
ブルース・リーの精神が息づく現場?門脇麦×竹中直人×ワン・チイ監督が『ゴースト・オブ・ウエノ』FCCJ記者会見で語った映画哲学
本作の舞台は上野公園。ソーシャルワーカーのサツキは、孤独死した身元不明の路上生活者“ゴージョー”が遺した一冊の日記を見つける。サツキは、亡き妻の生まれ変わりを信じるホームレスのトシとともに、日記を手がかりに彼の生涯を追い始める。
やがて明かされるゴージョーの真実は、サツキ自身の抱える喪失の記憶とも重なり、彼女の人生を大きく揺るがしていく。失踪者という“社会の外側に生きる人々”の視点を通し、すれ違う人々のつながりや生と死を超えた魂の絆を静かに描き出す ヒューマン・ミステリーである。
イベントレポート
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「アウトサイダー」の目線が重なり生まれた企画
門脇が「映画を気に入っていただけたなら幸いです」と挨拶すると、続く竹中は「監督のワン・チイがとても可愛くてまた愛してしまいました」と語り、笑いを誘った。
ワン監督は、巨匠ウェイン・ワン監督が「ホームレスの目線から東京の歴史を描きたい」と発案したことが始まりだったと振り返る。リサーチを経てワン監督が自ら監督を務め、ウェインが共同脚本を担当。「僕たちは外国人。外国人の目線と、社会のアウトサイダーとしてのホームレスの目線を重ね合わせて描くことが出発点だった」と語った。
「私は役作りはしない」竹中直人が明かす独自の演技論
司会から「若き監督からのオファーをどう受け止めたか」と問われると、門脇と竹中はそれぞれの役に対するスタンスを語った。
門脇は、最初の台本がまだ準備稿段階だったことを明かし、「不確かなものをたくさん作品に取り入れたいという監督の強い意向を感じた。台本を覚えてお芝居をするだけではない撮影になる覚悟で、腹をくくって臨んだ」と当時を振り返った。
一方、ホームレスのトシ役を演じた竹中は「私は基本的に、役作りという言葉が苦手である」と断言し、会場を驚かせた。「役を作るのは観ているお客さん。自分のことすらよく分からないのに、役を演じるとそれが分かるようになるというのは不思議。だから、私はいつもその場その場の即興劇的なものを求めている」
演技は事前の設計ではなく現場との化学反応とし、「監督の眼差し、ロケ場所の匂い、共演者の発する音色をどう受け止め動くか。その日の気持ちの積み重ねがたまたま役になっていく。直感力が大事。ワン監督の佇まいを感じながら、私はただ動いただけであった」と語った。
ブルース・リーの “Be water” のような撮影現場
イベント中盤、話題は作品に漂う「不確かさ」や、感情を揺さぶる即興演技へと及んだ。劇中、サツキ(門脇)が河川敷で暮らすマリからゴージョーの過去を聞き涙を流すシーンがある。
門脇は、「アドリブは苦手なのでセリフは台本通りだった。ただ、感情の道筋を手放して心に赴くままに演じることを意識した。泣く予定は元々なく、ドライな表現から感情が大きく動くものまで複数撮影し、編集に委ねた」と語る。
竹中との共演についても、「お互いに何も決めずに臨んでいた。ドキュメンタリーを撮る旅のような感覚だった」と振り返った。
これに対し竹中も深く頷き、監督の演出スタイルを伝説のアクションスターの言葉に例えて絶賛した。「ワン監督は、通常の『カット、オッケー』という枠組みの中に存在していないような人。ただ僕たちの芝居を見つめていて、その眼差しから波動が伝わってくる。芝居を形に決め込んでいかない。だから、ブルース・リーの “Be water”(水になれ=固定観念や型からの解放/環境を受け入れ活用する/「柔軟さ」と「力強さ」の共存)という感じの現場だった。非常に居心地が良く、狙って何かをやるのではなく、麦ちゃんと話しているうちに自然とそうなっていった。本当に珍しい監督である」
名前に隠された「ランダムさ」と不条理劇へのユーモア
「ゴージョー」という名前の由来についてワン監督は、囲碁のAIアプリ「AlphaGo」から着想を得たランダムな命名だったと明かす。「外国人がつけた日本語っぽい名前として、ウェイン監督ともあまり考えすぎずに決めた」
客席から「サミュエル・ベケットの不条理劇『ゴドーを待ちながら』のジョークではないか」という分析が上がると、ワン監督は「実はそこまでは考えていなかった(笑)」と回答。しかし、竹中が「ベケットの芝居のジョークとして名付けたと言った方がとても感動的だし、そう言っておいた方がいい!」と突っ込むと、監督も「じゃあ、そう言いたいことにします(笑)」と応じ、会場を沸かせた。
言葉が通じない「自由」と、ジャッキー・チェンとの思い出
本作が日中韓共同制作という多国籍チームで作られた現場の違いについても質問が及んだ。
門脇は、撮影監督が中国、照明がスペインという多国籍チームを振り返り、「通訳がほとんどおらず、忙しくなると誰も通訳しなくなった。それでも皆が空気で察して準備を進める不思議な現場で、それ自体が映画のようだった。日本人が撮るのとは絶対に異なる空気感が肖秋雨カメラマンによって切り取られていた」と語る。
竹中も「昔、劇団のスペイン公演で言葉が通じない中、プレッシャーから解放され自由になれた。今回も言葉が通じないからこそ『どうだっていいんだな、そんなことどうでもいいじゃないか』という究極の自由を感じて芝居ができた」と振り返る。
さらに竹中は、過去に出演した中国・香港合作映画『新宿インシデント』での撮影を思い出し、ユーモラスなエピソードを披露した。「その映画のイー・トンシン監督は『自由に演じていい』と言ってくれたのだが、いざ撮影が始まると、共演したジャッキー・チェンに細かく動きを決められた。そしてその通りに演じたら、監督から『君の芝居はオーバーだ!』と怒られた。ジャッキー・チェンに怒られたのを思い出した(笑)」と暴露し、会場を爆笑させた。
ワン監督も「言葉が分からないからこそ、本能や直感で芝居を見つめることができる。それは準備されたもの以上の面白さを生み出す」と言葉の壁の効用を語った。竹中は、現場で唯一覚えた中国語「不用(プヨン:いらない)」を挙げ、「カメラマンが『さつき、プヨン』と言うと、このカットはいらないんだな、休憩しようと判断できた(笑)」と最後まで会場を盛り上げた。
ワン監督は「今回の作り方は本当に奥が深く、まだまだ未知の領域がある。ぜひ劇場でご覧いただきたい」と締めくくり、イベントは幕を閉じた。映画『ゴースト・オブ・ウエノ』は、8月8日(金)より渋谷ユーロスペースほかにて全国公開される。
映画『ゴースト・オブ・ウエノ』
《INTRODUCTION》
一人の路上生活者が亡くなった。彼の本名も、生前に何をしていたのか、どうして公園のテントハウスにたどり着いたのかも、真実を知る者はいない。ソーシャルワーカーのサツキは、ホームレスのトシに助けを借りてその痕跡を追うが……。
年間8万人以上もの人が行方不明となっている失踪大国、日本。そのうち3万人は孤独死、さらにその約1割は身元不明の無縁仏とされる。日本における失踪問題が世界的にも視線を集める中、かつてはホームレスの人々がテント村を形成していた上野公園が本作の舞台。美術館、博物館、動物園などが点在し、国内外から常に多くの人が集まるウエノを中心に、一人の人間の生き方としての“失踪”に焦点を当て、すれ違う人と人のつながりに迫るヒューマン・ミステリーが生まれた。
生活困窮者をサポートするNPOの職員にして、自らの生い立ちにとある喪失を抱えるサツキを演じたのは門脇麦。日台合作映画『オールド・フォックス 11歳の選択』(24)に台湾人の役で出演するなど、アジアの映画界に活動の場を広げる中、本作では失踪者に“残された”側の孤独と心の移ろいに力強く向き合った。サツキと行動を共にし、亡き妻の生まれ変わりを信じるホームレスのトシには竹中直人。現在と記憶のあわいを生きるような人物像を繊細かつチャーミングに立ち上げている。
監督は幼少期を日本で過ごし、イギリスで映像を学んだワン・チイ。短編映画『CAOCHANG』(2011)で第62回ベルリン国際映画祭ジェネレーションKプラスコンペティション部門に選出され、長編監督作品『THE BARGAIN』(2021)は第26回釜山映画祭でスペシャルメンション賞を受賞した。日本の映画ファンにも根強く愛されているハーヴェイ・カイテル主演『スモーク』(95)のウェイン・ワン監督が共同脚本に名を連ね、日本・中国・アメリカと世界各国にルーツを持つスタッフとキャストによるコラボレーションが実現した。
ある日突然いなくなった人々はなぜ家に帰れなくなったのか。都市の再開発が進むのと引き換えに社会から排除されたホームレスはどこへ行ったのか。どんな人も、誰かにとっての友人であり、家族であり、大切な存在だったかもしれない。彼らは姿が見えなくなっただけで、この世から消えたわけではない。その行方を探す旅は、生と死を超えた魂のつながりへと観る者を誘う。
《STORY》
上野でソーシャルワーカーとして働くサツキ(門脇麦)は、都内の公園の青テントで、“ゴージョー”と呼ばれる身元不明のホームレス男性が遺した日記を見つける。
妻を亡くして自身も公園で暮らしているトシ(竹中直人)とともに、ゴージョーの正体を求めて、日記を手がかりにホームレスのネットワークを訪ね歩くサツキ。
やがてその先に一人の女性の存在が浮かび上がる。さらに荒川の土手で生活するマリの口から明かされたのは、ゴージョーが自ら家族との縁を切ったという過去。
それはサツキの人生をも大きく揺るがす事実だった。
ゴージョーとはいったい何者なのか。彼はなぜ世間から姿を消したのか。そしてサツキが本当に探している人物とは……
- メインカット
- 場面写真1
- 場面写真2
- 場面写真3
- 場面写真4
- 場面写真5
- 場面写真6
- 場面写真7
- 場面写真8
出演:門脇麦
村松和輝 一本気伸吾 比佐仁 前原実 平野貴大 佐々木史帆 輝有子
愛い姫 フェルナンデス直行 楊心彦 池﨑凛歩 原田文明
竹中直人
監督:ワン・チイ
主題歌:スターダスト☆レビュー『路傍の歌』(日本コロムビア)
脚本:リ・ヤン ワン・チイ ウェイン・ワン
音楽:松本淳一
製作:星野晃志 キム・ギョンフン 丸山えり 陳麗麗
プロデューサー:平田樹彦 古賀奏一郎 黄悦
配給:NAKACHIKA
制作プロダクション:SS工房
ⓒ 2026「ゴースト・オブ・ウエノ」製作委員会
公式サイト:https://ghostofueno.com/
公式X: https://x.com/ghostofueno
予告編
2026年8月8日(土)渋谷ユーロスペースほか公開
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