【インタビュー】「誰も求めてないなら死んだっていい」坂口拓が77分ワンカットアクションに挑んだ時。
8月21日より映画『狂武蔵』が公開となる。本作は、9年前に、主演・坂口拓がたった独りで400人の相手を斬り捨てるという前代未聞かつ実験的とも言えるアクションを、77分ワンシーン・ワンカットで撮影されたものがベースとなっている。
当時の撮影で、坂口拓は指と肋骨を骨折しながらも、最後まで狂武蔵を演じきった。しかし撮影後、坂口拓は、気力を使い果たしたことを主な理由に俳優を一時引退することになる。
その後、旧友の下村勇二監督や、下村がアクション監督を務め、坂口が左慈役を演じた『キングダム』に主演した山﨑賢人らから背中を押される形で、2019年3月に山﨑賢人ら出演のドラマ部分を追加撮影してついに作品として完成、2020年8月21日公開となった。
9年前の思い、そして今回公開することになった今、坂口拓は何を考えるのか?ご本人にたっぷりと話を伺った。
なお、下村勇二監督にも本作についてロングインタビューを敢行しているので、こちらも合わせてご覧いただきたい。
坂口拓インタビュー
■今は本物のアクション俳優がいない
– 坂口さんにとって、アクションとはなんでしょう?
坂口拓(宮本武蔵 役)
アクションっていうのは作品の相手を活かすものです。一方で、格闘技はアクションとはベクトルが全然別のもので、相手を倒すもの。
俺の中でアクションの定義は、“相手に対してリスペクト”“ケガをさせない”“思いやり”。この3つがあれば殺し合っていいって思っています。
– アクション俳優になられたきっかけを教えて下さい。
坂口拓
当時、石川県金沢市に住んでいて、今は無くなったんですが片町というところに映画館が2つありました。
子どもの頃の俺は友だちがいなかったというのもあって、おふくろがよく映画を観に連れていってくれたんです。特にアクション映画をよく観ていたので、それがきっかけで映画が好きになって、アクション俳優を目ざすようになりました。
– アクション映画というのは邦画ですか?
坂口拓
邦画ですね。おふくろは特に真田広之さんが好きでした。
俺もJACに入りましたが、半年で辞めました。自分が求めているリアリティさが無いと思ったので。
今は本物のアクション俳優っていない。昔は本物のアクション俳優がいましたけどね。真田広之さんもそうですし、千葉真一さん、倉田保昭さん。
– 海外映画のアクションの状況はどうなんでしょうか?香港映画も含めて。
坂口拓
ほとんど型どおりですよ。
香港映画のアクションもメイキングを見たらわかります。(完成版では)どれだけ早回ししているのかってことが。
実際の話、主演の人が全部やってたら、ケガをした場合、撮影を続行できなくなりますしね。
海外の映画関係者からも、「拓ぐらいだよ、本物のアクションは。」って言われますから。まぁ、本物っていうか、いかれてるってことですけど(笑)
– 本作のタイトルにも“狂(Crazy)”ってついてますしね(笑)
■一度は心が折れたが、ラスト20分で覚醒の境地に。
– 77分のアクションシーンでは、撮影開始5分で指を骨折、肋骨も折れたと伺いました。
坂口拓
撮影に入る前に、アクションマンたちを鼓舞したんです。本気で俺を殺しに来いと。樫の木っていう一番固い木剣に銀を塗って刀に見せて、もちろん先も尖ったものを使っていて、1年間訓練させました。
で、お前たちが本気で殺しに来ないのが1回でもわかったらお前たちの頭を殴って殺すって言ったんです。彼らを鼓舞して気合を入れるために。
そしたら、「用意スタート!」って撮影に入ったら、奴ら、めちゃめちゃ来やがったんですよ。そしたらもう5分で指が折れちゃったんです。木刀といえども樫の木は重くて固く、宮本武蔵はそれで人を実際に殺してたものですから。
77分の撮影ですから、たまにタイムコールをくれと言ってたんですが、指が折れた時に「あと72分です!」って聞いて、心も折れました(笑)
だから、何が大変だったって、ずっと心が折れたまま闘ってたことですね。
– もともとは園子温監督の時代劇映画『剣狂-KENKICHI-』がきっかけだったんですよね。この作品自体は出資サイドの問題で撮影中止になってますが。
坂口拓
そうです。その作品では10分間だけリアルにアクションをやろうってことになっていて、10分間なら集中できるって思ったんです。
– それが77分間となると、それは意識してできるものなのでしょうか?それとも無我の境地に達しているという感じでしょうか?
坂口拓
ラスト20分の門前で闘うシーンで、いきなり覚醒しました。その時は相手の刀を受けすぎて手のマメもつぶれて血だらけになってたんですが、力が抜ける感覚になって、刀をクルクル回し始めたところではもう、どんな太刀も受けられるようになってました。なんか、自分自身を遠くから見ているような感覚になっていましたね。背後の空気の動きも鋭敏にわかるようになって、なんか、映画の中でほんとに強くなったんですね。
それがなかったら最後まではとても耐えられなかったと思います。逆にそれがあったおかげで朝まで闘えるくらいの境地になりました。
– それは、“ハイになる”ということですか?
坂口拓
“ハイになる”のとは違いますね。アドレナリンが出た状態で闘うとケガをするので、逆に気持ちを抑えた境地です。高ぶる気持ちを抑えてアクションをするんです。
– 私も空手をやってたんですが、そのような境地は感じたことが無いです。
坂口拓
俺はけっこうありますね。高校時代は弓道部だったんですが、最後の決勝戦で、観客とかみんな消えて真っ暗な部屋の中に的と自分だけがいるんです。そして的が大きく見えてきて、ただ弓を放てばいいんだと思えてきて、そしたらど真ん中に矢が刺さって。
『狂武蔵』では、それは俯瞰で自分を見ているような境地になったということです。“ゾーン”と表現されたりする境地です。
■宮本武蔵は人間っぽい。
– 「この映画は俺の生き様そのものだ」って坂口さんはおっしゃってますが、宮本武蔵とご自身で似ているなと感じられているところはありますか?
坂口拓
宮本武蔵も人間っぽい人物だったと思うんですよね。ほんとに強い剣豪ってもっとたくさんいたと思いますが、彼らの中で宮本武蔵が強いなんて誰も言わないです。
佐々木小次郎との対決で武蔵が遅れてきたという有名な話がありますが、本当の“侍”だったらそんなことしないです。自分の剣に生きているんだったら、正々堂々とするのが“侍”ですから。
遅れてくるという時点で、武蔵は“侍”じゃないんです。彼がやったのは兵法ですし、(侍視点では)卑怯とも言える。でもそこが人間っぽくていいなって。
– 勝利にこだわるってことですね。
坂口拓
そうですね。死んだら終わりだからこそ、どれだけ汚かろうが何をしようが、生き残ることに賭けている。
『狂武蔵』のセリフはひとつも決まってなくて全部アドリブなんですが、その中で俺が「宮本武蔵参る!」って言ってる瞬間があります。無意識で思わず言ったんですが、その時から俺の中で気持ちが変わったんだなと、武蔵の境地になったんだなと改めて当時を振り返るとそう思います。それが先ほど言った門前でのシーンなんですが、その時から技術がドカーンと上がりました。
このことは、今日インタビューを受けていて気づきました。
– 私たち、普段生活している中でそういう感覚になるってことないですし、実際にその瞬間に立ち会いたかったなと思います。
坂口拓
その時、周りの皆、涙を流してましたね。
時代が変わっても、男の子は、かぶき(歌舞伎)続けないといけないってことですよ。でもほんとは心の中では泣いてるんですよ。
本作についても、もともとは10分のために皆が練習していたのを、自分がかぶいて、「長編で70分以上でやりましょうよ!」って。
そしたら皆が「拓さんが言うんならやろう!」ってなってくれたんですけど、「何を言ったんだ俺は?」と心の中では泣いてました(笑)
■“戦劇者”として映画の世界に帰ってきた坂口拓の思い
– その9年前に撮影した77分間のアクションが、今回『狂武蔵』として公開されることになったお気持ちをお聞かせください。
坂口拓
自分としてはやりきったし区切りがついて終わったものでした。当時の撮影を通して強くもなれましたし。また、リアリズムのアクションも結局は自己満足でしかないとわかり始めていたので、これ以上やっても仕方ないなって。
最後はお客さんが何を選ぶかってことで、それこそワイヤーアクションやカット割りなどで派手にしたアクションの方が観た感じが面白いと思われるのも事実。
なので、自分の中では役者をやってても仕方ないなって、“終わり”としていました。
何かを変えたいって思っても変わらなくて、もがき続けているのが『狂武蔵』です。俺はこの世界のアクションを変えたいって。ただカッコいいアクションを見せるんじゃなくて、泥臭くてもいい、その人間が映ればいいっていう思いから。それが俺のアクション道だから。
でもそんなものを求め続けても誰も理解しないんだったら、“死んだっていい”って心の中では思ったからです。
だから撮影中、殺しに来いって思ってました。
ほんとは、弓矢で俺を狙ってくれって言って、実際に矢を刀でさばくところも見せたんですが、それはダメだってなって。よく考えたら、俺の周りにいる人たちに矢が当たったらマズイですからね。
でも、下村監督や太田プロデューサーや、皆が復活させたいっていう「思い」を受けて、それが背中を押してくれて『狂武蔵』という形になりました。
でも、あの頃の自分はもう二度と生き返らないですよ。だからある意味死んだんですよね。心は死にました。
だから今、あなたがインタビューをしている相手は、心の無いサイボーグだと思ってください(笑)
– アクションに真剣に立ち向かわれる坂口さんと、そのようにギャグを言う坂口さんとギャップを感じます(笑)。「たくちゃんねる」もそうですが。
坂口拓
そうですか?基本はこんな感じです(笑)アクションやる時も別に構えませんし。
『キングダム』の撮影の時も、俺が立ち回りを作っているのを皆が遠巻きに見ていて、1回も合わせずにカメラを回してってやるくらい。
逆に役づくりとかはあんまりしないです。こんなことを言うと怒る俳優さんもいるかもしれないですけど、芝居しようがなにしようが、その人間のままじゃないですか。なのでその人間の生き方が映ればいいんだったら、自分の普段の生き方さえしっかりしていればいいなって思ってます。
そういう意味では自分は俳優じゃないのかもしれないですね。自分のことを敢えて“戦劇者”って言っているのは、俳優さんができないことを表現できる人間でありたいなって思っているからです。
■山﨑賢人との共演、再び!
– 本作に山﨑賢人さんが参加されたのは、『キングダム』での共演で山﨑さんが坂口さんに惚れ込んだからだと伺いました。
坂口拓
むちゃくちゃ嬉しかったですね。
77分のアクションシーンだけだと、僕が暴れているだけ。なので、下村勇二監督に前後にドラマ部分を付けてもらって、そこに賢人が「自分で力になれることがあれば」っていう思いで華を添えてくれたことは、感謝の気持ちが強いですね。
– 歳が離れたお二人が、誕生日やクリスマスも一緒に過ごされたようですね。
坂口拓
親子だろって言いたいんだと思いますが(笑)、兄弟分だと思ってますね。賢人はかわいい弟だと思って一緒にいますね。
– 今回、山﨑賢人さんのシーンを含めて、追加撮影が行われていますが、9年前と今と、アクションに対して、坂口さんの中で進化したなって感じることはありますか?
坂口拓
9年前は自分の中でのリアリズムを突き通しましたが、一度俳優を引退して、稲川義貴先生のところに入って、ウェイブをやるようになりました。なので今は、リアリズム×ウェイブということで、さらに上に行き始めました。
■『狂武蔵』は新たなスタートとなる作品
9年前の撮影を終えて「心が死んだ」と語った坂口拓。だが、いろんな人の思いを受けて今回の『狂武蔵』という作品を完成させた彼は、新たな境地に進み始めたようだ。
それは、8月5日に行われた本作の完成披露イベントでの坂口の次のコメントからも読み取れる。
坂口拓
アクションにはいろいろなものがあります。ワイヤーだったり、カット割り、CGなど。でも、一人の人間の身体だけを使った、そしてそれは日本人として受け継がれている骨格だったりを、侍という形で表現していけたらなと思っています。『狂武蔵』はそれのスタートです。
■ウェイブ式肩こり解消!
坂口拓さんいわく、ウェイブとは「肩甲骨から波を起こして相手に伝えるもの。スピードも全然違ってきますので、刀の振りも速くなります。」とのこと。
最後にそのウェイブで、記者の酷い肩こりに“波”を送っていただきました!
ウェイブの波動は、痛いような、痛くないような不思議な感覚。
衝撃はかなりありますが、叩かれているとも、もまれているのともまた違う感覚で、何をされているのか想像つかない感覚でした。
でも終わったあと肩まわりは本当にスッキリ!
ですが、坂口さんが笑顔で「内臓に当てたら破裂する」と言っていたのを聞いて震えました。
[インタビュー:安田寧子/写真:桜小路順/場面写真クレジット:(C)2020 CRAZY SAMURAI MUSASHI Film Partners]
映画『狂武蔵』
STORY
1604(慶長9)年、9歳の吉岡又七郎と宮本武蔵(坂口拓)との決闘が行われようとしていた。
武蔵に道場破りをされた名門吉岡道場は、既にこれまで2度の決闘で師範清十郎とその弟伝七郎を失っていた。
面目を潰された一門はまだ幼い清十郎の嫡男・ 又七郎殿との決闘を仕込み、一門全員で武蔵を襲う計略を練ったのだった。
一門100人に加え、金で雇った他流派300人が決闘場のまわりに身を潜めていたが、突如現れた武蔵が襲いかかる。
突然の奇襲に凍りつく吉岡一門。そして武蔵 1人対吉岡一門400人の死闘が始まった!
場面写真&ポスタービジュアル
[(C)2020 CRAZY SAMURAI MUSASHI Film Partners]
出演:TAK∴(坂口拓)、山﨑賢人、斎藤洋介、樋浦 勉
監督:下村勇二
原案協力:園 子温
2020年/91分/16:9/5.1ch
企画・制作: WiiBER U’DEN FLAME WORKS 株式会社アーティット
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2020 CRAZY SAMURAI MUSASHI Film Partners
公式サイト:https://wiiber.com/
予告編
メイキング映像
アクションシーン・メイキング映像
2020年8月21日(金) 新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
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