柄本佑「鬼平犯科帳みたいだと思った」映画『痛くない死に方』初日舞台挨拶
2月20日、シネスイッチ銀座にて映画『痛くない死に方』の初日舞台挨拶が行われ、出演の柄本佑、宇崎竜童、奥田瑛二、原作の長尾和宏医師、及び監督・脚本の高橋伴明が登壇した。司会は、闘病経験のある笠井信輔フリーアナウンサー。
本作は、柄本佑主演・高橋伴明監督の、在宅医療のスペシャリスト・長尾和宏のベストセラー「痛くない死に方」「痛い在宅医」の映画化。日々仕事に追われ、家庭崩壊の危機に陥っている柄本佑演じる在宅医・河田仁が、大病院でなく在宅医だからこそできる医療を模索し、人と向き合うことを実践していく成長物語。
柄本佑には、本作が『鬼平犯科帳』みたいと言った理由、宇崎竜童には、末期がん患者の役なのに、監督に「手がロックンロールしている」と言われた話、奥田瑛二には、「生きるとは食べること」という大事なシーンの撮影秘話、これまでに2500人を看取ってきた在宅医の長尾和宏先生には、自分がモデルの役を奥田瑛二に演じてもらった感想、高橋伴明監督にはどう死にたいかについてのお考えを聞いた。
舞台挨拶レポート
柄本佑(在宅医・河田 役)
今日はたくさんの方にいらしていただき、ありがとうございます。高橋伴明監督は大ファンでして、監督の作品に出るのは夢でした。しかも今回は主役という立場で出させていただけて、自分としては幸せな一本です。今、すごい方々の間に俺いるなと思っています。
宇崎竜童(末期がん患者・本多 役)
死に方を考えていらっしゃる方がいらっしゃっていると思っていたんですが、若い方もいらっしゃいますね。ぜひ見ていただきたい映画です。こんなに多くの方に初日に見に来ていただいて嬉しく思います。
奥田瑛二(河田の先輩在宅医・長野 役)
隣にいるのが義理の息子(柄本佑)でございます。それと盟友といわしていただきましょうか、監督の高橋伴明さん。そうなると、一生懸命やらざるをえない。だから一生懸命やっておりました。
今日のお客さんはもうSNS以上に口コミが確実な方々ばかりだと思います。長年映画人生を過ごしてきた私としては、完全に大当たりです。これからご覧になりますが、『奥田は預言者か』と思われるかと思います。
在宅医・長尾和宏(原作者*)
今日はありがとうございます。私の書いた本、『痛い在宅医』と『痛くない死に方』がこういう映画になったことを本当に嬉しく思います。
高橋伴明監督に脚本を書いていただいて、演じられた俳優の皆さんに厚く御礼申し上げます。この映画はリアルで生々しいと思います。また、尊厳死、リビングウィルについても理解していただけるのではないかと思います。
(*長尾医師は本作の原作である『痛くない死に方』、『痛い在宅医』の著者であり、これまでに2500人を看取ってきた在宅医)
高橋伴明(監督・脚本)
実はこの映画の公開は延期になったんですよね。今日という日も本当にどうなるかわからなかったんですが、やっと皆さんに届けることができたことが一番嬉しいです。
映画というのは見ていただいてやっと完結すると思うんです。ですから、本当に感謝しております。今日の登壇者以外にも、『よくこんな人がこの映画のために集まってくれた』という驚くようなキャスティングになっています。その辺もゆっくり堪能してください。
笠井アナ(MC)
監督はプロデューサーから、長尾先生の著書『痛い在宅医』を映画化しないかと持ちかけられたそうですが、その前から在宅医療に関しても興味があり、ご家族でも話し合っていたと伺いました。
高橋伴明(監督・脚本)
65歳になった時に、自分が死ぬということを真面目に考え出したんです。死の周辺に関わる本だとか資料だとかを結構読んでいまして、在宅医療や尊厳死協会があるということを知りまして、かみさん(女優・高橋惠子)に、一緒に入っちゃわないと誘いました。前向きに同意してくれました。この映画のテーマというには身近なテーマとして感じていました。
柄本佑
看取るということをお芝居の中でやったんですけれど、かなりエネルギーを消費することだと思いました。
長尾先生のクリニックに1日体験させていただきまして、4軒ほど在宅の往診の現場を見させていただいたんですが、長尾先生が本当にフラットに、近所のおじさんが近くに寄ったから顔を出したというような感じで行かれるんです。
在宅医療というのはお医者さんが自宅に来るから、(病院カバンや白衣を排除し)いかに異物が入ってくるということを感じさせずに診療できるかということがあったので、意識しながら演じました。
この映画を出来上がったのを見たとき、タイトルは『痛くない死に方』ですけれど、生き方の映画なのかなと思いました。
笠井アナ(MC)
柄本さんは、本作を『鬼平犯科帳』みたいと思ったとか?
柄本佑
『鬼平犯科帳』は大好きなんですけれど、鬼平はそんなに活躍しないんです。物語を進めていくのは鬼平ではなくゲスト主役なんです。本作では主役ということになっていますけれど、どちらかというと患者さんとか家族だとかの中で如何に目立たなくいるかがテーマでした。
笠井アナ(MC)
患者役の宇崎さんや下元史朗さんが主役ということですかね?
柄本佑
ですね!
宇崎竜童
(宇崎は、柄本が演じる河田が新たに担当することになる明るい末期がん患者の役だったが)演技はしていません。セリフは覚えて間違えずにしゃべっているんですけれど、高橋伴明監督と40年来の友達なんですね。台本を頂いた時、40年見てきた高橋伴明監督が役の中に潜んでいるので、俺は芝居しないで、僕が見てきた高橋伴明をそのままやればいいんだと思いました。
リハーサルでは監督から、『(末期がん患者なのに)手の動きがロックンロールだよ』と言われ、少し抑えました(笑)
笠井アナ(MC)
死に方について奥さんの阿木燿子さんとはどういう話をしていますか?
宇崎竜童
「一緒に死ねたらいいね」というのは60過ぎたあたりから話しておりますが、70過ぎたら、「一緒じゃなくて、1日でも多く生きて欲しい。私をちゃんと見送ったらいつ死んでもいい」と約束させられました。
この映画の中で、伴明組のスタッフが30人位カメラの向こうにいる中で死ぬ(シーンを演じた)んです。にぎやかな、たくさんの人が看取ってくれるシミュレーションをさせていただいた感じで、絶対密葬はしないと決めました。
笠井アナ(MC)
長尾先生は、ご自身の著書を高橋伴明監督が映画化してくださり、ご自身をモデルにした在宅医の役を奥田瑛二さんが演じられるとわかった時はどう思われましたか?
在宅医・長尾和宏(原作者)
最初嘘かなと思い、信じられなかったです。テレビ、映画でしか見たことがない方に僕の役を演じていただけるというのも夢のような話でした。僕が普段言っていることや、本に書いていることを奥田瑛二さんが再現されていて、本当に感無量で感謝しています。
奥田瑛二
(長尾医師について)衣装合わせで初めてお会いしたんですけれど、監督が衣装合わせの時に、「奥田、Gパンな。上はそのシャツ」と言われたんですが、それがダサいシャツなんです。ドアから長尾先生が入ってきて、「なんだ、結構二枚目じゃないか。この(衣装の)ダサさ。はっはーん。俺の方が少し二枚目だから、ダサくして、長尾先生に合わせようと高橋伴明が企んだんだ」と思い、納得しました(笑)
この役は、『赤い玉、』で主役をやらせていただいた伴明監督だから「やるやる」、主役・柄本佑と知り、「おいおい、ちょい待て。困ったな、伴明監督だけでも信頼関係を獲得するのにプレッシャーがあるのに、僕がもし下手なことをしたら殴られるな、二重苦だ」と思い、台本を読み込みました。あまりにも読みすぎちゃってNG連発でした。
中盤の長台詞の最後に「生きることは食べること」と言うんですけれど、「食べることは生きること」と2回、3回、4回、5回とNGを出し、(訪問看護師役の)余貴美子さんがふふという顔をしていました。正面を向いたら佑が心配そうな顔で見ていました。
普通だったら頭が真っ白になるけれど、ナーバスにならないで、「もう1回行こう」って言って、OKがでました。
僕にとっての「生きることは食べること」は、台本の余白にも鉛筆で太く囲いを作って書いていたのに、NGを連発していましました。気負ってはいけないなというのが1番印象的でした。
柄本佑
(同じシーンに出演していたので)頑張れ頑張れと思っていました。(奥田さんの)長台詞の間でたまに僕が台詞を言うので、「この一言は失敗できないぞ。ここまでうまくいっているので失敗できないな」と思っていました(笑)
笠井アナ(MC)
長尾イズムが反映されたセリフについてはいかがですか?
奥田瑛二
僕が一番印象に残る一言一言を言っていますね。でも皆さんこれからご覧になるじゃないですか。「生きることは食べること」を言っているその時の奥田君はすごく頷くようなかっこよさがあるんで、ご覧ください。見終わった後に、ノートや手帳に僕の名台詞を必ずメモしてください。
笠井アナ(MC)
私もメモしました。後で見せます。
在宅医・長尾和宏(原作者)
今はコロナ禍で触れることができません。面会もできません。本作のポスターを見たら柄本佑さんは患者さんに触れているんですね。触れるということの大切さもこの映画で思い出して欲しい。また、コロナで面会できないから、病院や施設からどんどん家でお看取りする方が増えているんです。この映画を参考にしていただけたらと思います。
高橋伴明監督
死との向き合い方。病気との向き合い方。設備の整った大きな病院に入院することがいいのか、自宅で静かに最期を迎えるのがいいのか、いろんな考え方があると思いますが、自分ならこのように死んでいきたいなということを形にしたつもりです。
みなさんに「こうしたらいいです」と言っている訳ではなく、「こんな死に方もありますよ」とそっと差し出したつもりの映画なので、それをどのように受け取っていただいてもいいと思います。最後に、奥田が予言しました“大当たり”。これは実現することを願っていますので、みなさんどうか、映画の感想を拡散してください。
映画『痛くない死に方』
STORY
在宅医療に従事する河田仁(柄本佑)は、日々仕事に追われる毎日で、家庭崩壊の危機に陥っている。
そんな時、末期の肺がん患者である井上敏夫(下元史朗)に出会う。敏夫の娘の智美(坂井真紀)の意向で痛みを伴いながらも延命治療を続ける入院ではなく“痛くない在宅医”を選択したとのこと。
しかし、河田は電話での対応に終始してしまい、結局、敏夫は苦しみ続けてそのまま死んでしまう。
「痛くない在宅医」を選んだはずなのに、結局「痛い在宅医」になってしまった。それなら病院にいさせた方が良かったのか、病院から自宅に連れ戻した自分が殺したことになるのかと、智美は河田を前に自分を責める。
在宅医の先輩である長野浩平(奥田瑛二)に相談すると、病院からのカルテでなく本人を見て、肺がんよりも肺気腫を疑い処置すべきだったと指摘される河田。結局、自分の最終的な診断ミスにより、敏夫は不本意にも苦しみ続け生き絶えるしかなかったのかと、河田は悔恨の念に苛まれる。
長野の元で在宅医としての治療現場を見学させてもらい、在宅医としてあるべき姿を模索することにする河田。大病院の専門医と在宅医の決定的な違いは何か、長野から学んでゆく。
2年後、河田は、同じく末期の肺がん患者である本多彰(宇崎竜童)を担当することになる。以前とは全く違う患者との向き合い方をする河田。ジョークと川柳が好きで、末期がんの患者とは思えないほど明るい本多と、同じくいつも明るい本多の妻・しぐれ(大谷直子)と共に、果たして、「痛くない死に方」は実践できるのか。
出演:
柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二
大西信満 大西礼芳 下元史朗 藤本泉 梅舟惟永 諏訪太朗 田中美奈子
真木順子 亜湖 長尾和宏 田村泰二郎 東山明美 安部智凛 石山雄大 幕雄仁
長澤智子 鈴木秀人
監督・脚本:高橋伴明 原作・医療監修:長尾和宏
製作:内規朗、人見剛史、小林未生和、田中幹男
プロデューサー:見留多佳城・神崎良・小林良二
制作:G・カンパニー 配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:「痛くない死に方」製作委員会
(C)「痛くない死に方」製作委員会
公式サイト:http://itakunaishinikata.com/
2月20日シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。