【高島礼子×黒谷友香 インタビュー】「作品として残すということで、私たち役者が少しでも役に立てれば」
2021年8月20日より公開となった映画『祈り ―幻に長崎を想う刻―』。1959年初演以来、現在まで上演され続けている田中千禾夫による戯曲『マリアの首』を映画化した本作W主演の高島礼子、黒谷友香に、この物語が長く伝え続けられる意味について、そして、お互いの印象や最近の生活でこれをやってみた!ということについても伺った。
本作は、戦争の爪痕が色濃く残る昭和32年の被爆後の長崎を舞台に、焼け落ちた浦上天主堂に残るマリア像を人知れず運び出そうとする鹿(高島礼子)と、忍(黒谷友香)の二人の女性を描いた人間ドラマ。
高島礼子×黒谷友香 インタビュー
■W主演同士、お互いの印象
-高島さんと黒谷さんのお二人は、これまでの共演経験はありましたか?
高島礼子
黒谷さん主演の『TANNKA 短歌』(2006/阿木燿子監督)でご一緒させていただいたことはあります。その後は本作になります。
-お互い、どういう俳優さんという印象をお持ちでしたか?
黒谷友香
優しくて、姉御肌で、気っ風が良くて。実際お会いしてもイメージどおりでした。
高島礼子
黒谷さんは、背が高くてカッコイイってイメージですね。黒谷さんも極妻シリーズ(『極道の妻たち Neo』)に出ていらしたから、外見はカッコイイけど、関西出身ということで、関西のお姉さんで、ボケツッコミはされる方なのかなとも思っていました。で、実際お会いしたらそのとおりでした(笑)
黒谷友香
さっきご挨拶してちょっとしたイントネーションでわかったんですけど、インタビュアーの方も大阪出身なんですって。そうするともう会話が大阪テンション(笑)
-はい、大阪出身です。
高島礼子
へぇ(笑)関東人からすると、関西の方って、小さい頃からボケとツッコミが教育の過程に組み込まれているのかなって感じがするという、そういう先入観はありますよね(笑)
黒谷友香
お笑い取れる人がモテるみたいな(笑)
-実際にお会いしても黒谷さんはそんな方でしたか?
高島礼子
この作品の内容が内容だけに、さすがに撮影中はボケとツッコミはなかったですけど。
黒谷友香
長崎弁でいっぱいいっぱいでしたから(笑)
高島礼子
(笑)
■「長崎を最後の被爆地に」という思いを受けて。
-撮影は1年半前と伺いました。
高島礼子
はい。コロナ禍の影響が一部で出始めた頃でした。
-脚本を読まれた時の印象はいかがでしたか?
高島礼子
長崎が最後の被爆地ということで、原爆が落とされたということ以外はあまり知識がなかったので、その後、後遺症や差別があったということを知らなくて、不勉強を痛感しました。
脚本は、ドラマというよりも、ドキュメンタリータッチなのかなっていう感覚で読ませていただきました。その後、自分で演じるにあたっては、セリフにもあるんですけど、「長崎を最後の被爆地に」っていう長崎の被爆者7万人の思いをちゃんと汲んで演技しなくてはいけないなというプレッシャーはありました。
かといって、暗くなりたいとは思わなかったことと、あと、信仰というのはありがたいことだなと演じていて思いました。
黒谷友香
最初読んだ時、すごく難しいと思って、戯曲(※)もすぐに取り寄せて読んだんですけど、参考にできるものはすべて読みたいと思って。
※本作のベースとなった田中千禾夫(たなかちかお)による戯曲『マリアの首』(初演:1959年)
黒谷友香
戯曲は舞台向けなので、映像に置き換えると難しそうなところがありますし、キャラクターの性格も人間関係も映画版とは違うところがあって別物なんですけど、参考にしたいと思って戯曲を読んで、両方をうまく自分で組み立てて、役に取り込んでいきました。でも最初は難しいなと思いました。
ただ、テーマはすごく伝えたいというのはあったので、是非やらせていただきたいというのは思いました。
-高島さんが本作の出演を決められた理由について教えてください。
高島礼子
今まで本作のような歴史を背景にしたメッセージ性のある作品にあまり縁がなかったので、是非やってみたいと思いました。
■それぞれの役作り
-今回の役(鹿=高島礼子、忍=黒谷友香)については、どういう取り組みをされましたか?その中で苦労したことがあれば教えてください。
高島礼子
私が演じた“鹿”は売春婦であり、看護師ということですが、基本的にはキリスト教を信仰しているという人物の2つの側面なので、演じ分けが難しいということはありませんでしたし、やりがいがある役でした。
黒谷友香
私が演じた“忍”は、被爆こそしていないものの、その日に襲われるわけです。その復讐をいつかしてやるということを心の支えにして生きていく女性。
同時に、“鹿”のセリフにあるように、復讐の反面、その人のことを愛してしまっているというところもあり、それは最初台本を読んだ時は、「ん?」ってなりました。
その気持がなかなかわからなくていろんな人にも聞いたんですけど、襲われる前に喉の乾きで死にそうになっているところを助けてもくれてるわけです。それがあるから、最初は愛してなかったかもしれないけど、いつか追い求めていくようになってしまったのかなと。
最初は難しくて、性にまつわる本を読んだり、原爆の本を読んだり、いろいろな方面の知識を自分に吸収させてから、“忍”というキャラクターを台本に沿って演じていったという感じでした。
“忍”は、夫(桃園/田辺誠一)も子どももいるけど、夫から「俺のこと愛しとらん」って言われて。自分でも気がついているのか、気がついていないのか、気がつきたくないのか、そういう複雑な心象を持った女性ですね。
高島礼子
たしかにそれは難しかったね。
■美輪明宏さんじゃないとありえないシーン
-先ほど、戯曲の話が出ましたが、映画版との違いについて、松村監督などからお話はありましたか?
高島礼子
それは特になかったですね。ただ、黒谷さんが戯曲まで取り寄せて勉強されたのはすごいなって思いました。私は、映画版は映画版なので、元の戯曲は知らなくていいかなと思いまして(笑)
黒谷友香
私もそういう考えの時もあります。
高島礼子
でもこの映画の話がもっと早く来ていたら、舞台も観たかったなって思います(※)。
ただ、映画としての台本をいただいた以上は、この中での表現を考えなきゃなって思いました。
※戯曲『マリアの首』の直近の上演は2017年。
-本作は、もちろん映画なんですけど、ところどころの演出が舞台っぽいところも感じました。それは演じられている側としてはいかがでしたか?
高島礼子
“鹿”がマリア像と会話するところ(マリア像の声=美輪明宏)は、舞台だったらありえるかなと思いましたが、映像でこれをどう表現するんだろうとは思いました。
撮影中はまだマリア像の声をどなたが担当されるのかは決まってなくて、後から美輪さんに決まったと伺って、これはもう美輪さんしかありえないなって思いました。
-忍(黒谷友香)が、市場で一ノ瀬(村田雄浩)と対峙するあるシーンでも、ピンスポット照明のような演出だったり、それこそラストシーンもなんとなく舞台演出のようにも感じました。
高島礼子
確かに、思い返せば舞台っぽいシーンはありますね。被爆直後のシーンもそうですし。
-そのほか、撮影現場で思い出に残っていることがあれば教えてください。
黒谷友香
撮影の最初の頃、高島さんが九州探訪の番組に出演されたことのお話をしてくれましたよね。
高島礼子
そうそう。本作撮影前に、ちょうど大分読売放送さんで、大分から長崎へ旅する内容の旅番組「司馬遼太郎の世界 高島礼子の九州探訪~長崎から大分へ 時代を動かした学びの熱気~」というのがあったんです。その中で、長崎大学に伺った時に、「今度、『祈り』という映画に出るんです」って話をしたら、日本で初めて西洋医学の病院(現在の長崎大学医学部である伝習所付属の西洋式の病院・長崎医学伝習所)を建てたポンペさん(オランダ国籍)の史料を見せていただいたんです。
黒谷友香
あと、ラストシーンで、キリスト教信者ではない一ノ瀬(村田雄浩)が、目の前で起こっている状況への反応が不自然にならないようにするにはどうしたらいいかってのは、みんなで1時間以上打ち合わせしたのもすごく思い出に残ってます。
■長く上演され続ける作品の力
-田中千禾夫さんの戯曲がこれまで何度も再演され、そして今回の映画化。この作品が持つ力とはどういったものだと感じられてますか?
高島礼子
やっぱりこういう作品は作っていかないと、だんだん戦争を経験した方がいらっしゃらなくなって、リアルな経験談を私たちは直接聞くことができなくなっていきます。ですので、作品として残すということで、私たち役者が少しでも役に立てればいいなという気持ちはあります。
長崎が世界で最後の被爆地にしなくちゃいけないということをメッセージとして伝えられたらなと思います。
本作で描かれている舞台は、戦後10年後ですが、被爆地である長崎ではまだ戦争は終わっていない。それを伝えれる作品であればいいなと思います。
黒谷友香
日本にしか原爆は使われていないので、こういう形で世界中に知っていただけると思います。
高島礼子
同時に、忍も鹿も、さまざまな辛い体験をしながらも、信仰があったから生きてこれたんだとも思います。信仰の強さ、美しさも感じるところはりました。
■コロナ禍で一変した私生活
-高島さんは、先日のテレビ番組出演(BS朝日「ステキなスキマ時間」)でも話されたそうですが、今のコロナ禍で私生活にどういう変化が起きましたか?
高島礼子
かなり変わりました。今まで家にいるということがあまりなく、まず外に出ていましたので。家で何をしようというところからまず始まって、ウォーキングもそれまでは趣味ではあったんですけど、本気でやり始めて、身体も精神もどこまで健康でいられるのかということを考えるようになりました。
食べ物も楽しみたいって思って、一人ラーメンや、一人焼肉、一人牛丼もするようになって(笑)今の世の中、皆さんを誘うのもダメだし、家で料理もなかなかできなかったりするから。
で、ウォーキングしてると、いろんな飲食店が目に入ってくるわけです。で、一人で入らないといけないので、そのための勇気が強くなりました(笑)
以前は、一人牛丼なんてできなかったんですが、今はぜんぜん楽勝でできます!
最初は恥ずかしかったんですけど、楽しくなっちゃって、インスタにもあげてます(笑)一度、一人牛丼した時に、きざみ紅生姜をたっぷり乗せたやつをインスタストーリーズに載せたら、マネージャーから「俳優としてのイメージが・・・やめてください!」って叱られてすぐに削除したことはありました(笑)
-そうなんですね。ファンの方からしたら嬉しいと思いますけどね。
黒谷友香
ギャップ萌えですよね(笑)
-黒谷さんはDIYとかされますが、直近でこれをしたぞ!っていうのはありますか?
黒谷友香
庭に芝生を300枚貼りました!しかも1日で。
高島礼子
えっ!?すごい!!
■最後にメッセージ
-長崎開港450周年の2021年に公開される本作。最後にこれから本作をご覧になる方へのメッセージをお願い致します。
高島礼子
長崎の被爆した7万人の方の思いというものが、この作品を通して全国の皆さんに少しでも伝わればいいなと思います。決して暗いだけの作品ではないので、お気軽に、年齢を問わず、たくさんの方に観に来ていただけたらと思います。
黒谷友香
若い人に特に観てほしいですね。この作品を学校で教材としても使ってほしいなとも思います。現実の写真と映像も含まれていますし、原爆症に苦しむということについても、映画の中でお伝えしています。平和に対する気持ちも観ていただいた皆さんに共感していただけると思います。
今後長く語り継いでいただく映画になればいいなと思います。
■撮り下ろしフォトギャラリー
[写真・聞き手:桜小路順]
●高島礼子
ワンピース:プレインピープル
アクセサリー:フォーエバーマーク
スタイリスト:村井緑 メイク:水野みゆき
●黒谷友香
ワンピース:ディウカ/ドレスアンレーヴ
イヤリング:1DKジュエリーワークス/ドレスアンレーヴ
スタイリスト:関けいこ メイク:Nico
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映画『祈り ―幻に長崎を想う刻―』
物語
1945年8月9日11時2分、広島に次ぐ二発目の原子力爆弾が長崎市に投下され、人口24万人のうち約7万4千人が一瞬にして命を奪われた。
東洋一の大聖堂とうたわれた浦上天主堂も被曝し、外壁の一部を残して崩壊。それから12年の時が過ぎて──、浦上天主堂跡から被曝したマリア像を盗み出す一味の姿があった。首謀者はカトリック信徒のふたりの女。彼女たちは、なぜマリア像を盗み出さねばならないのか……?!
出演:高島礼子/黒谷友香
田辺誠一/金児憲史/村田雄浩/柄本明/美輪明宏(被爆マリア像の声)
監督:松村克弥『天心』『ある町の高い煙突』
脚本:渡辺善則/松村克弥/亀和夫 統括プロデューサー:家喜正男
撮影:髙間賢治 美術:安藤篤 音楽:谷川賢作 プロデューサー:亀和夫/城之内景子
原作:田中千禾夫「マリアの首」(戯曲)
主題歌:「祈り」(新自分風土記Ⅰ~望郷編~) 歌:さだまさし
制作協力:NHKエンタープライズ 製作:Kムーブ/サクラプロジェクト
協力:映画「祈り」を応援する会 後援:長崎市/(一社)長崎県観光連盟
2020年/日本/110分
(C)2021 Kムーブ/サクラプロジェクト
配給:ラビットハウス/Kムーブ
公式サイト:inori-movie.com
公式Twitter:@inori_movie
予告編(60秒Ver.)
2021年8月20日(金)より、シネ・リーブル池袋他全国ロードショー!
8月13日(金)より、ユナイテッド・シネマ長崎にて先行公開
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