頭痛が痛い

【W主演俳優インタビュー】「脚本の内容が心に刺さりました」映画『頭痛が痛い』

居場所や心の置きどころがない2人の女子高生が互いの心と傷の手当てをし、支え合う関係に発展していくシスターフッドロードムービー『頭痛が痛い』(6/3公開)。本作でW主演を務めた阿部百衣子、せとらえと に、ほとんど初めてだという映画出演について話を聞いた。

監督は、第28回新人シナリオコンクールに『幸福な LINE』に佳作1位に入選した守田悠人。本作は初監督作品となり、映画監督の登竜門であるぴあフィルムフェスティバルのPFFアワード2020で審査員特別賞を受賞した。審査講評では、画家・平松麻に「守田監督はいつもいくと鳴海の横にいるように私には見えました。ひとのいたみを分かったつもりでやり過ごしてしまう危うさに守田監督は向き合っていたのだと思います。」と評された。

いく役を、本作で映画デビューの阿部百衣子、鳴海役をフリーランスのモデル・俳優のせとらえと。いくの遺書を読み、正義感に突き動かされるフリージャーナリスト・直樹役を、『JOINT』の鐘ヶ江佳太。他、山本華世子、杉山宗賢、大友久志、ナツメが脇を固める。

阿部百衣子×せとらえと インタビュー&撮り下ろしフォト

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阿部百衣子/せとらえと

■脚本は共感するものが多かった

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場面写真(せとらえと、阿部百衣子)@国立競技場 (C)KAMO FILMS

-劇中、建設中の新国立競技場が登場しますが、撮影時期はいつ頃ですか?

阿部百衣子(鳴海の同級生・島内いく 役)
2019年1月から5月頃までです。

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阿部百衣子

-本作の脚本を初めて読んだ時の感想をお聞かせください。

せとらえと(不登校気味の高校生・佐藤鳴海 役)
“鳴海”の境遇が昔の自分と重なる部分が多くて心に刺さりました。
こういうしんどいこと、自分にもあったなと思いましたし、“島内いく”を見ていても、こういう人たちも確かに居たし、なにかしらもがきながら生きていたなって気持ちになりました。

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せとらえと

-“鳴海”のどういうところが心に刺さりましたか?

せとらえと
“鳴海”はやさぐれている感じはするんですけど、不器用で繊細で傷つきやすかったり、自分で自分の首を締めてしまう行動をしてしまって、気づいたら自分の居場所が無くなっていたところなどです。

阿部百衣子
私も初めて脚本を読んだ時に、当時の自分の心の状態に近くて共感することが多かったです。
“いく”も“鳴海”も、違いはあるけど、自分を追い詰めていくところがあります。
“いく”は、「私ってこうでなければいけない。人から見た自分はこうだ」みたいな像に縛られて、意志に反していろんなことを受け入れていくうちに、自分の首を締めていきます。そこが私に近いなと思いました。断るのが苦手なんです。

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場面写真(せとらえと、阿部百衣子) (C)KAMO FILMS

■お芝居経験ほぼゼロで映画初主演

-阿部さんは映画初出演ということですが、役作りはどのように?

阿部百衣子
脚本に書かれている“いく”の表と裏の感情を意識して、口ではこう言っているけど、本当のところはどうなんだろう?というところを考えながら役作りしました。

-せとらえとさんは、主演という形では初と伺っています。

せとらえと
初主演ですし、そもそもセリフがある役は初めてで、まだまだわからないことだらけでした。

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阿部百衣子/せとらえと

-そういう意味では阿部さんと近い経験値だったということですね。撮影前・そして撮影中に取り組まれたことはありますか?

せとらえと
“鳴海”のように、私も以前、配信をやっていたので、その時のことを思い出したりしながら手探りでやりました。

-本作が初監督となった守田監督とはどのようなお話を?

せとらえと
特に強くこうだ!という演出はありませんでした。

阿部百衣子
私も、「阿部さんの思う“いく”でいてください」と言われました。

-そういう中で、正解・不正解を自分の中でどうやって探っていきましたか?

せとらえと
私は、正解・不正解はわからなかったんですけど、監督がOKと言ってくれた時のニュアンスで掴むようにしていました。監督の顔色を伺ってましたね(笑)

阿部百衣子
私は心配性なので、「今こういう感じでやってみたんですけど、どうですか?」と、度々監督に確認しました。うっとうしがられるくらい聞きました(笑)

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■夜の山での撮影はリアルに震えてました

-撮影の思い出として、印象に残っていることは?

せとらえと
私が印象に残っているのは、“いく”がマンションの郵便受けに遺書を入れていくシーンのリハーサルです。とてもおもしろかった(笑)

阿部百衣子
郵便受けに遺書を入れていくシーンのリハーサルで、助監督さんが「私がポストになるので」って言って、ひとつひとつの遺書を受け取ってくれるというのをやったんです。
私は真剣にやってたのでわからなかったんですけど、傍から見ていると面白い光景だったようです(笑)
私が印象に残っていることは、撮影当初は私とせとらさんとの距離感がありましたが、順撮りで撮影が進んでいくにつれて、本編の二人の関係にリンクしてせとらさんとの距離が近くなっていったことです。

-撮影の合間など、お二人はどういうやりとりをされてたんですか?

せとらえと
車の中なんかでの待機時間が一緒になることが多かったので、一緒にお菓子を食べたりとか、制服も着て女子高生らしい感じの雰囲気で楽しかったです。
次のシーンはどうします?という相談もよくしていました。

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-撮影で大変だったことは?

阿部百衣子
夜の山の中での撮影です。2月でめちゃめちゃ寒かった!
リアルに震えてました。

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■“鳴海”や“いく”は、そこにいる。

-たとえば東京では「トー横キッズ」「トー横界隈」(TOHOシネマズ新宿に集う行き場のない少年少女たち)という言葉がメディアで取り上げられることがあります。本作出演を通して、こういう問題についてなにか考えることがあればお聞かせください。

せとらえと
トー横で派手にお酒を飲んでひっくり返ってしまったりとか、自傷してしまう子たちもいるという話を聞きます。その時・その瞬間は、“鳴海”と同じでひとつのはけ口としてはいいのかもしれません。でも、結果自分を傷つけるし、身体的にも精神的にも自分自身を追い詰めてしまいます。そういう時に“いく”ちゃんみたいに手を差し伸べてくれる存在がいたらもっと変わってくるのかなとは思います。でも、なかなかそういう人はいないじゃないですか。
私も「昔はこんなバカなことしていたな」と今だったら笑い話にできるので、そういうふうに将来なってくれたらいいなと思います。

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場面写真(せとらえと、阿部百衣子)(C)KAMO FILMS

阿部百衣子
一括りで言われますが、当事者の子たち一人一人がそれぞれの問題を抱えているわけで、「こうしたら解決できます」っていうのは、なかなか無いと思うんですけど、少なくとも私の身近にそういう子がいたら、手を差し伸べられる存在でありたいし、話を聞くだけでも聞いてあげられる人間でありたいなとは思います。
また、そういう境遇を経験した方々が今自分のことを恥じてはほしくないなと思います。そういう境遇・時期を乗り越えた自分がいるからこそ、一人の人間として成長できていると思いますし、その経験が誰かを救うことに繋がるかもしれませんし。

-先ほど、脚本の内容に共感されたとおっしゃってましたが、改めてお二人が十代の頃を振り返っていかがですか?

せとらえと
“鳴海”のように、昔は家族とうまくいかないことがあったりしました。今は仲良しなんですけど。
友人にも頼れる存在の人がいなくて、どんどん一人ぼっちになっていってました。
でも、私には手を差し伸べてくれる人がいて、それが立ち直るきっかけになりました。

阿部百衣子
私も環境に馴染めなくて、人にも頼れない時があって、苦しい時期があったんですけど、考えすぎるとどうしても悪い方向にいってしまうので、映画を見たりとか、本を読んだり、なにか新しいものに触れて気を紛らしていました。

■自分の表現を通して手を差し伸べられる存在に。

-今、映画の話が出ましたが、映画含めてエンタメは人の心を救う側面があると思います。その映画の世界に進まれたきっかけはなんでしょうか?

せとらえと
もともと映画やアニメなどの映像作品や、本もすごく好きなんですけど、阿部さんと同じで、自分が辛い時に映画の世界に没頭して忘れるということをしていました。
私は最初はモデルから始めたんですが、その頃から好きなアーティストさんのミュージックビデオに出るのが夢としてありました。
その後俳優の道に進んだんですけど、初めて出演した映画はセリフもなく、ただ歩くだけの役だったんですが、それでもすごく楽しかったんです。それでまた出たいと思って、この作品のオーディションに応募しました。

阿部百衣子
私もさっき言ったように、映画作品を通して、私だけじゃないんだなっていう支えをもらって救われたところがありました。今度は、私が自分の表現、作品を通して誰かに手を差し伸べられる存在になりたいなと思ったことが俳優を目ざしたきっかけです。

-俳優として今後の抱負があれば教えてください。

せとらえと
この『頭痛が痛い』に出演させてもらったことで、自身もすごく成長できたので、もっとたくさんお芝居がしたいし、いろんな作品に触れたいです。

阿部百衣子
恥ずかしながら、今も、演技レッスンで厳しい指摘をいっぱいいただいているんですけど(笑)、お芝居を常に肌感覚でやっていくということと、たくさんの人との出会いを通して、たくさんの視野や考え方を自分に取り込みんでいきたいです。そうしてゆくゆくは、大きい存在になって、人に言葉を届けられるような存在になりたいなと思っています。

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■好きな過ごし方

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阿部百衣子/せとらえと

-お二人それぞれ、普段はどんなことをして過ごすのが好きですか?

せとらえと
私はお酒が好きで、友だちと楽しくお酒を飲んでワイワイするのが好きです。今はコロナ禍でそれはなかなかできないんですけど。
あと、神社がすごく好きなので、一人で神社巡りをして空をボーッと眺めたりするのが好きです。

-ちなみにお好きなお酒の種類は?

せとらえと
ウィスキーと焼酎が好きです!

阿部百衣子
私は。暇さえあればドラマや映画を観てます。それで頭の中が情報でいっぱいになったら、ちょっとどこかに電車で行って、その土地をぶらりと歩いたりもします。

-最近観て印象に残った作品は?

阿部百衣子
最近だと、『佐々木、イン、マイマイン』です。

-藤原季節さんが主人公を演じられている作品ですね。

阿部百衣子
季節さん、本当に素敵な俳優さんですよね。

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■最後にメッセージ

せとらえと
先ほど、東横キッズの話が出ましたが、私が辛かった時に映画作品に助けられたように、そういう子たちにも届いてほしいなという気持ちがあります。
この作品を通して、なにかを感じてもらえたら嬉しいですし、たくさんの人に観てほしいです。

阿部百衣子
世の中、不条理がたくさんあって、そのせいで苦しいこともあるんですけど、大人になればなるほど、小綺麗に生きなきゃいけないみたいなところがすごくあって、自分自身について嘘をついたりすることもあると思います。でも映画の中の“いく”と“鳴海”は、もがきながら泥臭く必死に生きることに向き合っているので、本作を観て、「泥臭くてもいい、たくさん失敗してもいい、人生ってそれでもいいかな」って思ってもらえたらいいなと思っています。ぜひ劇場でご覧ください。

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阿部 百衣子 Moeko Abe プロフィール
1996年2月21日生まれ。愛知県出身。
8~10歳アメリカ在住。多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科卒。 自身を救ってくれたのは映画や演劇であった経験から、同じように苦しむ人の力になりたい、自ら命を終わらせる人を一人でも減らしたい、という想いから俳優を志す。
舞台出演作に、シラカン「永遠とわとは」、U-33project「むむちゃん」など。本作で映画初出演にして初主演。

せとら えと Setora eto プロフィール
1991年7月29日生まれ。兵庫県出身。
フリーランスモデル・俳優。
映像作品をメインとして、アーティストのミュージックビデオ、ショートドラマ、映画などに出演。趣味・特技はピアノ。本作で映画初主演。

■撮り下ろしフォトギャラリー

[写真・記事:桜小路順]

映画『頭痛が痛い』

「死にたい」って軽々しく使う奴がいるせいでこういう声が埋もれちゃうんだよ

勝手に測り、測られる「死にたさ」の度合い
それぞれの「死にたさ」を擦り合わせようとする少女同士が 心と傷の手当てをし、支え合う、
シスターフッドロードムービー

STORY
東京五輪に向けた新国立競技場の建設が進む2018年の東京。不登校気味の高校生・鳴海(せとらえと)はライブ配信を行うことにより、行き場の無さを埋めようとする。
鳴海の同級生・いく(阿部百衣子)はいつも明るく振る舞う反面、形容しがたい憂鬱な気持ちを吐き出せずにいた。
ある日いくは、梶井基次郎の『檸檬』のように、自分の遺書を赤の他人の家に投函することで憂鬱を晴らそうとする。その遺書を読んだ鳴海と、フリージャーナリストの直樹(鐘ヶ江佳太)は、いくが発するSOSを感じ…

出演:阿部百衣子 せとらえと 鐘ヶ江佳太 山本華世子
大友久志 ナツメ 杉山宗賢
脚本・監督:守田悠人
プロデューサー:佐藤形而
配給:アルミード
(C)KAMO FILMS
公式サイト:zutsugaitai-movie.com
公式Twitter:https://twitter.com/eiga_zutugaitai
公式Facebook:https://www.facebook.com/zutsugaitai

2022年6月3日(金)よりアップリンク吉祥寺にて他全国順次公開

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