【インタビュー】安田淳一監督「このために僕は映画を撮ってきた」映画『侍タイムスリッパー』
たった1館の封切りからスタートしたインディーズ映画『侍タイムスリッパー』が絶好調だ。本作の魅力に惚れたギャガが配給に乗り出し、300館超えの公開が決定。現在(*)も全国230館で上映中だ。そんな破竹の勢いについて、戸惑いすら感じていて、米農家でもある安田侃監督に話を聞いた。
(*2024年10月末現在)
武士が落雷によって現代の“時代劇撮影所”にタイムスリップし「斬られ役」として生きていく姿を描いたこのコメディ作品は、安田監督が監督のみならず、脚本、原作、撮影、照明、編集/VFX、整音、タイトルデザイン/タイトルCG製作、現代衣装、車両、制作…と1人11役以上を務め、わずか10名足らずのスタッフと共に生み出された超・自主制作(インディーズ)映画。
しかしながら、「自主制作で時代劇を撮る」という無謀な試みに「脚本が面白い!」と、時代劇の本場、東映京都撮影所が特別協力をするなど、監督・キャスト・スタッフたちの熱い想いと作品の圧倒的な個性から、「侍タイ」の輪がどんどん広まり、遂に今回の拡大公開へと繋がってきた。映画愛に溢れ、老若男女問わずに愛される作品が、いま大きく羽ばたこうとしている。
安田淳一監督 インタビュー&撮り下ろしフォト
■企画から撮影実現までの道のり
‐本作は脚本も安田監督ですが、アイディアはどこから?
安田淳一監督
きっかけは、2017年頃の京都映画企画市という、京都ヒストリカ国際映画祭の一貫でもある時代劇の縛りがあるコンテストに応募しようとなったことです。
当時、有名な俳優さん演じる侍が現代の日本にタイムスリップしてくるというCMがあって、同時に(僕の)前作の『ごはん』という映画作品で、福本清三さんにご出演いただいて、懇意にしてもらったので、その2つが合体した時に、幕末の侍が現代で福本さんみたいに斬られ役をしたら面白いんちゃうかなというところで、まずベースのアイデアが浮かびました。
でもそれだけだったら短編ぐらいのアイデアしかないから、僕の好きな『蒲田行進曲』のようなクライマックスをできないかということで、真剣の立ち会いというアイデアを足して、長編作品としての企画書に仕上げ、出品したところ、その企画が通ったんです。
‐企画が通るとどのような権利が?
安田淳一監督
優秀賞をもらったら、5分のパイロットフィルム用に、当時は250万円ぐらいの予算が降りたんですが、5作品が優秀作品に選ばれて、それぞれプレゼンをできるわけです。
そのプレゼンに僕も出たんですけれども、持ち時間7分ぐらいあったのに、そのうちの5分を自己紹介に使ってしまって(笑)、残り2分で肝心の映画作品の説明することになり、すべて話し終わらないうちに時間切れとなってしまいました。そのせいでもちろんですが、選外になってしまいました。
‐そこからご自身の力で、映画製作予算や、東映京都撮影所さんの力を借りるとか、どのように実現されたのでしょうか?
安田淳一監督
コンペには落ちたんですが、この企画は面白い!と思ったので、更にブラッシュアップして、予算確保のために、何社かの企業を周ったんです。そうしたら何社かが協賛していただけることになって、脚本を書き始めました。
そうすると、世の中がコロナ禍になって、協賛してくれるはずだった企業さんの経営が大変なことになって、いったんご破算になったんです。
その後、2年ほど経ってから、東映さんの京都撮影所から一度話をしたいとご連絡をいただいたんです。
京都撮影所さんには、福本さん出演も含めて、企画書と脚本を渡していたんです。福本さんご自身は、2021年1月1日に亡くなりましたが。
撮影所さんのお話を伺に行くと、有名プロデューサーさんが、美術、照明、床山、メイク、衣裳などのスタッフを用意して待っていただいてたんです。
大きな作品の実績がある錚々たるスタッフさんたちでしたが、脚本が面白いから、なんとかしてやりたいという想いを持っていただいたということで。
‐すごい!
安田淳一監督
そしてそのプロデューサーさんが、東映の京都太秦撮影所は、夏は使わないので、その期間なら安く貸すことができると。
床山さんのギャラも通常の3分の1くらいでと。それでもマンション1戸買えるぐらいの値段でしたけれども
。でもそのプロキャッチさんが今年限りで引退するということだったので、この機会を逃すわけにはいかないと思ってお話に乗ることにしました。
‐その結果、殺陣の清家さん、床山の川田さん、時代劇衣装の古賀さん、照明の土居さんと、錚々たる方々に参加してもらうことができたんですね。
安田淳一監督
そうです。床山の川田さんのおかげで、カツラと地肌の境目がわからないほど素晴らしくなりましたし、古賀さんのおかげで、いかにも衣裳部屋から出てきたという新しくてキラキラの衣裳ではなく、リアリティのある使用感のある衣裳を出していただけました。
こうしたことのおかげで、作品の“絵”が成り立っていると思います。
‐今年の4月12日も追加撮影を行って、完成したのは6月だそうですが、本撮影はいつだったんですか?
安田淳一監督
2022年です。12月中旬に撮影を終えて、12月30日に初号試写をしました。AFF2(ARTS for the future! 2/文化芸術振興費補助金)の規程があるからです。
その後、翌2023年の8月26日に1週間、1日2回ずつ、これも同じく規程に沿う形で大阪のシアターセブンで上映しました。
そこからまたいくつか編集をし直して、2023年の10月14日に京都国際映画祭での特別上映。
その後、今年になって、予算不足で撮影を断念していた部分を追加撮影する資金の目処が立ったので、4月12日に追加撮影しました。
■たった1館の上映開始から一気に全国ロードショーへ。
‐8月17日の池袋シネマ・ロサ1館だけでの公開から、9月4日解禁のニュースにあったように「ギャガ」が配給に加わり、全国100館以上の上映が決まるまで、わずか半月。その間にいったい何があったのでしょう?
安田淳一監督
まずは、シネマ・ロサさんで公開を始めたのがすごく良かったなと思います。映画『カメラを止めるな!』の大ヒットに繋がったように、シネマ・ロサさんは、インディーズ映画の聖地と言われていますし、お客さんの反応が何よりとても良くてSNS含めて大評判になりました。
安田淳一監督
そういう反響を聞きつけたTOHOシネマズのある方が、シネマ・ロサさんに足繁く通われて、お客さんがゲラゲラ笑って、最後に大拍手になるというお客さんの反応と一緒に『侍タイムスリッパー』を観てくださった。
そういう反響を聞きつけたTOHOシネマズのある方が、シネマ・ロサさんに足繁く通われて、お客さんがゲラゲラ笑って、最後に大拍手になるというお客さんの反応と一緒に『侍タイムスリッパー』を観てくださった。
上映2週目になろうとしていたそのタイミングで、上映作品編成の担当の方が動いてくださってお願いすることにしました。
後に続く自主映画制作の皆さんのためにも、自社で良い映画作品を作ったら、松竹さんやTOHOシネマズさんが取り上げてくださって、映画館のスクリーンを押さえてくださるという先例を作っておきたいなとも思ったからです。
そして、40~50館ぐらいは決まったところで満を持してギャガさんが入ってくださって、即100館以上の上映を決めてくださったんです。
‐なるほど。お客さんの反応含めて、そういった大きな動きが短期間で起こったことに、安田監督の気持ちは?
安田淳一監督
なかなかついていけなかったですね。そもそも作品の監督に対して「面白かった」と言ってくれるのは当たり前じゃないですか。よっぽどアンチな方で無い限り(笑)
スマホでSNSなんかでの反響が良いのを見ても、「これは自分のタイムラインの中だけのエコーチェンバー(*1)や」って思い込むようにしていたんです。
例えば、シネマ・ロサが満席になったとしても、「今日は土曜日で舞台挨拶もあるしな」とか、水曜日の平日に満席になっても「今日は料金が安い日やからな」とか、そんなに甘くない、甘くないと、自分の気持が浮かれないように落ち着かせていました。
でも、つい先日も新宿の580席あるスクリーンが満席になったと聞くと、さすがに「ほんとにヒットしているな」って思って、ちょっとだけ浮かれたりはしました(笑)
でもこうなったことについて思うのは、自分が計画してやってきたことよりも、それこそ東映の皆さんにいっぱい協力してもらったりとか、俳優さんもとても前向きにやってくれたりとか、単館上映時のお客さんのSNSでのつきない絶賛、そして、TOHOシネマズさん、松竹さん、ギャガさんが、実績のない僕らを、火中の栗を拾い上げるような感じで、そういう人のご縁や幸運に助けられて、今があるなというのは強く実感しています。だから「どうだ」とドヤ顔するような気持ちには全くなれないです。
(*1 エコーチェンバー:SNS上で、自分と似た興味関心を持つユーザーとつながることで、自分と似た意見や自分にとって心地良い意見ばかりが返ってくる状況)
■「このために僕は映画を撮ってきた」カナダでの体験
‐カナダ・モントリオールで開催された「ファンタジア国際映画祭」で上映されたときの客席の反応を映像で見ましたが、爆笑に続く爆笑で大反響でしたね。
安田淳一監督
こんなところで笑うのかな?というところもありましたけど(笑)、カナダのお客さんは映画を思いっきり楽しむという姿勢が鮮明でした。
海外の方に、あれだけ笑ってもらって、喜んでもらって、拍手いっぱい起こって、とても嬉しかったです。
一緒に行った山口馬木也さんも、沙倉ゆうのさんもゆうのさんのお母さんもお客さんの反響ぶりを見て泣いてましたし、行って本当に良かったなと思いました。
【動画】ファンタジア国際映画祭 映画『侍タイムスリッパー』上映日(2024.7.28)
‐そして、観客賞金賞を見事受賞されました。
安田淳一監督
ほんとうにビックリしました。劇場ではお客さんがスタンディングオベーションで僕達を迎えてくれたんですが、その様子を僕自身がGoProやスマホで撮影しながら、「接待かな、お客さんすごい盛り上がってくれてはるなぁ。馬木也さんはいい感じに泣いてくれてはる。この映像は宣伝に使えるな」って、僕は割と冷静に思っていたんです。
そして、後日、観客賞金賞受賞の連絡を受けて、お客さん達は本当に作品を楽しんでくれたんだとようやく実感することができました。
‐現地のスタンディングオベーションの映像は監督自身が撮られていたんですね。
安田淳一監督
そうです。本当は業務用カメラも持って行ってたんですが、現地の空港に着いたら、レンズが外れていていきなり使えない状態になっていて、GoProだけで撮ったんですが。手ブレ補正とか考えたら本当は業務用カメラで撮りたかったんですけどね(笑)
ちなみに客席からの映像は、ゆうのさんのお母さんがコンデジで撮られています。
‐現地で映画を観たお客さんから監督への直接の感想の言葉はありましたか?
安田淳一監督
ありました。お客さんと僕たちとのフォトセッションがあって、とてもたくさんの方が並んでくれたので、1時間半ぐらいかかったんです。その中で痩せた若い女性がいらっしゃって、車椅子だったんですが、僕に声をかけてくださる時は立ち上がって、泣き腫らした目で「私は、今人生でとてもハードな時を過ごしてるけど、この映画を観てすごく元気をもらって、また明日から頑張れます。」と、英語で言ってくれたんです。この時、「このために僕は映画撮ってきたから、それがカナダの人にも届いて良かった!」と思いました。
■さまざまなこだわり
‐撮影で特にここはこだわった!という点は?
安田淳一監督
あらゆるところにこだわっていますが、剣戟で言えば、刀がちょっと軽く見えるようなワイドレンズで手持ちでという今風の撮り方じゃなくて、三脚にドーンとカメラを据えて重みのある立ち回りを昔の時代劇映画みたいな感じで撮りたいというこだわりはありました。
あと、そのお芝居を撮るときは、フィックスを主体にした小津安二郎さんのような美しい構図を心がけましたし、キャラクターの考えが変わる瞬間をしっかりと捉えることも意識しました
‐映像の全体的な色合いがとても自然に感じて、私個人的にはすごく見やすくて好きでした。
安田淳一監督
これはいろいろな理由があって、まず、カラーグレーディング(*2)をする時間がないと思ったので、晴れた日なんかのコントラストが激しい日で、白飛びや黒つぶれのリスクがある時だけLog形式(*3)で撮ったんですけれども、それ以外は、ほぼSONYのS-Cinetone(*4)の撮って出しです。だからビデオっぽいんですけれども、この映画に関して言えば、映画フィルムっぽい色合いするよりも、年配層のお客さんたちも違和感なく観られるように、ちょっとだけ映画に寄りつつも生々しい色合いで撮った方がいいと思って、敢えてやっています。
(*2 カラーグレーディング:映像に任意のカラースタイルを適用する作業)
(*3 Log形式:一般的な動画ファイルよりもダイナミックレンジ(暗い部分から明るい部分までの描写の幅)が広い撮影方式で、編集時にカラーグレーディング作業の工程が必要となる)
(*4 S-Cinetone:SONY製ビデオカメラの一部に採用されているピクチャープロファイルのひとつ)
安田淳一監督
もうひとつ画面比率について。この作品はテレビサイズに合わせて16:9にしていて、この比率で良い映画を撮り切ろうと思いました。
映画作品は、シネマスコープ(2.35:1)のものがありますが、シネマスコープにすると、どんな作品でも大作っぽく見えるんですよ(笑)それはなんか安易なごまかしのように思えて、あえて16:9で撮り切ろうと思いました。
■いかにお客さんが喜ぶかにフォーカスしてきた
‐そもそもの質問ですが、安田監督が映像制作を始められたきっかけは?
安田淳一監督
大学生のころ、平安神宮の結婚式のビデオ撮影の仕事をしたのがプロとしては最初。撮影についての僕の師匠がいて、同じように結婚式の映像を撮影していて、普段は木工屋を営んでいる方。その方が僕に教えてくれたのは、「自分の才能をひけらかすのがプロやないんや。お客さんが喜ぶ映像を撮るのがプロなんや。」と。
僕だったら10秒のカット撮影で済ますところを、師匠は1分くらい撮って編集しているんですよ。その理由を聞いたら、「親戚の方々がより多く映るから、そうすると観る人が喜ぶ」と。そのようにお客さんに喜ばれる映像を撮るということを駆け出しの僕に教えて頂いたことが今も財産になっています。
その後、映画を撮るようになるまでに、企業映像の仕事もしましたけど、そういうときもいかにお客さんに喜こんでもらうかということにフォーカスしていましたし、町のビデオ屋としては、そこはしっかり達成できていたと自負しています。
‐安田監督は本作では、監督含めて1人11役をこなされていることも話題になっていますね。
安田淳一監督
要はコストダウンのためです(笑)ですよ。自主映画だからこそというのはあるんですが、でもそれを言い訳にはせず、あくまでも商業映画をベンチマークにしたクオリティーの長編映画を撮ることにこだわりました。
例えば、編集、脚本、照明、カメラマンなど、プロの技術者を雇ったらコストが膨れ上がるので、僕自身が独学でも勉強して、技術的なことを一通り網羅できていたら、スタッフは最小限にできてコストダウンとクオリティーのバランスがとれるんじゃないかと思って。
でもこれですごいしんどいんですよ(笑)どう考えてもしんどい。多分日本中探しても、ここまでやってる人はまずいないと思います(笑)
‐エンドロールのスタッフクレジットもすごいことになってますね。次々と安田さんの名前が登場する(笑)
安田淳一監督
これは『拳銃と目玉焼』(安田監督の2014年公開の長編映画)の頃から映画館での笑いどころになっています(笑)
キネマ旬報さんに載ったときも、スタッフクレジットが“安田淳一”ばかりの変な作品があるってなって、僕もそれを見て笑いました。
エンドロール(イメージ)
原作/脚本
安田淳一
撮 影
安田淳一
照 明
土肥欣也
はのひろし
安田淳一
編集/VFX
安田淳一 整 音
萩原一輔 森下怜二郎 安田淳一 タイトルデザイン/タイトルCG製作
安田淳一 現代衣装
安田淳一
冨本康成
車 両
清水正子
安田淳一
制 作
清水正子
沙倉ゆうの
安田淳一
ポスター・チラシデザイン
安田淳一
特報・予告編集
安田淳一
監 督
安田淳一
|
‐先ほどいろんなことを一人でやっているとしすごくしんどいとの事ですが、楽しさもありますか?
安田淳一監督
楽しくはないですよね。しんどいだけで(笑)
特に今回のような良い俳優さんを使っていると、演出をカメラマンを一人でやるのはダメですわ。
なぜかというと、カメラマンをやっているとカメラワークに集中するでしょ。そうすると芝居を見てなくて、カメラマンだけになっている瞬間がけっこうあるんです。
で、俳優さんから「今のはどうでしたか?」と聞かれたときに「良かったんちゃいますか」と適当にごまかしたことがあったから(笑)、途中でカメラマンを雇おうと思ったんですが、「安田さんの要望は無理です」って、仲の良いカメラマンにもフラレたので、仕方なく僕がやり続けました。
‐確かに、私もインタビュー動画の撮影と質問者を一人でやるときがありますが、それでさえも、カメラワークか質問の受け答えかどちらかが疎かになるときがあります(笑)
安田淳一監督
でしょ?すごくわかります(笑)
ただ、(今回は)レベルの高い俳優さんだから、僕がカメラマンだけに専念していても、ちゃんとした絵になっているというのはあります。
■米農家と映像制作の両立
‐安田監督は、京都で米農家もされてますよね。
安田淳一監督
はい。一昨年の11月30日に親父が脳出血で倒れて、そのまま意識が戻らないまま昨年の5月に亡くなったんですよ。親父がいた頃、最盛期は5、6町(≒ヘクタール)ぐらいの田んぼを頼まれて預かってやってましたが、亡くなる直前は3町ぐらいまで減らしてましたね。
でも、僕が引き継ぐなら、自分の家の分だけでも無理だし、親父が生きている時に「お前がやる時は自分の家だけやったらええわ」って言ってたんです。
なので、田んぼを返すのなら、田植えが始まる前に返さなきゃいけないので、親父が倒れた瞬間に、妹とかが手分けしてお断りを入れて、その冬から自分ところの田んぼだけをやるようにしました。
それでも、一町半(≒1.5ヘクタール)ぐらいあるから、やっぱり農作業に時間は取られますね。
‐映像制作との両立は難しいですよね?
安田淳一監督
難しいですね。もし親父が倒れるのがもう少し早かったら『侍タイムスリッパー』の撮影は中断していたと思います。ある程度撮影が終わって、どちらかというと映画のプロモーションに特化していた段階でしたから。
実際、田んぼの作業が大変過ぎて、他の映像の仕事を受ける暇はありませんでした。
田植えや稲刈りは機械に乗ってやったことはあったけども、水の管理や、お米そのものを自分で育んだ経験がなかったから、1.4丁もある稲をちゃんとお米にできるのかというストレスがありました。
毎朝4時に田んぼに水を入れて夕方になると止めたり、その逆とか結構大変でした。そしてジャンボタニシが大発生するし。なので、ストレス発散も兼ねて、ガスガンでバイオBB弾(自然分解されて土に還るBB弾)をタニシに向けて撃ちまくってました(笑)
でもガスガンはガスの消費が激しく、コストがかかるから、最終的にはフルオートで撃てる電動ガンにしました(笑)
ちみに、初速で言うと、最低でも70m/秒を超えていないとタニシの殻には効かないんです。ちょっと奥まったところにいる場合は80m/秒以上、水の中にいる場合は90m/秒近くのパワーが必要。(笑)
‐標準で初速80m/秒超えが必要となると、例えば東京マルイ製の18歳以上向けの電動エアガンなら、マシンガンやカービン系、ライフルタイプのものが必要になるような?
安田淳一監督
田んぼの中でライフルを構えていると近所の住民から警察に通報されるかもしれないので(笑)、ハンドガンで対応しています。
‐今後、新作映画を撮る機会があった場合、田んぼの作業との両立はやはり大変ですよね。
安田淳一監督
大変ですけど、弟や従兄弟も手伝ってくれるようになってきたのと、僕自身も農作業にちょっとずつ慣れてきてはいます。そして、ジャンボタニシ対策もあって、今年は2枚ほど田んぼを休ませているので、そうすると作業も減るし、タニシも死滅するんです。
こういう感じで、いつも全開でやるんじゃなくて、一部を休耕田にしたり。休耕田にすると、月イチくらいにトラクターで草刈りをすればいいだけなので。
‐そうやって映画も作っていきたいと。
安田淳一監督
作っていきたいです。自分でやるんだったら、気心知れた人と500万円ぐらいの予算でもう一度ちっちゃくやっていけたらいいなと思います。決して大ヒットを目指すようなものじゃないんだけど、作品としてはちゃんと面白くて、劇場でも上映してくれるような、そんな範囲でやっていけたらなと。
一方で、お金がかかる企画もいくつか僕は頭の中にあるので、お話をいただけたら提案はしたいと思っています。
‐夢は広がっていきますね。
安田淳一監督
夢というか妄想です(笑)
‐今年は、Netflix『忍びの家 House of Ninjas』、ディズニー『SHOGUN 将軍』、東映も『十一人の賊軍』や『室町無頼』など、時代劇作品が多くリリース、もしくは発表されていて、時代劇が流行っているというのは感じられますか?
安田淳一監督
感じます。特に世界を相手にしようと思ったら、時代劇など日本が感じられるものはアドバンテージになると思います。ただ、僕の時代劇やヒロイズムに対するこだわりはそれらとは違う見せ方で、僕の中にはそのアイディアもあります。時代劇なら、武士の闘い方そのものにフォーカスを当てて、じっくり見せた方が外国の人は喜ぶのでと思います。ヒロイズムで言えば、アベンジャーズ的な方向にしたら絶対に『アベンジャーズ』には敵わないから、『拳銃と目玉焼』でやったような僕独自のヒロイズムを表現できるような形です。
■昭和の香りがして、客席ごとタイムスリップできる映画
‐最後に全国へ拡大上映中の『侍タイムスリッパー』をこれからご覧になる方へ向けて監督からメッセージをお願いします。
安田淳一監督
『侍タイムスリッパー』は、上映中にみんなが笑ったりとか、終わったら拍手していただいたりとか、どこか昭和的な映画体験ができると僕は思っているから、客席ごとタイムスリップできる映画として劇場でご覧いただきたいなと思っています。
‐昭和的な映画体験ができるけど、新しい要素もある作品だなとは思います。
安田淳一監督
特に若い人には新しく感じる側面はあるかもしれませんね。
先ほど、カナダの映画祭で観客がゲラゲラ笑ったり歓声を上げていたという話をしましたが、あの感じは、僕が子どものときに『スターウォーズ』や『東映まんがまつり』を観ていた時の感覚にすごく似ていて、その感じが良かったなって思います。
安田淳一(やすだじゅんいち)プロフィール
1967年京都生まれ。大学卒業後、様々な仕事を経てビデオ撮影業を始める。
幼稚園の発表会からブライダル撮影、企業用ビデオ、イベントの仕事では演出、セットデザイン、マルチカム収録・中継をこなす。業務用ビデオカメラ6台を始め、シネカメラ5台、照明機材、ドリー、クレーン、スイッチャー、インカム他を保有。
2023年、父の逝去により実家の米作り農家を継ぐ。多すぎる田んぼ、慣れない稲作に時間を取られ映像制作業もままならず、安すぎる米価に赤字にあえぐひっ迫した状況。
「映画がヒットしなければ米作りが続けられない」と涙目で崖っぷちの心境を語る。
<自主映画製作歴>
2014年『拳銃と目玉焼』(113分)東映系シネコンにて全国6都市・各都市ミニシアターにてロードーショー、全国のツタヤ・ゲオにレンタルDVD3000枚以上納品。Huluにて配信されレイティング4.0を獲得。
2017年『ごはん』(108分)シネコン全国5都市他ミニシアターにてロードーショー後、各地で様々な主催者による上映イベントが38ヵ月続くロングラン作品となる。2019年秋、動員12,000人達成。
■撮り下ろしフォトギャラリー
[インタビュー・写真:三平准太郎]
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映画『侍タイムスリッパー』
《STORY》
時は幕末、京の夜。会津藩士・高坂新左衛門は、密命のターゲットである長州藩士と刃を交えた刹那、落雷により気を失う。眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。
行く先々で騒ぎを起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだと知り愕然となる新左衛門。一度は死を覚悟したものの、やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と、磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩く。「斬られ役」として生きていくために…。
出演:山口馬木也 冨家ノリマサ 沙倉ゆうの
監督・脚本・撮影・編集:安田淳一
殺陣:清家一斗
撮影協力:東映京都撮影所
配給:ギャガ 未来映画社
宣伝協力:プレイタイム 南野こずえ
©2024未来映画社
2024年/日本/131分/カラー/1.85:1/ステレオ/DCP
公式サイト:https://www.samutai.net/
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