「“好き”が多い方が表現力が豊かになる」のん×樋口真嗣トークイベント 映画『Ribbon』
2022年3月27日、テアトル新宿にて、映画『Ribbon』の舞台挨拶として、のん監督と本作で特撮を担当した樋口真嗣氏との対談形式のトークイベントが行われた。
トークは、のん監督がホスト役となり、これまでの2人の出会いのエピソード、そして、本作で主人公“いつか”の感情を表現する重要な“リボン”の動きをCGではなく敢えて特撮で表現した樋口氏の想いや、映画『ブルース・ブラザーズ』から着想を得たというシーンについての言及もあった。
トークイベントレポート
■2年ぶり。公の場での対談
のん(脚本・監督・主演“浅川いつか 役”)
映画『Ribbon』の脚本・監督・主演を務めましたのんです。今日はお越しいただいてありがとうございます。
上映後に樋口監督とトークできるということでいろんなお話できたらと思います。よろしくお願いします。
樋口真嗣
こういう壇上に上がるということは慣れてるはずなんですが、今日は全くもってアウェイなので緊張しております。よろしくお願いします。
のん監督
以前、私がレギュラー出演しているラジオ番組(「FROM THE NEXT ERA」)に樋口さんに来ていただいて、その時に今後の映画界についてじっくりお話ししましたが、公の場でお話させていただくのは、その時以来となります。
樋口真嗣
そうですね。その時って『Ribbon』の話は決まってましたか?
のん監督
決まってたんですけど、まだ情報公開はされてなくて、これから動き出すタイミングだったと思います。
樋口真嗣
その時、俺を試すみたいな、オーディションみたいな感じだったんじゃないですか?(笑)
のん監督
いえ、違います(笑)
樋口真嗣
「こいつに任せて大丈夫なのか?」って。
のん監督
ま、そういう気持ちもありつつ(笑)
樋口真嗣
ありがとうございます。
その時の番組では、俺はあることないこと偉そうに話しましたね。
のん監督
とてもおもしろかったので。YouTubeではまだ見れるのかな?気になる方はご覧になってみてください。
■のん「この年齢にしてはいろんなことを経験してます」
のん監督
今日は私からいろいろお話を伺いできたらと思います。
樋口さんとの最初の出会いは、私が19、20歳くらい時で、当時私が自主映画を撮ってて、その時にアドバイスをいただいんです。
樋口真嗣
そう考えるとその時から監督をやるつもりで、映画を作りたいという気持ちがほとばしってたわけですからね。
のん監督
そうですね。その時は劇場公開したいとか、そういう目的意識はそんなになかったんですけど、友だちが作っている自主映画に1日だけ音声さんで参加したことがあって、マイクブームの先にレコーダーをくくりつけて持って、声を録ったんです。
それがとても楽しかったって、友だちに言ったら、「(作品を書いたら)絶対に面白いから、書いてみたら?」って言われたんです。
でもその時は自分が脚本を書くなんて思いもしなかったんですけど、その友だちが「私が4本映画を作ったらあなたも書いて」って約束してくれたんです。そのことがずっと私の中に残っていました。
のん監督
そして、再び樋口さんとお会いしたのは、“のん”になってからで、樋口さんが「生賴範義(おうらいのりよし)展 THE ILLUSTRATOR」に呼んでくださって、公式ナビゲーターとして音声ガイドの収録をした時です。
樋口真嗣
「生賴範義展」では、人類はこれからどうなっていくのかという重たい内容もあって、音声ガイド収録時に「気持ちを乗せてください」という演出がありましたよね。
のん監督
そうですね。生賴さんのセリフも入っていましたし。
樋口真嗣
自主映画を作っていた頃は、「楽しいことがやりたいこと」「楽しいことがあるとすごく嬉しい」というとてもシンプルな形で表現してたと思いますが。
のん監督
はい。衝動的に。
樋口真嗣
で、音声ガイド収録時で、“死”や“人間の業”に向き合うのんちゃんの表現力が「すごいな!!」って。
のん監督
なるほど。この年齢にしてはいろんなことを経験してますね(笑)
(会場笑)
のん監督
生賴さんの深い一生にとても感銘もしましたし。
■片渕さんに、のんちゃんのいいところ全部持っていかれた!
樋口真嗣
そして、片渕須直監督の『この世界の片隅に』はその前?後?
のん監督
後だったのかな。
樋口真嗣
『この世界の片隅に』を観た時に、映画の内容に心揺さぶられたんじゃなくて、「やられた!!」みたいな。
のん監督
やられた?何がですか?
樋口真嗣
片渕さんに、のんちゃんのいいところ全部持っていかれた!って思ったんです。
のん監督
(笑)
なるほど!嬉しいです!ありがとうございます。
樋口真嗣
あの年の授賞式でけっこう鉢合わせすることがあって。
のん監督
そうですね。『シン・ゴジラ』と『この世界の片隅に』で。
樋口真嗣
で、片渕さんが受賞スピーチしている時に俺の携帯が鳴る、みたいな。わざとじゃないんですけどね(笑)
のん監督
すごいタイミングでしたね。そういうこともありましたね。
■そこで生まれた作品が世の中から祝福されてほしい
のん監督
今回、映画『Ribbon』の特撮に入っていただいたわけですが、最初は“特撮でやる”とははっきりとは決まってなくて、CGでやろうという感じで始まりました。
樋口真嗣
そうですね。CGでもできなくはないって。
のん監督
のんが脚本・監督で、リボンを動かしてほしいっていうオファーを受けられた時、どう思われましたか?
樋口真嗣
自分が監督だったらまた違うことを考えるんだろうけど、特撮の担当者としては、何がやれるか、何をするべきかは、監督の持っているイメージをなるべく的確に、簡潔に表現して、OKをいただくことなんです。
「いいですね、OK!」って監督に言われたら「ありがとうございました」という仕事なので、「(のん監督に)OKもらえるかな?」って。
のん監督
えっ?そんなスタンスだったんですか?大監督なのに。
樋口真嗣
それは、どの監督との仕事においてもそうなんですよ。どうやったらOKもらえるか?
極端なことを言えば、たとえば“いつか”という役はのんちゃんが自分でできる。だけど、(リボンの特撮は)のんちゃんができないから俺がやんなきゃいけないってことであって。
のんちゃんができることであれば、俺がやる必要はないし。どうやったら、のんちゃんがやりたことをちょっとだけ上回りながら、のんちゃんが望んでいること・・・あ、“のんちゃん”じゃない“監督”だ!
のん監督が望んでいることをちょっとだけ飛び越えて実現させるか。飛び越え過ぎちゃうと逆にわからないってなっちゃうんで、わかるギリギリのところで超えたいなっていうのはありました。
のん監督
なるほど。
樋口真嗣
そして、CGでやるのか特撮でやるのか。今はCGでやることが主流ですが、CGという作業はずっと疑い続けることなんです。一発目の仕上がりはまず本物に見えない。CGの担当者は「最後には本物に見えますから」って言うんですけど、ずっとほんとに大丈夫かな?ってモヤモヤしたものがある。
で、最終仕上がりを担当者が勝負かけて持ってくるんだけど、「本物に見えない。やり直して」って言って差し戻すこともあり、それはまさに地獄絵図なわけです。人間関係は崩壊するし。だって、CGを作っている担当者を疑っていることになるから。
「これダメじゃん」ってことをずっと言い続けて、最後に「良かったね」ってなるようにしなきゃいけない。なかなかストレスが溜まる作業です。
のん監督
じゃ、CGにしてたら樋口さんと私の関係性が最悪になってたかもしれないんですね(笑)
樋口真嗣
もちろん、いい作品ができるためならぜんぜんそれは問題ないことです。
のん監督
私もそう思います。
樋口真嗣
けっきょく、そこで生まれたものが僕は世の中から祝福されてほしいわけです。作られた作品として。
ほんとはこうじゃないのになっていうものよりは、「これはいいね」って誰もが思えるものしたいという思いがありました。
そうすると、特撮というものは、広い意味になっちゃうんですけど、素材撮りをするところから始める。
『Ribbon』では主人公“いつか”のその時の気持ちや感情が“リボン”として可視化されているわけです。でもそれだけじゃなくて、“リボン”は“いつか”が作っている作品の一部でもあるわけです。
作品の一部としてそこに存在するものがCGに乗り代わった瞬間に、「それってさっきのと違うじゃん」っていうように見えてしまうような気がしたんです。
だったら、同じ質感のもので作った方がいいんじゃないかって考えたんです。その上で、監督にどういうリボンがいいのか、どういう動きがいいのかを選んでほしかったんです。
たとえばCGだったら、最後の最後に選ぶということしかできないけど、特撮だと、黒バックで想像するのは大変だったかもしれないけど、現場で物を動すその場で、「私はこれが好き」っていうのを選んでほしかった。こういうものは「好きか嫌いか」で、「いいか、悪いか」「正しいか正しくないか」じゃないので。監督の「好き」なものだけでできてないとダメだと思ったんです。
イヤなものをどんどん排除して、いかにして好きなものだけを残すってなったら、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるで、あとは千本ノックですよ。
ひたすらずっとリボンを撮り続ける。
で、リボンが意志を持っているかのように、リアルに空間に漂っているものとして表現するために、風のことも考えたけど、水槽に浮かべるというアイディアでやったんだよね。あとはそれの大きさでした。
のん監督
水槽での撮影もそうですし、こんな撮り方があるんだっていう驚きがいっぱいあって、ほんとに刺激的で面白かったです。
樋口真嗣
もちろんCGでやって得るものもあると思うし、俺よりも若くてアグレッシブな人はいっぱいいる。
でも、今の俺が何を監督に出せるかなと思った時に、2日間でしたけど、ああいうオッサンばっかりの埃っぽい現場でリボンをひたすら撮って、その場で皆でプレビューして結果を共有できるやり方ができたことは大きな前進だったなと思います。
のん監督
ありがとうございます。嬉しかったです。
ほんとにいいリボンが撮れました。リボンがないと成立しない映画ですから、それをとても衝撃的なものとして仕上げてくださったと思います。
(皆さんも)そう思いますよね?
(会場拍手)
■まさかのんちゃんが『ブルース・ブラザーズ』を観てたなんて
樋口真嗣
(特撮で)一番大変だったのは、“いつか”からバーッってリボンが伸びていくやつ。
のん監督
イメージの動画も資料として見せていただいてすごくわかりやすくてありがたかったです。
樋口さんは映画を作る時に、CGとの兼ね合いや、特撮などのアイディアをたくさん盛り込まれますが、それはどうやって思いつかれるんですか?
樋口真嗣
たぶん今まで観た好きな映画とかからヒントを得ることが多いかもしれないです。けっきょく自分たちがやっている映画づくりって、誰かがやってきたことに影響を受けている。岩井俊二監督の作品がいいなって思ったら、その一部を自分の映画の部品にして、それはパクリでもなんでもなく、私のオリジナルって言い切れる。
その岩井さんもそうやって作っているんだろうし、誰もが先輩たちが作った自分が好きなものをバトンのように受け継いでいっているような気がします。
のん監督
なるほど。そういう好きなものを自分の中に自覚することによっていろんな表現がまた膨らんでいくということですよね。
樋口真嗣
“好き”が多い方がそういう表現力が豊かになると思います。
のん監督と打ち合わせしてた時も、「あの映画のあそこが好き」っていうのがけっこうあったじゃないですか。
のん監督
そうですね。あるリボンの動きのイメージを伝えるために、『ブルース・ブラザーズ』のラストシーンの銃を突きつけられるところの資料を見せたりとかして。
樋口真嗣
われわれおっさんでも「それならわかる!」って思った(笑)
のん監督
歩み寄ったわけじゃないんですけどね(笑)
私もすごく好きな映画で、そのシーンも大好きなので。
樋口真嗣
“いつか”がリボンに突きつけられるところがありますが、それは『ブルース・ブラザーズ』の最後で2人が警官に囲まれるところを彷彿とさせる。まさかのん監督が『ブルース・ブラザーズ』を観てたなんて。
のん監督
そういう資料を集めてやり取りしました。
■映画監督は修羅の道
のん監督
映画『Ribbon』の応援PVを樋口さんに監督として撮っていただいたんですけど、この絵コンテを見た時にほんとに驚いてとても感動しました。
「映画と生きる 映画に生きる」という応援PV。
樋口真嗣
ほんとであれば、『Ribbon』の撮影現場で(のんちゃんが)監督している姿をうまくモンタージュしてやろうと思ったんだけど、のんちゃんは出演もしているから、監督が出演していると「ようい、スタート!」って言ってる素材がほとんどなかったんですよね。
のん監督
はい。スタートはかけてなかったです。カットはかけてたんですけど。
樋口真嗣
だから監督らしい映像素材がなくて、しょうがないからヤラセだと(笑)
俺から言わせれば、“映画監督”という業が深い、でも楽しくて始めたらやめられない修羅の道にのんちゃんが足を踏み入れちゃったわけだから、修羅の数々をかいくぐってもらおうということで、ずっと雨が降っていて、ずぶ濡れになりながら被写体を追うとか、ああいうシチュエーションのPVにしました。
のんちゃんが監督としてスタートかけてカットするところまでの姿。ああいうシーンは本来役者しか見ることができないもの。一番映画らしいんだけど、映画本編には写すことができないもの。それをのんちゃんを使って、架空の映画なんだけど撮りたかったんです。
のん監督
すっごい楽しかったです。監督たちがほんとに生き生きとしていて、お互いに話し合いながら、進行も兼ねてて面白かったです。
樋口真嗣
みんな仕切りまくってましたね(笑)
のん監督
もっともっといろんなお話を聞きたいところなんですけど、お時間がきましたのでこのへんで。
樋口真嗣
宴もたけなわですが(笑)
のん監督
樋口監督は、『シン・ウルトラマン』の公開も控えていらっしゃるので、私はとても楽しみにしています。
樋口真嗣
ありがとうございます。
のん監督
今日はありがとうございました。
■フォトギャラリー
[写真・記事:桜小路順]
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映画『Ribbon』
2020年冬。コロナ禍により一年かけて制作した卒業制作は、発表の場が失われた。
家での時間があるのに、なにもやる気がおきない……。
表現の術を奪われ、自分のやるべきことを見つけだせずに葛藤する美大生“いつか”を女優・のんが演じます。
鬱屈とした現状を、のんが持ち前のパワーで痛快に打破していく“再生”の物語です。
あらすじ
コロナ禍の2020 年。
いつか(のん)が通う美術大学でも、その影響は例外なく、卒業制作展が中止となった。
悲しむ間もなく、作品を持ち帰ることになったいつか。
いろいろな感情が渦巻いて、何も手につかない。
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未来をこじ開けられるのは、自分しかいない―。
誰もが苦しんだ2020 年―。
心に光が差す青春ストーリー。
出演:のん 山下リオ 渡辺大知 小野花梨 春木みさよ 菅原大吉
脚本・監督:のん
製作統括:福田淳
エグゼクティブ・プロデューサー:宮川朋之
クリエイティブ スーパーバイザー:神崎将臣 滝沢充子
プロデューサー:中林千賀子
特撮:樋口真嗣
特撮プロデューサー:尾上克郎
音楽:ひぐちけい
主題歌:サンボマスター「ボクだけのもの」(Getting Better / Victor Entertainment)
企画:のん
配給:イオンエンターテイメント
制作プロダクション:ブースタープロジェクト
製作:日本映画専門チャンネル non スピーディ コミディア インクアンク
©「Ribbon」フィルムパートナーズ
作品公式サイト:https://www.ribbon-movie.com
のん公式サイト:https://nondesu.jp/
のん公式 YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCj4G2h4zOazW2wBnOPO_pkA
のん公式 Twitter:https://twitter.com/non_dayo_ne
主題歌入り予告篇(60秒)
2022年2月25日(金)よりテアトル新宿ほかロードショー!
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