【インタビュー】坂井真紀「できないことを悲しむのではなく、できることを丁寧に楽しみたい」
2月20日公開の映画『痛くない死に方』にて、在宅医療で父親と向き合う役を演じる坂井真紀。“死”という誰にも訪れるものについて、本作の出演を通して感じたこと、また今のコロナ禍での過ごし方についてお話を伺った。
本作は、在宅医療のスペシャリスト・長尾和宏のベストセラー「痛くない死に方」「痛い在宅医」の映画化。柄本佑主演、高橋伴明監督で、坂井真紀は、父親のために、痛みを伴いながらも延命治療を続ける入院ではなく“痛くない在宅医”を選択したのに、父親が苦しみ続けてそのまま死んでしまい、自分を責める智美役を演じる。
坂井真紀インタビュー
■自分にも起こり得ること
-本作の台本を読んだ時の感想を教えて下さい。
坂井真紀(智美 役)
他人事ではないと思いました。私自身、在宅医療や介護、そういったものに近づいている年齢ですし、身の回りでそういう話を聞く機会も増えていますし、近い将来自分の身に起こり得る話だなと。
ですので、ある架空の家族の人生を演じるんだと距離感を持って読むよりは、とても近いところに心を置いて台本を読みました。
■長尾先生がずっと現場についてくれた
-坂井さんが出演している前半のエピソードは、原作・医療監修の長尾和宏さんの実体験ではなく、長尾さんが「痛い在宅医」という著書で対談した方の実話がベースなんですよね?演じられた役柄についてはどういう取り組みをされましたか?
坂井真紀
(原作の)長尾先生がいつも現場についてくださっていたので、医療の知識についても教えていただきましたし、その実話の部分にもきちんとリアリティが出るように、「こういう時はどうなんですか?」「ご家族はどういう感情になるんですか?」ということは細かくお聞きできたんです。私が演じたパートは特に本、台本の段階からドキュメンタリー要素も強く描かれていましたので、実際の在宅医療の現場でほんとうに起こりうることを確認しながらやりました。
-長尾先生の言葉で驚きや発見みたいなことはありましたか?
坂井真紀
長尾先生とお話しさせていただき、先生の在宅医療に対する強い信念を感じました。患者とその家族が望むように送り出してあげることが大事で、それをちゃんと助けてあげるという信念。こういう先生が身近にいてくださったら、心強いなって思いました。
-劇中、坂井さん演じる智美が、お父さんを介護していく中で時にはイライラすることもあり、とてもリアルに感じました。演じる時はどういうお気持ちで演じられたのでしょうか?
坂井真紀
朝から夜までずっと籠もって集中し続ける撮影でしたので、自分も疲労してきますし、目の前にいる具合の悪い父親が、だんだんお芝居じゃなく現実なのかってちょっと錯覚するような感情が積み重なっていくところがありました。
もちろん、お芝居ではありますけど、こんな状況が続いたら不安だし、泣きたくなっちゃうし、病気の父親なのに腹立たしくもなり、行き場のない苛立ちに襲われた感覚はあります。そして、その隣り合わせに自分の感情も一緒にあった撮影だった気がします。もし自分の父親だったら?とついつい考えてしまいました。
そんな中で、智美という女性が、父親に対してこうしてあげたいという思いがあっても、現実は厳しく、理想と現実のギャップがどんどん大きくなる、そういった状況を表現できたらいいなと思って演じました。
-役から降りても辛さが抜けなかったりすることはありましたか?
坂井真紀
私は、普段は役から離れるとそれをひきずりません。ただ、その役に入っている時は、役の“タマゴ”みたいなものが心の中に居続けていて、どこか違った自分を連れてるみたいな感覚はあります。本作は、目の前で起こっていることが重く、撮影を離れても気持ちが重い方にひきずられそうでした。
■佑くんは現場の空気に漂うように。
-柄本佑さん演じる主人公・河田医師が、坂井さん演じる智美のお父さんの担当だった時の他人事な振る舞いについてはどう思われますか?
坂井真紀
生きていく中で、人との出会いって本当に大事ですよね。運命を左右するくらいに。お医者さんも様々なタイプの方がいらっしゃいますものね。家族の命を預けるお医者さんが、他人事な振る舞いをするような方に出会ってしまったら、絶望的ですよね。私だったらどうしよう、お医者さんを変えるべきかな、でも目の前のことに必死でそこまで思い浮かばないかな、なんてことをモヤモヤ考えていました。
-お医者さんからしたら、たくさんいるうちの一人の患者。でも、患者の家族からしたら一人のお医者さんですからね。
坂井真紀
(患者側は)弱い存在ですよね。(医療や病気については)私たちにはわからないことがたくさんあります。
-柄本佑さんとの共演は初めてということですが、どんな印象を持たれましたか?
坂井真紀
いつも楽な感じにフラリと現場にいらっしゃって、そこの空気に漂うようにお芝居をされるなっていう印象です。だから一緒にお芝居をしていてとても楽しかったです。
佑君はこのお医者さんをどんな感じで演じるのだろうと楽しみだったのですが、そのフラッとくる感じがすごくリアルで怖かったです(笑)
-柄本佑さんは、座長として現場を引っ張るという雰囲気はありましたか?
坂井真紀
そうですね。佑くんは「伴明さん(高橋伴明監督)のところでやれる!」とまず現場を楽しみ、集中力をもって取り組まれていて、とても良い現場でした。
■高橋伴明監督の強い生命力が現場を引っ張っていった
-高橋伴明監督の現場はどうでしたか?
坂井真紀
佑くんと一緒で、私も伴明さんは是非ご一緒したいと思っていた監督でしたので、役者として幸せな毎日でした。
伴明さんには若松孝二監督と同じ匂いを感じます。よくお芝居を見てくださって、細かく指示をされるわけではないのですが、おっしゃる一言が的確で、ドーンと支えてくださって、受け止めてくださって、とても素敵な監督です。私が台本の中の細かいことを気にしていても、「え、それなんだっけ?」っと、おっしゃることもあり(笑)そんな監督のリアクションに私も大したことじゃないなと思えたりして。
-なるほど、演じる側として安心できる存在なんですね。
坂井真紀
そうですね。撮影現場は死に向かって行かねばならない中、伴明さんの強い生命力が、現場を、映画を引っ張ってくださったと思います。
■「心が痛いんです」
-本作で印象に残ったシーンやセリフはありますか?
坂井真紀
智美が河田先生(柄本佑)に言った「心が痛いんです」っていうセリフは智美の心情をよく表している言葉でもありますが、この作品においても重要な一言だと思います。
-本作出演を通して、在宅医療に対する印象は変わりましたか?
坂井真紀
想像でしかありませんでしたが、甘いものではないと思っていました。本作を通して、疑似体験をした感覚はあります。
死は悲しいものだけど、誰にでも訪れることです。私は、自分の死をイメージする時、まず一番に人に迷惑をかけて死にたくない、家族には迷惑をかけて死にたくないって思います。でも、家族には迷惑をかけてもいいのかもしれないと、迷惑という言葉がふさわしいかわかりませんが。
それは、生まれる時も家族に囲まれるのが一番の幸せですから、死を迎える時だってそうだと思います。介護は大変なことのほうが多いかもしれません。でも、命の誕生は奇跡的であり力強いものですから、それが無くなる時にだってすごく力がいることだって思いますし、作品を通してそれを実感しました。
だから家族が在宅医療を望むのであれば、覚悟をもって頑張らなければと思います。
■この1年は自分と自分の身近なものにちゃんと向き合う機会だった
-この1年のコロナ禍、坂井さんはどう過ごされてましたか?
坂井真紀
子どもがいるので、なるべく子どもの生活ペースを乱さないように生活してました。きちんと食事し、ちゃんと寝て、規則正しく健康的にを心がけてました。
-何か特別のことをというより、なるべく普段どおりということですね。
坂井真紀
先の不安はありましたが、普段通りに過ごせることに幸せを感じ、できないことを悲しむのではなく、できることを丁寧に楽しみたいと、そういう機会だとも思いました。ピンチはチャンスではないですが、子供にもネガテイブな姿勢は見せたくないですしね。
役者さんたち含めて、SNSを通して発信することで人と繋がることをされていて、それも温かくて素敵だなっ、この時代の一つの在り方だなって思って見ていました。私は、家族や普段見落としていた大切なものに目を向けて前向きに過ごすこと、それが今の私にできることで、それが少しでも良い未来へと続くことでありますようにと思って過ごしていました。
-SNSと言えば、坂井さんのTwitterは、クスっと笑えて楽しく拝見してますが、どういう時に投稿しようと思われますか?
坂井真紀
私は昭和の人間ですし、SNSには恐怖心のほうが大きいです(笑)。でも、見てくださった方が楽しい気持ちや優しい気持ちになってくれたらいいな、そんなことが少しでもできたらいいなと思っています。だからこそ、頑張って投稿しなきゃというよりも、自分らしく取り組んでいます(笑)
■私たちが考えなくちゃいけないことのひとつのヒントに。
-最後に本作をご覧になる方にメッセージをお願いします。
坂井真紀
家族にはいろいろな形があるので、答えはひとつじゃないと思いますが、私たちが死や介護について考えるきっかけになる作品であり、観てくださった方の希望へとつながればいいなと思っています。是非劇場で御覧ください。
[インタビュー:Jun Sakurakoji]
映画『痛くない死に方』
STORY
在宅医療に従事する河田仁(柄本佑)は、日々仕事に追われる毎日で、家庭崩壊の危機に陥っている。
そんな時、末期の肺がん患者である井上敏夫(下元史朗)に出会う。敏夫の娘の智美(坂井真紀)の意向で痛みを伴いながらも延命治療を続ける入院ではなく“痛くない在宅医”を選択したとのこと。
しかし、河田は電話での対応に終始してしまい、結局、敏夫は苦しみ続けてそのまま死んでしまう。
「痛くない在宅医」を選んだはずなのに、結局「痛い在宅医」になってしまった。それなら病院にいさせた方が良かったのか、病院から自宅に連れ戻した自分が殺したことになるのかと、智美は河田を前に自分を責める。
在宅医の先輩である長野浩平(奥田瑛二)に相談すると、病院からのカルテでなく本人を見て、肺がんよりも肺気腫を疑い処置すべきだったと指摘される河田。結局、自分の最終的な診断ミスにより、敏夫は不本意にも苦しみ続け生き絶えるしかなかったのかと、河田は悔恨の念に苛まれる。
長野の元で在宅医としての治療現場を見学させてもらい、在宅医としてあるべき姿を模索することにする河田。大病院の専門医と在宅医の決定的な違いは何か、長野から学んでゆく。
2年後、河田は、同じく末期の肺がん患者である本多彰(宇崎竜童)を担当することになる。以前とは全く違う患者との向き合い方をする河田。ジョークと川柳が好きで、末期がんの患者とは思えないほど明るい本多と、同じくいつも明るい本多の妻・しぐれ(大谷直子)と共に、果たして、「痛くない死に方」は実践できるのか。
出演:
柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二
大西信満 大西礼芳 下元史朗 藤本泉 梅舟惟永 諏訪太朗 田中美奈子
真木順子 亜湖 長尾和宏 田村泰二郎 東山明美 安部智凛 石山雄大 幕雄仁
長澤智子 鈴木秀人
監督・脚本:高橋伴明 原作・医療監修:長尾和宏
製作:内規朗、人見剛史、小林未生和、田中幹男
プロデューサー:見留多佳城・神崎良・小林良二
制作:G・カンパニー 配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:「痛くない死に方」製作委員会
(C)「痛くない死に方」製作委員会
公式サイト:http://itakunaishinikata.com/
2月20日シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
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