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ふゆうするさかいめ

【監督・キャスト インタビュー】「ちょっと視点を変えるだけで世界が一瞬で変わる」映画『ふゆうするさかいめ』

池袋シネマ・ロサにて不定期に行われいる新人監督特集上映。6月12日からのVol.7では、住本尚子監督が特集される。そこで、監督初の長編映画『ふゆうするさかいめ』について、監督自身と映画初出演&主演のカワシママリノに、本作についての話を伺った。

住本尚子監督は、その作品が日本芸術センター第12回映像グランプリに入賞して初上映、以降も「第21回TAMA NEW WAVE ある視点 -Vol.1-」、「イメージフォーラム ヤング・パースペクティヴ2020」などで上映され、独特の世界観と人々に寄り添う物語が共感を呼び、注目を集めている。

新鋭・住本尚子が構想から四年をかけて完成させた初の長編監督作『ふゆうするさかいめ』は、ノスタルジックな映像とアニメーションを織り交ぜて軽やかに綴る<睡眠のすすめ>。今日と明日の“さかいめ”を生きるねむるすべての人を包み込む、どこか懐かしくてあたらしい睡眠奇譚だ。
主演・カワシママリノ本人の生い立ちとキャラクターがインスピレーションの元になっており、脚本は彼女を主人公に当て書きされている。本作で俳優デビューを果たしたカワシママリノは、独特の存在感で注目を集め、主演作『それだけ。』(藤井三千監督)の公開が控えるなど今後の活躍が見逃せない。

なお、当メディアでは、映画界の次世代を担うことが期待される新人監督や俳優について今後も取り扱っていく。

カワシママリノ×住本尚子監督インタビュー

ふゆうするさかいめ

カワシママリノ/住本尚子監督

■「寝てきちんと頑張る人をもっと取りあげたい」

-本作は、睡眠や曖昧さを題材とされてますが、物語を思いついたきっかけや経緯を教えてください。

住本尚子監督
元々、私は寝ることが好きで、眠る時の意識がなくなっていく時間帯が好きなんです。若い時に一日中寝てしまう話を知人にしたら、「若いんだから、外に出て遊んだり、いろいろなところに行った方がいいんじゃない?」って言われたことがありました。
でも、まずは寝ることが大事で、寝ることを中心として、生きて行くということが、とても大事だと思っています。寝ないで頑張る人よりも、寝てきちんと頑張る人をもっと取りあげたいと思ったんです。そこで、寝ている人を中心とした作品がないかなぁ、あったらいいなぁと思って、自分を肯定したいし、睡眠をテーマにしたいなと思って、作品を作りました。

ふゆうするさかいめ

住本尚子監督

-構想から4年をかけて完成ということで、多くの月日をかけていらっしゃいますが、その期間でのエピソードはありますか?

住本尚子監督
始めに眠りに関する作品を作ろうと、マリノちゃん(カワシママリノ)と一回、短い映像を作ったことがあります。でも、これだけだともったいないなという気がして、そこから脚本を書き始めたんです。
最初は、マリノとミノリではなくて、カコとミライといった抽象的な名前にしていたのですが、それだとあまり良くないとまわりの人たちにアドバイスをもらいました。
脚本は1年くらい書いていて、いろんな人に読んでもらいました。そして、撮影が2018年にはじまり、撮り終わったら疲れ切ってしまい、なかなか編集をせず、お金も無くなったので、とりあえず働こうということで、半年放置みたいな感じでした(笑)
2019年になって、そろそろ完成させなければと思って、その年に仮で完成させました。作品に関する展示とともに上映をして、2020年には映画祭に出品しました。そして2021年に公開が決まったので、ちょっとずつ進んでいったけど意外と時間かかるのだなと思いました。

ふゆうするさかいめ

場面写真 (C)NAOKO SUMIMOTO

■“さかいめ”

-タイトルが『ふゆうするさかいめ』。そしてセリフでも、「面倒と大変の境い目」とか、「今日と明日の境い目と同じくらい、どうでもよくない?」とありました。この“さかいめ/境い目”というキーワードにはどういう思いがありますか?

住本尚子監督
“面倒なこと”と“大変なこと”は必ずしもイコールではないと思っています。たとえば、私の場合、大変な事でも好きなことだったら全然苦じゃないんですが、面倒なことは嫌だなとか。
同じように、「寝ている=ダラけてる」というイメージが世間にあるんだとしたら、そういうのも嫌で、「寝ていることの方がいいよね」って言える方がいいなと思っています。
“マリノ”も、面倒は嫌だけど、大変なことは多分嫌じゃないというキャラクター。「面倒と大変の境い目」といったセリフはマリノのそういった気持から出るセリフであり、そのほとんどは私の気持ちでもあります。

■カワシママリノにあて書きされた脚本

-カワシママリノさんを主演にキャスティングされた理由は?

住本尚子監督
マリノちゃんは元々お友だちでしたし、そもそも同じ職場の同僚で、映画館で一緒に働いていて、マリノちゃんは併設のカフェで、私は映画館スタッフとして。
マリノちゃんは芝居に興味があって、私も映画を撮りたいと思っていて、いつか一緒にできたらいいねっていう話はしていました。
私はずっと眠りについての映画を撮りたいと思っていて、その映画にはマリノちゃんの雰囲気がぴったりだと思っていたので、今作の脚本は、彼女ありきであて書きしました。

-カワシマさんはそれまでお芝居の経験は?

カワシママリノ(マリノ 役)
お芝居の経験はほとんどありませんでした。ワークショップには2回ほど行ったことがありましたが、それも教わるようなワークショップではなくて、藤井三千(ふじいみゆき)監督にお誘いいただいて、即興をメインとしたワークショップに2回ほど行きました。

ふゆうするさかいめ

カワシママリノ

-カワシマさんにあて書きされたという脚本を読んだ時の感想はいかがでしたか?

カワシママリノ
あて書きということもあるので当たり前かもしれないんですけど、住本監督はよく私を捉えてくれたと、まず驚きました。あえて違う点は、私は睡眠にまったく興味がないくらいです。住本監督でなかったら、もっと指示だったり、演出されていたんだと思っています。住本監督が私のことを好いてくれていたから、成り立ったものだと思っています。

-「睡眠にあまりこだわりがない」ということですが、ご自身の眠りに関するエピソードがあれば教えてください。

カワシママリノ
いっぱい寝ることには興味がないんですけど、寝ている時に見る夢は好きです。

-毎日、夢を見るタイプですか?

カワシママリノ
夢はよく見ます。意外と大変で、夢によって精神状態が揺らいだりします。夢の内容は起きて数分は覚えていますが、すぐに忘れることが多いです。でもかなり印象的なことだと、覚えていたりします。

-夢の内容は、たとえば過去のフラッシュバックなのか、空想の話など、どういった内容でしょうか?

カワシママリノ
フラッシュバックではなくて、自分が作り出している夢が大半です。

住本尚子監督
たまにマリノちゃんから連絡が来て、夢に私が出て来て、夢の中で私と一緒に映画を撮っている話を聞きました。

カワシママリノ
最近、そういった夢が2、3回ありました。正夢になる夢もあります。前日に夢に出てきたお友達から、次の日メールが来たりしたことがあります。そういうことがあると夢と現実が繋がってるんだなと思います。電波と言うかテレパシーというか、そう思いますね。

住本尚子監督
夢のような、その人にしか見えないものを映像として表現出来たら面白いかもしれませんね。

■ロケ地撮影許可の難しさ

-都内の北区など、撮影地となっている場所は、監督にとってどんな場所ですか?

住本尚子監督
私は広島出身なのですが、上京してから、大学在学中も就職の際も神奈川県に住んでいました。
そこから初めて東京に移り住んだのが北区の十条で、4年くらい住んでいました。
飲み仲間がたくさんいて、人情味あふれる人たちや古い商店街や、とても生活感のある街で、そこがすごく大好きでその街をカメラに収めておきたいなと思って、北区を中心に撮影しました。
でも、自分で書いた脚本に合う喫茶店や布団工場がなかなか見つからず、十条、赤羽、そして北区全体にまで範囲を拡げて、喫茶店を見つけました。
布団工場にいたっては、撮影許可をいただけるところが北区含めてなかなか見つかりませんでした。
「布団を作るシーンを少し撮りたいんです。」と言ったら、「布団は、一日で作れるようなものではないから」とか「そんなことはできない!」とか、「布団のことをもっと勉強しようね」って言われて断られ続けたんです。
挫けかけていたところ、群馬県高崎市にある丸三綿業さんという布団工場にたどり着いて、そこでようやく撮影許可をいただけました。
丸三産業さんはすぐにOKしてくれて感謝しています。

ふゆうするさかいめ

場面写真 (C)NAOKO SUMIMOTO

■美術担当としての カワシママリノ

-作品のスタッフクレジットに、美術担当としてカワシマさんの名前がありました。実際にどういうことをされましたか?

住本尚子監督
マリノの部屋作りですね。元々は私の部屋だったんですけど、マリノちゃんの家からいろいろと持ってきてもらいました。

カワシママリノ
撮影のために用意された部屋に馴染むのが役者さんなのかもしれませんが、住本さんの部屋のままではなく、マリノって言う私の名前がついた役柄だし、住んでいるところもちょっと私の要素を入れたくて、物を持ってきたり、壁紙に私の好きな作品を貼ったり、コラージュしました。

住本尚子監督
布団屋さんが布団を売りに行く場面なのですが、あの部屋は私のおばの家だったんです。東十条に住んでいるのですが、建て替えがあって一旦その家が壊されると言うので、その場面の団地の前の所までは違うところで撮っているんですけど、部屋の中だけ、私のおばの家で撮影しました。
その部屋のものがごちゃごちゃとありまして、マリノちゃんがこういうのをここに置いた方がいいねとセッティングしてくれました。そういった部屋の装飾をお願いしましたね。マリノちゃんの妹も手伝いにきて二人でセッティングしてくれました。撮影の前日は私はそこで過ごしました。

-カワシマさんは、部屋のデコレーションとかコーディネート的なことはお好きですか?

カワシママリノ
普段から、何か月かに一回、実家の配置換え・模様替えをしているので好きですね。
クランクインの前の日は、壁紙をギリギリまで作っていました。

ふゆうするさかいめ

カワシママリノ

■音楽について

-音楽に「のっぽのグーニー」さんを起用された経緯は?

住本尚子監督
小林さんという方が、「シースルー・レスキュー」(作詞:諸根陽介 作曲:小林このみ 編曲:のっぽのグーニー 歌:sei)という曲の作曲をしてくれて、歌詞を書いてくれた人が諸根さんという方です。
諸根さんと小林さんと私の3人で「小林このみトリオ」という名前で、小林さんがピアノを弾いて、諸根さんがテキストだったり、フィールドレコーディングされた音を流したり、私が映像を載せたりする活動をしていました。
この映画を作るにあたって、「シースルー・レスキュー」の作詞を諸根さんにお願いしたくて、その歌詞に、小林さんが作った曲を載せてほしいと言って作ってもらったんです。
けれども、いざ編曲となると誰もできないという話しになって、諸根さんの同級生が、のっぽのグーニーの田中さんだったんです。
それで、田中さんにぜひという話になって、『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』(2017年)という映画も観ていて好きで、田中さんは出演している方でもあったんですけど、音楽も担当されていたので、もしできれば…とお願いをしたら、「いいですよ!」とOKをいただいて、編曲と映画の音楽をやってもらいました。音楽を一緒にやりとりしながら形にする作業はとても楽しかったです。

-人の繋がりがすごいですね。

住本尚子監督
そうですね。人に聞きまくりました。私はいわゆる映画の学校に行ってなかったので、映画関係の繋がりがもともとなくて、人づてで探すということは結構多かったです。

ふゆうするさかいめ

住本尚子監督

■作品のみどころとお客様へのメッセージ

-作品の紹介、見どころ、お客様へのメッセージをお願いします。

カワシママリノ
私自身この作品に関わって精神的に救われたと思っています。私はこの作品に取り組む前より、睡眠にも興味を持てましたし、人の温かさに気づかされました。誰にでも忘れたい過去もあるでしょうし、布団にずっとこもっていたい時もあると思います。そういったことを肯定してくれる、「それでいいんだよ」って言ってくれる映画で、優しい作品です。

住本尚子監督
マリノちゃんが主人公なのですが、布団が準主人公くらいに出ています。
布団が作られるところから、縛られ、運ばれ一緒にダンスをしてその後にずたずたに切られてしまうんですけど、布団にそんなに焦点を当てているわけではありませんが、布団の生涯が見えます。
私は日常を生きている中で辛いこととか色々あっても、ちょっと視点を変えるだけで世界が一瞬で変わるということをよく考えます。何か身近にある建物を見ても植物でも、ボールペンでもいいんですけど、それが何か自分にとても大切であるはずなのに、意外とそういうものに焦点を当てられていないと思います。
私はボールペンが大好きなんですけど、それも映画には道具としてしか出てきません。布団もやはり寝る道具としてしか映画に出てきませんが、布団に対しても愛情があるから、一緒に登場して欲しいと思っています。布団がきっかけでマリノがいろんな人と出会って変わっていったので、布団は重要な仲間だと思います。そういう目線を変えてみるところから、違う世界が見られる映画になったらいいなと思っています。

ふゆうするさかいめ

カワシママリノ/住本尚子監督

[聞き手・写真:金田一元]

映画『ふゆうするさかいめ』

INTRODUCTION
本作は、睡眠をこよなく愛する住本尚子監督が「若いんだから、休みの日は出かけたらいいのに」と言われて疑問を感じたことをきっかけに「眠ることを中心に生きる人たちを描きたい」と構想から四年をかけて完成。
主演・カワシママリノ本人の生い立ちとキャラクターがインスピレーションの元になっており、脚本は彼女を主人公に当て書きされた。
また、商店街や昔ながらの飲食店が並ぶ街並みへの思い入れから、東京都北区を舞台にどこかノスタルジックで親密な映像を作り上げた。
登場人物が働く布団工場は群馬県高崎市にある丸三綿業で撮影され、数少ない工場の貴重な内部が映し出されている。
本作で俳優デビューを果たしたカワシママリノは独特の存在感で注目を集め、主演作『それだけ。』(藤井三千監督)の公開が控えるなど今後の活躍が見逃せない。
また、モデルのかたわら「游泳」として創作活動を行う鈴木美乃里が幼なじみ・ミノリ役に抜擢。キーパーソンとなるマモル役を、アンダーグラウンドな舞台を中心に活躍中の俳優・尾上貴宏が演じ、個性的な俳優陣が物語を支える。音楽は『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』『Necktie』なども手がけるのっぽのグーニーが担当し、映像にあたたかな彩りを与えている。

STORY
「昔の話なんて無駄だよ?昔はもう存在しないんだから」
まるで現実を遠ざけるように毎日眠り過ぎてしまうマリノは、”床ずれ”の痛みにどうにか耐えながら喫茶店のアルバイトへ通っている。ある日、いつも皺くちゃのスーツを着ている常連客・マモルが寝具販売の仕事をしていると知って新しい布団を買いに出かけるが、その日を境に家の中に人影が見えるようになったり、踊れないはずのダンスが自然と踊れたりと不思議なことが続く。そんな中、マリノは高校時代の幼なじみ・ミノリと突然の再会を果たすが、ミノリが話す二人の思い出はマリノが覚えていないことばかり。これまでのマリノの静かな日常が少しずつ揺らぎ始めて……。

出演:カワシママリノ 鈴木美乃里 尾上貴宏 ハマダチヒロ 南波俊介 笠井和夫 笠井正子 小島博子 小島信一 横井心梛 伊藤はな
監督・脚本・撮影・編集:住本尚子
音楽:のっぽのグーニー | 主題歌『シースルー・レスキュー』(作詞:諸根陽介、作曲:小林このみ、編曲:のっぽのグーニー、歌:sei)
美術:カワシママリノ
小道具デザイン・アニメーション:中根有梨紗
字幕翻訳:作美はるか 字幕監修:Saimi Noda, Mika Fujimura, Arun
宣伝美術:三好遥
宣伝協力:池田彩乃
2020年|日本|カラー|ビスタ|65分|英題:Floating Borderline
(C)NAOKO SUMIMOTO
公式サイト:https://fuyusurusakaime.tumblr.com/
公式Twitter:https://twitter.com/fuyusurusakaime
公式Instagram:https://www.instagram.com/fuyusurusakaime/

予告編

YouTube player

2021年6月12日(土)~18日(金) 池袋シネマ・ロサにて一週間限定レイトショー

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