【インタビュー】柄本佑「セリフを言うということは、ほんとうに難しい。ほとんど不可能ではないか?」
映画『春画先生』(10/13公開)で、内野聖陽演じる春画先生の担当編集者役を務めた柄本佑。塩田監督が「いい加減な色男」と称した役柄への取り組みや、「春画」を通して絵画作品への見方が変わったという話を伺った。
映画『春画先生』は、江戸文化の裏の華であり、“笑い絵”とも言われた春画の奥深い魅力を真面目に説く変わり者の春画研究者と、しっかり者の弟子の師弟コンビが繰り広げる異色の偏愛コメディ。
春画先生こと芳賀一郎を内野聖陽、弟子の春野弓子に北香那、春画先生の担当編集辻村俊介を柄本佑、ストーリーの鍵を握る芳賀の亡き妻の姉・藤村一葉に安達祐実ら演技派が揃い、一癖も二癖もある人物たちを嬉々として演じている話題作。
また、劇映画で無修正の浮世絵春画が【R15+】で上映されるのは日本映画史上初だ。
柄本佑 インタビュー&撮り下ろしフォト
■辻村は、春画で表現されている絵の世界に近いような人物
‐脚本を読んだ時の最初の印象を教えてください。
柄本佑(辻村俊介 役)
シンプルに面白い本だなと思いました。塩田さん(原作・監督・脚本)の、一辺おかしなストーリーテリングと、且つ非常に洗練されたものを感じました。キャラクターひとりひとりの立ち方、シーン、展開なんかに過不足がない。でも、過不足がないんだけど、余計なものもいっぱい見えるようなところもあって。
同時に、強固な本だなとも思いました。セリフやキャラクターにかなり強固なものも感じました。
‐読まれてみてやってみたいと思われたということでしょうか?
柄本佑
塩田さんからお話をいただいた時点でやるもんだと心の中では決めていました。
‐演じられた“辻村俊介”というキャラクターへの取り組みは?
柄本佑
フィクション度の強いセリフで、自分からアプローチをかけてこうしよう、ああしようということよりも、そのセリフに乗っかりさえすれば、然るべき“辻村”という人物が立ち上がるだろうと、本を読んだ段階で思いました。
そういう中、本読みのときは、セリフは明瞭に、すなわち元気よくしゃべるようにしました。塩田さんからも「今の方向性でいいと思います」と言っていただけました。
‐「辻村俊介は、通称いい加減な色男」とコメントされていますが、この辻村という男はどういうキャラクターだと捉えられましたか?
柄本佑
その表現は、衣裳合せのときに、塩田監督がおっしゃった言葉なんですが、僕もその表現はしっくりくるところがあるなぁって思いました。
辻村という男は、春画先生こと、芳賀先生(演:内野聖陽)のことを一番に尊敬していて、自分はその弟子であると自覚していて、「春画大全(=芳賀が取り組んでいる春画をまとめた書籍)」の完成を誰よりも楽しみにしている。
なので、弓子(演:北香那)との関係もあるんだけど、そこにある種の爽やかささえあって、視野の広い抜けの良さ、青春を謳歌しているような感覚を持っている。
辻村は「人は春画先生に会うと、心のリミッターが外れてしまうんだよ。」と言ってますが、実は自分もその一人。弓子だけではなく、男性との関係もそうだし、謳歌している。ある種、春画で表現されている絵の世界に近いような人物なんじゃないかなと思います。
■北香那さんの魅力全開の作品になった
‐先ほど、塩田監督の作品はやるもんだと心の中で決めたとおっしゃいましたが、塩田さんとはどういう方だと思っていらっしゃいますか?
柄本佑
けっこうギャップのある方です。作られる作品のような、物静かで繊細さを持った方なのかなと思いきや、現場では意外にとても明快で、元気に前に突き進んで行く感覚があって、役者たちの背中もちゃんと押してくれて、安心感も与えてくれます。
ただ、彼は、作品によって、現場での佇まいは変わるタイプの方なのかなとも感じています。今回の『春画先生』は明るいコメディ作品であるということで、それに合せた現場での佇まいでもあったのかもしれないですね。
‐その弓子を演じた北香那(きた かな)さんとは共演シーンも多かったですが、北さんの印象はいかがですか?
柄本佑
辻村が「なるほどな。先生はその顔がお気に入りなんだろうな」と言うセリフがありますが、そのセリフのとおり、北さんのむくれっ面なんかの表情がとても魅力的です。
加えて、直情的というか、まっすぐなセリフや声の出し方と、フォルムとのギャップもすごく魅力的だなと思いました。それは塩田監督のキャスティングが見事だったし、北さんの魅力全開の作品になったと感じています。
‐辻村は、芳賀先生と、新しく先生の助手を務めることになった弓子の間でのバランサー的な役割もあるように感じましたが、この3人の関係性についてはどのように思われましたか?
柄本佑
辻村は、弓子の芳賀先生に対する想いを知っているし、そして、芳賀先生が「春画大全」を完成させるためには、弓子の“声”も必要なこともわかっている。なので、(情愛だけの)単純な三角関係というよりは、辻村は、「春画大全」を完成させるための役割を果たしているんだと思います。
ただ、これまで何人もいたであろう、芳賀先生の助手だった女性と違って、辻村にとって弓子はどこか特別な存在として感じている部分もあって、弓子のことをちゃんと応援している気がします。
‐劇中、辻村のセリフで「7日間連続の愛の営み~」とありますが、ご出演された『火口のふたり』(2019)では、まさしくそれを体現するかのような、身体が擦り切れるほどの愛を表現される様が描写されていました。それと通じるものも感じたのですが、柄本さんはいかがでしょうか?
柄本佑
『火口のふたり』もちょうど一週間でしたね。今、言われるまで気づきませんでした(笑)。
その期間限定ですけど、春を謳歌している、生きていることを実感しているという点で、辻村のそのセリフと『火口のふたり』とは、確かにリンクしている部分はあると思います。
■春画に触れて、あらゆる絵画作品の見方が変わった
‐「春画」を題材としたエンターテイメント作品の本作ですが、完成した映像をご覧になっていかがでしたか?
柄本佑
春画というものが題材のひとつとしてありますが、春画からは想像つかないような明るさと爽やかさがあるコメディ作品だなと思いました。
同時に、塩田監督の目線がとても面白いなとも思いました。芳賀先生が弓子に、例えば「春画には描かれていない部分も表現のひとつだ」とか、春画の世界の素晴らしさを説明するシーンがありますが、これは塩田監督が実感されて台本に書かれたセリフなんだろうなと思いますが、その発想に至る塩田監督の目線・感覚ってとても素敵だなと思うし、この作品を観た方もそのように感じていただければ、僕としても嬉しいなと思います。
「白の部分は、何も描かずしてお尻の立体感を表現しているんだ」「何も描かずに雪を生み出している」とか、こういう見方はとても素敵だなと感じました。
‐春画は、江戸幕府からは禁制品扱いだからこそ、自由な創作が可能になったとも聞きますが、柄本さんは春画についてどう感じられましたか?
柄本佑
この作品で、春画にたくさん触れさせていただいて、且つ、芳賀先生が劇中説明している、春画の表現方法を聞いて目から鱗でした。それで、春画の見え方がすごく変わってきて、
無から有を生み出している白の使い方というのは、僕も本当に驚いて「こんなにふくよかに見えるのに、でも確かに描いてねえや!」って。
大変優れた技術だし、それこそ、春画に限らず、あらゆる絵画作品の見方も変わるなって思いました。こういう目線はいいな!って思います。
■セリフを言うことは、ほとんど不可能なことなんじゃないか?
‐直近でも、『ハケンアニメ!』、『シン・仮面ライダー』、『花腐し』等々、多彩なジャンルの作品に出演されていますが、柄本さんにとって、「役者」「演すること」ということをどのように捉えて取り組んでいらつしゃいますか?
柄本佑
根っこの部分はそんなに変わらないんですが、その時々の状況なんかでいろいろ変わる部分もあります。
今また、改めてシンプルに実感しているのは、「役者の仕事っていうのは、書かれている言葉を覚えて、現場に行って、覚えたセリフを言う。」それ以上でもそれ以下でもない仕事だなということ。
ただ、セリフを言うということは、ほんとうに難しい。ほとんど不可能なことなんじゃないかとも思っています。
‐不可能というのはどのへんに感じられていますか?
柄本佑
やはり、人が書かれた言葉で、自分の言葉じゃなですからね。なので、とにかく練習!(笑)そういうシンプルなところに、今は行き着いている気がします。
‐俳優さんによっては、役になりきるとか、自分を残したまま演じるとか、いろいろおっしゃる方がいらっしゃいますね。
柄本佑
僕の場合、役になりきるという方向を考え出すと、自分としては到底ダメだなと思っています。(俳優としての)結論を急がない。そういうスタンスで今はやっています。たぶん、70代、80代になったら、自分を許してあげられるような、それぐらいの長いスパンかなと思っています。
■彼らの芝居はほんとにすごい
‐柄本さんのパーソナルな質問ですが、オフの日の好きな過ごし方があれば教えてください。
柄本佑
午前中は運動をして、午後から映画を2、3本観て過ごすということはよくします。
‐好きな映画のジャンルなどはあるんですか?
柄本佑
ジャンルは関係なくて、渋谷や新宿などの劇場で、時間が合う作品を観ています。
‐配信とかではなく、劇場でご覧になるんですね。
柄本佑
僕、家で2時間もテレビの前で座ってられないんですよ(笑)
バラエティ番組だったら、2時間でも3時間でも座ってられるんですけれどね。映画ってなると、やっぱり大きなスクリーンで、暗闇の中、たまたま居合わせた他人と共有するっていう。その状況も含めて映画なんじゃないかなって思うから。
‐最近、ご覧になっていいなって思った作品はありますか?
柄本佑
『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』です。スパイダーバースシリーズのアニメ表現は、すげえなぁって思いました。やっぱり熱くなりますね。
‐尊敬している役者さんがいらっしゃったら教えてください。
柄本佑
一番尊敬しているのは小林桂樹さんです。とにかく好きです。でも、「社長シリーズ」に出演されている役者さんは、小林さんだけでなく、皆さんすごい。森繁久彌さんはじめ、三木のり平さんがいて、加東大介さんがいて、フランキー堺さんがいて、そして、小林桂樹さんがいて。彼らの芝居はほんとにすごいと思います。
■信頼して劇場に来てください。
‐最後に本作をこれからご覧になる方へのメッセージをお願いします。
柄本佑
春画がこれだけ映画作品に登場するのは初めてのことなので、面食らうところがあるかもしれませんが、春画先生の言葉に耳を傾けて観ていると、春画の見え方がぜんぜん変わってきます。ほんとうに個性豊かなで、ユーモアがある。“春画”って、もっとわかりやすく言うならば“青春画”だなとも感じています。春画に描かれている“致している時間”というのは、ある種の青春であるし、楽しい時間であるし、それで春なんだという。そういう、春画の新たな面を見てもらえる作品です。
あとは、とにかく作品としての面白味、物語の先の読めない展開だとか、そういうのは塩田監督の真骨頂ですから、信頼して劇場に来ていただければと思います。
柄本 佑(えもと たすく)プロフィール
東京都生まれ、東京出身。映画『美しい夏キリシマ』(03)で映画主演デビュー。2018年『きみの鳥はうたえる』、『素敵なダイナマイトスキャンダル』、『ポルトの恋人たち -時の記憶-』により、キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、毎日映画コンクール男優主演賞などを受賞。
近年の出演作に、『火口のふたり』(19)、『アルキメデスの大戦』(19)、『痛くない死に方』(21)、『心の傷を癒すということ-劇場版-』(21)、『殺すな』(22)、『ハケンアニメ!』(22)、『シン・仮面ライダー』(23)など。また監督作品として『帰郷★プレスリー』(09)、『夜明け』(『アクターズ・ショート・フィルム』(21/WOWOW)、『ippo』(23)などがある。公開待機作として『花腐し』(23 年11月公開)、2024年大河ドラマ「光る君へ」がある。
■撮り下ろしフォトギャラリー
[スタイリスト:坂上真一/ヘアメイク:AMANO/インタビュー・写真:三平准太郎]
映画『春画先生』
《INTRODUCTION》
江戸文化の裏の華であり、“笑い絵”とも言われた春画の奥深い魅力を真面目に説く変わり者の春画研究者と、しっかり者の弟子の師弟コンビが繰り広げる異色の偏愛コメディ『春画先生』が10月13日に全国公開します。
春画先生こと芳賀一郎を内野聖陽、弟子の春野弓子に北香那、春画先生の担当編集辻村俊介を柄本佑、ストーリーの鍵を握る芳賀の亡き妻の姉・藤村一葉に安達祐実ら演技派が揃い、一癖も二癖もある人物たちを嬉々として演じている話題作。
また劇映画で無修正の浮世絵春画が【R15+】で上映されるのは日本映画史上初!
《STORY》
“春画先生”と呼ばれる変わり者で有名な研究者・芳賀一郎は、妻に先立たれ世捨て人のように、一人研究に没頭していた。
退屈な日々を過ごしていた春野弓子は、芳賀から春画鑑賞を学び、その奥深い魅力に心を奪われ芳賀に恋心を抱いていく。
やがて芳賀が執筆する「春画大全」を早く完成させようと躍起になる編集者・辻村や、芳賀の亡き妻の姉・一葉の 登場で大きな波乱が巻き起こる。
それは弓子の“覚醒”のはじまりだった―。
出演:内野聖陽
北香那 柄本佑 白川和子 安達祐実
原作・監督・脚本:塩田明彦
製作:中西一雄 小林敏之 小西啓介
製作:『春画先生』製作委員会(カルチュア・エンタテインメント、TCエンタテインメント、ハピネットファントム・スタジオ)
企画・製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2023「春画先生」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/shunga-movie
予告編
2023年10月13日(金)新宿ピカデリー他、全国公開!!
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