本壮史監督インタビュー】「音楽が素晴らしいので劇場の大音量で観てください」映画『青葉家のテーブル』
西田尚美主演の映画『青葉家のテーブル』(6/18公開)の松本壮史監督に、ドラマ版に続く劇場版のこだわりや見どころについて話を伺った。
劇場版『青葉家のテーブル』は、2018年4月より「北欧、暮らしの道具店」(運営元・株式会社クラシコム)から配信が始まり600万回以上再生された短編ドラマ「青葉家のテーブル」の長編映画化。
ドラマ版から引き続き、ドラマ「半沢直樹」「にじいろカルテ」への出演も話題となり、後期連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」も控えている西田尚美が主人公のシングルマザー・青葉春子を演じる。
物語の舞台は、春子と、その息子リク(寄川歌太)、春子の飲み友達めいこ(久保陽香)と、その彼氏で小説家のソラオ(忍成修吾)という一風変わった4人で共同生活をしている青葉家。
夏のある日、春子の旧友の娘・優子(栗林藍希)が美術予備校の夏期講習に通うため、青葉家へ居候しにやって来た。そんな優子の母・知世(市川実和子)は、ちょっとした”有名人”。知世とは20年来の友人であるはずの春子だが、どうしようもなく気まずい過去があり…。
松本壮史監督インタビュー
■ドラマ版を振り返って
-ドラマ版の『青葉家のテーブル』は、2017年の「北欧、暮らしの道具店」の開店10周年記念に「お客様への感謝を伝えるために何かを作りたい」というところから始まってできた作品だと伺っています。松本監督にオファーがあったのは、2017年のことになるのでしょうか?
また、ドラマ版は、4話製作されていますが、オファーされた当時は、当初から4話まで製作するお話だったのでしょうか?
松本壮史監督
オファーがあったのは2017年です。当初は、「とりあえず、1話作りましょう」という話で、「もしかしたら続編を作るかも」という感じでした。なので、1話で完結するけれども、2話、3話と続けられそうな設定という想定で脚本を書きました。
-1話目の撮影の後、2話目以降の製作は、3話、4話とまとまって決まったのでしょうか?
松本壮史監督
1話を撮っている時から、「続編を撮りましょう」という話を現場で言われていました。でも、それって、現場のノリかなと思っていたんです。1話公開後に反響があったこともあり「続きを撮りましょう」ということになって、2話、3話は同時に撮りました。そして、その時点で4話の撮影も決まっていたと思います。
■ドラマ版から劇場版へ ~監督の苦悩~
-今回の劇場版の話がでてきたのは、いつ頃のことでしょうか?
松本壮史監督
4話を撮り終えてからですね。とりあえず4話まででシーズン1は終わりということにして、「この後、シーズン2を始めるか、映画にもしたいね。」という話をしていました。
-映画化の具体的な動きは、どこから始まったのでしょうか?
松本壮史監督
クラシコム(本作の企画・製作)の青木社長が映画にしようと言ってくれたり、(北欧、暮らしの道具店)佐藤店長を含め、そこでやりましょうとお声掛けいただきました。
-ドラマ版で完結している中、映画化の話が来たことで、監督は非常に頭を悩ませたとのことですが、その悩みについてお聞かせください。
松本壮史監督
ドラマ版でキャラクターはある程度描いてしまっていたので、映画版で新たに何を描けばいいのだろうかと悩みました。ドラマファンも、映画で初めて青葉家に出会う人も楽しませる新しい物語にしたかったので脚本づくりには時間がかかりました。
■劇場版のストーリーのきっかけとなったキーワード「疎遠」
-映画化にあたって、ドラマ版の再編集やスピンオフという選択や、同じキャストでいくのかなどを考えると思うのですが、青葉家に加えて、新たに国枝家が登場した経緯にはどのようなことがあったのでしょうか?
松本壮史監督
2019年の春に映画化の話がでた当時、プロデューサー、青木社長、佐藤店長、スタッフの方々とブレスト(ブレインストーミング=参加者が自由にディスカッション)しましょうということになりました。
その時、「疎遠」というワードを提案すると、「疎遠(音信が途絶えた、あの人はどうしているのかな...)」話でみんなが盛り上がり、それぞれが「疎遠」のエピソードを持っていたので、それが映画のテーマとして共感度も高いし良いのではないか思いました。
春子さんの疎遠の相手がいて、その相手が最初に別れた旦那というアイデアもありましたが、その「疎遠の相手」と、「新しいキャラクターとして青葉家に入って来る誰か」を映画版のストーリーの一番の推進力として考えて、「疎遠の相手の娘」というのが生まれました。この三角形を軸に何か作れそうだなと思ったのが、国枝家が生まれた始まりの部分です。
-エピソードがそれだけ出るってことは、その数だけ共感する人がいるということですよね。パンフレットに、「疎遠になってしまった大人達と、そんな関係性に出会う前の若い人たちを同時に描こうとした」という監督の話があり、作品上も親子という形での大人と若い人の関係が描かれていると思います。この部分もつながりがあるのでしょうか。
松本壮史監督
はい。そこもありますね。
■“みんながクリエイター”
-ドラマ版だと青葉リク(寄川歌太)が環境音とか自然の音を録音していて、劇場版では優子は映像を撮影しているといった対比があるのかなと思うところがありました。そういった録音と録画の対比のような狙いはありましたか。
松本壮史監督
録音・録画にかかわらず、何か色んなものを作っている・創作をしている人たちならではの関係性を考えました。作ってるものは違うけど、創作してるもの同士での、共鳴したり、仲良くなったりするところがあると思うので、リクの日常に、そういう子が現れたら、何か良い関係性が結ばれるんじゃないかなと考えて、そんなキャラクターができあがりました。
-登場する人物の皆さんが、小説家だったり、ファッションデザイナーだったり、音楽だったり、クリエイターという人達が揃っているので統一感があってとてもいいなと思いました。
松本壮史監督
補足すると、みんな一流ではなく、二流か三流ということがポイントになっていると思っています。
-登場人物たちが、悩みながら生きている感じがありますね。
■劇場版キャスティングについて
-劇場版には、青葉家以外に新たに国枝家が登場することによって、市川実和子さんや栗林藍希さんが参加されたわけですが、お二人のキャスティングはどのように行われたのでしょうか?
松本壮史監督
市川実和子さんが演じた国枝知世は映画で最も重要なキャラクターと考えました。西田さんとの芝居の時間がとても多いだろうと思っていて、その時に西田さんに負けないと同時に、方向性が違うけどどっしりとした華がある方がいいなと考えました。
-西田さんの演じる春子と市川さんが演じる知世は、20年を経ての再会ということになりますものね。
松本壮史監督
「昔、この二人は仲良かったかも」ってなんとなく思わせるようなところもありつつ、春子に比べて、知世は服装も派手で、そういうスタイルが似合う方。そういった点からも、市川さんの名前がかなり早い段階からあがって、オファーをしました。やっぱりというか市川さんは衣装合わせでどの服もとんでもなくお似合いでした。龍柄の帯の着物姿が特に美しかったので是非劇場で確認してほしいです。
-栗林さんを選んだ経緯と理由をお聞かせください。
松本壮史監督
栗林さんはオーディションです。優子も映画としてとても重要な人物だったので、何度もオーディションをして、粘りに粘って決まりました。演技面だけで言うと上手い役者さんは他にもいらしたのですが、スタッフ一同、栗林さんの雰囲気は最初からピンとくるものがありました。ご本人と面談で話した時に、子供の頃の話をしてもらってその話し方や表情のひとつひとつが決め手になりました。
-ドラマ化の話の時には監督と社長・店長の二人の会話や初対面での雰囲気がとても良かったという話があったのでそれに通じるものがあるなと思いました。
■登場人物の名前について
-登場人物の名前に関して質問があります。ソラオやめいこは、苗字が出てこないと思いますが、設定はあるのでしょうか?
松本壮史監督
設定上はあるのですが、苗字を出したくない部分がありました。青葉家の春子、リクには苗字がありますが、ソラオやめいこには苗字を描かないことで、ちょっとしたファンタジー性を持たせた部分があります。
■候補となった別のシナリオ「プランB」とは
-狩猟をしながら町おこしフェスをするようなストーリーのプランBがあったそうですが、お話しできるレベルでお聞かせください。
松本壮史監督
疎遠というテーマが出る前に、脚本チームで打合せした場所がジビエ料理の店でした。ジビエといえば、狩猟かなと。
僕は狩猟漫画が結構好きでよく読むんですけど、春子さんがまったく新しいものを始めるって言うのも面白いかもと思ったんです。当時、青木社長がタコスにはまっていたので、狩猟をしてジビエを使ったタコス料理を夏フェスで売るみたいな、まちのフェスの中でのいざこざみたいな話と、そこにリク達のような子供たちのバンドが関わってくるみたいなものを田舎で撮影したいなと最初に思っていました。長野の田舎で全編ロケしたくて、そういう企画を考えていたのでロケーション先行の話ですね。
■映画の音楽について
-劇中、CHOCOLATE SLEEPOVERというバンドが登場しますが、モデルの音楽グループは存在しますか?
松本壮史監督
モデルは特にないですけれども、90年代終わりにデビューした、スーパーカー(実在する伝説のエレクトロバンド)というバンドのようなイメージはありました。90年代にアルバム数枚出して解散しちゃったような刹那っぽい空気感という、そんなうっすらしたイメージでの発注をトクマルシューゴさんにしたら、「まさにこの曲だ!」というイメージ通りのものが上がってきて一発OKでした。
■作品の見どころと、お客様へのメッセージ
-最後に作品の見どころとお客様へのメッセージをお願いします。
松本壮史監督
メインのストーリーは3つの世代になっていて、中学生と高校生と大人と。
僕は、中学生ってまだ子供だと思うんですよ。子供と大人と、その狭間の子達の3つの世代の話です。
なので、いろんな世代の人が観ても、共感できて面白いんじゃないかなと思います。
なんとなく画のルックとかでこの作品自体を「しゃらくさい映画」みたいな印象をもって、敬遠してしまう人もいると思うんですけど、悩みだったり、生きづらさや、やりづらさを感じていたり自分の事をダメだと思ってる人達にこそ観て欲しいです。あと音楽がとても素晴らしいので、こんなご時世ですけど、劇場でなるべく大音量で観てくれると嬉しいなと思っています。
[聞き手・写真:金田一元]
映画『青葉家のテーブル』
INTRODUCTION
「フィットする暮らし、つくろう。」をテーマに日々の暮らしに寄り添った様々なコンテンツを発信する「北欧、暮らしの道具店」。
2018年4月より「北欧、暮らしの道具店」から配信が始まり600万回以上再生された短編ドラマ「青葉家のテーブル」の長編映画化。
映画『青葉家のテーブル』は、ドラマ版から引き続き、ドラマ「半沢直樹」「にじいろカルテ」への出演も話題となり、後期連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」も控えている西田尚美が主人公の青葉春子を演じる。
STORY
シングルマザーの春子(西田尚美)と、その息子リク(寄川歌太)、春子の飲み友達めいこ(久保陽香)と、その彼氏で小説家のソラオ(忍成修吾)という一風変わった4人で共同生活をしている青葉家。
夏のある日、春子の旧友の娘・優子(栗林藍希)が美術予備校の夏期講習に通うため、青葉家へ居候しにやって来た。
そんな優子の母・知世(市川実和子)は、ちょっとした”有名人”。知世とは20年来の友人であるはずの春子だが、どうしようもなく気まずい過去があり…。
出演:西田尚美、市川実和子、栗林藍希、寄川歌太、忍成修吾、久保陽香
上原実矩、細田佳央太、鎌田らい樹、大友一生、芦川誠、中野周平(蛙亭)、片桐仁
監督:松本壮史
エグゼクティブプロデューサー:佐藤友子(「北欧、暮らしの道具店」店長)
プロデューサー:杉山弘樹
企画・製作:北欧、暮らしの道具店
製作プロデュース:THINKR
制作協力:株式会社ギークピクチュアズ
配給:エレファントハウス
(C)2021 Kurashicom inc.
公式サイト:https://hokuohkurashi.com/note/162688
予告編(ロングVer.)
6月18日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか、全国順次公開
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