【原作者&監督 インタビュー】アニメの手法を実写に落とし込んだ2.5次元映画『階段下はxxする場所である』
9月11日(土)より池袋シネマ・ロサにて公開中の映画『階段下はxxする場所である』の神谷正智監督に映画化の経緯、そして羽野ゆず氏には、原作者の立場として映像化された作品に対する思いを伺った。
本作は、現在のアニメーション作品の原作を数多く輩出している巨大小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載された羽野ゆず氏の同名原作の中から4つの短編小説を原作にした、全く新しい青春ミステリ作品。
メガホンと取った神谷正智監督は、前作『11月19日』が、Rome Independent Prisma Awardsといった海外のインディペンデント映画祭のオフィシャルセレクションに選出されたという実績を持つ。
神谷監督は、原作のライトノベルライクな気風を実写に落とし込みたいと考えて構想を始め、映像化に際しても原作の味であるライトノベル的な不自然さをある程度残しつつ、ロケーションにこだわり、リアルな実景と二次元なキャラクター要素を融合している。
それはまさに、近年演劇の世界で公演されている2.5次元舞台(アニメ作品の舞台化)に相当する映画版。アニメとの親和性が高いライトノベル作品の実写化という意味での2.5次元映画とも言える。
原作キャラの誇張された部分としては、主人公・雷宮光(らいきゅうひかる)の抑えられた感情表現(常に冷静・ローテンションな感じ)と口早な説明・解説口調が印象的。アニメキャラではありがちな表現・台詞回しだが、実写映像では違和感を覚える人もいるかもしれない。
ミステリー映画に付き物の謎解き解説では再現映像ではなく、各シーンの静止画にキャストの声のみの解説が流される(止め画の多用)。音楽をバックに台詞のない映像や場面写真が映し出されていく部分はアニメを見慣れた人にはスムーズに受け入れられるだろうし、映画を見慣れた人には新鮮に映るかもしれない。
羽野ゆず(原作)×神谷正智監督 インタビュー
※リモートインタビュー。
■脚本関係までのやりとり
-原作と脚本制作サイドで脚本完成に至るまでどのようなやりとりをしましたか?
羽野ゆず(原作)
脚本担当の神谷正倫様と神谷正智監督(*)から脚本の第一稿をいただき、アイディアがあればご提供する、といったやりとりをさせていただきました。
といっても、アイディアと呼べるものは、ほとんどご提供できず……申し訳ない限りでした。映像化するにあたり、無理だったり不明な設定を教えていただき、原作の修正すべき点も浮き彫りになり、私にとって、すごく有意義な体験でした。今回は映像化されなかった本屋を舞台にしたエピソードの脚本を読めたことが役得でした。
*脚本・神谷正倫と神谷正智監督は双子の兄弟。
神谷正智監督
羽野さん原作を発見した経緯ですが、一時「小説家になろう」に投稿されている、非なろう系作品(異世界転生しないし、ファンタジー要素もない)のマイナージャンルを読み漁っており、特にジャンル投稿数が非常に少ない推理ジャンルの作品を片っ端から読んでいました。
羽野さんの『階段下』は私の求めていた、学園青春ものでラブコメでライトミステリーの要素も持ち合わせる作品で、ただ読んで面白かったではなく「この作品を映像化したい…」と当然の帰結として思うようになりました。
共同制作している兄に『階段下ー』見せたところ「面白い」と意見が一致し、ちょっとドキドキしながら「映像化させてもらえませんか?」というメッセージを送ることにしました。
羽野さんはあまりに唐突な依頼に戸惑っていらしたようでしたが、原作許可については「ご自由にどうぞ」ということであっさりと快諾してくださいました。
-監督からは羽野様にどのような質問をしたり、映像化にあたってのアイディアを伝えましたか?
神谷正智監督
大きなところで言うと、脚色にあたって1話目のエピソードで、映像化の準備のためにコンテに起こす際、トリックに矛盾があることに気が付いてしまいました。
なので、どうしたら成立するのかと言うアイデア出しを羽野さんにしてもらったというのがあります。
映像化にあたってのアイディアについては、原作は1本で成立している作品ではないので、オムニバス形式にしますと伝えました。
羽野さんのおっしゃっていた、今回は映像化されなかった本屋を舞台にしたエピソードも含めて当初は4本立てにするつもりだったのですが、2話目の図書館のエピソードと内容が被っていたため最終的には削って3本立てにしました。
■こだわり抜いて作られた本作
-神谷監督が映画化原作としてなぜ本作を選んだか、原作者の立場として理由は何だと思いますか?
羽野ゆず(原作)
なぜ拙作だったのか、私も知りたいです!
ウェブ小説サイト(小説家になろう)でマイナーな推理ジャンルのなかでも、特に目立った作品でもないですし。
映像化に向いている要素が何かあったのでしょうか…? 正直謎です。
-神谷監督はご自身でもライトノベルを執筆されていると思いますが、羽野様の作品を選ばれた理由は?
神谷正智監督
正確には私が書いているのではなく、兄(神谷正倫)が書いているのですが、内容があまりにも現実離れしているのでちょっと実写にはそぐわないかなと。
羽野さんの作品を選んだのは、推理もので学園ものでラブコメ要素もあってという内容がちょうどその時やりたかったものと一致していたからです。
-改めて実写化したものを観てどう思いましたか?
羽野ゆず(原作)
キャストさんやロケーション、すべてにこだわり抜いて作られたことが伝わってきました。
主人公・水無月日向役の安慶名晃規さんは、作品から抜け出てきたのでは、というくらいイメージどおりでしたし。 ヒロイン・雷宮光役の平岡かなみさんは、とても優しそうなお顔で、過激な光のイメージと真逆の印象でしたが、喋り方佇まいといい、最後には現実にいるとしたらこうだったとしか思えない、というくらいハマって見えました。
脇を固める俳優さんも皆、可愛くて素敵でした。田雲先生は原作と性別が違っていますが、すごく魅力的で! ファンになっちゃいました。
原作の世界観が感じられつつ、全く別の物語のようでもあって、原作者として斬新でした。素晴らしかったです。
■アニメの手法を実写に落とし込んだ
-監督は「原作がライトノベルで、本来、アニメと親和性が高い作風」とコメントされていました。一般的に“アニメと親和性が高い”と言われる・考えられる作風、特徴にはどういったものがあるのでしょうか?
神谷正智監督
キャラクター性が非常に誇張されている作品はアニメの方が親和性が高いと思っています。
アニメのキャラクターというのは、表情もアクションも誇張されており、それに合わせて声優さんの芝居もかなり大きなアクションでしますので、誇張されたキャラクターをそのまま映像化しても「そういうもの」として受け入られると思っています。
-あえて実写で映像化する意義についてあらためて教えて下さい。
神谷正智監督
2.5次元の舞台という、アニメやゲームを舞台化して生身の人間が演じるジャンルが今は存在します。
ただ舞台だと実際のロケーションではなく、書き割りの前で演技しますので、実写映像で実際のロケーションを使ってできないかなと思って立ち上げたのがこの企画です。
アニメでも実写をトレースしたスーパーリアルな背景があったりしますが、本物のロケーションの中で生身の人間が誇張気味のキャラクターを演じて立っているというアンバランスさを狙ったという意図もあります。
-監督は「アニメの手法を実写に落とし込んだ」そうですが具体的には、どういった手法を実写に落とし込んでいったのでしょうか?
神谷正智監督
2つ大きくあります。
1つは止め画の多用です。アニメではよく使われる手法ですが、あまり実写では使われません。
2つ目はモンタージュです。
モンタージュ自体は実写でもよく使われますが、音楽に合わせた細切れモンタージュはゲームやアニメのオープニングムービーを意識してやっています。
-脚色にあたって、原作キャラの誇張された部分は残したそうですが、逆にどういった点の変更にこだわりましたか。
神谷正智監督
田雲先生の性別は現実に即した形に変えました。
原作では男性で、男性の養護教諭も少数はいるのですが女子生徒の治療をするのを考慮して、共学だと男性の養護教諭と女性の養護教諭を両方置かないといけないようです。ですので女性に変更しました。
雷宮光の髪型については、演じた平岡さんを初めて見た時このままで行った方がいいと感じたためです。
説明し辛いのですが、黒髪ストレートの方が走った時とかの画面映えがいいように見えるんです。
-その女性の養護教諭役を、神谷監督の前作『11月19日』(2017)主演の中村優里さんが演じられてますね。
神谷正智監督
はい。実は本作のキャスティングで最初に決めたのが中村優里さんなのですが、なんというかあの飄々とした感じのキャラクターを見た時にすぐに思い浮かんだのが中村さんだったからです。
-前作『11月19日』と同様、山形で撮影をされていますが、山形を選んだ理由。神谷監督にとて山形とはどんな位置づけにあるのか教えて下さい。
神谷正智監督
山形は私にとってもう第2の故郷みたいなものです。
『階段下』は原作だと北海道が舞台で、場所はともかくとにかく雪国と思ったので山形に話を持って行きました。
山形市内なら程よい都会の光景も撮れるし、少し離れれば長閑な田園風景も取れます。
由緒ある神社仏閣もたくさんあるし、文翔館みたいな近代の歴史的建造物もあってとにかく画面映えが良いんです。
-ストーリとして、水無月日向の高校入学から、雷宮光の卒業までの時の流れを感じました。各章に、「二十四節気」(処暑、霜降、雨水など)から選んだ季節が取り入れられていますが、その理由は?
神谷正智監督
日付については、そのまま映画内の季節としています。
1話目の『階段下はxxする場所である』は8月の終わりごろ、北国だと夏休みが終わって秋雨の始まる頃。
2話目の『心当たりのあるモノは』は10月終わりの冬の入り口の頃。
3話目の『戻るには遅すぎる』は大学の受験シーズン。
とそのまま劇中時間にあたる時期を「二十四節気」の中から選びました。
-劇中、場面切替時に、“Who done it.”、“How done it.”といった、いわゆるミステリー用語が表示されます。
神谷正智監督
はい。おっしゃるとおりそれらは、推理小説を表す用語で、たとえば次のようなものがあります。
・フーダニット…Whodunit(Who had done it) 、犯人は誰か
・ハウダニット…Howdunit(How done it)、どうやって犯行を成し遂げたか
・ホワイダニット…Whydunit(Why done it)、なぜ犯行に至ったか
ただ『階段下はxxする場所である』はライトミステリーという感じなので、あまり肩肘張らず気楽に見ていただければと思っています。
■最後にメッセージ
-最後に、本作・原作の見どころ(ご自身の好きなシーン)、映画を観にいらっしゃるお客様へのメッセージをお願いします。
羽野ゆず(原作)
映画の見どころはなんといっても、謎解きシーンです。ミステリー好きの方はテンションが上がること間違いなしです。時間の経過とともに、光と日向の親密度が増していくのもたまりません。原作の見どころは……映画よりイチャイチャ度が上です(笑) そしてウェブ小説ならではの「感想欄」。『読者への挑戦状』で募った、読者さんの素晴らしい推理が楽しめます。
本作を観終えた後、もどかしかった青春の頃を思い出すとともに、もっとこの世界に浸っていたいような、不思議な気持ちになりました。同じ感覚を、ご来場のお客様と共有できていたら嬉しいです。
神谷正智監督
自分の好みを反映させたものなので、どこも全部好きなのですが、特に印象に残っているのは1話目です。
元々、1話目は夏の盛りの入道雲の下で繰り広げる画を想定していたのですが、撮影時期の都合で秋雨の時期になりました。
ですので、当初の想定とは違う画面設計になりましたがいまではこの方が良かったと思っています。
『階段下』はミステリーではあるのですが、あまり肩肘はらずラブコメと学園ものにミステリー要素が混じっているくらいのつもりで気楽に楽しんでいただければ嬉しいです。
プロフィール
羽野ゆず(ウノユズ)
https://mypage.syosetu.com/625640/
https://novel.daysneo.com/author/uno_yuzu/
仕事、家事の合間にちょこちょこ書いています。珈琲とチョコと推理小説が好き。恋愛小説も好きです。
『階段下は××する場所である』原作(http://ncode.syosetu.com/n6270cw/)
Twitter:https://twitter.com/uno_yuzu
神谷正智(masatomo kamiya)
学習院大学法学部卒。
ヴァンタン映画映像学院EXコース修了。
シナリオ講座修了。
2008年より映像制作を開始し、監督・脚本作『11月19日』(2019)が劇場公開される。
同作はRome Independent Prisma Awards、Diamond Star Penang International Film Festivalなど
海外映画祭でもオフィシャルセレクションに選出されている。
劇場公開作は本作が二本目となる。
神谷正倫(masamichi kamiya)
青山学院大学文学部卒。
ニューシネマワークショップ クリエイターコース修了。
2008年より映像制作に関わり、共同制作・脚本作『11月19日』(2019)が劇場公開される。
映画文筆家として複数の映画サイトに寄稿経験がある。
監督、神谷正智の双子の兄。
映画『階段下は××する場所である』
INTRODUCTION
本作の監督を務めますのは池袋シネマ・ロサにて劇場公開された、前作『11月19日』がRome Independent Prisma Awardsといった海外のインディペンデント映画祭のオフィシャルセレクションに選出された神谷正智監督。
現在のアニメーション作品の原作を数多く輩出している巨大小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載された羽野ゆず氏の同名原作の中から4つの短編小説を原作に、全く新しい青春ミステリ作品を生み出した。
本作において監督は原作のライトノベルライクな気風を実写に落とし込みたいと考えて構想を始めた。
映像化に際しても原作の味であるライトノベル的な不自然さをある程度残しつつ、ロケーションにこだわり、リアルな実景と二次元なキャラクター要素を融合している。
2.5 次元の舞台作品のように、ライトノベルやアニメを文化の一部としてネイティブに受け入れている若い世代が特に楽しめるものを実写映画として目ざした。
原作の選定においても「小説家になろう」において特異なジャンル「異世界転生」以外の要素を持つこうした作品に光を当てることも目的としている。
STORY
先輩。謎はすべて解けました。学校×事件×恋愛の不思議ムービー!
雷宮光(らいきゅうひかる)は雨の日に傘を貸してくれた後輩男子の水無月日向(みなづきひなた)に一目惚れする。光が日向を追いかけ回している最中に悲鳴を聞く。二人が駆けつけると男子生徒二人が階段下と踊り場で倒れていた。目撃者はおらず、二人の男子生徒も起こった出来事を語ろうとしない。光と日向は事件の真相を解き明かそうとする。
出演:平岡かなみ 安慶名晃規 河野知美 藤入鹿 杉尾優香 小松樹知 中村優里
監督・編集:神谷正智
チラシデザイン:izumi chan
原作:羽野ゆず『階段下は××する場所である』
制作・脚本:神谷正智・神谷正倫 プロデューサー:佐藤哲哉
英題:Under the stairs is the place to do “X”
2021年/日本/91分/カラー/DCP
公式サイト:https://kaidan-shita.jimdosite.com
本予告
2021年9月11日(土)より池袋シネマ・ロサにて公開
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